思った以上に長くなったので札幌記念編と天皇賞編に分かれています。
アニメとは違った復活劇をどうぞ。
「一体、私はどうすれば良いの? どう走れば良いの……?」
彼女、サイレンススズカは悩んでいた。理由は数日前の北海道遠征にある。
『さあ、ついにやってまいりましたサマートウィンクルシリーズ最大のレース、札幌記念! 秋のG1シリーズを見据えた芝2000メートル戦! なんといっても注目は10か月ぶりの復帰となる昨年の宝塚記念、天皇賞・秋の勝ちウマ娘のであるサイレンススズカ! 天皇賞後に発覚した怪我によりレースからは離れていましたが昨年の有馬記念、今年の宝塚記念共にファン投票で1位に選ばれました! 復帰を心待ちにしていたファンが訪れた札幌レース場は超満員! URAからの発表で動員記録が更新されたそうです!』
レースはいつも通りスズカが後続を突き離す展開になった。異変が起こったのは第3コーナー、突然スズカの脚が鈍ったのだ。第3コーナーからゴールまでが短い札幌レース場だったので何とか3着に残ったものの、秋のG1シリーズに不安の残る一戦になった。何よりもスズカ自身へのダメージが大きかったのだ。札幌記念やその先を想定した練習では2000を逃げ切る事が出来ていたし、それ以上の距離の模擬レースもこなせていた。実際、実績を積んだスペシャルウィークにも先着で来ていたのだが、本番で脚色が悪くなった。その理由が彼女には分からなかったのだ。
「スズカ、お前にお客さんだ」
練習の途中でトレーナーそう告げられたスズカ。
「スズカ個人に客? 珍しくね?」
ゴールドシップの言う通り、ウマ娘個人への来客というのはあまりない。取材は合同会見、敷地内は原則関係者以外立ち入り禁止なので来客は家族位なのだが、スズカの母は彼女のデビュー直前に亡くなっている。
「誰ですか?」
「行けば分かるさ」
寮の応接室にやって来たスズカは待っていた人物を見て驚いた。
「や、スズカ。久し振り」
「サニー……あなたもウマ娘なのに来客?」
サニーブライアン。スズカと同期であり三冠レースで皐月賞とダービーを制した二冠ウマ娘。逃げの戦法を得意とするスズカが唯一捕まえられなかった相手である。
「脚の怪我で引退したからね」
「そ、そうだったの……ごめんなさい」
「気にしないで。怪我の間は迷ってたけど、去年のスズカの走りのお陰で諦められたから」
「諦められた?」
「うん。完成したスズカの走りをされたら、私がどれだけ頭を捻って作戦を考えても勝てないだろうからさ。なら、スパっと辞めた方がカッコいいじゃん?」
笑いながらそういうサニー。
「私は……そこまで割り切れない」
「……だよね。私もそうだった。やりたい事は見つけれたのに、もう一度レース場に走りたいって思った。でも、練習に復帰しても前みたいな走りは出来なくて、どうすれば良いかを考えていた時、スズカのレースを見て同じスタイルの君に勝手に夢を託したんだ」
「夢を託す……」
「そ。もっと走れたかもしれない私の、負け続けながらも走り続けたかもしれない私のね」
きっとそれは、親が子供に託すような、アマチュアスポーツのエールの交換のようなものだろう。
「これはスズカは気にしなくても良いよ。私の心の落としどころだから」
「私は……走れなくなるのが怖い。まだ、走っていたい。まだ、諦めたくない」
「諦める必要なんてないよ。札幌記念のスズカは去年と遜色なかった」
「でも、第三コーナーであの痛みがもう一度来るんじゃないかって……」
誰にも言えなかった心の内を涙声になりながら語るスズカ。チーム内で憧れの存在だった彼女にとって弱音が吐ける相手が居なかったのだ。
「分かるよ。私もレース中の怪我を味わった身だし、治ったと言われてもまた来るかもって身構えるよね。特に怪我をしたのと同じ地点だと。うーん……スズカ、次走は?」
「えっと、オールカマーか毎日王冠から天皇賞をを考えてるけど……」
共に天皇賞・秋の前哨戦として使われるレースであり、強豪ウマ娘達が秋の初戦として使うのでレースのレベルもG1並みになる事でも知られる。
「両方スキップで直接天皇賞行こう。ギリギリまでトラウマの治療に充てる」
「ちょ、ちょっと待って! サニーは一体どういう立場なの?」
「今はチームの垣根を超えたアドバイザーかな。勉強したでしょ? ウマ娘の関連職業優遇制度。いずれはトレーナーになって帰ってくるつもり」
華やかな世界にいる彼女達もやがては引退する。そして一生というのはそれからが長い。完全に競技関連から離れる人も多いが、裏方に回る人も少なからずいる。
しかし、裏方は専門職なので、かなりの勉強がいるのだが、現役中に得た知識という形で学んでいる事も多い。有用な人材を早期育成という面も含めて、現役のウマ娘を支える職業に引退した娘たちが就きやすくする制度が『関連職業優遇制度』なのだ。
