ウマ娘プリティーダービー 短編集   作:ピーナ

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ウマ娘の世界はきっと優しい世界だから。


消えたヒロイン

ウマ娘達がスターダムに上がるのはどのタイミングだろうか。

日本なら勝負服の着る事の出来るG1での活躍だと言える。しかし、海外は日本よりもG1の数が多いので一概には言えない。だから、G1の中でもダービーなどの特別なレースや凱旋門賞などの世界中が注目するレースで勝つ事が条件だと言える。しかし、スターになる事が決して彼女達にプラスになるわけではない。

 

 

 

 

「はあ……」

 

ここは、イギリスのとある場所。ここにはイギリスを主戦場として活躍するウマ娘達の学園の寮の一室。そこで一人の少女がため息を吐いていた。

彼女の名前はシャーガー、ヨーロッパのレースの最高峰、ダービーを史上最大着差で勝利したのを皮切りにいくつもの大レースを勝ち、一気にスターに駆け上がった少女である。いわば今のヨーロッパのトウィンクルシリーズ人気を一身で集めている存在なのだ。

なぜ、そうなったかというと、ヨーロッパにおけるマンネリ化が原因だった。

ここ数年、世界的なトウィンクルシリーズ人気はアメリカの方に集まっている。3人のトリプルクラウンを含め、スター揃いのアメリカに比べるとヨーロッパ勢はやや格落ちの感が否めなかった。そこに現れたのがシャーガーというスーパースター候補。ヨーロッパのファンの注目を集めるのも仕方がない事だろう。

しかし、抜きんでたレースセンスを持つ彼女だが、ダービーに勝つまでは目立たない存在であり、彼女自身目立つのを好まない性格なために今の状況にストレスを感じ、練習以外は部屋に閉じこもっているのである。

 

「大分、字読みにくくなって来たなあ……」

 

練習以外はずっと読書をし、本に書かれた文字が読みにくくなって日暮れに気付く、そんな生活を続けている。

逃げだしたい。それが彼女の本音。しかし、彼女には周囲の人たちが自分にかける期待が分かっている。だから逃げられない。

 

「誰かここから連れ出してくれないかな……なんて、そんな物語みたいな事あるわけないよね」

「あるかもよ?」

 

彼女以外に誰もいない部屋に男性の声が響いた。シャーガーはその声が聞こえた方、つまり窓の方に目線を向けた。鍵をかけていた窓は開けられその縁に立っていたのは黒のシルクハットに黒のスーツ、目元だけを隠したマスクを付けたシャーガーとそれ程変わらない年齢の男性。

 

「だ、誰?」

「イギリスの至宝を盗みに来た怪盗……って所かな」

「怪盗さん……でも、どこかで聞いた事のあるような……」

 

不用心にも怪盗を名乗る男に近付くシャーガー。マスクの奥の綺麗は灰色の瞳と帽子の下に見えるブロンドの髪。彼女には一人心当たりがあった。

 

「もしかして、デティークさん?」

「正解」

 

マスクを外した青年は彼女がよく行く古本屋の主人。寮の近くの通りの外れにあるその店を彼女は気に入っており、目立つようになるまではかなりの頻度で通っていた。もちろん本が目的だったのだが、この容姿の整った青年がいた事も少なからずあった。

 

「でも、どうしてこんな真似を?」

「副業かな。イギリスの誇る将軍様の依頼でね。ま、名前は隠してほしいみたいだから秘密だよ。時に、僕のフルネーム知ってる?」

「ラウール・デティークさんですよね」

「そう。で、それはある有名な作品の登場人物から取られているんだ。今の状況もある意味ヒント」

「アルセーヌ・ルパンですか? ラウールはアルセーヌの幼い頃の名前、デティークは最初の妻の苗字だったはずです。ってまさか」

「そ、僕はアルセーヌのひ孫にあたる存在さ。もちろん、泥棒はやってないよ。色々と技術は爺さんや父さんに叩き込まれたけど、初代以外は普通に暮らしてる」

「でも、あれは空想のお話じゃあ……」

「パリで古物商をやってた爺さんがルブランと知り合いで、うだつの上がらなかったルブランに爺さんがルパンを紹介して書かれたらしいぜ」

 

思わぬ裏話に驚きの表情を浮かべるシャーガー。

 

「さて長居はこの辺にして、さらわれてくれますか? お嬢さん?」

 

芝居がかった仕草で手を差し出すルパン4世。

 

「よろしくお願いします。怪盗さん」

 

その手に自分の手を重ねたシャーガー。

そして二人はイギリスの夜に消えていった。

 

 

『シャーガー、誘拐される』

 

このニュースは瞬く間にヨーロッパ、全世界に広がった。イギリスの威信を賭けた捜索は実を結ばず、この事件は迷宮入り。様々な憶測が流れながら、未だにエイプリルフールのネタになる伝説のなったのだ。

 

 

 

「しかし、将軍様も無茶な相談をしてくれるよ。風の噂でしかないルパン一族にアポを取ってほしいだなんて」

「麗しの珊瑚に頼んで正解だったよ。で、彼女は今どこに?」

「先祖の愛した極東の地らしいよ。4世には場所をちゃんと聞いてるから引退したら会いに行こうね」

 

 

 

「セラ、これ何処の本棚に置けばいい?」

「左から三番目の所に空きがあったと思いますから、そこにお願いします」

「了解」

 

東京は府中市、東京レース場のほど近くにある店主こだわりの紅茶と本を楽しめるお店「エプソム」。美男美女の夫婦で切り盛りするこのお店には一つのジンクスがあります。

それは『ここを贔屓にしたウマ娘は大活躍できる』という物です。世界でも権威のあるレースの一つ行われるレース場を冠したこのお店にはたくさんのウマ娘の笑顔が溢れています。そして今日もカランコロンとドアの開く音と共にお客様がやってきます。

 

 

「「いらっしゃい」」




最初はエイプリルフール位までに完成すれば良いかなと思ってました。でも、ルパパトを見てたら完成しました。


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