お姉ちゃんは0番改め機人長女リリカルハルナA's   作:Y.Sman

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お待たせしました、新章開始です。
文字通り主人公が働きます。


就労編
第8話『雨降って地固まるって言いますけど普通雨降ったら固まるどころか地面ドロドロですよね?』


「はぁ、はぁっ・・・!クソッ!」

男は走っていた。

場所は夜のクラナガン、ネオンの眩しい表通りを外れた暗く薄汚れた裏路地を全速力で。

積み上げられた箱やゴミを蹴り倒し、躓きながらも男は走る。

しきりに後ろを振り向き追っ手の姿を確認するがその姿を確認することは出来ない。

しかし・・・。

「っ・・・!?」

男は咄嗟に右にかわす。

すると先程まで彼がいた空間を青白い弾丸が通り過ぎていく。

気付くのが一瞬遅ければ、かわすのが後コンマ数秒遅れていれば彼は魔力弾のシャワーを浴びていたことだろう。

「畜生!何で奴には見えるんだ!?」

この暗闇の中、闇雲に逃げる自分を追跡者は音も無く的確に追い詰め、狙い違わず発砲してくる。

対してこちらは相手の姿どころか足音や気配すら聞こえず何処からとも無く飛来する魔力弾に撃たれる恐怖で気が狂いそうだ。

永遠に続くと思われた夜の街の鬼ごっこは唐突に終わりを告げる。

「なっ!行き止まり・・・!?」

無我夢中で逃げる男は路地の突き当たりに追い詰められてしまった。

左右を見回し、逃げ道が無いか確認する。

しかし周囲の廃ビルは扉も窓も閉ざされた上から厚い鉄板で塞がれ飛び込むことは不可能だった。

「ちっくしょうがぁ!」

男は振り返り手に持ったデバイスを機動する。

そう、男は魔導師だった。

魔導の才能はそれなりにあったがそれを磨く事は無く、悪い仲間と遊び歩いていたのが祟り、碌な職に付く事ができなかった。

そして男はクラナガンを拠点とするマフィアに雇われお抱え魔導師として後ろ暗い仕事を今日まで続けてきた。

そのため幸か不幸か、こと戦闘に関しては組織で一目置かれるまでになっていた。

「来やがれ、管理局のクソ野郎が!ぶっ殺してやる!」

塞がれた扉を背にし、暗闇にデバイスを向ける。

腕に自信のある自分が追い詰められるのだ。

追っ手・・・時空管理局の捜査官はかなりの戦力を投入しているのだろう。

10人か、20人か・・・。

それでも正面からの撃ち合いならば負ける気はしない。

男は不適に笑いながら現れるであろう捜査官達を待つ。

しかし、10秒過ぎ、20秒過ぎ、1分過ぎても彼らは現れない。

肩透かしをくらい不思議に思った男が眼前の闇に目を凝らしたその時。

突然背後から大きな音がする。

「っ!!」

慌てて背後を振り返った男。

「なんd・・・ぶっ!!」

何だ?

彼はその言葉を最後まで言う事無く自分に向かって飛んでくるぶ厚い鉄板・・・開かずの扉だった筈のドアに顔面を強打される。

扉共々2メートルは吹き飛ばさた男は今しがた廃ビルに出来た出入り口から現れた人影に驚愕する。

「ガキ・・・だと?」

それは屈強な武装局員でも狡猾な執務官ですらなく、小さな少女だった。

その少女が無骨なデバイスと思しきものをこちらに向けるとその先から青白い魔力光が発せられる。

どうやら今まで自分を追い詰めていたのは目の前の少女のようだ。

「こんな、ガキに俺は・・・」

そういったところで少女のデバイスから閃光が走り、男は意識を手放した。

 

機人長女リリカルハルナ

第8話『雨降って地固まるって言いますけど普通雨降ったら固まるどころか地面ドロドロですよね?』

 

「それでは被疑者の護送、よろしくお願いします」

「はっ・・・それでは失礼します」

私に返礼すると警邏隊の局員は護送車のほうへ走っていきます。

どうもこんばんは。いや、こんにちはかな?うん、現地時間23時なのでやっぱりこんばんはで行きましょう。

こんばんは、ハルナ・スカリエッティ執務官です。

病院でのやり取りからはや5年、田中さんとの交わした契約の通り私は時空管理局で働いています。

退院と同時に陸士学校に放り込まれ3ヶ月の短期講習を受け、その後は士官学校に放り込まれこれまた半年の促成コースで法律やら何やらを叩き込まれた挙句執務官試験を受けさせられギリギリこれに合格、今はミッドチルダ地上本部付きの執務官をやっています。

