胸の痛み抱いたままではいられない   作:しゃもじん

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どちらかというとまえがきに近いかもしれない内容。

別ルートに進んでしまったヒロインの末路を考えると、正直和奏ちゃんが一番可哀想だと思うのです。



Chapter Ex-1 選ばれぬ者

それは、すべてが大きく狂ってしまった世界でのできごと。

 

仮屋和奏、姫松学園の2年生。幼馴染の保科柊史、悪友の海道秀明と学校生活を過ごす、ごく普通のありふれた女子高生のはず、だった。

 

「それにしても、保科も変わったよね。」

「そうそう、昔はあんな死んだ魚みたいな目をしていたのに。」

そういう彼らの話に嘘はひとつもない。実際、かつての保科は今みたいに希望とか、そういったものをほとんど失っていた。保科柊史、人の心を五感で感じてしまう特異体質がゆえに多くのトラウマを作ってきたが、今は同じ学園の綾地寧々と晴れて恋人になり、トラウマから生じた心の穴もふさがってきた。

 

「オレを死んだ魚呼ばわりするなよ。」

「でも、こんなに変わったのってやっぱり、綾地さん?」

「やっぱり女は人を変えるんだなぁ。いいなぁ柊史は」

「そういう海道はどうなのさ」

「オレにそういう人がいるようにみえるか?」

海道秀明、彼女いない歴イコール年齢、というわけではないだろうが、顔はいいのに彼女はできない、いわゆる残念なイケメンというところだろうか。

 

「そんじゃ、和奏ちゃんは?」

「あたしがそういうのに見えるって言いたいの?グーパンと膝蹴り、どっちがいい?」

「まったまった、そういう意味じゃないって。ほら、彼氏とかさ、作ったことないの?」

「あたしは…別にそういうことを意識した事自体がないかな」

その時保科はわずかにクスリっぽさを感じた。何かをごまかしているときの味だ。まあ、いくら友達とはいえ異性にそういったことを告げるのは難しいからごまかしたのだろう、と思った。

 

「それに、あたしに彼氏でもできたら、二人とこんな話すわけに行かなくなっちゃうでしょ。」

「そうか……そして一人取り残されるオレ、と。泣けてきたぜ」

「仮定の話で勝手に暗くなるなよ、それにオレまで勝手にいなくなる前提にするな」

「えー、でも前より保科の付き合いはちょっとだけ悪くなってるよ。邪魔したいわけじゃないけど、やっぱり恋人優先よね。」

意地悪そうに笑う仮屋を尻目に、海道は勝手に自分の想像を膨らませていく。そのとき、保科はまた同じように、妙な痛みを感じることになった。気になって周囲を見回すも、おれにたいして対してそういった強い感情を向けてる人は見当たらない。そばにいる二人からもそんな感情を受け取るような話をした覚えもない。一体この痛みはなんなんだ。徐々に強まるその苦しみにちょっとフラっとしてしまう。

 

「だ、大丈夫!?保科、なんか顔色悪いよ」

「お前、一体どうしたんだ。無理してないか?」

「大丈夫、ちょっとめまいがしただけ」

口ではごまかしているものの、実際に保科が感じている思いは相当に強いものだ。しかもさっきから徐々に強まっていく。ただ、少しずつ変質したものになっていく、物理的なトゲトゲしさから、今度は息苦しさみたいな、胸が締め付けられるような苦しみになっていく。

 

「大丈夫、とりあえず昼休みも終わるし、そろそろ席に戻るよ」

「無理はするなよ、お前が結構生活で苦労しているのはわかるけど、体まで壊したら意味がないぞ」

海道の心配を聞きつつ周囲の様子を見るも、やはり見つからない。一体この強い感情は誰からだ。

 

放課後、保科は部活に行き、海道は元気に帰宅部。仮屋はギターを買った後も続けているバイトに向かう。

 

「もしもと思って、こういう本も買って読んではみたけど…やっぱりいらなかったかな」

そういう仮屋のカバンには「サルでもわかるベース入門」という本が入っていた。仮屋自身はギターしか弾かない以上、この本を買う事自体普通はありえなかった。ただ、保科が少し無理をしてまでベースを始めてくれた、そのことに応えようといざという際にはアドバイスが出来るようにと、本を買ってある程度読み込んでいた。

