お姉ちゃんは0番改め機人長女リリカルハルナA's 作:Y.Sman
アクションシーンって難しい・・・。
「レティ、彼女のことだけど、何か分かった?」
L級次元航行艦『アースラ』のブリッジで当艦の副長、リンディ・ハラオウンは本局にいる友人のレティ・ロウランと連絡を取っていた。
『ダメね、管理局に登録されている戸籍でその特徴に該当する少女は存在しないわ。管理外世界の住人という可能性はないの?』
「可能性は低いわね、所持品にデバイスがあったし、それに・・・」
目を細めながら話すリンディにレティが続ける。
『あの子の体の事ね?送られてきた資料を見たけど。彼女、相当『弄られている』わね・・・」
闇の書の捜査中に現場付近で気絶していた少女、ハルナを保護したクライド達はすぐさまメディカルチェックを行ったがその結果は思いもよらぬ物だった。
遺伝子レベルで人為的に強化された身体能力。
骨格や内臓器官等、脳を除いたあらゆる所を機械化された肉体。
そしてリンカーコアと融合した魔力結晶・・・。
現代の技術では不可能とされている人と機械の融合体。
彼女は違法とされ、裏社会で非合法に研究が行われていると言われている人造魔導師とも一線を画す存在だった。
『詳しい事はこっちに着いてからじゃないと調べられないけれど、十中八九人造魔導師の類でしょうね・・・。問題は何故あんなところに倒れていたかだけど・・・』
「そういった違法施設から逃げ出してきたのかしら?」
『それとも不要と判断され捨てられたのか・・・、これは本人から聞くしかないわね。それで?件の眠り姫はまだ起きないの?』
「クライドさんの話だと様態は安定してるからいずれ目を覚ますそうだけど、これが本当だとしたら管理局始まって以来の大事件に・・・」
リンディの言葉は突如鳴り響いた警報にかき消された。
『どうしたの!?』
「ちょっと待って、状況報告!」
問い質すと、すぐさまオペレーターから報告が返って来た。
「エスティアから緊急伝!闇の書が再起動、メインシステムが侵食されています!」
『なっ・・・!』
「クライドさん・・・!!」
機人長女リリカルハルナ
第6話「お姉ちゃんは血反吐を吐く」
こんにちは、ハルナです。
現在クライドさんに連れられて連絡艇格納庫に向かっているところです。
既に艦内のいたるところに蔦のような触手がウニョウニョしています。うん、キモイ・・・。
これ、闇の書の端子のようでコイツをエスティアに接続してコンピュータをハッキングしているようです。
既に殆どの防壁を突破され艦が乗っ取られるのは時間の問題でしょう。
え?再封印?出来ると思ってるんですか?
さすがにロストロギア相手、しかもリンカーコアを抜かれた直後の病み上がりとあってはお姉ちゃんパワーと主人公補正を使ってもムリですよ。
魔砲少女が3人がかりで必殺技使ってフルボッコにすれば可能性はあるかもしれませんが・・・。
「艇長!この子を頼む!」
「えっ?」
頼むって、クライドさんは乗らないんですか?
「ああ、少しやる事が残っていてね・・・」
そう言ってマギア・イェーガーを渡してきます。無いと思ったらクライドさんが持っていましたか。
「聞いてくれスカリエッティさん。アースラに・・・隣を航行している僚艦に私の家内が乗っている。脱出したら彼女を頼ってくれ」
連絡艇に乗員を載せていたパイロットに私を預けるとクライドさんは元来た道を走り出します。
「待ってください艦長!どこに行くおつもりです!?」
何でしょう?艇長さんに引き止められ振り向いたクライドさんの顔は・・・。
「なに、艦長としての勤めを果たすだけさ・・・」
最後に見た父さんを彷彿とさせました。
「艦長!いけません、戻ってください艦長!!」
他の局員さん達の制止も聞かずクライドさんは走り去っていきました。
向かったのは恐らくブリッジでしょう、しかし・・・。
「艦長はエスティアを闇の書から取り戻すつもりなのか?」
「そんな、無理だ!あれの能力は生半可な物じゃあない!」
そう、彼らの言うとおりそんな簡単に勝てるならロストロギアなんて呼ばれていません。
皆がクライドさんを追うべきか逡巡しているうちに闇の書の触手は格納庫まで迫ってきました。
「早く乗れ!これ以上はもたんぞ!」
艇長さんが叫び、残っていた乗組員も急いで連絡艇に駆け込んできます。
最後の一人が飛び乗り、ハッチが閉じ始める。いよいよ発進のようです。
「・・・・・・・・・。」
これでいいんでしょうか?
