学戦都市の問題児   作:我楽多零號

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皆さん、お久しぶりです。我楽多零號です。
急で申し訳ありませんが、活動報告でも提示した通り、今作品の第7話以降を一度削除し、改めて投稿を再開いたします。
理由としては、最後に投稿した日からかなり時間が経ってしまい、考えていたオリジナル展開の内容を忘れたことも相まって、無理にオリジナル展開を進めようとしてもモチベーションが上がらないので、話を原作寄りにしていき、調子が戻ったら、また好き勝手やらせて貰おうと思ったからです。
この作品を楽しんで読んでくれる皆様、特にシルヴィアファンの皆様に深くお詫びを申し上げます。





第一章:鳳凰星武祭篇《序》
第7話:新たなる波紋


 

 

 

 

 

 

 

 

『《孤毒の魔女(エレンシュキーガル)》 敗れる』

 

その記事を読んだ者達は例外なく衝撃を受けただろう。

レヴォルフは言うに及ばず、聖ガラードワース、アルルカント、界龍(ジェロン)、クインヴェール、そして星導館。

そのすべての少年少女達の注目は今や新たにレヴォルフ序列一位の、最強の座に君臨することとなった男、《暴食の魔術師(ベルゼブブ)》こと、番谷仁朗に向けられている。

 

 

そしてーー、

 

 

 

 

 

 

 

 

「バカな…………。オーフェリアが……負けただと!?」

 

 

 

 

 

 

おそらく、このアスタリスクで最も衝撃を受けるであろう薔薇色髪の少女にもまた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい、《孤毒の魔女(エレンシュキーガル)》」

 

「……?」

 

振り向くとレヴォルフのチンピラ共が数人固まっている。

 

「へへっ、聞いたぜぇ? お前、力を封じられて弱くなったんだってなぁ?」

 

「……」

 

そう言いながらチンピラ達は武器を取り出していく。どうやらオーフェリア弱体化の噂を聞きつけこの機会に成り上がろうとする連中の集まりのようだ。

オーフェリアは何も答えない。それにより、チンピラ達は肯定とみたようだ。

 

「悪く思うなよ。恨むなら、お前から力を奪った野郎を恨みなぁ!」

 

小賢しいハイエナ集団が一斉に彼女に襲いかかっていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お、いたいた。おーい、オーフェリア。飯食いに行こうや」

 

「こんにちは、オーフェリアさん」

 

数分後、暢気に手を振る仁朗と礼儀よく挨拶する圭が現れる。

 

「……今行くわ」

 

相変わらずのローリアクションだが、特に拒否する様子もなく、彼らの元へと向かうオーフェリア。

 

「……で、あそこの屍の山はなんぞや?」

 

「……なんでもないわ」

 

「……あはは…」

 

仁朗とオーフェリアの死闘から数週間が経過した。今では仁朗を中心に、三人で連むことが多くなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「では、オーフェリアさんは完全に力を失ったわけじゃないんですか?」

 

ここは、とある和風料理店。

蕎麦やうどんを食している最中、オーフェリアの力について話していた。

 

「そーそ、あくまで制御可能な範囲まで押し留めただけだ」

 

「なるほど、オーフェリアさんは無尽蔵な星辰力(プラーナ)を抜きにしてもそこらの人達をあしらえるほどの実力があったんですね」

 

「つーか、もともとが規格外すぎたんだろうな。俺も表面上は勝ちになったが、結局はコイツの自滅みてぇなもんだし」

 

会話する2人は頬杖をつきながら大窓から見える外の和風庭園を、我関せずと無心で眺めているオーフェリアを見る。

 

「ま、さすがに最強ってわけにはいかなくなっただろうが、アスタリスク屈指の強さを誇ってることに変わりはねぇわな。ホントバケモンだよバケモン!」

 

はっはっはっ、と暢気に高らかと笑う仁朗。

しかし、その言葉は傍から見れば思い切りブーメランなわけで…。

 

「……ホント、よく生きてましたね、仁朗君…」

 

