学戦都市の問題児   作:我楽多零號

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すみません。
タグにヒロインはシルヴィアとありましたが、もう1人入れようと思っています。悪しからず。




第2話:不良の巣窟

 

 

 

 

 

レヴォルフ黒学院。

 

悪辣の王(タイラント)》の二つ名を持つディルク=エーベルヴァインを生徒会長とし、校章は覇道の象徴たる二本の剣『双剣』。

校則は無いに等しく個人主義が強く、非常に好戦的な校風となっている。また学園も積極的に生徒の決闘を推奨している。

 

 

それ即ち、アスタリスク屈指の“戦闘地域”と言える。

 

 

 

 

 

 

 

 

「いや〜、まさかお前と同校だったとは。おかげで財布戻ったし助かったわ〜」

 

「い、いえ、こちらこそあの時はまともにお礼もできずすみませんでした」

 

番谷仁朗と卯月圭、2人は食堂にいた。

圭は中等部からレヴォルフに在籍しており、先日の身分証から仁朗も今年からレヴォルフに入学することが判明した為、苦労の末こうして再会していたのだった。

会話もそれなりに弾んだ時、圭はそろそろかと仁朗に問いかけた。

 

「それにしても番谷君、よく食べますね…」

 

見れば仁朗の目の前には食い終えた皿が山積みとなっている。

しかし仁朗はけろりとしている。

 

「昨日、雑草しか食ってなくて腹減ってんだよ。財布無かったから」

 

「雑草食べたんですか!?」

 

「大丈夫だ。俺は特別な訓練してるから下痢程度で済む」

 

「いやそれ大丈夫じゃないヤツですよ!」

 

「いや大丈夫だ。排出さえできれば一瞬で元通りだし」

 

「その過程に問題があるんですけど!?」

 

………なんだろう。初対面の時とは打って変わったこの残念な感じ…。

いや、そもそもその人の中身などそう簡単に理解できるわけないし、圭の中でも仁朗に対して少々過大評価していたことについては否めないが………なんというか……残念であった。

 

そこへ仁朗が話題を切り替えてきた。

 

「そういえば、お前この前トイレでカツアゲされてたけど、アレもレヴォルフの生徒なんだってな」

 

「え、ええ。そうですね」

 

実の所、圭がこのような目に遭うのはこれが初めてではなかった。

卯月圭はレヴォルフ黒学院に在籍する人間の中では数少ない常識人だろう。しかし事、この学院に関して言えば弱者の裏返しでもある。

弱肉強食な世界では圭は格好の獲物なのだ。

もっとも、半年前まではそこまで露骨ではなかったのだが……。そう、()()()までは……。()()()のことを思い出すと今でも弱い自分が情けなくなり、次第に俯いていってしまう。

 

次の瞬間、仁朗が思いがけない言葉を発した。

 

「まったく、()()にカツアゲとか、最近の都会人ってのは恥ってのを知らんのかねぇ……」

 

「………え?」

 

ピタッ、と圭の動きが完全に凍りつく。

 

「………? どした?」

 

たっぷり数秒間微妙な空気が流れた後、仁朗に声をかけられてようやく我に返り、盛大に溜息を吐きながら言った。

 

「僕、男なんですけど…」

 

「………え?」

 

ピタッ、と今度は仁朗の動きが凍りつく。

そしてたっぷり数秒間微妙な空気が流れた後、静かに圭の両肩に手を置いた。

 

「………圭…。嘘はよくないぞ」

 

「いえ、嘘じゃないです」

 

「いや嘘だろッ!? 嘘って言ってくれ!!というか言え!!むしろ言ってくださいお願いします!!」

 

「いやなんですかそれ!? というか土下座ってどんだけ必死なんですか!?」

 

仁朗が必死になるのも無理はなかった。

 