確かにあの状況でクライドさんを追いかけても足手まといにしかならないかもしれません。
でも・・・。
『もちろんだよ、またいずれ・・・』
「・・・・っ!」
気付くと私は閉じようとしていたハッチを飛び越え走り出していました。
「おい嬢ちゃん!何してる!?戻って来い!!」
艇長さん達の声が背後から聞こえます。
ゴメンなさい皆さん。でもやっぱりクライドさんを置いてはいけません。
走りながら現在のコンディションを確認します。
肉体に異常は無し。
機械化された部分にも機能障害は見られず。
レリックの出力安定。
リンカーコアは未だ不安定ですがバリアジャケットを展開するくらいなら大丈夫。
右手のロケットパンチ、左手のグフマシンガン共に動作正常。
「よし、行きます!」
『パチンッ』と頬を叩き、気合を入れてからイェーガーを起動、バリアジャケットを展開して準備完了。
目指すはブリッジ、全力疾走です。
アースラのブリッジは混沌の坩堝と化していた。
「応答せよエスティア!繰り返す。エスティア、クライド艦長。応答してください!」
「エスティア艦内より魔力エネルギー増大!出力、尚も上昇中!」
「エスティアより連絡艇脱出。現在乗組員の安否、確認中!」
アースラ艦長のギル・グレアム提督は必死に対応する局員達に的確な指示を下しつつ最悪のシナリオを予想した。
(エスティアのコントロールは闇の書に奪われたと見て間違いない。とすれば奴は目下の脅威である我々を排除しようとするはず・・・)
それに対する解決策を模索していると、通信席にいるオペレーターがグレアムに向かって叫ぶように報告する。
「艦長!エスティアとの回線繋がりました、映像出します!」
グレアムはオペレーターに頷くと投影された映像に目を向ける。
「クライドさん・・・」
通信席でオペレーターと観測作業についていたリンディも投影された夫の姿に息を呑む。
ボロボロになった制服に一際目を惹く額から流れる鮮血・・・。
映し出されたクライドは誰がどう見ても満身創痍の様を呈していた。
『提督、大至急エスティアを撃沈してください』
開口一番にクライドから放たれた言葉はグレアムにとって予想された、しかし聞きたくなかった物だった。
「クライドさん、何を言って・・・」
一方のリンディは夫の言った言葉を信じられなかった。
当然だろう、大至急エスティアを沈める。
それはクライド諸共と言うことを意味しているのだから。
『闇の書の侵食は阻止できません。本艦が完全に掌握されるのも時間の問題でしょう』
「クライド君!今すぐ脱出して!」
「あんたがいなくなたらリンディたちはどうするのさ!?」
グレアムの両隣にいた彼の使い魔、リーゼロッテとリーゼアリアがクライドに脱出を促す。
しかしクライドはただ、首を振るのだった。
『たった今、『アルカンシェル』の制御が奪われました。奴は恐らく其方を攻撃するつもりです』
クライドの言葉を裏付けるかの様にオペレーターから最悪の報告が上がる。
「エスティア、『アルカンシェル』の発射シークエンスに入りました!」
