学戦都市の問題児   作:我楽多零號

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第4話:孤毒の魔女

 

 

 

 

 

 

 

「こいつをここに連れてこい」

 

事の発端はこの一言からだった。

今朝方ディルクに呼び出されたオーフェリアは1人の男の写真が載ったウィンドウを渡された。

 

「……彼は…?」

 

「番谷仁朗。昨日現序列4位である甲斐を潰した男だ。自分の鳥籠(がくいん)の内部情報くらい把握しときやがれ」

 

「……興味無いわ」

 

素っ気ない返答に舌打ちするディルクを他所にオーフェリアはその憂いと諦観を孕んだ瞳に頭から流血している黒髪の大男を映している。

 

「……見たところ、特になにも感じられないのだけれど、貴方の気に触るような男だというのかしら?」

 

「それをテメェに話す義理も必要もねぇんだがな」

 

「………そうね。失言だったわ」

 

確かに失言だった。

彼女が他人に関する質問など、普段ならば絶対に口に出さない。というよりそもそもそのような思考は頭に浮かび上がることすらないだろう。

自分が何者になろうと関係ない。相手が何者だろうと興味はない。すべては運命の流れのままに。それが今のオーフェリア・ランドルーフェンの生なのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

再開発エリア某所。

 

「ちょっ、ちょっ、ちょっ、待った待った! それずるくね!?」

 

夥しい瘴気の腕が仁朗に迫る。

仁朗は全速力で走りながらなんとか紙一重で躱している。

 

「……そう思うのならばさっさと降参してほしいのだけれど」

 

「やだね! ふざけんな!」

 

実力差は歴然。仁朗まだ攻撃態勢にすら入れていない。逆にオーフェリアは未だにその場から一歩も動いてすらない。まさしく一方的な狩りの状態だ。

オーフェリアの場合、本人があまりにも強すぎるが故にまず間違いなく、蹂躙と言えるワンサイドゲームとなり、そのまま五分も持たずして戦いは終了する。しかし、そんな作業は実の所すでに五分以上続いている。その理由は簡単であり、オーフェリア自身も理解し始めていた。

一見ふざけているように見えるがこの男、()()()()能力が絶妙なのだ。

例えば、無数の毒手を一斉に放てば最小限の動きで紙一重に避け、それでいてオーフェリア本人への警戒もまったく怠らない。というよりむしろ彼女の方を主に見ている。もっと細かく言えば彼女の()を見ている。

彼女の視線や体勢から彼女の次の攻撃を予測、回避パターンを予め頭の中で整理する。

おかげで彼女の雪崩のような猛攻はおろか、さりげなく放っている無味無臭の麻痺毒すらも不発に終わってしまうということだ。

そして、隙あらば反撃のチャンスを狙っている。

 

「……なるほど。レヴォルフ(ここ)の上位序列を下すだけの実力は持っているということね」

 

「む? 誰のことだ?」

 

「…いいえ、こちらの話よ」

 

確かに驚くべき技量だ。実際そんなことをやってのける猛者はこのアスタリスクでもそうはいないだろう。

しかし、ネタが割ればあとは圧倒的に部のいい駆け引きだ。なにせ、視線で虚実を織り交ぜ、出し抜けばそのまま勝利。読まれたところで振り出しに戻るだけ。時間こそかかれどオーフェリアの勝利に揺るぎはない。

 

……………はずなのに…。

この今まで感じたことのない胸のざわめきはなんだ? いや、まて。本当に()()()初めての感覚なのか?