「でも、トレーナーになったウマ娘って聞いた事無い」
「大体は故郷に戻っての幼年期育成に携わるってのが多いらしいよ。でも、私はお節介焼きだからさ。現役の皆に関わりたいんだよね。で、ちょっと前に東条さんに呼び戻されたんだ」
「そういえば、タイキシャトルが短距離に専念した切っ掛けが当時二冠を取って世代の代表になったサニーに相談した結果というの本人から聞いたわ」
事、レースの戦術とウマ娘達に合った走り方を見極める目に関してはトレーナー側からも認められていて、チームに属さず、世代の頂点にまで上り詰めたのだ。
「あー、怪我で時間があった時期に色々相談を受けたことがあったね。シャトルはダート路線、天皇賞・秋への挑戦とかもあったけど、彼女はスプリント~マイルがベストなんじゃない? とは言ったね。去年の毎日王冠に出て欲しかったなあ」
リゲルの問題(エルコンドルパサーとグラスワンダーとレースが被る、短距離専門が少なく、前週にスプリンターズステークスがあった)もあって、実現しなかったが、もしもシャトルが参戦していれば、どうなっていたか分からない。
「それは楽しそうだけど、厳しいレースになったと思うわ」
「だねー。……よし、タイマンを毎日やろうか。時間は……夕方の5時位から。第三コース左回り、距離は1600から始めていずれは2000メートルかなあ」
「それがトラウマの治療になるの?」
「なるかもしれないけど多分ならないね。結局はスズカが乗り越えないといけない事だから。多分、結果はどうあれ天皇賞を全力を出して走りきらないと治らないと私は思うよ。けど、G1なんだ。私はスズカに勝ってほしい。私のわがままだけど、怪我したスズカを終わった存在にさせたくない。だから、2冠を獲った私の頭でスズカを進化させたいんだ」
「進化……それは良く分からないけど、私は勝ちきれなかった時、サニーの走りに憧れたの。全てを使って何が何でも勝ちに行く走りを」
「華も能力も足りないだけだよ。自信があったのはスタミナだけだったし、実際、大きい所は2冠だけだし」
サニーの生涯戦績は10戦4勝でメインレースでの勝ち星は皐月賞とダービーだけである。しかも両方とも人気薄での勝利だった。ダービー前に彼女が言った『一番人気じゃないのは別に良い。一生に一度なんだから、ダービーの1着が欲しい』という言葉は勝負師の彼女を表す言葉としてピッタリだと、学園内でもちきりだった。
「逃げの戦法を始めたのはあなたを見てなのよ? 慣れるまで時間はかかったけど」
「ありがたいけど、スズカの場合スピードの絶対値が違うだけだからなあ。私的に逃げとして合格なのは宝塚~天皇賞の3レースだよ」
「厳しいわね」
「んじゃ、スズカに戦術のいろはもついでに教えちゃおうかな」
ターフを駆ける異次元の逃亡者の復活はターフを駆けた天才勝負師の頭脳に託された。サニーブライアンをよく知る同期達はこの話を聞いてサイレンスズカの復活を確信した。それは他ならぬ自分達が彼女の相談を切っ掛けに成長出来た事を理解しているから。
オリキャラとしてサニーブライアンを登場させました。
サニーブライアン
「まあ、人気は他の子に譲るよ。勝ちは頂くけどね」
学園随一のレース巧者であり頭脳の持ち主。元々、レースの戦略を立てるために同期を中心に相談に乗っていた所、生来の面倒見の良さとお節介を発揮してアドバイスをしており、それで自身の道を決めたウマ娘も多い。
チームの垣根を超えた活動をしていたために特例としてチームに所属せずに活動していた。
レースでは持ち前の頭脳とデータ、それを無視する自身の勝負勘を活かした逃げを見せ、コアなファンが多い。
『皇帝』シンボリルドルフをして「奇才」と評されるレースで人気薄で2冠馬となったのち、怪我で引退。現在はトレーナーを目指しながら学園内でアドバイザーとしてウマ娘とトレーナーの間に立っている。
また、麻雀が得意でトレーナー、一部のウマ娘が参加しているトレセン学園麻雀リーグ(1リーグ3か月)で8連覇中。
……この子で『サニー トレセン学園に降り立った奇才』というネタを思い浮かべました。
合宿編を見る前に書いたのでスズカの敗因は怪我への恐怖というのは読みやすかったのですが、復活をどうするかを考えた時、スズカに弱音を吐かせて導ける存在がいるかな? と思い、同期の2冠馬である彼女を作りました。
スズカのいる97年クラシック世代と言えば実装されているだけでもタイキシャトルやシーキングザパール、メジロドーベル、マチカネフクキタルもいるのですが、牝馬の二人やフクキタルは少し物足りないかな? と思い、実績ならタイキシャトルもアリなのですが、王道路線で最も活躍し、同じ逃げ馬で怪我をしたサニーブライアンが良いのではと思い、誕生させました。
二次創作する上で使っていただけたらなと思います。
天皇賞秋編は近い内に上げれるように頑張ります。