「レーダー照射を確認!エスティア、本艦を狙っています!」
『アルカンシェル』、時空管理局が所有する魔導兵器の中でも最高クラスの威力を持った魔導砲である。
着弾地点から半径百数十キロに渡る空間を歪曲させながら反応消滅させる管理局の切り札だ。
闇の書に対する最終手段としてエスティア、アースラの両艦に搭載されていたもので、当然ながらアースラが喰らえばひとたまりも無い。
『現在機関部からのエネルギー供給を妨害中ですが長くは持ちません。提督、お願いします』
アルカンシェル発射を妨害する以上、クライドはエスティアから離れることは出来ない。
アースラが助かるにはクライドを犠牲にする以外に選択肢は残されていなかった。
「・・・アルカンシェル、発射用意・・・!」
「・・・っ!?待ってください提督!!」
リンディは掴みかからんばかりの勢いでグレアムに詰め寄るが控えていたリーゼロッテたちの手で引き止められる。
「すまない、もはやこれしか方法が無いのだ・・・」
押し殺した声でリンディに、クライドに、そして自分に言い聞かせるように言葉をつむぐグレアム。
グレアムの言葉を聞いたクライドは彼に敬礼した後、リンディに声をかける。
『リンディ、例の女の子を、スカリエッティさんを頼む。彼女には君の助けが必要だ、支えてやってくれ』
夫の今生の別れの言葉を聞き、リンディは苦笑してしまう。
こんな時だというのに彼は最後まで職務に忠実であろうとしているのだから。ならば・・・。
「ええ、彼女のことは引き受けたわ。安心して」
リンディはその頼みを聞き入れる。彼が最後に笑っていられる様に・・・。
それを聞いたクライドは穏やかな笑顔を浮かべて続ける。
「ありがとう、リンディ。愛してる、クロノと幸せにな・・・」
「っ!・・・うん、私もよ・・・」
二人が最後の言葉を交わしたのを確認し、グレアム自分の務めを果たすべく立ち上がる。
手には一本の鍵、アルカンシェルの発射キーだ。
それを眼前にあるキューブ、発射装置に差し込む。
キューブが赤く染まり最後の安全装置が解除されたことを告げる。
「アルカンシェル・・・発・・・」
グレアムが鍵を回そうとした瞬間・・・。
『ちょぉっとまったあぁぁぁぁ!!!!』
そんな叫び声と共に映像の向こうで扉が打ち破られ軍服姿の少女がブリッジに入ってきた。
「す、スカリエッティさん!?」
こっちを見てビックリしているクライドさん。
よし、まだ生きてます。
ここに来るまでに何度も闇の書の触手にウニョウニョと邪魔されまくったんですが、こいつら以外に強いです。
シールドは張るし、魔力弾撃ってくる奴もいました。
もしかしたらクライドさん、こいつらにやられちゃったんじゃ何て思ったりもしましたが杞憂だったようです。
「どうしてここにいるんだ!?クルー達と退艦したんじゃ・・・」
どうして?
人がせっかく苦労してここまで来たのにどうしてとかあんまりな発言ですね?
「そんなのクライドさんを呼びに来たに決まってるじゃないですか!」
全く、一人でふらふらどっかに行って・・・団体行動の輪を乱すとか、先生許しませんよ!
