学戦都市の問題児   作:我楽多零號

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第5話:死闘決着

 

 

 

 

 

 

その時、オーフェリア・ランドルーフェンの内心には長らく忘れていた一つの感情が滲み出ていた。

 

………これは、“恐怖”だ。

 

骨を砕かれ、左腕は焼け爛れ、全身から血を流す男は、尚も愉しそうに佇んでいる。

誰もがその身を地に伏せる状況のはずなのに、その男は当たり前のように挑み続けている。

 

 

 

 

 

「ハーーッハッハーッ!!」

 

「………っ!」

 

狂ったような高笑いをしながら、仁朗は瘴気の濁流に向かって渾身の星辰力(プラーナ)を込めて殴りつける。

濁流は爆風のような拳圧により吹き飛ばされ霧散する。

その爆風は彼女を覆う瘴気をも消し去り、一瞬だけ彼女の守りが薄くなる。

それを逃さない仁朗ではない。仁朗は両足に星辰力を込め、地を砕くほどに踏み切り、彼女の懐に接近する。

しかし、オーフェリアもまた最強の一角といえる強者。仁朗の反撃にしっかり反応し、斧型の煌式武装(ルークス)で彼の殴打を受け止める。

 

だが、問題なのはそこではなく、仁朗がオーフェリアに攻撃する機会が格段に増えたことだ。

先程よりも明らかに動きにキレがあり、スピードも、技の威力も段違いだ。

 

まさか、さっきは手を抜いていたのかと思われるが、違う。あの時もあの時で、彼にとってはあれが全力。そして今、その全力の絶対値が跳ね上がっているのだ。すなわち、調子があがってきているのだ。

 

これは、オーフェリアが後に確信を得ることだが、番谷仁朗は()()()()()()()()()()()である。しかもそれは、相手が強ければ強いほどあからさまに現れる彼の性分とも言えるものだ。故に喧嘩ともなれば余程の格下でない限り多少のダメージをくらってしまうのだが、それがまた彼の異常なまでのタフさの所以にもなる。

 

ーー再度、柄と拳がぶつかり合う。

 

ビリビリと、彼女の腕に鈍い衝撃が走る。

そして気づく。キレがあがっているのは肉体の動きだけではない。彼の内にある星辰力の流れもまた無駄がなくなり、研ぎ澄まされている。

 

しかしここでオーフェリアがなにかに気づく。

そしてあろうことか、彼女から距離をとった。

 

「あれあれ? なんだよ。ここでお高くとまってりゃ食らわせてやろうと思ってたのに…左腕(こっち)で」

 

「……左腕。完全に骨が砕けていたはずなのに…どうして…」

 

「ノーコメント」

 

塵と化せ(クル・ヌ・ギア)をガードしたことによって潰され、毒で焼け爛れていた左腕がなぜか完治している。

確かにあの状態から即時回復できる能力は存在する。それこそ、プリシラ・ウルサイスのような再生能力者が。

彼もそれと同類なのだとしたら、そのタフさも相まって非常に厄介だ。

ならば、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「…………仕方ないわね。できれば使いたくなかったのだけれど、これも運命…」

 

これは、今はまだ、不完全な大技。

 

「ーーー腐界に満ちよ(ゲシュティ・アンナ)

 

直後、荒野のあちこちから瘴気が噴き上がり、辺り一帯を埋め尽くす。噴き上がる瘴気はさながら永い年月を経た巨樹のようで、それが無数に林立する様は瘴気が生み出した太古の樹海のようだ。

 

「………! ハハッ、驚いたな。もう一段階上があったか。いやはや、つくづく愉しませてくれる。これだから喧嘩はやめられねぇ…」

 

尚も嬉しそうな仁朗。しかしその表情には狂気はなく、その凄まじい光景に素直に感服しているようだ。

 

「……動き出した運命は誰にも止められない。…覚悟なさい」

 

「ああ、止める必要ねぇな。御託はいいからきやがれ。最終局面(ファイナルラウンド)といこうじゃねぇか」

 

次々と噴き上がる瘴気の巨木に渾身の拳を振り抜く仁朗。

しかし、瘴気の勢いは留まることを知らず、押し切られる。

 

「…ちぃっ!」

 

「捕らえた。死ぬ毒ではないけれど、死ぬほどの苦痛が貴方を襲うわ」

 

この毒は対象を強制的に星辰力切れと同じ状態にする。そして、星辰力の総量が多ければ多いほど効果は強く長く発揮される。

 

「があああああああああああああッッ!!」

 

膨大な瘴気は仁朗を取り込み、多大な痛みを与える。これにはさすがの仁朗も利いているようだ。だがーー、

 

「…………ククク、クカカ、ハハハ、ハーッハッハッハーーーーーッ!!!! 痛ってぇなチクショー! ハハハッ! こんなに痛てぇのは()()()以来だなァッ!!」

 

「…………これでも笑うというの? …呆れた男…」

 

その精神力は感服せざるを得ない。だがそれもあと数秒と持たないだろう。

そう思っていた。

しかし刹那、妙な違和感を感じ、すぐに確信へと変わる。

見れば、仁朗の身体は一瞬、全身が爛れていたが、次の瞬間その傷が修復を始めているのだ。

一体何が起きているというのだ?

