ウマ娘プリティーダービー 短編集   作:ピーナ

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後編の天皇賞・秋編です。

レース描写って大変です。


天皇賞・秋 先輩の意地

「さって、天皇賞・秋。大本命は凱旋門賞2着からのエルコンドルパサー、対抗に毎日王冠を勝ったグランプリウマ娘のグラスワンダーに札幌記念を勝ったセイウンスカイ。京都大賞典の惨敗が気になるけど、体を絞ってきて、スズカと一緒に走りたがっていた、天皇賞春秋連覇を狙うスペシャルウィーク。相手は強敵ばかりで厳しいけど……私のダービー前以来の四暗刻緑一色が来たし、問題ないでしょ。頑張れ、スズカ」

 

 

 

ターフ入り前の地下道に私は居た。

 

「そういえば……」

「どうしたんですか、スズカさん?」

 

私の横には苦しかったこの1年間一緒に居てくれた、スぺちゃん。1年越しの約束が叶った形だ。

 

「去年はこの辺で左の靴紐外れたなあって思い出したの」

 

今思うとあれが故障の予兆だったのかもしれない。でも、今は何も起こってない。きっと……何も起こらない。

 

「そんな事があったんですか?」

「ええ。……ずっと練習別メニューだったけど、スぺちゃんの調子は?」

「……分かんないです。ダービーの時に近付けるようにダイエットはしてましたけど、どうなるか……」

 

スぺちゃんは私のせいでレースへの集中力を欠いた状態で宝塚でグラスちゃんに負けてから調子を崩している。秋の始動戦でも7着に負けて、ベストだった状態を思い出すためにダービーの頃に近付けるメニューを行っていたらしい。

 

「スズカさんはどうですか?」

「体調は良いと思う。後は気持ちだけ。誰よりも速くゴール板を超える事だけ」

 

その為に私は大欅を超えないといけない。サニーの為に、私を応援してくれる人の為に、何より自分の為に。

 

「そうですね! 誰よりも速く駆け抜ける、それだけですね! 私もサニーさんに相談してヒントを頂きましたし!」

 

サニーはいつの間にかスピカの皆とも仲良くなっていた。あの気まぐれなゴールドシップすら制御できるのだ、トレーナーはピッタリかもしれない。

スぺちゃんの『ダービーの頃を思い出す』というプランもサニーが言った、「不調の時は良い時のを見て思い出せばいいよ」という言葉が切っ掛けだった。

 

「スぺちゃん、全力で頑張りましょうね」

「はい!」

 

 

 

 

『過去最高と言っても良いレベルの出場選手がそろった天皇賞・秋! 連覇のかかるサイレンススズカか? 春秋制覇を狙うスペシャルウィークか? 世界に名を轟かせたエルコンドルパサーか? グランプリ連覇のグラスワンダーか? 二冠ウマ娘のセイウンスカイなのか? シニアクラス最高の栄冠を賭けて、間もなくスタートです!』

 

 

 

ゲートが開かれてスタートを切る。私はいつも通りの先頭だ。レース前にサニーに言われた事を思い出した。

 

『逃げってのは基本的に繊細な物なんだ。後続の馬との差、自分の最後の差し脚、諸々を計算に入れてレースを組み立てなんなきゃならない。綺麗にはまったのが私の2冠だったり、去年のセイウンスカイの菊花賞だな。だけど、スズカは違う。君はスピードの絶対差で勝手に逃げを作れる。それは皆知ってる。そこを上手く使えば簡単に勝てるだろうよ』

 

それを聞いた時、彼女が学園に戻って来てからスピカのトレーナーを含めた何人かの大人と麻雀をして、勝ちまくっている事を知っている私としては勝負師としての彼女のここ一番の勝負勘があって成立する事だと思った。

 

(今回一番厄介なのはセイウンスカイ。ペースを乱されると途端に厳しくなるけど……)

『セイウンスカイは札幌で沈んだスズカを見ているから大逃げを打っても「前回より差を付けようと考えている」、途中でペースを落としても「もう限界」と思うはずさ』

 

負けから学ぶ。三冠レースの頃は当たり前だった事を札幌の後に久し振りにした。それから一歩進んで負けを活かす方法をサニーは教えてくれた。

 

『前半1000メートルを通過! 先頭はサイレンススズカ、去年とほぼ同等のタイムで駆け抜けていきます! 少し離れてセイウンスカイ、さらにそこから離れた中団にエルコンドルパサー、グラスワンダー、スペシャルウィークは後方待機です』

 

『最初の1000メートルはいつも通りで良いよ。他の子のハイペースがスズカのマイペースだから。肝はラストの直線までの400メートル』

 

(この400メートルで一息入れる。そうすれば)

 

「一流と超一流の差は回復力。スズカは当然超一流。1ハロン(200メートル)11秒台をマイペースで出せるスズカが12秒台後半で2ハロン息を入れれば、最後まで粘れるし……」

 