「なんてバカな真似を、直ぐに退艦するんだ!連絡艇を使ったから非常用の救難艇は残っている、それを使って・・・」
「バカな真似はどっちですか!!」
「っ・・・・!?」
私が怒鳴ったことに驚いたのかクライドさんは言葉を噤みます。
必死におどけて見せましたがもう無理です、いろんな物がこみ上げて来てガマンできません。
「そうやって一人でカッコつけて、残された人がこれからどんな思いで生きていくか考えたことがありますか?なんで、なんで・・・」
頭に浮かぶのは父さんの事。
一緒に漫画を読んで笑いあった事、、新発明の実験で爆発して喧嘩した事、そして最後に私に見せたあの笑顔・・・。
視界がぼやけてきてようやく私は、自分が今泣いていることに気付きました。
「何で大切な人がいるのに生きようとしないんですか、なんで直ぐに諦めちゃうんですか・・・なんでみんな、馬鹿・・・」
「スカルエッティさん・・・」
いろんな感情がゴチャ混ぜになって自分でも何を言っているのか分かりません。
嗚咽が止まらない私と返す言葉が見つからないクライドさん。
そこに艦橋に流れる沈黙を破って触手が侵入してきました。
「しまった!ここまで来たか!?」
クライドさんが身構えます。
空気を読まずにウニョウニョ沸いてはあたりの物を破壊し出す触手・・・。
何か腹たってきました。
「うるさい!」
色々あって沸点が低くなってた私は左手を向けると義手の中に内蔵されている機関銃を掃射します。
「人が大事な話してるんだから出てくんなバカー!!」
装弾スペースのせいで9ミリ弾しか撃てませんが魔法が来ると思っていた触手たちには効果覿面です。
障壁を破られタングステンの弾丸に引き裂かれながら退散していきます、ざまーみろこんちくしょう!!
「ふぅ・・・よし、少しスッキリした」
「す、スカリエッティさん?」
あ、クライドさんちょっと引いてます。
もう正体バレとか私の立場とか今は知ったこっちゃありません。
「とにかく!クライドさんは私が助けます、異論は認めません!!」
「し、しかしそうなるとアルカンシェルが、アースラが・・・!」
確かに、クライドさんが離れれば邪魔者がいなくなった闇の書はアースラにアルカンシェルを発射出来るようになってしまいます。
「だから、こうするんです!」
私はイェーガーを足元に向けます。
脚部のパーツが展開、床をガッチリとホールド。
空気中の魔力をリンカーコアを経由してデバイスに送ります。
それでも足りない、なら・・・。
「マギア・イェーガー!カートリッジロード!」
『装弾』
私の言葉に従ってイェーガーがカートリッジシステムを起動。
ドラムマガジンに収められたカートリッジの内、5発を連続装填します。
ロードすると私の中で魔力が爆発的に上昇します。
「スカリエッティさん、一体何を・・・!?」
クライドさんが聞いてきますがとりあえず後にします。
溜まりに溜まった特大魔力をイェーガーに流し込む。
後は撃つだけです。
このリリカルなのはの世界の魔法は願望祈願型・・・魔導師のイメージをデバイスを用いて機械的に実現するという物・・・。
つまり私のイメージが大事なんです。
「すぅ・・・はぁ・・・」
大丈夫。練習した通りに、何よりアニオタの私は妄想力・・・もとい想像力が豊かですから。
MSでビームライフルを撃つイメージで・・・!
「インパクトカノン、発射ぁ!」
イェーガーの銃口から青白い極太ビームが打ち出されます。
なんかビームライフルって言うよりも宇宙戦艦ヤマトの主砲みたい・・・。
放たれた魔砲はエスティアの壁を、床を、天井をぶち抜いていきます。
「・・・あぁ!」
重大なことを忘れてました。
これ、ストーリー初の本格的な魔法じゃないですか!
もっと格好いい演出とかセリフとか考えとくんだったー!
え?研究所から脱走する時に使っただろって?
