ウマ娘プリティーダービー 短編集   作:ピーナ

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少し空きましたけど新作です。


奇石、奇跡の復活までの軌跡

『幻の3冠ウマ娘』

私のキャッチフレーズとなってしまった言葉だ。デビューから脚の故障による長期離脱までの4戦で見せた私のポテンシャルを評価して付けられたものなんだけど、私はこの言葉が大嫌いだった。

 

 

 

それはまるで私と違って怪我もなくクラシック戦線を戦い抜けた同期の皆を見ていないみたいだったから。

 

 

 

そして、その言葉はシニアクラスに上がった後も私に、同期の皆に付きまとってきた。誰かが活躍しても「『幻の3冠ウマ娘』と言われるフジキセキと同世代の○○」と言われ、まるで皆が私の添え物みたいな扱いになっていた。

それが焦りとなったのか、リハビリの経過も芳しくなく、復帰までどれだけかかるかずっと分からなかった。どちらかというと人に頼られるタイプの私は、自分の問題を抱え込んでいたあの頃は精神的にずっと不安定だったと思う。

 

 

 

そんなある時、リハビリ中の私に会いに来てくれた娘がいた。

 

「キセキちゃ~ん!」

 

普通に生活できるようになったとはいえ競技に復帰できていない私に飛びついてきたのはマヤノトップガン。小学生にも間違われそうな位小柄(私とは20センチ以上離れている)な彼女はこう見えて私の同期で菊花賞ウマ娘。しかも、あのナリタブライアン先輩に勝ったこともあるほどの同世代随一の実力者だ。

 

「トップガン、もう少し加減してくれないか?」

「ごめ~ん」

 

謝る気があるのかないのか分からない謝罪までが私達のテンプレ。なんだかんだ、私は彼女に甘いのだ。実力はあるのに、性格が原因で成績にムラがあってどうも評価が低い。

 

「キセキちゃん、復帰にどれくらいかかりそう?」

 

普段は他愛のない話ばかりするトップガンが、私にとっても彼女にとっても重要な事を切り出したのが意外だった。

 

「……分からない。少なくとも春シーズンは無理だと思う」

 

この時、誤魔化そうと思えば誤魔化せたと思う。けど、良くも悪くも真っすぐなトップガンをはぐらかすのは少しだけ罪悪感があった。

 

「そっか~。一緒に走れるといいね」

 

トップガンはデビューが遅く(私の怪我前に取ったジュニアクラスのG1、朝日杯フューチュリティステークスよりも後のデビュー)、重賞戦線への参加が秋の菊花賞前だったから直接戦った事は無い。

 

「そうだね」

「今でも覚えてるよ~、キセキちゃんの朝日杯。あの時はデビューしてなかったけど、同期であんなに強くてカッコいい人がいるなんてって思って、一緒に走りたいって思ったもん」

「はは、ありがとう」

「ジェニュちゃんにヤスちゃんと話す時も何時もキセキちゃんと一緒に走りたいね~って話になるんだよ」

 

『ジェニュとヤス』 ジェニュインとタヤスツヨシは同期の皐月賞ウマ娘とダービーウマ娘。私達は所謂幼馴染である。現状はライバル……と言っていいのだろうか? 

 

「それ、本当?」

「? そうだよ? 二人とも、『勝ち逃げされたままはヤだ!』って言ってるけど、あれは照れ隠しだね!」

 

まあ、確かにあの二人は素直じゃない所があるから、分からなくはない。

 

「そっか。……トップガン」

「何?」

「私のキャッチフレーズ、どう思う?」

「『幻の3冠ウマ娘』って奴? カッコいいよね!」

「でも、それは本当に勝ったトップガン達をバカにしてない?」

「うーん、その辺は皆気にしてないと思うよ? 実際、春の二つは当然獲ってたっていうのは同期の皆の共通認識だし、菊花賞もぽっと出の私が獲ったんだからそう思われても仕方ないかな~。悔しい思いも当然あるけど、皆キセキちゃんの事好きだからね」

 

そういう物なのだろうか? ……まあ、リハビリの間同期の皆がお見舞いに来てくれたり、手伝ってくれたりしていたから、嫌われては無いんだろうとは思っていたけど。

でも、トップガンから皆の気持ちを聞けて良かったと思う。私が抱えていたものは私が勝手に感じていた重荷だったから。

 

「ありがとうね、トップガン」

「? お見舞いは私がしたいからしてるんだよ?」

「……まあ、それで良いか。ちゃんと治して、前より速くなるようにトレーニングして戻るよ。絶対」

 

目標は来年の日経新春杯。シニア王道路線の強豪達と戦うために、一年走りきるために、怪我をしないために時間をかけて体を作っていこう。

 

 

 

『今日のメインレースの目玉はなんと言ってもこの人! 3冠ウマ娘確実と言われながらも怪我に泣き約二年のブランクを経ての復帰戦となったフジキセキ! 『幻の3冠ウマ娘』と言われたその実力は健在か? 注目のスタートは間もなくです!』

 

「さあ、私の魅せる夢の世界に皆様をお連れしようか!」




最終回の会長とブライアンに意味深な目線を向けていたフジキセキを主役に同世代で最も活躍したトップガンと絡ませてみました。

ちなみにこの後のフジキセキは
日経新春杯→阪神大賞典→宝塚記念→毎日王冠→天皇賞→JC→有馬記念というローテーションになります。
阪神大賞典が疑問だと思いますが、『幻の3冠ウマ娘』の証明の為にも長い距離での結果が欲しく思い、入れました。

このまま初期発表の18人全員が主役な作品を最低1つは書くつもりで行こうかな? ネタがあればですけど。

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