フンババを倒し、杉の木を採取して王都へと帰還するメリス達。だが、その様子はとても気持ちのよいものではなかった。
「.......」
「.......」
「.......」(き、気まずい。)
部隊の先頭には右からメリス、二人の間にギル、そしてエルキの順に並び、歩を進める。
ギルはメリスとエルキが揉めたこともあり、自分が間に入らなければまた言い争いになると思い、こうして部隊の先頭、それも中心に鎮座していた。
この気まずい雰囲気は王都に帰還するまで続いた。
───────────
『王の帰還だ!』
『メリス殿、万歳!』
『エルキドゥに感謝を!』
王都に帰還すると国民達からの感謝の言葉が周囲から聞こえてくる。
「どうだメリスよ。英雄も悪くはないであろう?」
ギルは帰還するまで黙っていたメリスにそう聞いた。
「あぁ、こういうのも悪くはない。」
メリスも満更ではなさそうに少し微笑んだ。
─────────
そしてその夜。ウルク市の都市部、それも広場に位置する場所にて宴が開かれた。
そこでもギルは気を効かせてメリスとエルキの仲を取り持とうと二人を一ヶ所に集めたが、
「......」
「......」
やはり二人は黙ったままだった。
「おい、メリス。何時まで黙っているつもりだ?..酒の席だぞ。笑え笑え。」
と言ってギルがメリスに酒を勧める。
「ああ、ありがとう。」
メリスはギルから杯を受け取り、そのまま酒を飲む。
「おっ?」
実をいうとメリスは、今まで酒と名の付くものを飲んだことが無かったのだが、この酒はどの酒とも違う"何か"があると感じた。
「上手いなこの酒。....俺は今まで酒を飲んだことはないがこの酒だけは別格だと思える。」
と、ギルに素直な感想を伝えるメリス。それを聞いた。ギルは、
「そうだろうよ!...この酒は王たる我の蔵から出してきたもの。...上手くない筈がないであろう。」
と、まるで自分が褒められたように嬉しそうに笑った。
────────
宴を初めてから数時間後。
夜も更けてきた頃、空から光り輝く何かがメリス達の前に降りてきた。
メリスは何かと思いながらも顔を反らし、ギルとエルキはしかめっ面で光を見た。
メリスが再度光を確認すると、そこには美女が立っていた。その容姿は男性の理想であるグラマラス体型で、漆黒の髪を靡かせており、見るものの目を惹く存在感である。
「お初にお目にかかります、ギルガメッシュ王。....私は女神。女神イシュタル。以後お見知りおきを。」
自らを女神と称した女性はイシュタルと名乗った。
イシュタルとは、このウルク市を守護している女神の名である。
その権能は戦いと施しを司り、世の男を翻弄すると伝えられている。
その女神が一体何のようでメリス達の前に現れたのか、
メリスがそう考えていると隣にいたギルが小声で話しかけてきた。
「気を付けろよメリス。...奴には気を許すなよ。」
「ああ。分かってる。」
と、メリスに忠告したギルだったが、
「フハハハハ!」
「アハハハ!」
と、いつの間にやらギルとイシュタルは仲睦まじくなっていた。
「お前ら....仲良くなりすぎだろ。」
と、メリスは仮にも女神であるイシュタルに対してついタメ口でツッコんでしまったが、聞いていなかったのかギルと仲良く酒を飲み交わしていた。
だが、
「あっ。」
イシュタルにのせられてを引こうとしたギルだったが、うっかりその楽器を近くの穴に落としてしまった。
この時代はまだ神のいる領域と人間の世界が繋がっていた時代だった為、穴の先は冥界へと繋がっている。普通の人間ならば穴に物を落としてしまった場合、取りに行く事は死ぬ事と同義の為、諦めるしかない。のだが、
「王よ、お止め下さい!」
「ええい!放せ、我が取りに行くと言っておろうが!」
ギルは自分から取りに行くと言って聞かず、兵士達に取り押さえられていた。
「.......はぁ、しょうがない。」
メリスはそんなギルの様子を確認すると仕方なく立ち上がる。
『なら俺(僕)が取りに行く(こう)。......ん?』
メリスがギルに取りに行くと言ったと同時に同じ事を言った声をメリスは右隣から聞いた。
メリスがそちらに振り向くとそこに居たのはエルキだった。
『...........』
この二人、先程まで少し揉めていたこともあり、互いの顔を見合わせて何かを言いたげであったが、そのまま無言の状態が続いた。これを見たギルはニヤリと笑い、何かを思い付いたようだった。
「そうかそうか。なら取りに行って貰おうか....