そんな疑念を抱いていると仁朗はいつものように狂気を孕んだ笑みで、

 

「ハッハーッ! 俺の勝ちだ! オーフェリア・ランドルーフェン!」

 

堂々と、勝利宣言をした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……何を言い出すかと思えば、そんな状態でなにができるというの…?」

 

尚も圧倒的優位にいるはずの自分にこうも堂々と勝利宣言されれば、さすがのオーフェリアにも僅かながら怒気が滲み出だすというもの。

しかしそんな彼女を他所に仁朗はなにやら淡々と語り始める。

 

「太古の昔。酸素は生物にとって触れるだけで死んでしまう猛毒だった」

 

「………?」

 

「だが、一部の生物がミトコンドリアを自らの体内に吸収したことで進化。()()()()()()()()()()()()()ことに成功した。最初に酸素を克服することに成功した生物は、こう思っただろうよ! “俺はこの星の王だ!”ってなぁ!」

 

「……一体何を言っているの?」

 

「ここだけの話、俺もある能力を持っていてなぁ。俺は星辰力や万応素(マナ)を喰うことができる。それは勿論、それらの干渉によって顕現される力である魔術師(ダンテ)魔女(ストレガ)が使う能力であってもだ。そして、喰ったものは()()()()()()()()()()()

 

仁朗が語ったこれまでの意味深な話、そして彼の明かされた能力。そこから導かれる先程の疑念の解答はーー、

 

「…まさか貴方……!」

 

「そのとーり! 俺も、人間にとって危険なお前の瘴気を喰うことで自らのエネルギーとすることに成功した!」

 

その能力は、例え喰らう対象の効果が何であろうとも、例外なく発揮される。

それが例え、強制的に星辰力切れを起こさせる効果を持っていたとしても…、いや、だからこそ、である。

喰ってしまえばなんであれ彼の飯と化す。

そう、その“暴食”とも言えるそれは、言うなればーー。

 

「“エネルギー吸収能力”だ!」

 

同時に彼は彼を取り巻いていた瘴気をその一切を残さず喰い尽くした。

瘴気から解放された仁朗はその場に軽々と着地し、舌なめずりしながら一言。

 

「ぢゅるり…ご馳走様でした」

 

「……私の、毒を食べた……?」

 

かつて、そんな人間がいただろうか?

否、彼女を周りには何物も近づくことはできない。

 

「……つくづく、貴方には驚かされるわ」

 

「バッカお前、何もう終わっちまうようなこと言っていやがる。喧嘩はまだ終わってねぇだろうが!」

 

「……いいえ、終わりよ」

 

この決闘で、何度この言葉を口にしたか。

いくら叩き潰しても、力の差を見せつけても、彼は折れない。ただの一度も。呆れるほどに諦めの悪い男。

そのうえ、必殺の毒すら吸収されてしまうとなるともはやお手上げだ。

なにより、今のでーー、

 

「…………ッ! ゴフッ!ゴホッ!」

 

オーフェリアの口元から多量の血が噴き出る。

 

「ーーっ! おいっ!!」

 

その様子を見て只事じゃないと察する仁朗。

 

長時間の能力行使に加え、()()()()()()を使ったのだ。

その反動(リバウンド)として彼女の臓器は多大なダメージを負ってしまっていた。

……それだけならまだマシだった。

 

「……逃げ………なさい…」

 

前記通り、オーフェリアは自身の強大すぎる能力を自分で制御しきれておらず、自分自身すら能力に蝕まれている。切れすぎる刃は自分をも傷つけるということだ。そして、時には殺すこともある。

 

「……ぐっ、ぁ、ああああああああああああ!!!!」

 

苦悶の声をあげながら、膝をつき、今にもバラバラになってしまいそうな自らの身体を抱きしめるオーフェリア。

この感覚を彼女は知っている。

彼女がまだ研究所にいた頃、それがきっかけでそこから解放され、同時に運命に隷属することとなった出来事。

 

能力の暴走である。

 

彼女から今までと比較にならないほどのドス黒い瘴気が禍々しくうねりながら膨れ上がる。

 

「……ちっ、バカが! マジで終めぇにしやがって」

 

この光景を見て愉しめるほど仁朗も馬鹿ではない。

しかし、そこから逃げるという選択肢を持たないのが仁朗である。

 

「あ〜やれやれ、これ一つ貸しだかんな?」

 

仁朗は渋々と、されど悠然と暴走した瘴気の奔流へと足を向かわせる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

気づけば、暗闇の中にいた。

そして、後ろには過去の記憶が川のように流れている。

なるほど、これが走馬灯というものか。

ということは、自分は死んだのか?