あれは何か格好付かないからノーカンです。
「どうした!大丈夫かい!?」
叫んだ私をクライドさんが心配してくれます。
「うぅ・・・大丈夫、こっちのことです」
答える私、チョッピリ涙目です。
それから直ぐに結果が現れました。
「アルカンシェルの発射シークエンスが止まった!?」
「ヨシッ!作戦成功ですね!」
アルカンシェルをとめるには幾つか方法があります。
第一にシステムを奪還して停止させます。
うん、ハッキング合戦とか勝ち目が無いので無理。
第二に機関部の停止、もしくは破壊。
これも無理です。機関室まで触手の相手をしながらとか間に合いません。
ぶ厚い隔壁に護られているからここからの砲撃で破壊するのも不可能。
そこで第三の方法、エネルギー伝達の阻害です。
要するに電源コードを切っちゃえばいいんです。
とは言え、これでお終いではありません。
メイン回路が寸断されても艦船のエネルギー伝達系は網の目のように張り巡らされています。
どこかがやられても別の場所からバイパスできるようにするためです。
案の定闇の書は別の回路を使ってアルカンシェルにエネルギーを送り始めました。
でも・・・。
「充填速度が遅い、これなら・・・っ!」
「はい、私達が脱出する時間は稼げます!」
私達が艦から降りればアースラは心置きなく無人になったエスティアを撃てます。
「いきましょう、クライドさん!総員退艦です!」
「ああ、案内する。こっちだ!」
クライドさんに先導され、艦内を走ります。
クライドさんと走り出してからしばらくして難関にぶつかりました。
「クッ、何だあれは」
格納庫に通じる通路、そこを強固な防火扉が塞ぎ、その表面を触手が覆っています。
触手は一本一本が大小様々な魔力弾を発射し、さながら要塞のように私達の行く手を阻んでいます。
「この様子では他の通路も。どうすれば・・・」
脱出するには戦うしかありません、しかしそんな時間は私達には残されていない。
戦わずに素通りする方法は無いものか・・・。
「ん、まてよ・・・」
素通り・・・これだ!
「クライドさん、私にいい考えがあります」
何やらフラグなセリフですが大丈夫です、問題ありません。
「何か策があるのかい?」
任せてください、そう言って私は直ぐ横の壁に手を当てます。
さて、皆さん。
戦闘機人には魔導師にはない特別な力が備わっています。
そう、IS・・・インフューレント・スキルです。決して弓弦イズル先生著のハイスピード学園ラブコメではありません。
余談ですが作者はオルコッ党だそうです。チョロインかわいいよチョロイン・・・。
さて、ISですが情報収集能力だったり、加速装置だったり、壁抜けしたり、超振動で機械に大ダメージを与えたり・・・。
そんな普通の人にはない能力が戦闘機人には一つ備わっています。
そして私のISは・・・。
「インフューレント・スキル発動・・・、『フラスコ=オブ=アルケミスト』!」
壁に閃光が走り形を変えていきます。
蝶番やハンドルが形作られ、あっという間に頑丈そうな水密扉ができあがりました。
「なっ・・・!?これは!?」
驚くクライドさん、それをみて私はドヤ顔でハンドルを回して扉を開きます。
「さぁ、こっちです!」
そう、私のIS、フラスコ=オブ=アルケミスト(錬金術師の試験官)は物質変換能力なんです。
生物相手には無理ですけれど、それ以外なら何だって自由自在に原子レベルで作り変えることが出来ます。
構造さえ分かれば鉄塊から戦車だって作ってみせますよ?
うん、自分で言うのもアレだけど超チートくさい。
それになんか鋼○錬金術師の手合わせ練成のパクリっぽいし・・・いつの間に私は心理の扉を開いたんでしょうか?