「は!?」
ギルの突然の提案に対してメリスは戸惑ってしまった。
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「待たせたな。」
あの後メリスは直ぐに自宅に戻り、着替えてきた。
「おや、成る程。...それが君のもう一つの姿か。」
それはメリスが傭兵家業で何時も身に付けている黒装束であった。
「なんだ、知ってたのか。」
「まぁ、ギルから聞いているからね。」
「それもそうか。」
メリスはギルが未来視出来る事を今まで忘れていたが、思い出してから考えてみると隠しても意味が無かったと今更ながら思うのだった。
「さて、そろそろ行くか。」
「ああ。」
-------------------------
冥界
第一の門を通り抜けた時、メリスは立ち止まった。
「メリス?」
メリスの異変を感じたエルキは振り返ってメリスを見る。
「エルキ.......済まなかった!」
メリスはエルキに謝罪した。それも土下座だった。
「何故、謝るんだいメリス。」
エルキはまるで意味が分からないという様でキョトンとしている。
「もしかしてフンババのことかい?....なら君が謝る必要は無い。僕は僕が正しいと思ったことを、君は君が正しいと思ったことをお互いにした。......ただそれだけのことだ。」
エルキはそう言うとそそくさと先に進んでいく。
「俺は!....お前に兵器としてではなく、一つの命として生きて欲しいんだ!」
エルキは立ち止まった。
「余計な心配だ....僕は兵器、それは今も変わらない事実だ。」
そうメリスに告げて先に進む。
「....そんなの....悲しいとは...お前は思わないんだろうな、エルキ。」
━━━━━━━━━━━━━
冥界の第一の門前にて、
「此所が.....第一の門...。」
ギルから話を聞いていた二人は、門自体の大きさに圧倒されていた。
「エルキーあったか~?」
「此方には無いよ~。」
二人は呑気にもギルが落とした楽器を探している。
すると、
『誰だ?』
何処からか声が響いてきた。
「ん?エルキ...今何か言ったか?」
「いいや、何も。」
メリスはエルキの声だと錯覚したが、それはきっと自分が聞き間違えたのだろうと自分一人で納得した。
『誰だ.......我の冥界に肉体を持ち込んだ輩は...!』
声は先程よりも鮮明に聞こえた。
すると二人の周りに幽霊が出現する。
「ガルラ霊か!!」
「どうするつもりだいメリス?」
エルキがメリスの判断を仰ぐ。
「......仕方ない、此処まで来たからにはやるしかないか。」
メリスは暫く考えてから左腕に付けていた"縄"を
すると縄は独りでに動きだし、メリスの目の前にいたガルラ霊を全て締め上げた。
「なっ!?バカな!....縄でガルラ霊を締め上げただと!?」
「この"縄"は特別製でね。」
得意気にメリスは答える。
「成る程.....その"縄"、レバノン杉の光る木から作ってあるね?」
エルキが気付いたのか、そうメリスに指摘する。
「正解だ.....といっても正確には光る杉の樹液を染み込ませただけのただの"縄"さ。」
メリスが"縄"を引き寄せ、捕らえたガルラ霊を右手に握ったダガーで斬りつける。
するとガルラ霊は消失した。
『.....成る程、その"縄"は捕らえた者を強制的に実体化させる事が出来るのか。』
メリスはふと、エルキの方はどうだろうか?と思い視線を向ける。そこにはガルラ霊を全て消し去り、冷たい目を地面に向けているエルキがいた。
『......どうやら、私の完敗のようだな。』
声はメリス達の近くから聞こえ、次第にその声の主が実体化する。
そこには先程のガルラ霊よりも更に巨大なガルラ霊が佇んでいた。
『問おう、人の子よ....何故我が冥界を荒らす?』
ガルラ霊はメリスに問いかけた。メリスは静かに答える。
「別に荒らしに来た訳じゃない......ただ、ウチのサボり魔が楽器を落としてね、それを取ってこいって言うから仕方なく来てるだけさ。.......もし楽器を返してくれないなら....そうだな...。」
メリスは暫く考え、こう結論を出した。
「俺らが引き返す、それなら文句は無いだろう。」
『え?』
ガルラ霊(以後悪霊)は驚いた。
『え?.....それ、本気で言ってる?』
「え?本気だけど、それがどうかしたの?」
悪霊は口調が変わり、メリスもつい素に戻っていた。
『いや、だって....そういう場合、「殺してでも奪い取る!」...って言うかと思ってたんだけど。』
急にモジモジしだす悪霊、それを見てメリスは...