戦闘機人のチートボディのおかげで実技のほうは簡単にパスできたので座学に専念できたのが幸いでした。

ちなみに私の所属を巡って陸と海のお偉いさんが争ったらしいです。

クライドさんをはじめ、私を保護したいという思う人も幾分かはいたとは思いますが殆どは私と言う強力な戦力を他所に取られまいという思惑からでしょう。

結局最後は最高評議会が動いて私は暫定で陸の預かりとなりました。

定期的にクライドさんに手紙を出してはいるのですが果たして届いているのかどうか・・・。

また、定時連絡にやってくる田中さんに父さんの事を聞いてはいるのですがいずれもはぐらかされてしまいました。

私の方でも独自にに父さんの事を調べてみましたが全く情報が手に入りません。

もしかしたら父さんは既にこの世にはいないのかもしれません・・・。

何か湿っぽくなってしまいましたね、この話はお終いにしましょう。

それにしても、さすがはミッドチルダが首都クラナガン。

時空管理局のお膝元の筈ですがとにかく犯罪が多いです。

しかもかなり組織だった犯罪が。

大都市ですからその分動くお金も大きいのでしょう。

それに比例してそこを根城にしている犯罪組織も大きくなるのは分りますがこれだけ連日出動が続けばチートボディな私でも気が滅入ってきます。

そしてもう一つ気が滅入ることがありまして・・・。

「あ、居た居た・・・スカリエッティさーん!」

・・・噂をすればこれですよ。

「やっと見つけましたよ。さぁ、今日こそは検診を受けてもらいますよ!」

そう言って近寄ってくる本局制服の上に白衣を纏った緑がかったショートヘアに円メガネの局員。

コイツ、マリエル・アテンザとか言う私と同じくらいの年齢のこの女は私の専属医らしいです。

とは言えこの女の本来の部署はデバイスの整備、開発が専門の第4技術部・・・。

明らかにコイツ私の事珍しいメカとしか思ってないですよ。

検診とか言いながらどうせ私の稼動データを取って来いとか評議会に言われているに違いありません。

「結構、メンテナンスは間に合ってます」

なので突っぱねます。

私の体を触っていいのは父さんだけです。ちなみに性的な意味で触ったら父さんでもぶっ殺しますが・・・。

「そう言って前回の検診も拒否したでしょう。一度ちゃんとした設備で見ないと心配じゃないですか?」

それなのに何度断ってもしつこく食い下がってくるのでその度にイライラが募っていきます。

「自分の身体です、自分が一番よく分かっている。余計なおせっかいは結構」

いえ、それだけじゃありません。

二度と父さんに会えないかも知れない不安。

現状への苛立ち。

そして何より管理局への憎悪とも言える不信感。

あらゆる負の感情が積もりに積もって山となり今にも噴火しそうな状態です。

「お節介だなんて。私はスカリエッティさんの為を思って・・・」

だからでしょう。

彼女のこの一言で私の堪忍袋の尾が切れたのは。

「だったら私に付きまとうな!!」

後になって思えばかなり情緒不安定だったのでしょう。

周りの目も気にせず眼前のマリエル・アテンザに当ってしまいました。

「私の身体が心配?私の為を思って?あんたが大事なのは私の稼動データだろう!?」

「そんな・・・!?私は・・・」

目の前でアテンザがうろたえていますがもう駄目です。

色々火が着いてしまった私の口は止まりません。

「五月蝿い!!善人ぶるな!どうせ心の中では私の事なんてモルモット程度にしか思ってないくせに・・・っ!」

「違うっ!!」

溜まりに溜まった怒りや鬱憤をぶちまけている途中で目の前の女の叫びに驚き中断してしまいました。

「違うもん・・・私は、あなたと・・・」

彼女は泣いていました。

考えてみれば当たり前です。

就業年齢の低いミッドチルダ・・・とりわけ魔導師は精神の成熟が早いといいますがそれでも目の前の彼女は間違いなく子供です。

私のように前世の記憶なんて物があるわけではありません。