とにかくISで作った扉を潜り、隣の部屋へ。
そこでまた扉を作ってさらに隣に・・・。
そうして触手要塞を迂回、戦う事無くして私達は格納庫へたどり着きました。
どうでもいいですけど触手要塞とか、何か陵辱系エロゲのタイトルっぽいですね・・・。
「大丈夫かい、スカリエッティさん?」
「ゼェ、ゼェ・・・だい、じょうぶです・・・」
クライドさんにはああ返しましたが正直かなり辛いです。
こんな短時間にISを連続使用したのは初めてなのでかなり体に堪えますね。
リンカーコアも然ることながらさっきから胸のレリックが悲鳴を上げています。
今後のことも考えて鍛えたほうがいいかもしれません。
「そうか、とにかくここまで来れば・・・」
そこで私の強化された聴覚は嫌な音を捉えました。
メキメキと船体が軋むような・・・。
「危ないっ!」
クライドさんを伏せさせ自分も屈みます。
すると頭のすぐ上を闇の書の触手が通り過ぎます。
触手は鞭のようにしなりながら私達の周りを暴れ周り、破壊の限りを尽くしていく。
「くっ、このぉ!」
『ブレイズ・キャノン』
伏せながらクライドさんがデバイスを起動、抜き撃ちで触手を撃ち抜きます。
撃たれた触手は暫く暴れた後、ピクリとも動かなくなりました。
「スカリエッティさん、無事かい?」
ボロボロになったクライドさんが心配そうに聞いてきます、って・・・クライドさん既にもうボロボロでしたね。
「うぅ・・・私は大丈夫です。クライドさんは?」
「ああ、大丈夫だよ。しかし・・・」
言葉に詰まったクライドさん。
不思議に思い彼の視線の先を見ると・・・。
「げぇっ・・・」
台風一過が可愛く見える惨状でした。
残っていた連絡艇や救命ボートは原型も留めないほどバラバラにされ、とてもじゃないけどアレに乗って脱出するのは不可能です。
「っ!そうだ、船外作業服は!?」
次元航行艦は宇宙船としても使えます。
宇宙空間を航行中に船殻が傷ついたら人が外に出て修理しないといけません。
そのための船外作業服、つまり宇宙服が常備されているはずです。
連絡艇とかに比べると非常に心もとないですがもはや贅沢は言っていられません。
クライドさんと二人で格納庫を探すと、案の定船外作業服が出てきました。しかし・・・。
「無事なのは一着だけ、か・・・」
あのウニョウニョやろーが暴れたせいで作業服を収納していたロッカーも破壊され、使えるものは一つしかありませんでした。
もちろん着けられるのは一人。
中に二人も入れません。
「・・・アースラ、聞こえるか?」
通信を入れるクライドさん。
「今から船外作業服でスカリエッティさんが脱出する。そっちで回収してくれ」
・・・ストップ、ちょっと待て。
「言いたいことは分かる、しかしこれ以上の方法が無い。分かってくれ、スカリエッティさん」
「でも・・・」
「行くんだっ!時間が無い!」
・・・なんでしょう、何だかまた沸々と怒りがこみ上げてきましたよ。
クライドさんの言い分は分かりますよ。でもね、さっきも言いましたけど何でそうやってすぐあきらめるかな?
時間が無い?分かってますよ!だったらギリギリまで粘っていい案を考えればいいじゃないですか!?
思考が幼稚かも知れませんけどすぐに諦めちゃうのが大人なら私は子供のままで結構です!
むっ、クライドさんが宇宙服を手に取った。無理やり私に着せる気ですね?
そうはさせません!私はそれを払いのけると左手の銃口を向けて全ての残弾を叩き込みます。
穴だらけになる宇宙服・・・どうだ、これで使えまい!
「そんな、何て事を・・・」
最後の希望が潰えたかの様にに絶望に表情を歪ませるクライドさん。
いえ、実際クライドさんの中では潰えたのでしょう。
でも私はまだ絶望なんてしてません、生きて父さんとまた会おうって約束したんですから。
だから言ってやるんです・・・。
「私は絶対諦めません。誰かを切り捨てるなんて絶対許しませんから!」
項垂れていたクライドさんが頭を上げます。その顔はとても悔しそうです。
「ではどうするというんだ!?もう脱出の手段は残されていないんだぞ!」
「それをこれから考えるんです!」
そうだ、諦めんな私。まだ何かあるはずだから。
考えろ、考えろ・・・私の最大の武器は何だ?間違いなくフラスコ=オブ=アルケミスト(以下FOA)だ。それでどうやって脱出する?