「いや、殺す訳ないじゃん.....俺、ただの人間だよ?.....ましてや"冥界の女主人"を殺せるなんて傲慢な考えは持ち合わせてないし。」
『え?.....あんた、私の正体.....知ってたの?』
冥界の女主人 エレシュキガルと看破するメリス。
「いや...ギルに聞いたことあったし。」
「ギル?......まさかあのギルガメッシュ!?」
「え?....そうだけど?」
キョトンとしながらメリスは答える。
「う、嘘....あの暴君に人間の友人がいたなんて.....」
ワナワナと震える エレシュキガルは遂に、真の姿を見せた。
「....それがあんたの本当の姿か...。」
「ええそうよ....と言ってもまさか楽器一つの為に此処まで来るとは思わなかったのだわ。」
(だわ?)
先程とは違って変な語尾が付いていた。
「まぁ....正直言って俺らも取りに来るつもりはなかったんだが.....」
「ギルが自分が取りに行くって聞かなくてね。」
やれやれとため息を吐きながらメリスとエルキは話す。
「.....その楽器ってこれの事かしら?」
エレシュキガルがガルラ霊に運ばせてきた物をメリス達に見せる
それこそギルが落とした楽器であった。
「ああこれだ.....ありがとうエレシュキガル。」
ニコッと笑ってメリスはエレシュキガルに感謝した。
「///.....べ、別に邪魔だったから...持っていってもいいわよ。」
照れながら楽器をメリスに渡す。
「そうだ.....お礼といってはなんだけど.....あった。」
ガサゴソとポーチを漁って取り出した物 それは種であった。
「何これ.....種?」
「花の種だ...と言ってもただの種じゃない....夜に咲く花の種だ。」
「え....!?」
「この冥界では日の光りが入ってこない....なら、せめて夜に咲く花の種を蒔いて、花畑を作って見ればいいんじゃないかな?」
「あ...ありがとう。」
エレシュキガルは種を受けとると、そのまま歩きだして近くの土の中に種を植えた。
「後は水を定期的に与えれば花が咲く筈だ。」
「メリス....君も隅に置けないね。」
ニヤニヤしながらエルキがメリスを見る。
「なんだよエルキ、俺は親切のつもりだぞ。」
「これは....ラヌスも苦労するだろうな。」
「え...!?ちょっと待って...今、ラヌスって言った?」
何故かその名前を聞いた途端、エレシュキガルが慌て始めた。
「?......言ったけどそれがどうかした?」
「?」
メリスとエルキはエレシュキガルが驚いたことに疑問符を浮かべる。
「あんた達.....まさか知らないの?」
「「何を?」」
「何をって...ラヌスって言ったら天界でも一、二を争う程の嫉妬心の強い女神なのよ!!?」
「「え!?」」
初耳だった。まさか自分の妻が女神だったなんて知りもしなかったからだ。
「え...何それ聞いてない....俺全く知らなかった。」
「僕も....まさかラヌスが....」
「...貴方達の反応を見る限りだと本当に知らなかったのね...」
呆れたような様子でエレシュキガルは まぁいいわとだけ口にした。
「それで...あいつ、今何してんの?」
「此処にいるメリスの妻になってるよ。」
「子供も今は14人いるな。」
「え!?....あいつあんたと結婚したの....!?....しかも子供14人って.....多すぎるでしょ!?」
現在のラヌスの様子に対して驚愕するしかないエレシュキガル。子供の数に関しては至極真っ当な返答を返してくれている。
「な....なんでそんなに子供がいるのよ....。」
「あー....簡単に説明すると....俺に近付いた女の匂いを消す為とか変な理由つけては毎晩犯されてたんで....ホント、勘弁してくれと何度言ったことか....。」
淡々とハイライトの消えた目で語るメリス。どうやら過去のトラウマを思い出している様子である。
「あ....ごめんなさい....まさかそこまでとは。」
「メリスも苦労してるんだなぁ.....。」
「あっ....ちょっと待ってて。」
急に何かを思い出したエレシュキガルは何処かへ走って行った
そして暫くしてから戻って来ると、両腕に黒い布に包まれた剣を抱えていた。
「それは?」
「一週間位前に地上から落ちてきた剣よ.....メリス、貴方にこれを差し上げます。」
女神の威厳を見せながらメリスに剣を渡す。
「....いいのか?」
「ええ、私には必要ないから。」
メリスは剣を受け取ると、ベルトに差し込み、軽く素振りをする。
「うん...しっくりくる...有り難うエレシュキガル。」
「お...お礼を言われる程のことではないのだわ。」