そんな彼女が怒りや憎しみをぶつけられて平気なわけがありません。

肩で息をしている内に冷静さを取り戻した私が感じたのは言いようの無い罪悪感でした。

「えっと・・・あの・・・」

謝らないと、そう思うのですがうまく言葉に出来ません。

そうして私がまごついていると突然向こうから叫び声が聞こえてきます。

「えっ!?」

「なに・・・?」

アテンザも顔を上げてそちらに振り向きます。

そこにいたのは先程私が拘束したチンピラ・・・もとい犯罪組織の違法魔導師でした。

手には先程持っていた物とは別のデバイス・・・どうやらどこかに隠し持っていたようです。

「さっきはよくもコケにしてくれたな・・・このクソガキィ!」

放たれる魔導弾。

慌ててシールドを張りますがかなりの衝撃で私は弾き飛ばされてしまいました。

「ぐあっ・・・!」

地面を二、三度バウンドした後ようやく止まってから立ち上がろうとしますが身体が動きません。

すぐさまシステムチェックを走らせます。すると・・・

(疲労蓄積!?なんでこんな時に!)

検診を拒否してずっとフル稼動だったせいか、身体のあちこちにガタが来ていました。

その溜まりに溜まった疲労が此処で一気に噴出したのです。

実際さっきの攻撃だって万全の状態なら弾き返せたはずです。

それが受身も取れないくらい身体が弱っていたのに気付けないなんて・・・。

「へッへッへ・・・」

違法魔・・・めんどいからもうチンピラでいいや。

そのチンピラが嫌な笑みを浮かべながら近づいてきます。

これは、まさか・・・!?

「やめて! 私に乱暴する気でしょう? エロ同人みたいに! エロ同人みたいに!」

「・・・・・・は?」

・・・あれ?おかしいな、確か前世で読んだ薄い本だと大体このあたりで女の子がエッチな目にあうんだけれど・・・。

「よく分からんが俺はな、テメーみたいな貧相なガキになんざ興味は無ぇんだよ」

・・・どうやらコイツ、熟女派だったようです。

「おい、テメー。今俺のことバカにしてたろ?」

「いえ、ただ熟女趣味だったんだな~と・・・」

「ちげーよ!俺はなぁ!もっとこう・・・ボンっと出てて、キュっと引き締まってて、そんでまたボンって出てるのが好きなんだよ!」

そんなこと9歳児に力説しないでください。反応に困るじゃないですか。

「それじゃあこのすれんだぁびゅーてぃな私をどうするつもりですか?」

「なに・・・お前中々いい腕だしな。管理局で腐らせるなんざもったいねぇ。俺の所に来ないか?ギャラは弾むぜ」

なんと、カン・ユー・・・もとい勧誘ですか。

ギャラを弾むのくだりに一瞬心惹かれる物が無かったといえば嘘になります。何より管理局は憎くてたまりませんし、しかし・・・。

「魅力的な提案ですね、でも私は管理局でやらなきゃいけない事があるんです。だからお断りします」

そう、父さんを見つけて助け出さなきゃいけません。

可能性は限りなく低いでしょう。第一父さんがまだ生きている保障はありません。でもやらなきゃいつまで経ってもゼロパーセントのままです。

「そうか・・・そりゃ何よりだ、よっ!」

そう言うやいなや、チンピラは私の事を思い切り蹴り飛ばしました。

再び私は地面を転がります。

「ガハッ・・・!」

この野郎・・・女の子を足蹴にするとは何て奴だ。

「あのまま提案を飲まれたりしたらテメェをぶっ殺せなくなっちまうもんなぁ・・・」

ゲス顔で私にデバイスを向けるチンピラ。

コイツはいよいよ持ってヤバイかもしれません。

さっきから身体に力が入りません。

リンカーコアやレリックジェネレーターの出力も安定せず、魔法もうまく組めません。

「クックック・・・いい声で鳴くじゃねぇか?」

畜生、女の子の苦しむ姿を見て悦ぶとは・・・コイツやっぱり変態です。

「でも、てめぇで遊ぶのももう飽きたわ・・・」

チンピラがデバイスをこちらに向けます。

ヤバイ、超ヤバイ!

動け!動け動け動け!!

こんな所で終わるわけには行かないんですよ!

