学戦都市の問題児   作:我楽多零號

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第6話:暴食の魔術師

 

 

 

 

 

 

 

そのニュースはレヴォルフどころかアスタリスク中に広まった。

 

『孤毒の魔女 敗れる!?』

 

『レヴォルフを掻き回す悪餓鬼現る!』

 

『レヴォルフ黒学院 序列、大変動! 詩の蜜酒(オドレリール)六万神殿(ヘキサ・パンテオン)にも影響が!?』

 

いったいどこから情報を得たのか、あらゆる雑誌やネットにその一大ニュースが決闘の一部始終を収めた映像と共に掲載されている。

 

そのうちの一つを流し読みし、ウィンドウをとじ、ディルクはかなり不機嫌そうに目の前に座っているオーフェリアを睨んだ。

 

「まさかテメェがしくじるとはな…! しかも、よりにもよって決闘で借りまでつくるとはどういう了見だ!」

 

「……手段を問わずと言ったのは貴方よ。まぁ、私自身こうなるとは思っていなかったのだけれど…。これも運命だというのなら仕方のないことよ…」

 

「……テメェ…!」

 

……今まで何度と彼女の口癖のような言葉を第3者として耳にしてきたが、いざ言われる側になるとなんとも腹立たしい。

 

レヴォルフが色々とラフなことをやれているのは、絶対強者であるオーフェリアの存在が大きい。楽々と王竜星武祭(リンドブルス)二連覇を達成できる彼女はレヴォルフのブランド力を挙げる為の商品と言っても過言ではない。

そんな彼女の失墜はレヴォルフの失墜と同義。

しかも、学内では(悪い意味で)注目されていたものの、他校(はた)から見れば序列外の無名生徒に負けたようにしか見えない。もっとも、オーフェリアの強さをよく知る者にとってはこの件の見方がかなり変わるのだが…。

 

「……それで、ヤツの要求はなんだ?」

 

「……別に…ただ、舎弟になれと言われただけよ」

 

「……なんだと?」

 

オーフェリアは昨日のあの後の出来事を思い返す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……舎弟になれ?」

 

「そーそー、別にいいだろ?お前、そういうの気にしなさそうだし、俺もカリスマへの一歩として舎弟の一人二人欲しかったところだし」

 

訝しむように問い返すオーフェリアに対し、仁朗はさも当然のように答える。

 

「……え、ちょ、何言っているんですか仁朗君! そんなの無理に決まってるじゃないですか!」

 

圭が大慌てで制止にかかる。

しかし仁朗、はて? と言いたげな顔で問いかけた。

 

「……なんで?」

 

「なんでって! 彼女にそんな自由はないんですよ! 本人の手前でこんなことを言うのはアレですが、彼女はディルク・エーベルヴァインの所有物のようなものd…」

 

「はいはい、知ったこっちゃないでーす。決闘における誓約は絶対遵守。オーフェリア(そいつ)が見返りありの決闘を呑んだならそのディルクってヤツの出る幕はもうねぇよ」

 

そもそも先に仕掛けてきたのは向こうであり、その解決策として決闘で構わないと言ったのも向こう。

同意した以上、結末がどうであれ、誓約を守る義務がある。

 

「それに、別にディルク(そいつ)の部下を辞めろとは言わねぇよ。そこはお前の好きにしてくれて構わねぇ」

 

仁朗はオーフェリアの方に向き直り、真っ直ぐに告げた。

しかし、オーフェリアは窓から見える夕陽を眺めながら冷めたように呟く。

 

「……別に彼の部下というわけでもないのだけど。……でも、それも運命が決めること。互いに利用価値があるが故の共同だもの」

 

「ほほう、その利用価値とは?」

 

「……そりゃあ、ディルク・エーベルヴァインにとっては彼女の圧倒的な強さでしょう。でも、オーフェリアさんがあの人につくメリットってなんなんですか?」

 

「彼は私に運命に従う自由と許可を与えてくれた。だから私は彼と、彼らと共にあるの」

 

「それって、自ら彼らの道具に成り下がっているってことですか!?」

 

「……そうなるわね」

 

「そんな…」

 