そのバケモノと死闘を演じ、経緯がどうあれ生きて勝利を収めた貴方はなんなんだ?と心の底からつっこみたい圭であった。

そんな圭の心象を知る由もなく、仁朗は会話の蚊帳の外にいるオーフェリアに話しかける。

 

「時にオーフェリアよ。お前飯食わねぇのか?」

 

仁朗の言う通り、オーフェリアの席の前には冷えた水一杯しか置かれていない。

仁朗の声に紅色の瞳が僅かに反応を示すが…、

 

「……いらないわ」

 

素っ気なくスルー。

 

「あれま。もしかして、すでになんか食ってたか?」

 

「……いいえ。………ただ…」

 

「……ただ…?」

 

オーフェリアの無表情ながらどこか言いづらそうな雰囲気になにか深刻な理由があるのかと神妙になる圭。

 

「……日本食はあまり得意じゃないのよ」

 

「……はぁ…」

 

……予想していたものよりかなりどうでもいい理由だった。

確かに日本食は世界から見ても独特な味付けをし、苦手とする外人も少なくないだろうが…。

ここで、仁朗がニヤニヤと悪い笑みを浮かべながらオーフェリアに問うた。

 

「まさかお前、箸が使えないから食えねぇってんじゃねぇよなぁ?」

 

「……あ〜はは、仁朗君。いくらなんでもそんな理由d………」

 

「……そうよ」

 

「……えええええっ!?」

 

あまりにも予想外な理由だった。

まさかあの最強の魔女(ストレガ)が箸を使えないとは…。……いや、別にありえない話ではないのだが、うん、なんというか、意外だった。

仁朗は仁朗で予想的中とクツクツと笑っている。だが、特に驚いた様子もなく、オーフェリアにお品書きを差し出しながら食事を勧めた。

 

「ま、せっかく来たわけだし、なんか頼めよ。箸の使い方くらい教えてやらぁ」

 

「……そう」

 

仁朗から差し出されたお品書きを受け取り、表を開くオーフェリア。

 

「……………?」

 

「「………………」」

 

「………………………………??」

 

「「………………………………」」

 

 

 

 

……もっとも、そのお品書きの字がかなり達者に綴られた草書体であるせいなのか、表が上下逆さまになっているのだが………。

 

 

 

 

その光景を目にし、全力で笑いを堪える仁朗を他所に、もしかすると、オーフェリア・ランドルーフェンは少し天然なのではないか? と疑念を抱く圭であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぶっははははははっ!!! 全っ然上達しなかったなぁ!」

 

「わ、笑いすぎですよ仁朗君!」

 

「……そうね。…さすがに不愉快だわ…」

 

嫌味全開の仁朗の態度にさすがのオーフェリアもイラついているようだ。

結局、あの後数本もの割り箸が本来の使われ方をされる前に尊い犠牲となり、なんとか箸としての機能を維持することに成功するや否や不慣れな手つきをする指からするりと床まで抜け落ち、ようやく(つゆ)に着水したと思えば肘をどんぶりにぶつけてテーブルに蕎麦をぶちまけるという大失態をやらかしたのであった。

 

「あー、悪ぃ悪ぃ。でもよかったじゃねぇか。稲荷寿司は食えて」

 

「……貴方ね…」

 

さりげないとどめの皮肉にもはや呆れるしかない。

なぜこんな男に自分は負けたのだろうと少し悔やむオーフェリアであった。

 

ここで、仁朗が話題を変えてきた。

これは、最近ではもうお馴染みの質問だった。

 

「それはそうと、今日はどうだったよ」

 

「……貴方が不愉快な男だということが骨の髄まで理解できたわ」

 

オーフェリアは淡々とそう答えた。

 

「そうか」

 

仁朗もなに一つ反論することなく、淡々と返した。

その代わりといったように、続けて言った。

 

「俺はお前がちゃんと怒れる女なんだと知れたよ」

 

「……そう。食えない男ね」

 