まだ色々遣り残した事があるんですから!

「じゃあな、アバヨ」

私が必死に足掻くもチンピラのデバイスから魔力弾が発射される程度には現実は非情でした。

迫り来る弾がスローモーションで見えます。

あぁ、私ここで死ぬんですね・・・。

でもあれですね。もし父さんが既に死んでたら天国で会えますし、それはそれでいいかもしれませんね・・・。

そんな事を考えながら人生を諦めた私はゆっくりと瞼を閉じます。

どうせ直ぐ死ぬんです、それならあのチンピラのきったないツラ見ながら死ぬのも癪ですし、父さんの事とか考えながら逝くことにしましょう。

父さんとアニメ見たり、一緒にバリア・ジャケットのデザイン考えたり、決めポーズの練習したり、楽しかったなぁ・・・。

畜生、やっぱり死にたくないよ・・・。

「ぐぅ・・・!」

そう思った直後小さな衝撃を感じました。

弾を食らったんでしょうか?

それにしては軽い衝撃でしたね。

痛くもないし、それになんでしょう?何かが私の上に乗っかってるような・・・。

恐る恐る瞼を開くとまず飛び込んでくるのはやっぱりチンピラの姿。

でも何でしょう?何か驚いているような・・・。

そして次は私に圧し掛かっている物を確認し・・・。

「・・・えっ?」

言葉を失いました。

それは人の形をしていました。

緑がかったョートヘアにまん丸メガネの・・・。

「アテンザ・・・?」

それは先程私が拒絶した少女、マリエル・アテンザでした。

そう、彼女は私の前に飛び出し、飛来する魔力弾から私を護ってくれたのです。

体を見ると、本局の制服の上に纏った白衣にはジワリと赤いシミが広がっていきます。

アテンザの、赤い・・・。

「何だぁこのガキ・・・邪魔すんじゃ・・・」

チンピラがアテンザにデバイスを向け・・・。

「うああああぁぁぁぁぁっ!!」

私の身体は反射的に動いていました。

イェーガーを奴に向け、照準、発砲。

この一連の動作は今まで行ってきた中で最速のものでした。

私の魔力弾を喰らったチンピラは衝撃で吹き飛び、数ブロック先の廃ビルに頭から激突しました。

よく見ると手足がおかしな方向に曲がっていたり耳から出ちゃいけない色の血が出ていたりしますがそんな事どうでもいいです。

「マリエル!!」

今は彼女、アテンザ・・・マリエルの様態が最優先です。

「ぅ・・・あ、スカリエッティ、さん・・・ゴホッ」

「喋らないで、今人を呼んで来るから・・・!」

マリエルが咳き込むと空気と共に血が吐き出される。

畜生、肺がやられている。

「こちらスカリエッティ執務官。拘束した容疑者が抵抗、現在アテンザ技官が重傷。大至急ヘリの出動を要請する」

すぐさま地上本部の航空管制から返事が届く、しかし・・・。

『こちらクラナガンコントロール、現在急行できる機体が無い。救急車を手配したので待機されたし』

救急車?四六時中渋滞してるクラナガンの道路をチンタラ病院まで行けって言うんですか?

「アテンザ技官は肺をやられている、陸路じゃ間に合わない。大至急ヘリが必要なんだ!」

『理解している。しかし向える機がいない。待機されたし』

クソッタレ!

「ゴホッ・・・ハァ、ハァ・・・」

「マリエルっ!」

咳き込むたびに血をはき既に私も彼女も返り血で真っ赤です。

「ハァ、ハァ・・・フフッ」

マリエルが笑います。

何ですか?血が足りなくて頭がおかしくなったんですか?しゃれにならないから止めてくださいよ。

「やっと、名前で呼んでくれた・・・」

「っ!・・・バカ、どうして庇ったりなんか・・・」

私が貴重な実験サンプルだとしても身を挺してまで護る価値があるとは思えません。

「クライド提督からあなたの事を聞いて、私と同い年のあなたとなら・・・友達になれると思って・・・」

「っ・・・!!?」

言葉が出ませんでした。

出会った時からずっと彼女を疑っていました。

どれだけ優しい言葉をかけられても本心では私の事を実験動物としか見ていないと。

でもそんな事は無くて、彼女は純粋に私と友達になりたくて私に話しかけていた。

そんな彼女を、私は・・・!