残骸から宇宙船を一隻拵える。うん、無理。構造が分からないからよくできたハリボテしか出来上がらない。
宇宙服の方は・・・こっちも難しそう。生命維持装置とか私には作れない。こんなことなら魔法だけじゃなくて電子系とか工学系の勉強もしとくんだった。
ん?まてよ・・・アレをこうしてソレしたら・・・何とかなるかも。
「クライドさん!消火作業用の装備って此処にあります!?」
「え?あぁ、それならそっちのロッカーに・・・」
戸惑いながらクライドさんが指差した先にあるロッカーに私は走ります。
このロッカーも触手にやられへこんでましたが原型は留めています。
力任せに扉を開くと中には・・・
「あった・・・!」
私はソレを持って連絡艇の残骸の前に立ちます。
「さて、やりますか!FOA、発動!」
先程のように電流が迸り、光りが残骸を飲み込んでいきます。
(ヤバイ、もつかな・・・?)
恐らく限界が近いのでしょう、さっきから胸の奥がものっ凄く痛くて溜まりません。
内臓器官もおかしいのか痛さと気持ち悪さで泣きたくなってきます。
(お願いだからもう少し持ちこたえてくださいよ・・・)
私は自身のリンカーコアとそれに同期しているレリックに心の中でそう願いながら目的の物をイメージします。
そのイメージに合わせて残骸が形を変えてゆきます。
次々とパーツが結合して行き、ばらばらだったスクラップは次第に思い描いた物に近づいていきます。
「こ、これは・・・!」
後ろを振り向くとポカーンとした顔でソレを見ているクライドさん。
(良かった、間に合った・・・)
完成したところでついに限界が訪れたのか、口から紅いものを吐きながら私は意識を手放しました。
「クライド艦長、応答してください!こちらアースラ。繰り返します、応答してくださいクライド艦長!」
最後の通信以降、連絡が取れないクライドにアースラの面々は焦燥を募らせていた。
脱出の可能性が見られ、一度は希望を取り戻しただけに、押し寄せる絶望が彼らにはとても大きく見えた。
「クラウディア、アルカンシェルのチャージ再開!エネルギー臨界まで約600秒!」
そこでオペレーターから最も聞きたくなかった内容の報告が齎される。
ハルナによって破壊されたエネルギー系の修復を終えた闇の書は再びアルカンシェルを撃つべく準備を始めたのだ。
グレアムは立ち上がりブリッジを見回す。
そこにいた乗員達は一様に不安の色を露わにグレアムを注視していた。
(恨んでくれ、クライド君・・・)
グレアムは一度、深くため息をつくと砲術長に問い質した。
「こちらのアルカンシェルはすぐに撃てるか?」
「え?あっ、はい。エネルギーの充填はすでに終わっています」
先程ハルナが横槍を入れたため発射することの無かったアルカンシェルはエネルギーを充填したままの状態で今まで待機していた。
「分かった・・・。アルカンシェル、発射用意!」
「・・・っ!?提督!」
リンディはグレアムに詰め寄るが、再びリーゼ姉妹に制止される。
「本艦の乗組員と次元世界にの全市民には代えられないのだ。すまない・・・」
そう言い放つグレアムの手は固く握られ血が滲んでいるのを見てリンディは気付いた。
共に歩んできた教え子を自分の手にかけるのだ。辛く無い訳が無い。
それでも彼は決断したのだ。
次元世界の為に教え子を犠牲にするの言う苦渋の決断を・・・。
アルカンシェルの発射キーの前に立つグレアム、安全装置は既に解除されている。
刺さったキーにグレアムが触れた直後、観測員が叫んだ。
「あっ、待ってください!エスティアで小規模な爆発、何かが射出されました!これは・・・デュランダルのシグナルです!」
