『今年もやってまいりました、冬の祭典、有馬記念! クラシック世代が世代の壁を打ち破るのか? シニアクラスの強豪たちが立ちはだかるのか? しかし、今年はこの二人の直接対決が最大の注目でしょう! 一人はスペシャルウィーク! 秋初戦こそ惨敗しましたが、そこから天皇賞・秋、ジャパンカップとG1を2連勝。まだ、誰も達成していない秋3冠を狙う、名実ともに日本レース界の主役の一人です! もう一人はグラスワンダー! 今年は春の安田記念こそ落としましたが、それ以外の3戦は勝利と抜群の安定感を誇り、前人未到のグランプリ3連覇を目指します! 今年最後のセンターステージは誰なのか? まもなく、レースのスタートです!』
「スぺちゃん」
「グラスちゃん、今日は負けません!」
レース場に入場前、スペシャルウィークとグラスワンダーは二人で話していた。
「あのブロワイエを倒したスぺちゃんに私が挑む方だと思うのだけれども……」
「それと今日のレースは別問題です! 私は宝塚で負けてますし、去年の有馬にも勝っているグラスちゃんに勝ちたいと思うのは当たり前です!」
スぺからすると、ふがいないレース(とはいう物の3着以下とはかなりの差を付けての2着であり、結果だけなら京都大賞典の方が悪い)を見せた自分への反省と同じレースに出る最強のクラスメイトへの敬意から出た言葉だった。
「私も、今年一年シニアクラスの王道路線を走り続けて一番多くG1を勝ったスぺちゃんに勝ちたい」
グラスも、脚の不安から間隔をあけての出場だった自分とは違い、シニアの王道路線を走り続け、文字通り日本を代表するウマ娘となったスぺへのリスペクトがある。直接対決で勝っていようともそれは変わらない。
「そうはさせないよ。最強は僕だからね。華麗に二人に引導を渡して見せるさ!」
二人の間に突然入って来たのは今年の皐月賞ウマ娘、テイエムオペラオー。いきなりの割り込みとナルシストな発言に苦笑いなスぺ。一方のグラスは……
「オ~ペ~ラ~オ~?」
なんか黒いオーラを纏っていた。クラスメイトでチームメイトのエルコンドルパサーをたしなめる時に近いが、後輩の分エルの時より圧力が強めになっている。
「ひいっ!?」
「はあ……自信があるのは良いと思うし、それに見合う実力もあるけど、その自信過剰な部分で足をすくわれたのよ?」
生徒会長のシンボリルドルフが「3冠を獲れる可能性がある才能」だと太鼓判を押していたオペラオー。しかし、彼女は皐月賞しか獲れなかった。ライバルの激走もあったが、彼女の慢心も理由の一つだとグラスは考えている。
「お、王者は慢心してこそです!」
「それは今日、私やスぺちゃんを倒してから言いなさい」
「……はい」
恐らく、オペラオーがどれだけ実績を上げても変わらないであろう力関係がそこにはあった。
「それに、そろそろ貴女の入場じゃない?」
「行ってきます……。でも、お二人にも負けませんから!」
そう言い残して入場していく。G1の入場は人気順で上位人気のスぺとグラスはもう少し後だ。
「グラスちゃん、『倒してから』って言う位、オペラオーちゃんの能力を買ってるんだね」
「……本人には言わないでね。また調子に乗りすぎるから。トレーナーさんにもそう言われてるの」
グラスの言葉に頷いて答えるスぺ。慢心があるというのはレースに集中しきれていないという事。スぺ自身、それで大きいレースを落としているので、周りがそれを何とかしようとしているのは理解できた。
「それと、スぺちゃんは来年ドリームクラスに上がるの?」
ドリームクラスというのはG1を複数勝ち、人気、実力ともにトップレベルのウマ娘だけが所属できる日本ウマ娘界のピラミッドの頂点である。すでにエルは昇格を表明しているのだが、その資格のある同世代馬のスぺとグラスは動向を発表していない。
「うーん、実はブロワイエさんからヨーロッパ留学しないか? ってお話をいただいたから、迷ってるの」
「スぺちゃん凄い!」
「でも、そうなると会長やエルちゃんを始めとした日本の凄い人たちと戦えないんですよね」
ドリームクラスは一部の国際招待レース以外、各国原則として国内所属のウマ娘のみの出走になるので、留学生はジュニアクラスかシニアクラスに居ないといけないのだが、ドリームクラスへの昇格は年末のみなので、スぺが留学すると日本のドリームクラス所属が翌年に持ち越しになる。
「それは難しいわね。私にも生まれたアメリカから留学のお話があるけど、同じ理由で私も迷ってるもの」