「・・・・・・・!!」

マリエルを抱き上る。

「ぐっ・・・」

動かされた痛みから呻くマリエル。

「ゴメンなさい、でも少しだけガマンして」

何故でしょう、さっきまで乱れていた魔力が安定しています。

これが火事場の馬鹿力なのでしょうか・・・。

「こちらハルナ・スカリエッティ。これより私がアテンザ技官を直接搬送する!」

そう宣言するや否や私は夜の空へ飛び立ちます。

『スカリエッティ執務官!市街地での飛行は許可できない!直ちに着陸・・・』

「うるさい!始末書でも降格でも受けてやるから今はすっこんでろ!」

管制官の制止に自分でビックリするくらい汚い口調で叫びます。

『なっ・・・!?』

驚き沈黙する管制官、あれだけの暴言を吐いたんです。相応の言葉が返ってくると思っていましたがしかし・・・。

『・・・最寄の医療施設の位置を転送する、確認されたし』

「えっ?」

私が困惑しているとここから一番近くの病院までの最短ルートが送られてくる。

『付き合ってやるから後で一杯奢りやがれ。このガキンチョ』

「・・・!了解っ!!」

あぁ、多分今の私はすんごいひどい顔で泣いてるんでしょう。

さっきから涙と鼻水が止まらないんですもん。

そんなグシャグシャな顔でマリエルを抱えながら私はミッドの夜空を全速力で飛翔しました。

「全く、専属の医務官を派遣すると言うからまた本局の横槍かと思ったが・・・主犯はオマエか、クライド・・・」

病院の通路を二人の男が歩く。

一人はクライド、もう一人は口元に髭を蓄えた恰幅のいい男性局員、階級章は一等陸佐のものだ。

レジアス・ゲイズ、首都防衛隊に所属する若き指揮官だ。

陸と海、魔導士と非魔導士、立場こそ違えど世界を護るという同じ志を持つ二人はとある任務で出会って以来よく言葉を交わす間柄となっていた。

「今の彼女にはケアする者が必要だ。肉体的にも、精神的にもな・・・」

「確かに兵器にもメンテナンスは必要だが・・・」

レジアスはクライドがなぜそこまでハルナを気にかけているのか理解できなかった。

戦う為に培養槽から生まれた兵器、それがレジアスが思い浮かべる戦闘機人だ。

自我や意思にしても柔軟な戦術や局員との円滑な指揮伝達の為に備わっている機能に過ぎない。

しかしクライドは彼の言を聞き苦笑しながら答える。

「違うさ、彼女は兵器ではない・・・」

そう言ってある病室の前で足を止めると静に扉を開けた。

すると・・・。

「あ゛~終わんないよぉ~。ねぇ手伝ってよ『マリー』っ!」

室内からやけに気の抜けた声が聞こえてくる。

「駄目です。それは『ハルナちゃん』の始末書なんだから自分で書かなきゃ意味がないでしょう」

扉の隙間から除くとそこにはベッドに入ったマリエルとその横で涙目になりながら始末書を作成するハルナの姿があった。

「ぶぅ・・・病院まで運んだんだからちょっと位いいじゃん」

「駄~目!第一ちゃんと私の検診を受けていればこんな事にはならなかったんだから」

「なんだと~?やんのかコンチクショウ!」

「上等だよ、受けて立ってやる!」

お互いに『ぐぬぬ』と唸りながら顔を突き合わせる二人

しかし・・・。

「病室ではお静かに!!」

「「はい・・・」」

点滴を交換していた看護師の一括に二人は大人しく従う。

「・・・プッ」

「フフフッ」

それが可笑しかったのか二人は互いの顔をみて笑いあう。

その光景は初対面の二人を知る人物には信じられないほど晴れ晴れとした物だった。

「・・・どうだい?」

室内の様子を見て、クライドはレジアスに問う。

「『戦闘機人』とはいえ結局は人、と言うことか・・・」

ハルナに関する報告を受けた時、レジアスは脳内で戦闘機人を用いた新たな戦力構想を模索していた。

人員を海に取られ慢性的な人手不足に喘ぐ陸。

人造魔導師や戦闘機人はその問題を一気に打開する可能性を秘めているのだ。

技術的な問題はハルナと言う完成品がいるためクリアできた。今後は倫理面や法的な問題をどうにかしようと画策していたがそれも今回の一件で改めなければならないだろう。