仁朗は人をよく見ている。

普通に会話する時も、からかう時も、戦う時も、しっかりと観察している。

だからこそ、今のように本気で嫌がるラインと感情を揺さぶるラインをうまく引き、無感情な人間に刺激を与えられる。

それがなんの為なのかはオーフェリアが知る由もないことなのだが…。

 

ここで圭がとある話題を持ち込んできた。

 

「ところで、仁朗君は《鳳凰星武祭(フェニクス)》には出場するんですか?」

 

鳳凰星武祭(フェニクス)》。

統合企業財体が主催し、アスタリスクで行われる学生達の武道大会《星武祭(フェスタ)》の一つ。

 

「ふ、愚問だな。この俺がこんな面白そうな祭に参加しねぇわけねぇだろ?」

 

本人の言う通り、確かに愚問だろう。その証拠に圭がチラリと彼の方を見ると、そこには一匹の“獣”がいた。

番谷仁朗の飄々とした顔の裏には、人を容易に喰らうほどの獣が潜み、その本能は常に猛者との喧嘩(たたかい)を求めている。

 

ニィ、と不気味かつ不敵な笑みを浮かべる彼を見た圭。改めて見ると、ヒシヒシと狂気じみた重圧を感じる。

しかし、圭の心の内に恐怖というものはない。なぜならその狂気こそ、彼を彼たらしめるものなのだと、知っているから。

なにより、純粋に《星武祭》で活躍する彼の姿を見たいという気持ちがあったからだ。

 

「じゃあ、タッグパートナーもすでに決まっているんですね?」

 

「え?」

 

「え?」

 

《鳳凰星武祭》はタッグ戦だ。故に参加の為にはパートナーを探さなくてはならない。

圭の質問は至極真っ当なもののはずだが、ここで仁朗からまさかの素の「え?」が飛び出て、圭また条件反射で「え?」と困惑してしまう。

 

これはもしやと嫌な予感がしてきた圭。

しかし、彼の無計画さや適当さは圭が一番よく知っていた。

 

「…まさかとは思いますが、仁朗君。まさか《鳳凰星武祭(フェニクス)》がタッグ戦だということ知らないんですか?」

 

どうか、杞憂でありますようにと祈る圭。

 

「いやいや、知ってるから」

 

気になる仁朗の返答は、祈りが通じたのか、圭の杞憂に終わるものだった。

ホッとほんの小さく息をつく圭。

 

「それじゃあ、タッグパートナーはまだ決まっていないんですね?」

 

「いやいや、決まってるから」

 

「?」

 

先程の口調からして、タッグ戦であることを知っていたのなら、今度はタッグパートナーを探せていないものだと考えるのが普通だが、どうやらそうでもないらしい。

 

「じゃあ誰なんです?」

 

「いやいや、お前だよ」

 

 

「………………」

 

「………………」

 

双方暫し無言。そしてーー、

 

「え、ええええええええええええぇぇぇぇぇっっ!!??」

 

あまりの衝撃的告白に過去最大の絶叫をする圭。

 

「な、何言っているんですか!?なんでボクなんですか!?」

 

「いや、お前こそ今更何言ってんの? 兄貴分の俺が出るんだ。舎弟のお前が出るのは当然だろ?」

 

「むちゃくちゃすぎます!」

 

「因みにもうエントリー済ませてるから。よろしく」

 

「ボクの意志完全無視ですか!?」

 

退路もすでに鎖され、逃げ場をなくした兎は、がくりと項垂れる。

 

「安心しろよ。多分だけど、相性はいいと思うぞ? 俺達は」

 

ハッハッハと、わざとらしく笑いながら歩み始める仁朗。それに無言で続くオーフェリアに、頭を抱えながら呻く圭。

前途多難な三人は、帰路へとつくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし、それを遮る声がーー、

 

「オーフェリア!!」

 

その声がする方に目を向ける三人。

その中の、オーフェリアの口が小さく開いた。

 

 

 

 

 

 

 

「……………………ユリス」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこには、星導館学園序列5位、ユリス=アレクシア・フォン・リースフェルトが佇んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 


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