 

「まあ、ちょっとおせっかいすぎたかな。」

カバンの奥底に本をしまい込み、バイトの制服に着替え、いつもの業務に移る。

 

 

もともと保科と仮屋は小学校で同級生だった。当時から人の心を見透かしてしまう保科はクラスで自然と浮き、保科自身も周囲から人を遠ざけようとしていった。仮屋はそんな保科に興味を持ち、話しかけていこうとした。幼い時の恋心というのはどれほどまでに真剣なのかは測りかねるが、その当時から仮屋は、保科に片思いをしてしまっていたのかもしれない。

 

その後都合で転勤し、戻ってきた高校での再会。昔よりは人付き合いがうまくなったように見える保科だが、やはりまだ距離を置こうとする本質には変わりがない。今度こそは保科の助けになりたいと思ってはや2年。仮屋なりにいろんなことをやった。それなのに、ある日突然、保科に彼女ができた。

 

人の幸せを喜べないことほど苦しいことはない。もともとは人から孤立していた保科を助けたいという一心だった仮屋だが、いざその役目が別の人だと見せつけられ、しかもその人がこうもうまく導いていく姿を見せられるとなると、その心中は穏やかではない。

「ん、仮屋さんどうした。ちょっと手が止まっちゃってるよ」

「あつ、すいませんオーナー。ちょっと考え事しちゃってました」

「まあ、今はお客さんもいないからいいが、それとも悩みでも聞いておこうかい、それとも簡単な占い?」

「それじゃ、占いをお願いできますか」

 

オーナー、相馬七緒の占いはシンプルながら結構的中すると、ここの喫茶店常連には話題になっている。仮屋もかつて占ってもらったことがあるが、その的中率は今の所、百%だ。

 

「…これは」

神妙そうな顔を浮かべるオーナー。おそらくはあまり芳しくない答えが出たのだろう。オーナーの占いはタロットカードを用いたタイプだ。よく切られたカードから何枚か選び、そのカードから答えを導き出す。

「仮屋さん、その悩みはちょっと、いや相当根っこが深いね。しかもそう簡単には解決しそうにない。」

「……」

「それに、今後についてもそんなに良い答えが出てないみたいだ。ただ、一歩踏み出すのは悪くないと思うよ。何か行動を起こすことが、事態を切り開く鍵になるかもしれないからね。」

「わかりました、ありがとうございます。…これってやっぱりバイトの勤務時間分には入らないですよね」

「え?いやこのぐらいならいいさ。それに従業員が悩み事を抱えてポカしてもらったら困るからね」

いたずらっぽく笑いながら道具をしまい込む。その言葉に嘘は一切ない。実際自分の占いで従業員の福利厚生が図れるなら、会社だったら御の字だろう。

 

バイトが終わり、帰路につく。いつもの帰り道。あたりはすっかり暗くなって、人影はほとんどない。占ってはもらったものの、まだ頭はぼんやりしている。あのとき、保科に思いを伝えられなかったことを未だに後悔している。外面的にはそういったことに興味がないキャラを突き通している仮屋だが、諦めきれない思いは徐々に大きくなっていく。ふいに涙が溢れてきて、いつもの帰り道を歩きながら泣き出してしまった。少し進むと、物陰から一匹の野良犬が駆け寄ってくる。そのときには涙も少しは収まりつついたが、なぜだかその犬が慰めてくれているように感じ、頭をなでようとしゃがみこんだその瞬間、突然頭に声が響いた。

「ねぇ、もしかして、なにかいま悩み事、抱えていない?」

びっくりして、仮屋は周囲を見回すも、人影など全く見えない。しかも頭の中に声が直接響く。そんなありえない、と理性が否定するも、状況的にこの犬以外が喋っているようには見えない。

 

 

「あっ、ようやく気付いてくれた。いま悩み事があるんでしょ。僕と契約して、その悩み事を解決しようよ」

何を言っているのか全くわからない。それでも、こんな形で話しかけてくる犬の話だ。もしかしたらなにかあるのかもしれない。

 




ちなみに、犬アルプは本編紬ルートの彼でだいたいあってます。

あれよりはるかに鬼畜とか言っちゃダメよ
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