「ヤレヤレ・・・お前のせいで練っていた計画がパーになったぞ」

そう言ってため息をつくレジアスだったが、その顔はつき物が落ちたかのように明るかった。

「彼女も、我々が護るべき子供達の一人。そういうことだな?」

「あぁ、あの子が大きくなった時に笑っていられる世界。それを作るのが私達の仕事だからな」

自分達の戦う意味を再確認した大人二人は笑いがら病室を後にした。

戦闘機人は兵器ではない、それにレジアスが気付いた事が今後の歴史に大きな影響を与えるのだがそれは誰も知らない。

 

 

 

「それじゃあ私からも彼女に餞別を送るか・・・」

病院を出たところでレジアスはポツリと呟いた。

「ん?何かあるのか?」

「あの歳で一人暮らしは辛いだろう。ちょうど人造魔導関連の事件を追ってる捜査官がいてな、そいつらに預けようと思う」

「確かに、家族は必要だな。可能ならうちで引き取ろうと思ったんだが・・・」

クライドがそう言ったところでレジアスは深い、とても深いため息を零した。

「年がら年中家を空けているお前になんぞ任せられるか。たまには息子の所に顔を出せ」

友人からの鋭い指摘にクライドの顔が歪む。

「反論できないな・・・。それで?その捜査官は何て言うんだ?」

「あぁ、ゼストの部下で名は・・・クイント・ナカジマといったな」

二人の大人たちがハルナの為に動き出していた頃、別の場所でも暗躍する大人たちがいた。

「ゼェ、ゼェ・・・とりあえず暫定でジェイルが父、ワシ等が祖父と言う事で異論はないな?」

「ぐふぅ・・・まぁ、いいだろう」

「ワシも異論はない、あだだ・・・」

「あんたらが私の父ポジなのが納得いかないがいいだろう・・・」

第38回ハルナの親権争奪戦という大乱闘の末、自分たちの要望が落ち着くところに落ち着いた所で最高評議会議長がスカリエッティに問う。

「ところでジェイル?研究の方はどうなっておる?」

「ああ、問題ない。すでに№Ⅰから№Ⅵまでと№Ⅹが起動。残りも順調だ、研究の場を提供してくれたことには感謝しているよ」

本来ならばすぐにでもハルナの所に帰りたいスカリエッティであったが、彼女の妹達・・・ナンバーズを生み出すために現在は最高評議会傘下の研究施設に身を寄せていた。

「ちょうど研究に行き詰っていたセクションがあったからな、連中もお前の技術を学べて喜んでおるよ」

「タイプ・ゼロ計画だったか、当初はお前さんが反乱を起こした時の対抗策として対ナンバーズ用の戦闘機人を開発してた部署だったんだがな・・・」

スカリエッティにも極秘で進められていたタイプゼロ計画、彼の技術を元にハルナ対策として進められていたが研究は遅滞、そこにスカリエッティ本人が放り込まれた結果研究はすさまじい勢いで進展、あっという間に計画されていた戦闘機人、タイプゼロ・ファーストとセカンドが完成してしまった。

「そのタイプゼロ・・・ギンガちゃんだったかの?お前さんやナンバーズの子たちとは仲良くやっておるのか?」

「勿論だとも、最初こそ別々の計画だったが彼女たちも私の大切な娘に他ならない。ほかの娘たちにとっても大切な姉妹の一員だ」

数か月前に誕生したタイプゼロ・ファースト・・・ギンガは現在ナンバーズの姉妹たちと和気藹々と暮らしている。

その光景に癒されながらスカリエッティと研究員たちはもう一人のタイプゼロ・・・スバルと残りのナンバーズの為に日夜研究に明け暮れているのが現状だ。

「いや~、ハルナも妹を欲しがっていたが、まさか14人も妹が増えると知ったら驚くだろうな~」

「違いない。サプライズは成功間違いなしじゃな!」

「わしらの祖父としての株も急上昇じゃ!」

「これでハルナちゃんの祖父の座は盤石じゃな!」

「「「「はっはっはっは・・・!!」」」」

愛する娘(孫娘)の為に彼らは突き進む、親心と祖父心を変な方向に暴走させている事に気づくことなく・・・。


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