『最後の直線に向いた! 先頭はサイレンススズカ! すぐ後ろにはセイウンスカイ! 中団からエルコンドルパサー、伸びて来た! その後方、グラスワンダーとスペシャルウィークがものすごい脚で突っ込んで来る! 5人の大接戦! だれも先頭を譲らず最後の坂を登る!』

 

横から足音が聞こえる。誰もが一着を、センターを狙っている。ただ、私には一つの思いがあった。というのも昨日の最後のミーティングでサニーの立てたレース展開の予想がぴたりと当てはまっていたのだ。ここまで来ると凄いを通り越してちょっと怖い。

本人曰く、「私の皐月~ダービーの頃以来の勘の冴えだね」らしいけど、あの勝利もプラン通りだったのだろうか? ……これに勝てたら聞いてみよう。

 

「さて、皆脚色は同じ感じ。スカイはスズカの追走で、後方からの三人は追いつくための脚で一杯、スズカも決して楽じゃない。けど、スズカには私を含めた一部同期しか知らない秘密がある」

 

(まさか、学園に来た時の事まで引っ張り出されるなんてね)

 

『5者横並びで坂を登りきった! サイレンススズカ! セイウンスカイ! エルコンドルパサー! グラスワンダー! スペシャルウィーク! ラスト100メートル!』

 

「今だ!」

(ここ!)

 

『サイレンススズカ、ここで再び加速! そして、そのままゴール! サイレンススズカ1年ぶりの勝利! 史上初の天皇賞・秋連覇という偉業を達成しました!』

 

 

 

 

「……やっぱ、スズカは桁外れだわ。世代的には下の子達もヤバいけど。ま、とりあえずはおめでとう、スズカ」

 

 

 

「やった……」

 

私はゴールから100メートルほどで立ち止まり、勝利の味をかみしめる。電光掲示板を見上げるとまさかの4人同着だった。正直、私が勝った事より驚きだ。

1年前は私の走りたいように走れば勝てた。走るのが好きな私は沢山走り続けた(実績が無かったのもあるけど)。その末にパンクしたのだと思う。けど、リハビリと復活までの1年で支えてくれる人、応援してくれる人、一緒に進んでくれる仲間に気付けた。走りたい理由、勝ちたい理由が出来た。留学は無くなったけど、貴重な経験で決して遠回りじゃ無かったと思う。

 

「スズカさん!」

「スぺちゃん」

 

ずっと私の傍で心配してくれたスぺちゃんが私の傍に駆け寄ってくる。意外と元気そう。中長距離が主戦場なだけあるなあ。

 

「最後、凄かったです! あんなスズカさんの走り、初めてみました!」

「私もデス!」

「まるで私やスぺちゃんのような後ろからレースをするような娘の脚でしたね」

「私より前で走って、あんなのされたら無理ですよ」

 

いつの間にかエルちゃん、グラスちゃん、スカイちゃんにまで捕まった。レースじゃ捕まらない自信があるんだけど。

 

「あれはデビューする前、学園に来てすぐに教えられた走り方なの。私の性格の問題で後ろからのレースは出来なかったけど、活かす方法はなんとなく怪我する前に気付けてたの。それを札幌記念の後にサニーと体系化させて、磨いたの。これから武器として使えそう。皆のお陰で自信が付いた」

「これは厄介な人に厄介な自信を付けちゃったかなあ。私とスぺちゃんは長距離に逃げれるけど」

「私とエルは対決する機会が多そうね」

「次は負けマセン!」

「次も私が勝つわ。……と言っても、怪我明けだし、今年は走るかどうか分からないけど」

 

秋の王道路線は毎月の末にG1が待っている。怪我明けで皆勤は厳しいだろう。

 

「となるとスズカさんの適距離のレースって……3月の中山記念まで無い?」

「いや、1月のAUCGがあるよ」

「あ、あのね、私に気にせず、自分の目標に向かって走る方が良いと思うよ?」

 

日本の最長G1である天皇賞・春に勝ったスぺちゃん、二番目に長い菊花賞に勝ったスカイちゃんは言わずもがな、エルちゃんとグラスちゃんも私より長い距離で結果を出しているから、2000前後が主戦場の私と無理に合わせる必要はないと思う。

 

「「「「スズカさんに勝つのが目標です!」」」」

 

こういってもらえるのも先輩の冥利ではあるのだけど、やっぱり自分の事も考えて欲しいな。

 

「……交わったら、きっちりお相手するわ」

 

彼女達4人を含めてこの世代は多士済々。そんな彼女達を相手に壁となれるのは私とシャトル位。先輩の意地も見せないとね。




やり過ぎたかな? と思いますが接戦には出来たかなと思います。

現実の競馬でスぺちゃん達の世代の壁となった馬というのが居なかったように思います。1歳上の有力馬は古馬の時に殆どいなかった(メジロドーベル位?)のですが、この世界は短距離のタイキシャトル、中距離のサイレンススズカが立ちはだかり、面白いレースを繰り広げてくれるでしょう。


短編集にしたので、スズカの次走でのご意見を見てこれとは違った歴史にしたいと思います。天皇賞・秋はこのような感じに収束していくでしょうが。
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