ウマ娘プリティーダービー 短編集   作:ピーナ

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平成最後に間に合いました。


極北からの風

「さむっ……」

 

約一年ぶりの帰郷での一言目がそれだった。

今日私はアメリカ遠征を怪我という不本意な形で終えて帰ってきた。

正直、カナダのレースレベルはアメリカやイギリス、フランスなどの国に比べるとレベルが落ちる。ジュニアクラス時に能力を認められた私はアメリカ遠征を勧められた。不安もあった中、その勧めを受けたのは『カナダの代表として私の実力を見せつける』という、ただの意地からだった。

人よりも小柄な私の体に見合わない大きな誇りをもって単身挑んだアメリカ遠征はクラシック2冠という成果で大成功となった。

練習メニューからレース選択、宿の手配や食事管理まで全部ひとりでやったのは大変だったけど、勉強になった。

素晴らしい結果の反面、今の私は完全に燃え尽きている。シニアクラスのレースに参加という選択肢もあるけど、アメリカはどちらかというとジュニア~クラシックの路線の方が層が厚い。シニアの大レースは秋の祭典、SCデー位なものだ。(SCはステーツカップの略で各州に1つあるトレーニングスクールの代表が様々なジャンルのレースで実力を競い合う世界でも最大級のお祭りである。毎年8・9月に予選としてのレースが開かれ、10月の終わりに行われている)

 

「これからどうするかなあ……」

 

確かに遠征は怪我で終わった。けど、遠征の目的、私のアイデンティティみたいなものは達成できたと思う。だから正直な所、次のモチベーションが見つけられていないのだ。

アメリカやカナダの関係者、同期の皆に先輩や後輩たちは私に復帰して欲しいらしい。誰かと一緒に走りたいとか、輝くステージの真ん中に立って歌いたいとか、ウマ娘の本能みたいなものはあるのだけど、今の私はそれが魅力的には見えないでいる。

 

 

 

身の振り方をどうするかを考えていた私はいつの間にか小さい頃よく走っていた公園に来ていた。

そこそこ広い芝生のエリアの中にいくつかのベンチと遊歩道があって天気がいいときは散歩をしている人やピクニックに来ている人もいる近所の人の憩いの場。まあ、雪が積もっているこの時期は私のような変人か元気のいい子供たち位しか来ないのだけど。実際今も小さいウマ娘二人が走り回っている。

その娘たちを見ながら、数年前の私も多分あんな感じだったんだろうなと、年寄り臭いことを思ってしまった。久しぶりの地元だからなのかな?

 

「おねーちゃん、寒くないの?」

 

いつの間にか近寄ってきた子供たち。話しかけてきたのはショートカットで元気そうな可愛い子。その後ろには少し長めの髪の綺麗な子。帽子とマフラーで気づかれてないとは思うけど、騒ぎになることだけは避けないと。

 

「平気だよ。おねーちゃんもここの生まれだからね」

「あの……ノーザンダンサーさんですよね?」

 

地元の子供にまで顔と名前を知られるようになったのはちょっと嬉しい。

 

「ノーザンダンサーってこの町出身の凄いウマ娘でしょ! 私もなりたい!」

「私のこと知ってくれてるんだ」

「多分、カナダの子たちは貴女の事をスーパースターだと思っていますよ。もちろん私も」

 

二人のキラキラした目が眩しい。……こんな目をした子たちにもっと会ってみたいな。

 

「何かが見えた気がする」

 

私の独り言に目の前の二人は後ろを振り向く。

 

「? 何もないよ?」

「そうじゃないよ」

 

ショートカットの子の頭を撫でながら、そう答えた。私が見たいのはゴール後の風景でも、ステージからの後継でもない。目の前の少女たちのような夢を持った子の道しるべを作って上げる事。それで、彼女たちが私のようにこの街から羽ばたいていくのを見る事なんだ。

道は私が作るのだ。ここから世界へ続く道を。

 

「二人の名前、教えてくれるかな」

「私はヴァイスリージェント!」

「ニジンスキーです」

「私はノーザンダンサー。雪が解けたら、この街で君たちのような私に憧れている子達の先生になりたいと思ってるんだ。もしよかったら、私の学校……なんて大したものじゃないけど、来ない?」

「「うん!」」

「ならば、来年の5月27日のお昼にここで会おうか。その時までに君たちのための場所を用意しておくよ」

 

 

 

これは一人の少女の小さな一歩だった。しかし、彼女のこの一歩が数年後世界を席巻する事を誰も知らない。

 

 

 

「そういえば、どうして5月27日なの?」

「私の誕生日だよ。準備期間は余裕があったほうが良いかなって思って考えてたら、思い出してね」




現在の競馬で最も重要な存在を書いてみました。


ノーザンダンサー

「子供たちの進む道を照らしていけたら良いな」

カナダが産んだスーパースター。
ウマ娘は上半期に生まれ、ピークは3~4月なのだが、彼女は5月の終わり生まれかつ、未熟児で肉体的なハンデを持ちながら、アメリカクラシックレースで2冠を得た。(と同時に最年少記録保持者)
その後、ケガで引退し、故郷でウマ娘のトレーニングスクール(日本のトレセン学園)入学前の子供たちの為の学校を開き、ハンデを克服するために身に着けた知識と単身渡米の経験を教え子達に教えていく。



ヴァイスリージェント

「せんせーにみたいな人になりたい!」

ノーザンダンサーの教え子の一人。
非常に面倒見が良い性格で同じ学年の少女たちを引っ張る中心人物。ニジンスキーとは幼馴染で親友。選手としては芽が出なかったが、自身の憧れた先生の後を追いかける。



ニジンスキー

「ここまでこれたのは、あの日先生に会えたからです」

ノーザンダンサーの教え子の一人。
抜群のスタイルと圧倒的な表現力を持つ『舞姫』。
幼い頃はあまり人前が得意ではなかったが、幼馴染のヴァイスリージェントと共にノーザンダンサーの学校に入り、様々な経験を積む事で才能が開花していく。
恩師の名前を広げるために、かつての恩師と同じく単身渡欧、世界最高峰の芝レースに挑戦していく。



今や世界中のサラブレットの血統表で見るノーザンダンサー。それと世界中にいる直仔達の関係をこの世界に落とし込むのはどうしようかと考えた時、このような形になりました。
ウマ娘のノーザンダンサーの教えを受けた少女達がカナダで、アメリカで、ヨーロッパで、日本で、その知識と経験を広げていく。というのが種牡馬としてのノーザンダンサーの広がりと考えていただければと思います。

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