なにかに従うということは、なにかしらの見返りがあってこその行動だ。しかし、彼女の発言から察するに彼女への見返りと呼べるものはあってないようなものだ。

自らの意志を捨て、道具になることをいとも簡単に受け入れている彼女を見て圭は愕然とする。

しかし、仁朗は特に気にした様子もないようだ。

 

「でもその道理でいくと、別段そいつにこだわってるわけでもないってことだよな?」

 

オーフェリアはこくりと小さく頷く。

彼女はあくまで運命の導きに従っているに過ぎない。運命の風向きが変わればそれに従う。それは、ディルクにとって不都合なことであっても同じこと。

 

仁朗は悪い顔をしながらオーフェリアを見下ろす。

 

「オーフェリア、帰る前にさっきお前が聞きたがってたことのタネ明かしをしてやるよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「禁獄の力…だと!?」

 

「ええ、その力のおかげで以前のような力はほとんどないわ」

 

「そんな筈はねぇ…! あれはあの女の…、いや、まさかヤツの能力は…!」

 

仁朗の暴食の能力には、大きくわけて三つの使い道がある。

一つは、吸収したエネルギーを貯蔵する力。

二つ目は、吸収したエネルギーを身体内における様々なエネルギーに変換する力。オーフェリアによって砕かれた左腕も、あらかじめストックしておいたエネルギーを自然治癒力へと変換し、通常ではありえないほどのスピードで完治させたのだ。

そして三つ目は、喰らった能力を模倣(コピー)する力。対象の能力の特性を“味”として認識することでメカニズムを理解し、模倣する。回数は喰った分だけと限りがあるが残ってさえいれば、いつでも使うことができる。

 

なんにせよ、オーフェリア・ランドルーフェンは、最強の魔女からただの一人の少女へと還ったのだ。もっとも、まだなにも解決などしていないのだが…。

話すことはなくなり、オーフェリアは、静かに立ち上がった。

そして、ディルクに背を向けて言った。

 

「……私はもう、貴方には従えない。いいえ、従うに値しないといっておくわ。……それでも私に利用価値があるというのなら、好きになさい…」

 

「……テメェ………!」

 

これは、決別の申し立てだ。

ディルクにおけるオーフェリアの利用価値はこれによって消滅した。オーフェリアにおけるディルクの利用価値はもとよりあってないようなものなので、連動してそれも消滅。

これが完全なる決別となるかは神のみぞ知るところだが、しばらくは音沙汰ないだろう。

 

オーフェリアは会長室を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アスタリスク郊外。

海に面したその場所に男は腰を下ろしている。

 

「お、なかなかデカイのが釣れた」

 

竿がけには頼らず、まるで一体となるように長い竿を振りかざす仁朗の姿がそこにはあった。

そして背後から一人、ゆっくりと歩み寄ってくる。

 

「……オーフェリアか」

 

「……」

 

オーフェリアはただ潮風に白い髪を靡かせるだけでなにも応えない。

少し間を持って、彼女の口が小さく開く。

 

「……昨日のこと、正式に発表されたそうよ。貴方の序列のことも…」

 

「そうか」

 

会話が途切れる。

しかしそこに気まずい空気はない。

むしろ、海から緩やかに吹き抜ける潮風が肌を適度に冷やし、爽やかな気分になる。

少しすると、今度は仁朗が口を開く。

 

「……で、その後どーよ、身体の調子は?」

 

禁獄の力を使った理由はただ暴走を止める為だけに非ず。彼女の力は彼女自身で制御できない。ならば、制御可能なレベルまで力を封じてしまえばいい。

能力に必要なのは万応素(マナ)だ。

いかに彼女に無尽蔵の星辰力(プラーナ)があろうと、それは万応素も同じこと。ならば、できない道理がどこにあろうか。

それにより、今のオーフェリアは絶対的な力が失われることと引き換えに自らの毒に蝕まれるということがなくなった。

 

「……そうね。悪くないわ…」

 

「そうか」

 

「……ええ…」

 

なかなか切り出せない。彼女がここへ来た目的を達する為の言葉がなかなか言い出せない。

少し間が空くとオーフェリアは意を決した。されど、俯くように仁朗から視線を逸らした。

 

「……ごめんなさい」

 

「……なにがだ?」

 

その言葉はどこか今にも泣きそうで、諦観に満ちているように聞こえた。だから、あえて聞き返した。

 