それならそれで構わない。

それが運命ならば受け入れるまで。

いつかはこうなると考えていなかったわけでもない。

彼女の運命は彼女という矮小な存在に気を留めることさえないのだから。

だから、ここで終わるというのなら、別にいい。

 

ただ、一つだけ、気になっていることがあった。

番谷仁朗。

おそらく、世界でただ一人、自分の隣に平然と居られる男。

彼の運命は彼にどう映っているのだろうか?

運命に逆らうでも、運命を覆すでも、運命を変えるでも、運命を越えるでも、運命に立ち向かうでも、運命に委ねるでもない。

 

貴方は一体何者?

 

……あの日以来、初めて期待以外の感情で他人に興味を抱いた。

ゆっくりと、先の決闘を思い返してみる。

すると、なんてことない。

答えはあっさり出てきた。

 

 

 

 

 

 

 

「番谷仁朗。貴方は、()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

番谷仁朗とは、単なる派手な喧嘩好きの悪餓鬼だ。

そいつが無邪気に運命(おもちゃ)で遊んでいるだけ。

ただ、それだけなのだ。

 

まったく妙な男だ。

でも、もし、叶うのならばーー、

 

「もう少しだけ、貴方と知り合いたかった…かもしれないわね…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ーー円輪の枷鎖を以って汝が虎威を禁獄す』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………?」

 

白い天井が見えた。

同時にアルコールの香りとシーツの肌触りが感じられた。

 

「ああ、よかった! 目が覚めたんですね!仁朗君!」

 

「いよう、おはようさん。つっても、今夕方なんだけど」

 

傍にはレストランで見かけた男の娘・圭と暢気に少年ジャンプを読んでいる仁朗の姿があった。

が、それ以上の疑問がある。

 

「……どういうこと?」

 

「あの後、圭が来てな。で、コイツのアニキが入院してるこの治療院に案内してもらったのよ」

 

「……私が聞きたいのはその前。アレをどうやっt………」

 

「ノーコメントでーす。そんなことより。今回の決闘、俺の勝ちってことでいいよな?」

 

オーフェリアの質問を容赦なく一蹴し、一件の清算を始める仁朗。圭がなにか言っているが完全無視。

敗者に口無し。納得はできないが、ここは引くことにした。

 

「……そうね…。それで、貴方の要求はなにかしら?」

 

ああ、そうだな、と悪餓鬼はその場で立ち上がり渾身の嫌味ったらしいドヤ顔で答えた。

 

 

 

 

 

 

「お前、俺の舎弟になれ」

 

 

 








いかがだったでしょうか?
VSオーフェリア、決着です。(まぁ、2話しかないんだけど)

さて、今回は主人公の能力が明かされたわけですが、先に言っておくとエネルギー吸収だけをする能力ではありません。ネタバレになってしまうので今はそれしか言いませんが途中で「あれ?」と疑問に思っても気にしないでください。

それはさておき、皆さんは『ソウナンですか?』という漫画をご存知でしょうか? ちょっとマイナーな漫画なのですが、4人の女子高生達が無人島に漂流し、サバイバルするというお話。そのうち1人はサバイバルの知識が豊富で、ほか3人は紛れもない素人(体育会系と理数系とお嬢様系)。最近よく見る異世界転生系で主人公が近代的知識を有して中世レベルの異世界でオーバーテクノロジーを使ってTUEEEEするものとは趣向が全く逆で衣食住を満たす為に色々と知恵を出すのですが、その試行錯誤の結果が死ぬほどアナログでちょっとマヌケに見えてしまうのが逆に面白い。基本コミカルなギャグですが、一応遭難しているわけですからシリアスな部分もあります。俺TUEEEE系に少し飽きてきている人に特にオススメですかね。そうでない人も一度目を通してはいかがでしょう?

実の所そのソウナンですか?と俺ガイル辺りの日常系の作品のクロスオーバーなんてものを書いてみるのも面白そうだなぁと考えている自分がいたりする。

それでは、次回もお楽しみに〜!
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