「ブロワイエさんと戦って世界と戦ってみたいと思ったし、日本で学園の皆と戦いたいなと思うんです。……時間は無いけど、納得できる答えを出すよ」
「私もそうね。まあ、今は今年最後のレースだけを考えましょう」
レースが始まった。
今年の有馬記念はスズカやセイウンスカイのようなはっきりとしたレースを引っ張るウマ娘が居なく、普段は好位追走の一人が押し出されて先頭になる展開だった。オペラオーは中団、グラスは後方3、4番手、スぺは最後方からのレースになった。
『今、1000メートルを通過! なんと、1000メートルの通過が1分5秒! 超スローペースで流れています!』
1000メートルの通過は1分が目安とされている。例えばスズカが普段刻む1000メートル57~58秒は超ハイペースと言ってよく、今回の65秒というのは実況通りの超スローペースと言っても良い。そして、レースはハイペースなほど後続が有利でスローペースなほど先行勢が有利である。つまり、レースの展開は後方にいるグラス、スぺにはかなり不利なのだ。しかも、ここ中山レース場は最高速を出せる直線が310メートルと同じ関東の東京レース場の6割ほどしかないので、厳しい要素が沢山ある。
『向こう正面を駆け抜けて、間もなく第三コーナーに差し掛かります。ここで、後続の各選手仕掛けていく! グラスワンダー、スペシャルウィーク、両選手も動き出した! ここで先頭変わって、今年の皐月賞ウマ娘のテイエムオペラオー! オペラオー先頭で最後の直線に入る!』
大きく有利不利の無い中団でレースを進めたオペラオーは第四コーナーの辺りで先頭に立ち、そのまま押し切るつもりでラストスパートをかける。他の娘達もスローで流れたためスパートの余力があった。
『しかし! しかし、後方から最強の二人! スペシャルウィークとグラスワンダーが伸びて来た! 先頭変わった! スペシャルウィークとグラスワンダーの二人の競り合い!』
が、そんな事は二人には関係が無かった。他の選手に力の差を見せつけるように二人だけのデッドヒート。その勝負に観客から惜しみない声援がかけられる。
『どちらも譲らない! 意地と意地! プライドとプライドがぶつかり合う! スペシャルウィーク! グラスワンダー! スペシャルウィーク! グラスワンダー! どっちだー!』
実況も、観客も、テレビで観戦していたファンも、判断する係員も、走っていた本人達でさえもどっちが勝ったか分からない。判定は写真に委ねられることになった。
他のウマ娘が控室に戻っていく中、1位を争う二人は結果の出る電光掲示板を目を離さず見ている。
どちらも、自分が勝ったと信じている。けど、結果が出る瞬間までは確信が持てない。何よりもお互いの実力をよく知るから。
長いような短いような時間が経った後、写真判定の結果が出た。一着に表示されたのは7。グラスワンダーの勝利だった。
涙を流すグラスワンダーとちょっと人前で見せられないような顔のスペシャルウィーク。数センチの差がこの表情の差を生み出したのだ。
スぺは開きっぱなしだった口を閉じて、人前で見せられる顔に戻ってから、
「おめでとう、グラスちゃん!」
と声をかけた。ふがいないレースで負けた夏とは違う。全力で戦って負けた。だから、素直に称える事が出来る。
「ありがとう、スぺちゃん……」
グラスの涙には秋初戦を終えてから、また起こった脚の問題。その不安と戦い続けて、何とかこぎつけた有馬記念。戦うのは世界最強すら倒した最強のライバルにして、名実ともに『日本一のウマ娘』と言っても良いスペシャルウィーク。苦しみを超えて勝ち取れた栄冠。だから、感情があふれ出したのだ。
泣いているグラスワンダーを抱きしめるスペシャルウィーク。それが最強の二人が引っ張ったこの年を締めるレースに相応しい一枚となった。それはそこに送られる歓声が証明している。
あのレースは何処まで行ってもグラスぺの為のレースで、最強世代の実力を見せつけたレースだと思います。
グラスとオペラオーの関係
エルとグラスの関係っぽくなりそうだなあと思い、そのように書きました。オペラオーを書くのが難しいです。なんか、モバマスの幸子に寄って行きました。
オリジナル設定について
ドリームクラスについては実力があるはずなのにWDTにしか出ていなかった会長やナリブー、オグリ達のクラスが必要かなと思い、作りました。
グラスペの海外留学フラグはオペラオーの覇王化と世界に羽ばたいてほしかったという僕の願いを込めて設定しました。
次は何を書きましょうかね?