照れ臭そうに顔を背けるが、何処か嬉しそうな表情を見せるエレシュキガル。
━━━━━━━━━━━━━━
「それじゃあ...私は此処までだから。」
「ありがとうエレシュキガル、お陰で助かった。」
「ギルの代わりにお礼を言うよ....ありがとう。」
「も...もう、そんなに言わないでよ...恥ずかしいじゃない....」
「次に来るときは死後か....そん時は一緒に花の世話でもするかな。」
「えっ...///」
(あー....これは)
何かを察した様子のエルキ、これは苦労するなとメリスを見る。
(やれやれ....ギルがこの場に居たらこの女たらし...とかメリスに言いそうだ。)
と、口に出さずに先に地上へと戻り、メリスはその後に続くようにして戻るのだった。
━━━━━━━━━━━
「戻ってきたはいいものの.....」
二人が戻るとそこは━━地獄であった。
「何だこれ.....?」
目の前ではギルとイシュタルが口喧嘩を始めていた。
「おいおいお二人さん、痴話喧嘩なら他所でやってくれませんかねぇ?」
メリスが悪戯っぽく言うと、
「「誰が夫婦だ(よ)!!」」
と盛大にハモる。
「....それで?俺達が冥界に行ってる間、一体何があったんだギル....」
「それがだな.....」
事の経緯はこうだ。
メリスとエルキが冥界に向かった数時間後、イシュタルが身の上話や悩み事をギルに相談した。それに対してギルは難なく答えた。それに気を良くしたのか、イシュタルが突然ギルに告白したらしい。
一目惚れだとか、恐らく遠征での様子も見ていたようである。
「成る程ね。」
(つまりはイシュタルに告白されたことに対する返答でギルが断り、それに対してイシュタルは何故断られたのか分からず憤慨している....と。)
情報を整理した結果を思考し、どうすべきなのかを考えていると、
「ほら、あんたからも何か言いなさいよ!」
「えっ、俺?....そこで俺に振るの?」
イシュタルにメリス。
「そうだな....付き合うとか結婚とかって互いが互いに好意を持っていないと成立しないから...先ずはギルをその気にさせないと駄目だと思う。」
「成る程ね....一理あるわ。」
「おいメリス!どっちの味方なのだ!!」
イシュタルの味方をしたことでギルがメリスに吠える。
「....しかしだ、ギル自身が女神のあんたとの結婚が嫌だと拒否してるんだ...だから諦めたらどうだ?」
「メリス....!」
下げてから上げられたギルの表情は、雲りから晴れた空のように明るくなった。
「ち、ちょっと!あんた...私の味方じゃなかったの?」
「ん?何を言ってんだ...俺はギルの...人間で唯一の親友だぞ?....友を売ることなんてしねぇよ。」
「ぐぬぬぬぬ......!あんた、私が誰だか分かって言ってるの?」
「このウルクを守っていると言い張る自称女神様だろ?」
「なっ...!あんた、私に対して不敬もいいとこよ...今この場であんたを殺してやりましょうか....!!」
「....俺を殺したらウチの嫁さんとそこの王様が黙ってないと思うが、それでもいいなら別に構わないぜ。」
「言わせておけば.....!!」
ギルとイシュタルの口論から一転、今度はメリスとイシュタルが口論を始めてしまった。
「おい、メリス....その辺にしておけ、我は大丈夫だ...というか元から結婚する気は無いからな。」
「イシュタル様もその辺でお止めください...女神としての。」
「....分かった、ギルがそう言うなら。」
「.....シドゥリがそこまで言うなら、止めるわよ。」
メリスとイシュタルはギルとシドゥリに止められて一時的に矛を収めたが、
「....でも、メリスとかいったかしら.....あんたは許さないわ!」
そう言い放ってイシュタルは飛んで行ってしまった。
「......もしかして、俺....やらかした?」
イシュタルを見送った後、冷や汗だらだらでギル達に問い質すがギル以外は全員顔を反らす。
「ちょっと!?何でギル以外顔を反らすんだよ!!?」
慌てふためきながらも周囲に助けを求めるが、誰も目を合わせてくれず戸惑っていたが、
「よくやったぞメリス、あの強欲女神を退けるなど...この我でも出来んことだからな。」
ニヤニヤしながらメリスに近寄っていくギル。
「嬉しくねーよ!それよりも俺が言いたいのは、あいつを退けたことでこのウルクに何かしらの災害が来るんじゃないかってことだよ!」
メリスのその言葉は説得力があった。
これまでこのウルクを守護してきたイシュタルがまさか自分が守っているウルクの住民の一人にあそこまで言われた事が無かったのだろう。天に帰る時にちょっと泣いていたし....
