「契約って、どういうこと」
「よくぞ聞いてくれました、僕はアルプっていう、使い魔みたいな存在なんだ。だから願いをかなえる代わりに、その人に魔女としてちょっと手伝ってほしい」
「つまり、契約して魔女になってほしい、ってこと?」
「そう、そのとおり。あっ、そういえば名乗り忘れてたね。僕はアツシ。君は?」
「私は…仮屋和奏」
「それじゃ和奏さんって呼ぶね。和奏さん、あらためて聞くけど、叶えたい願いってない?」
「それは…」
いろんなことが頭に浮かんだ。ギターが欲しかった、その願いはもう叶えたし、あとはもっと高いのが欲しくなったり、あるいは自分の腕前が向上してほしいとも思った。それ以外でも世俗的な、言ってみればお金持ちになりたいとか、あとはもう少し胸がおっきくなってほしいとか。いろんなことが頭に浮かんで消えて、最後まで残っていたことが不意に口から出た。
「保科を…私が助けたかった…」
「保科…それは君の友達かい?」
「あたしの幼馴染。いまはもう、とっても楽しそうなんだけどね。でも、そこにいるのがあたしだったらもっと良かったな、って」
「そっか、それじゃその願い、僕が叶えてあげるよ!」
突然周囲が光に包まれ、目がくらむ。そして意識を失ってしまった。
「おっと、ちょっと荒っぽすぎたかな。でももう大丈夫、君は無事契約完了!これで晴れて魔女になれたよ。」
「あたしが、魔女」
「そう、さっき言い忘れたけど、魔女になったからには、人のこころのかけらを集めてもらう必要があるんだ。集め終わったら、それと引き換えに願いも叶う。どう、悪くないでしょ」
その瞬間、軽率だった自分を恥じた。そんなうまい話なんてあるわけがない。当然それまでになにかの代償を求められるのが世の常だ。だが、仮屋は同時に、これがさっきの占いが示したなにか行動を起こすことがこれなのでは、とも思った。
「カケラの集め方は、どうやって?」
「それは、人の心には無駄が多すぎるんだ。余剰な不安とか、舞い上がってしまうような幸せとか。それはたいてい良くない影響を及ぼすから、和奏さんはそれを魔法でうまく削り取ってほしいんだ。」
「えっ、そんなの、削っちゃっていいの?」
「ほら、喜びすぎて怪我しちゃう人もいるでしょ、そういうことだよ」
それは間違いではない。確かにそういう人は見たことがある。その事実で少しだけ落ち着いた。
「それで、そういう人はどうやって見つけるの」
「まあ、なかなかないから、たとえば悩みを解決するとかそういう形で導くといいよ。幸い、魔女の力でその人の心が見えるし、あとは自分の意志で変身も出来るよ。ためしにやってみて。」
いきなり変身ができると言われても、何をどうすればいいのか、とりあえず考えてみると体が光り出し、気付いたときには上下ともにタキシードのような格好と、手には足の長さぐらいはありそうなレイピアを持っていた。
「これが、魔女の格好…」
「そう、この姿のときは魔女同士か魔法の素養がある人にしか見えないはず。その剣で心のカケラを一差しすれば、めでたくカケラがとれる、ってこと」
「こんなの、人に突き刺して大丈夫なの?」
「魔法の道具だから、実際に傷つけるわけじゃないよ。そこは安心して。それにしても似合ってるね、男装の麗人、っていうのかな」
「なに、あたしがちっぱいってここでも言いたいわけ?」
「別にそんなことを言いたいわけじゃないのに」
その後、一通り話は終わり、仮屋和奏は魔女になった。もとはといえば騙されたようなものだったが、願い自体は元から叶えようとしていたものであることに間違いはない。
「ところで、魔女は代償を支払わされるってこと、話したっけ」
「…初耳なんですけど」
「まあ、人によるところがあるみたいだけど、今の所、これといったものはなさそうだね。まえ聞いた話だと、代償が発情の痴女みたいな魔女とか、あとは女の子の格好ができない人とか、ひどいのだと記憶が欠落していく、なんてのもあったね」
特に最後のは重たすぎる。仮屋は自分の代償がまだ良くわかってはいないが、ここに上げられたものではないことに少し感謝した。そして、女の子の格好ができない、というのはもしかして、と頭をよぎったがここで確認したところでまともな答えは返ってこないだろう。
「それじゃ、僕とは念話みたいなのでいつでも連絡できるし、基本的には近くにいるからね」
アルプのアツシと別れ、予定通り帰路につく。時間にして30分ほど、ちょっと遅くなってしまったけれども、このぐらいなら怒られることはないだろう。今日起こった不思議な出来事を思い出しつつ、今度こそは私が保科を幸せにするという思いを胸にいつもの道を歩いていく。