 

そんな思いが彼女の胸の中で蠢く。

それは気のせいなのか、それとも…。どちらにせよ次の攻防で決着させる。

 

「……これで…終わりよ。塵と化せ(クル・ヌ・ギア)

 

次の瞬間、オーフェリアから星辰力(プラーナ)とドス黒い瘴気の腕が立ち昇る。

この攻撃が言葉通りトドメの一撃なのだと、その大量の瘴気が物語っている。

そんな“死”を体現していると言える光景を目の当たりにした仁朗は…。

 

 

 

 

「ハーッハッハッハーーッ! スッゲェなぁオイ! やっぱ喧嘩ってのはこうでなくっちゃなァッ!!」

 

「!?」

 

 

 

 

()()()()()

 

まるで悪餓鬼が危なそうな玩具を見つけた時のような狂気を孕んだ()で、嬉しそうに笑っている。

 

そんなはずはない。これは、この能力(ちから)の前では誰もが絶対的な力の差に打ちひしがれ、絶望するはずだ。覆ることのない運命(敗北)を前に、か弱き運命(希望)が潰える瞬間をオーフェリアは何度も見てきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『運命は覆せる』

 

オーフェリアの前に何人もの人がいる。

老若男女問わずいる。

その中にかつて幼き頃の友人らしき少女もいる。

みんな、例に漏れずそんなことを口にする。

 

オーフェリアは悟った。

これは昔の記憶だ。

 

彼女の生い立ちに同情した者。

彼女の将来を危ぶむ者。

彼女の事情を知った者。

彼女の生き方を否定する者。

 

その理由は様々だが、そのどれもが良心に満ちた救いの手。残酷なまでに弱々しい、取るに足らない偽善(救い)の手。その手は触れればあっさり朽ち果てる。

そんなか弱い手を握って苦しむくらいなら、いっそ運命に身を任せた方がまだマシだ。

 

だから彼女は全てに期待するのをやめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………はぁ……はぁ…」

 

当たりの廃墟は全て崩れ去り、殺風景な岩石の荒野と成り果てた地に、オーフェリアは佇んでいる。長時間及び大量の能力行使によりオーフェリアは消耗しているようだった。

彼女はほぼ無尽蔵の星辰力(プラーナ)をその身に宿す。それと能力の強力さも相まって世界最強の魔女(ストレガ)と呼ばれているが、実の所、全く弱点や欠点がないわけではない。

彼女は自分自身の強大すぎる力を抑え込むことができず、常に周囲に毒素を撒き散らせている。そしてそれがオーフェリアが全てを諦めてしまっている所以なのだ。さらに能力を本気で使えば自分自身すら蝕んでしまう。要は長時間の能力行使は自滅に繋がるのだ。

そして、今の攻防でそのリミットを越え、反動ダメージを負っているのだ。

 

砂煙のせいで仁朗の姿は伺えないが、手応えはあった。おそらく今頃瓦礫の山に埋もれているだろう。多少驚かされたが終わってみれば結局なにも変わりはしない結末。

それなのに、オーフェリアはその能面の裏側で苛立ちを覚えていた。

彼に、ではなく、自分に。

思えば少し期待していたのかもしれない。

“彼ならもしかしたら”…と。

最初の写真を見たあの時から、理屈ではなく、本当に“なんとなく”程度の本能的とも言える無自覚な期待。そんな理由なき期待は僅かな興味を生み、結果柄にもなくあのような()()を口にしていた。

あの時棄てたはずの期待(もの)に今更縋り着こうしていた自分の甘さが許せなかった。

 

「……なんて愚かな…。運命(結果)は最初から決まっているというのに…」

 

それは自分への自嘲か、彼の愚行に対するものか、いずれにせよ、この戦い果てもまた、残るのは虚しさという名の苦しみだけだ。

 

それなのに、なぜあの男は折れなかった?

なぜ、あの時笑っていられた?