男子にしては少し長めな銀髪と髪留め、翠色の大きな瞳、爽やかな小顔、小柄な身長、細めの四肢、透き通るような白い肌。

服装は…一応、男子用の制服を着ているが…。別に今どき女子が男子用制服を着るのは珍しくはない。

要するに卯月圭はどこからどう見ても儚げな可愛らしい美少女にしか見えないのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほわぁぁぁぁぁぁぁ〜〜〜〜〜…………」

 

「いやあの、そこまでショック受けなくていいじゃないですか。流石に僕も傷つきます…」

 

先程のショックがあまりにも大きかったのか凄まじいほどの間抜けた顔をしている仁朗。

気を取り直す為に自動販売機の場所まで移動し、コーヒーを飲んでいるとーー、

 

「おいテメェ!」

 

ドスの効いた声で話しかけられた。

振り向いてみると、圭は愕然とした。

先日仁朗の暴動に巻き込まれた不良達が物凄い形相でこちらを睨んでいる。そして、その奥に他と気配が違う男がおり、圭はその人物のことを知っていた。

 

「ええーーーっと、どちら様でしたっけ?」

 

この緊迫した状況の空気を全く読まず、ポカンと鼻をほじりながら突っ立っている仁朗。

 

「て、テメェ……。つい昨日俺らをボッコボコにしただろうがよ! もう忘れたんか!」

 

「………あー、ハイハイ! あれアンタらだったのね」

 

この期に及んで暢気な仁朗とは裏腹に圭は気が気でなかった。なにせ後ろにいる男は前回の王竜星武祭(リンドブルス)の……。

 

「兄貴、コイツだぜ! 俺らをやった奴!」

 

「……そーか、テメェが…」

 

思考が追いつかないうちに男が仁朗の胸倉を掴み睨みつけた。しかし仁朗は動じず欠伸をしている。

そこでようやく圭が口を開いた。

 

「じ、仁朗君、彼をあまり怒らせない方がいいです」

 

「む?」

 

「彼は、甲斐先輩はここの大学部の人で前回の王竜星武祭(リンドブルス)のセミファイナリストなんです」

 

王竜星武祭(リンドブルス)は個人戦で星武祭(フェスタ)の中で最も個の強さが結果に直結する大会と言っても過言ではない。

よりにもよってそんな魔境で勝ち抜いた怪物のような男の弟をボコってしまうとは…。ここは下手に刺激せず、うまくいなして怒りを鎮めるのが得策だろう。

が、そんな圭の気持ちをあっさり裏切ってみせるのが仁朗クオリティ。

 

「へぇ、つまりアンタ強いんだ」

 

「「!?」」

 

仁朗から獰猛な笑みが浮かんだ瞬間、圭は背筋が凍るような寒気に襲われた。

他の不良達のような荒々しいものとは別の、今まで感じたことのない研ぎ澄まされたような殺気を仁朗から感じたのだ。甲斐もまたその殺気に勘づいたようだ。

 

「ほぉ……、()()()()以外にこれほどの殺気を出せる奴がいるとはな…」

 

しかし、流石は王竜星武祭(リンドブルス)のセミファイナリストというべきか、甲斐も動揺を見せない。それどころか感心している節さえ見える。

 

「あのガキ?」

 

「……だが…」

 

甲斐の台詞(セリフ)の一部に気になっている仁朗だが、そんなことはお構い無しに甲斐が仁朗の顔面を殴りつけた。

 

「ぶべっ!!」

 

「!?」

 

「それとこれとは話が別だ」

 

続けて腹に強烈な膝蹴りを入れられ、仁朗は後方に吹っ飛ぶ。

 

「じ、仁朗君!?」

 

吹っ飛ばされた仁朗に慌てて駆け寄る圭。

不良3人もまた甲斐の迫力に気圧されているのか呆然としている。

 

「おいおいなんだ?」

 

「喧嘩か?」

 

「甲斐先輩と…誰だあいつ」

 