「……貴方にはいろいろとヒドイことをしたわ。…それに、負わなくてもいい重荷まで背負わせてしまった。……でも私にはそれ以外わからないの……どうすればいいのか…わからないの……」

 

彼女は『番谷仁朗の舎弟になる』という運命を受け入れた。それは、自分の運命に少なからず彼を巻き込むということ。しかし、彼女にはそれしかできない。例え傷つけたくない誰かを傷つけることになっても、それしか前に進む方法を知らないのだ。そして、それを自覚してしまっているので、余計に心苦しい。

 

「だから…ごめんなs………」

 

「ダメだな。許さん」

 

「……っ」

 

向こう側を向きながらも辛辣にピシャリと言い放った仁朗の言い分にギクリとするオーフェリア。まるで親に見放された子供のような表情をしている。

 

「俺はな、その“ごめんなさい”って言葉が大嫌いでなぁ。その、なに? 何も生み出さねぇ、諦め文句みてぇなヤツ? もうホントね、辛気臭いったらありゃしねぇ」

 

「……でも…それなら……」

 

…怖い。ただの会話の筈なのに、今まで散々その男とは話した筈なのに、なぜ、今になってこうも彼の声を聞くことすら怖く感じるのだろうか?

戸惑うオーフェリアを他所に、仁朗はコンクリートの上に竿を置き、立ち上がり、オーフェリアの方に体を向ける。

そして、真っ直ぐと、彼女の目を見た。

 

「そんな根暗なお前に代わりの言葉を教えてやろう。…“ありがとう”だ」

 

「………!?」

 

「“ごめん”って言いそうになるたびに、頭の中で“ありがとう”に変換しろ。それを守れるなら、許してやってもいい」

 

仁朗は先の治療院での会話で彼女の性分をしっかり理解していた。

確かに彼女を蝕む元凶を塞き止めることはできた。それでも、彼女を苦しませる元凶を解消したわけではない。さらにそれは、彼女自身の意志で決着をつけなければならないことだ。

 

本人の前では言うつもりはないが…今はまだ、なにもわからなくても…いつかその日が来るまで見届ける。成り行きとはいえ、一度乗りかかった船ならとことん最後まで付き合う。

番谷仁朗の、知られざる誓いである。

 

波風の音だけが辺りを支配する。

海から林まで、風が吹き抜ける。

 

頭の中のざわついたわだかまりのせいで、言葉がうまくでない。胸の奥が苦しい。目頭が熱い。

彼の“誓い”を知ってか知らずか、それでも、全身に力を入れてなんとか絞り出す。

もう何年も口にしていなかった、本気で忘れていたその感謝の言葉を、今度はしっかり彼の目を見て言った。

 

 

 

 

 

「……………あり…が……と…う…」

 

 

 

 

 

「それでいい」

 

 

 

 

 

これが、後にアスタリスクで《暴食の魔術師(ベルゼブブ)》と畏れられることとなる青年の物語の序章である。

 

 

 

 

 

 

 






いかがだったでしょうか?
序章完結、といったところでしょうか。
初っ端から大ボスを倒すとかどんな序章だよって感じですが、まぁ、一応ヒロインだししょうがないよね。

それはさておき、皆さんは『神呪のネクタール』というマンガをご存知でしょうか? 前回同様なかなかマイナーなマンガなのですが、そのあらすじとしては元の世界では役立たずだった主人公が異世界に召喚され、元の世界で得た知識を駆使して可憐な女の子達と共に群雄割拠な争いに身を投じるというコンセプト。よくある俺TUEEEE系だと一瞬思われますが、知識の質が違います。例えばダイナマイトの作りをある程度詳細に描かれていたり、超音波破砕の技術を応用した戦法など、興味を惹かれるところがあります。さらに言えば、それらはどちらかと言うとおまけのようなもので、本当の見どころは主人公が神代の魔法の力を発揮する為の条件が、女の子の○○○○を○○こと。うん、ネタバレになってしまうから伏せておきます。気になる方は一度目を通してみてはいかがだったでしょう? 最後にわたくしに言えることは一つ、おっぱい最高ッ!!!


余談ですが、この作品のヒロインについて。
もしかすると、オリヒロを一人追加するかもしれません。
悪しからず。


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