 

あれは、絶望や諦めからくる笑みではない。

あれは、本気で戦いを楽しんでいる笑みだった。

 

…………わからない。

彼には、番谷仁朗には、いったいどんな運命(景色)が見えていr………

 

 

 

 

 

「………誰が愚かだって?」

 

 

 

 

 

「!?」

 

途端にオーフェリアの背後の瓦礫から仁朗が飛び出し、彼女に容赦ない飛び蹴りをする。

 

「……っくぅ!」

 

いつもなら膨大な星辰力(プラーナ)と瘴気の壁で簡単に防ぐことのできる一撃だったが、完全に不意を付かれたおかげで肋が軋むほどの衝撃が彼女を襲う。

 

「………へっへっへっ。やっとこさ、一撃お見舞いしてやれた」

 

「……貴方…どうして…。………!」

 

後方に数メートル程弾き飛ばされ、後ずさりするオーフェリア。

見れば仁朗の全身は自らの血で真っ赤に染まり、左腕は毒素に侵され、曲がってはいけない方向にこれでもかと言うほど曲がっており、誰がどう見ても満身創痍といえる有様。それは瘴気を左手一本で受け止め、そのままいくつもの廃墟に叩きつけられ、瓦礫の下敷きになっていたことを容易に推測させる。

 

「あっ、反則じゃねぇかんな? ほれ、ちゃんと校章は無事だし」

 

…だというのになぜ彼はこうも平然としているのだろう?

普通なら仮に校章が無事でもこの時点で戦闘不能だ。

どちらにせよ、このような様ではもう戦えまい。

 

「………いいえ、終わりよ。貴方の運命はか弱い。無駄な意地はやめてついてきて」

 

どんなに笑っていたとしても、楽しんでいたとしても実力の差は嫌という程理解したはずだ。

このままいけばもう怪我では済まない。くだらない意地の為に死ぬこともないだろう。

これは、身勝手な期待をしてしまったことに対するオーフェリアなりのせめてもの慈悲だ。

 

 

 

しかし、そこを裏切るのが仁朗クオリティ。

 

 

 

 

 

 

「だが断る」

 

 

 

 

 

 

「…………………」

 

あまりにもはっきりとした即答にオーフェリアは珍しく唖然とする。

それを尻目に仁朗は続ける。

 

「この番谷仁朗が最も好きな事のひとつは自分で強いと思っているやつに『NO』と断ってやることだ」

 

某有名少年誌の名言丸パクリな発言に加え、どこぞの漫画家よろしくなジョ○ョ立ちを極める仁朗。

 

そして気が済んだのか、満足気な表情でポーズを解き、不敵に笑う。

 

「ったく、これで終わりだと? せっかく盛り上がってきたのに野暮なことを言うな」

 

「……なんですって?」

 

そんな死に体でどの口が言うか。

しかし仁朗の眼は強い光を放っている。

それは、ヤケクソでもなく自殺願望でもない。

彼は、この状態から本気で勝つ気のようだ。

 

「………運命は覆らないわ」

 

「俺の運命をお前が勝手に決めんな」

 

「……左腕が潰され、その他だってボロボロ。その身体でなにができるというの?」

 

「はぁ? 何言ってやがる。()()()()()()()()()()じゃねぇか。能書き垂れてねぇでこいよ。かかってこい。早く(ハリー)早く(ハリー)!」

 

獰猛な猛獣の様な眼光と狂気的な笑みを携える男を見て、ゾクリと背筋が凍るような寒気に襲われるオーフェリア。その正体は言うに及ばず。

 

「………っ!……どうして…なにが貴方をそこまでさせるというの?」

 

「俺の運命は俺が決める。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……」

 

「………!」

 

「第2(ラウンド)だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 






我楽多零號です。
いかがだったでしょうか?
なんか聞いたことあるセリフがあるかもしれませんが気にせず読んで下さい。

それと、話は変わるのですが、皆さんは『衛宮さんちの今日のごはん』というアニメあるいは漫画をご存知でしょうか?
Fateファンの皆さんにはおすすめですが、そうでない人も一度見てみてはどうでしょう?
もうホント、原作知っている側としては尊すぎて泣けてくるんです…。
本来はそういう趣旨ではないのですが、なんにせよ非常に面白い作品だと思います。

それでは次回もお楽しみに〜!

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