「おい聞いたか? 昨日甲斐先輩がやられたってよ」
「マジかよ」
「ああ、やったのがあの番谷っていう新入生だって」
「ははっありえねぇだろそれは!」
「いやでも、いきなり後ろから刺したって……通り魔みてぇに」
「なんだそりゃ、サイテーな野郎だぜ!」
「俺が聞いた話じゃ鉄棍が飴細工みてーにぐにゃぐにゃに曲がるまで殴ったとか……」
「とにかくその番谷ってヤローは最低最悪の鬼畜野郎だって話だぜ!」
「ーーーーってどうなってんだァァァァァ!!真実があらぬ方向までねじ曲げられてんじゃねぇか!!」
「いや、僕に言わないでくださいよ……」
ファミレスにて頭をテーブルに打ち付けるように項垂れる仁朗と注文したレモンスカッシュを飲んでいる圭の姿があった。
「いいか、俺は
強い・優しい=カリスマ←ここに行きたいの!
強い・卑怯=アンタッチャブル
弱い・優しい=普通の人
弱い・卑怯=ぼっち←これじゃここ
じゃねぇか!!」
「落ち着いてください。何言っているのか全然わかんないです」
「と・に・か・く・だ! こーいう誹謗中傷されるの嫌いなわけ! こう見えて俺、心は硝子並に脆くて繊細なんだよ!」
「誰でも誹謗中傷されるのは嫌だと思いますけど。まぁでも予想以上に大事にならなくてよかったですよ」
「なに?」
「野試合とはいえ、ここの《
「ねこ?」
レヴォルフが保有する諜報工作機関《
それらは生徒会長であるディルク=エーベルヴァインの手駒であり、頭のキレる人物であるディルクは警戒すべき人間を見逃さない。
《
「……ようわからんが、要するに目立てば目立つ程敵が増えるわけだ」
「まぁ、そういうことですね……て、今君よからぬ事を考えてますね!? ダメですよ!?」
「…………………………んなわけないじゃん」
「いやいや! なんですか今の間は!?」
本当にこの男、油断していたらすぐにでもディルクに喧嘩を売りに行きそうで、見てるこっちが怖くなる。
「そんな心配すんなよ。あっちから来ない限り喧嘩売る気はねぇよ。誰だかわかんねえし」
確かにその通りだ。
ならばしばらくは大丈夫だと圭は安心する。
が、ちょっと待ってほしい。
「…………あっちから来ない限り? 来たら…」
「まぁ逃げはしねぇな」
「いやいや逃げてください! 仁朗君が強いのはよくわかりました。 でもここには甲斐先輩以上の実力者も少なからずいるんですから」
先日の様子を見る限り仁朗と甲斐の実力は若干仁朗の方が上だろう。しかし、レヴォルフにはそれ以上の怪物がゴロゴロいる。特に……。
「へぇ、マジでか。そりゃ嬉しいね。そういやここの序列一位って誰だ?」
「…………」
どこまでも暢気な仁朗が何気なくそんな質問をしてきたが圭の反応がない。
それどころか仁朗の方を見ておらず、そしてなにかに怯えるような目をしている。
仁朗は圭の視線の先である後方を振り向いた。
そこでようやく圭の口が開き、震える声で自分の視界に捉えている人物の名を挙げた。
「オーフェリア・ランドルーフェン…」
そこには、レヴォルフ黒学院序列一位にして、
「………オーフェリア?」
唐突の緊迫した状況にまるでついていけていない仁朗。
そんな彼にツッコミを入れる余裕はもはや圭にはなかった。それほどの
「………貴方が番谷仁朗?」
どうやら仁朗に用があるようだ。しかしそれは、圭が予期していた最悪中の最悪の状況であることを示していた。
そもそもオーフェリアがこのようなファミレスに自らの意思で訪れるわけないのだ。ならばこれは十中八九ディルクの差金だろう。
その理由はディルクのみぞ知ることで、今はそんなことを考えている場合ではない。
「いかにも俺が番谷さんですが、俺になんか用? 誰か知らんけど…」
「ディルク・エーベルヴァインに貴方をここまで連行するように命じられたわ。大人しくついて来てほしいのだけれど」
やはり首謀者はディルクだった。しかしこれはうまくやれば切り抜けられるのではないかと思考する圭。しかしすぐにその甘い考えを排除した。
「…嫌と言ったら?」
「………力づくで連れてこいと言われているわ」
「…じゃあ、行くと言ったら?」
「………詳しくは知らない。でもディルク・エーベルヴァインはそこの彼を監視下に入れるつもりよ。大人しく従えば、取って食うようなことには……」
「断る」
説明の最中に短文でピシャリと締める仁朗。
圭は愕然とし、オーフェリアは僅かに眉を顰める。
「………なぜ?」
「…なんかよくわからんが、それってそいつに頭下げろってことだよね? ……俺はさ、
そんな子供のような意地の為にわざわざ地獄巡りをするような危険を冒すというのか。最早圭は理解出来なかった。
「俺はよ、不良少年なんだよ。それを何が悲しくて今更、器用な真似しなくちゃならねぇんだ?」
いつの間にか店内は静寂に包まれている。無理もない。二人して棒立ちだが、その気配はすでに臨戦態勢に入っている。
「……そう」
そう短く呟くと、オーフェリアから大量の
「
言うや否や仁朗はガラス窓をぶち破り、外へ飛び出していった。オーフェリアもそれに続く。
「た、大変なことに……!」
一人残された圭は、その様子を見送る事しか出来なかった。
*
「さて、ここなら多少派手に暴れても問題ないだろ」
「………」
そこは、廃墟が立ち並ぶ再開発エリア。
仁朗は立ち止まり、背中を向けたまま喋り出す。
「……ところで聞き忘れてたんだけど」
「?」
「なんでディルクってのは俺を監視したいんだ?」
「知らないわ」
「知らないの? 命令されたんなら普通気にならね?意味もわからず仮に死にでもしたら死にきれんでしょうに」
「ならないわ。
「はぁ、なんつーか、お気の毒に…」
この言葉を最後に仁朗は再度オーフェリアと向き合い、対峙する。
「決闘でいいよな?」
「…構わないわ」
胸の校章に手を当てる。
「……私が勝てば大人しく付いてきてもらうわ」
「じゃあ俺が勝ったら………、いや、後で考えるわ」
最強の