デュランダル・・・クライドのデバイスの反応があると言うことは・・・。
「クライドさん!」
「二人が脱出したんだよ!父様!」
「うむ、先程の射出体を追尾!アルカンシェルの安全圏までどれくらいだ!?」
観測員に問い質すグレアム。
「効果範囲外まで後10秒・・・5秒・・・離脱しました!」
報告を聞くや、改めて発射キーを掴むグレアム。
「総員、衝撃に備え!アルカンシェル発射ァ!」
叫ぶや否やキーをまわすグレアム。
直後、アースラの艦首から特大の閃光が放たれる。
閃光はまっすぐエスティアに吸い込まれていき、着弾するや一際大きく光った。
その輝きの中でエスティア、そして闇の書が光りの中に溶けていく。
光りは暫く瞬いた後ゆっくりと収束していき、やがて次元空間はもとの静けさを取り戻した。
「エスティア、完全に消滅。闇の書の反応もありません」
「終わった、のか・・・?」
今だ脅威が去ったのを実感できず呆然と、または緊張が解けないでいる乗員達。
「デュランダルの反応は!?」
グレアムの一言で、再びブリッジに緊張が走る。
観測員がモニターに目を走らせ、通信士がクライドに呼びかける。
それを祈るように見つめるリンディとリーゼ姉妹に険しい顔のグレアム。
重い空気が暫くブリッジを支配していたがそれは唐突に終わりを迎えた。
「・・・っ!デュランダルの反応を探知!方位、3-2-0!距離、2000!」
「目標、光学探知!映像出ます!」
観測員が報告し、当該空間の映像を投影する。
アルカンシェルの余波の影響で不鮮明ながらも映し出された映像には次元空間に小さな球体がポツンと浮かんでいた。
アースラが球体に近づくにつれ、その細部が鮮明に映し出される。
「あれは・・・っ!?」
それは一言で言うならば4~5メートル大の丸い鉄屑だった。
艦船勤務の長い局員が見たら連絡艇のものだと分るパーツ、それを繋ぎ合わせ無理やり球形にしたような物体。
出入り口と思われる重厚な水密扉を除けば、推進装置はおろか窓の一つも存在しない鉄塊、それがアースラのクルーの感想だった。
「あんな物で脱出したのか!?」
「あれじゃあ操縦どころか生命維持だって出来ないじゃないか!」
人間が2~3人入ればいっぱいの玉、そんな小さなものに生命維持装置がつめるはずが無い。
パーツ同士はしっかり接合されているため、空気が流出することは無いだろうがハッキリ言って中の人間は長くは持たないだろう。
「回収を急げ!医療班を直ちに連絡艇デッキに向かわせろ!」
故に、直ちに回収し搭乗者に適切な医療処置を施さなくては最悪窒息死、そうでなくても酸欠で脳に障害を負う可能性が高かった。
「・・・っ!クライド艦長より通信です!」
クライドからの通信、それを聞いたブリッジ要員は歓喜と安堵に包まれた。
クライドが生きていると言うことは保護した少女も無事だろう。
それを聞いた乗組員たちは歓声を上げる。
しかし次の瞬間、回線が開きクライドたちの姿が投影された途端、それが間違いであった事を彼らは知った。
「なっ・・・!?」
「そんな・・・っ!」
絶句する局員達。
『アースラ、応答してくれ!早く回収を!』
投影された映像の向こう、カプセルの中にクライドはいた。
彼の顔には酸素マスクが取り付けられている。恐らく消火作業用の防火服の物だろう。
だが問題は彼の腕の中。
『彼女が、スカリエッティさんが危険な状態だ!早く!』
そこには血の気の失せた顔色のハルナが口から血を流しながらグッタリとしていた。
ハルナ死すっ!嘘ですごめんなさいちゃんと続きます。
そんなわけで死亡キャラ生存のタグ回収完了です。
次回ですが幕間の話を追加中なので少々遅れます。