猛烈な打撃音に引かれ、野次馬達が集まりだした。

 

「………ち、邪魔が入ったか」

 

レヴォルフでは序列の変動が激しく、その中には目ざとく頃合いを見計らう者もいる。だからあまり人前で手の内を明かしたくはないのだ。

 

「今日はこれくらいにしておいてやる」

 

そう言って甲斐は不良達を引き連れて去っていった。

 

「………はぁ……」

 

緊張が解け、脱力する圭にとある人物が駆け寄ってきた。

 

「卯月さん!」

 

「あ、プリシラさん」

 

プリシラ・ウルサイス。

レヴォルフ黒学院の生徒の中では圭続く数少ない常識人。非常に珍しい再生能力者(リジェネレイティブ)であり、レヴォルフの冒頭の十二人(ページ・ワン)であるイレーネ=ウルサイスの妹。圭の当校において数少ない友人でもある。

 

「なにがあったんですか?」

 

「いや、それが……。あ、そうだ仁朗君!………てあれ?」

 

経緯を説明しようとした時、仁朗の存在を思い出すが、先程までいた場所に仁朗の姿がない。

 

「……………まさか!?」

 

嫌な予感がする。彼の性格、そして先程の殺気。それはもう確信が持てるほどの予感であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

圭の予感は見事に的中していた。

すでに仁朗は4人の目の前に現れていた。

 

「………よぉ」

 

「て、テメェ……なんで……!?」

 

王竜星武祭(リンドブルス)セミファイナリストである兄のパンチや蹴りを喰らっておいてそのあまりにも平然とした態度に甲斐弟は動揺している。

しかし甲斐は意に介していないようだ。

 

「名前、聞いたっけか?」

 

「番谷仁朗」

 

「番谷……か。そういえばオメー、さっきはどうして()()()()()()()()()?」

 

「「「!?」」」

 

ワザと?なぜ? 不良3人に同様の疑問が過ぎる。

 

「そんなん決まってんじゃねぇか。ソイツが俺のウンコタイムを邪魔したとはいえいくらなんでも殴りすぎたからよ。一発くらい余裕でもらってやってもいいと思ったわけ。(2発もらっちゃったけどね。)…弟想い、大いに結構。そーいうの嫌いじゃねぇぜ? まぁ、関係ないけどな」

 

長々と語ると、仁朗の目つきが変わった。先程と同じ、猛獣のような目をしている。

 

「つまりよ、わかんだろ?」

 

「…………」

 

「まだ終わってねぇ。だから追いかけてきた」

 

仁朗の気配を察し、甲斐も臨戦状態に入る。

 

「アンタさ、自分が一番強えって思ってるタイプだろ?」

 

「………!」

 

「…俺もなんだよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大丈夫なんでしょうか、その人…」

 

「確かに仁朗君は強いと思いますが、相手はあの甲斐先輩ですから、万が一すでに鉢合わせしてたら大変です!」

 

急いで校舎の中を探す圭とプリシラ。

すると、甲斐弟の姿を発見した。

次の瞬間、衝撃の光景に圭とプリシラは驚愕する。

 

「こ、これ、君がやったんですか?」

 

「………他に誰がいるよ」

 

「………!!」

 

そこには地に伏せる甲斐とそれを見下ろす仁朗の姿があった。

2人の傷は打撲から裂傷、至る所から流血し、相当激しい喧嘩となったことを彷彿させる。

その場に居合わせた不良達も完全に萎縮し、震え上がっている。

 

「いやぁ〜それにしてもいいのもらっちまったよ」

 

仁朗の様子はすでにいつも通りになってる。それを見てようやく開いた口が塞がった。

まさかここまでとは……。

そう評価を改めざるを得ない…が、それは同時にさらなる苦悩の前兆ではないかと思えた。

 

 

強ければ強いほど、自由に生きるのがこの学院では難しくなるのだから………。

 

 

 

 

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