「メリス殿の言うことも一理あります....彼女なら、
「.........どうしよう。」
『.....................』
メリスのやってしまったという感じの言葉に対して、返答するものは誰も居なかった。
━━━━━━━━━━━━━━━
「......ここか。」
宴会から数日後のある日の深夜、メリスは再び黒衣をその身に纏って、ある洞窟の中を進んで最奥を目指していた。
「...........!!」
たどり着いた其処は、ゴブリン達の巣窟だった。
しかも、今から捕らえた女達を今から犯そうとしている所であった。
「....てめぇら.......覚悟は出来てんだろうなぁ!!!」
ゴブリン達の所業にメリスは激怒し、ダガーで突っ込み、一匹一匹、首を落としていく。その時のメリスの表情は正に鬼であった。
「ナンダ....コイツハ!?」
「シルカ!ヤッチマエ!!」
何匹かは殺されまいとしてメリスを殺しにくる、生き物として当然の反応である。
殺されるくらいならば逆に殺す。自然での弱肉強食に酷似した考え方である。
「うおおおおおおお!!!!」
群がってくるゴブリンの首を正確に狙って斬りつけるメリス、その切り口からは緑色の体液が滝のように噴出している。
「うおおおおおおお!!!!」
メリスも負けじとゴブリン達を斬り捨てていく。
だがメリスは気付いていなかった。
この時、背後から近付いているゴブリンがいることを━━━
「シネ!」
(しまった!.....後ろをとられた....!)
メリスが死を覚悟した時、彼の右腕は無意識に動き、持っていたダガーの片割れを手放すと、腰に差していた黒曜石の剣を引き抜き、ゴブリンの攻撃を受け止めた。
「ナンダト!!?」
驚いたゴブリンは引き下がり、メリスとの距離を空ける。
(何だ.....今のは....!!?)
この事に一番驚いたのはメリス本人であった。
無意識の内に自身の右腕が動き、そのまま剣を抜いたのだからだ。
(もしかしてこの剣....何か特別な力が宿っているのか?)
エレシュキガルから受け取った剣が自分の危機を救ってくれた。
この事実にメリスは自分はエレシュキガルに守られているのではと錯覚してしまいそうになった。
(なんて事考えてる場合じゃない!今はこいつらの殲滅に集中しろ俺!)
直ぐに思考していた事を頭から消去し、ゴブリン達に向き直るメリス。
「行くぞオラァァァァァ!!!」
━━━━━━━━━━━━━━
その後、ものの数分でその場にいたゴブリン達は一匹を残して殲滅された。
「ヒ、ヒィィィィ...!!」
「........」
メリスに恐怖を抱いてしまったゴブリンは尻餅を付いてしまいそのまま後退りする。
それを見たメリスは一言、
「....命まではとらねぇよ....だがな、二度と人間を襲うんじゃねぇぞ...でなければお前を殺す。」
ゴブリンを見下して言い放つ。
「ウ、ウワァァァァァ!!!!」
ゴブリンは急いで立ち上がると洞窟から飛び出して逃げていった。
「.....さてと、」
メリスは犯される後一歩というところで助け出した女性達に近寄る。
「大丈夫か?....助けに来たぞ。」
「あ...あの、ありがとうございます。」
助けられた女性の一人は何処か怯えた様子でメリスに感謝の言葉を述べる。
「?....ああ、この返り血と仮面か。」
女性が恐怖している理由に気付いたメリスは仮面を外し、外套を脱いだ。
「別に怪しい者じゃない、あんた達を助けに来ただけだ。」
「ほ、本当ですか!?」
「あぁ、嘘はつかない。」
メリスの言葉にその場にいた女性達の表情が暗いものからどんどん明るくなっていくのが見て分かった。
「ありがとうございます!...本当に何とお礼を申し上げればいいのか」
「いや、そういうのいいから....ほら、あそこに向かって走れば直ぐに外だ....拐われた場所まで護衛ぐらいならするから。」
「ありがとうございます。」
「.......」
(ここまで感謝されるとは思ってなかったから....反応に困るな。)
そう考えつつも、メリスは彼女達をまで誘導するのだった。
━━━━━━━━━━━━
「ここまで来れば安心だろう。」
メリスは彼女達が拐われたと思われる場所まで護衛し、安全に送り届けた。
「本当にありがとうございます。」
「いいよ、別に大した事をした訳じゃないから。」
それじゃ、と一言残してメリスは走り去って行った。
(あの方角は......確かウルクの町があった筈。)
その時、メリスが助けた女性の一人がメリスの走り去って行った方角を見てメリスがウルクに住んでいるのではないかという憶測を立てた。
(明日の朝、確かめに行ってみよう。)
女性は後日、メリスの正体を知るためにウルクへと向かうのであった。
━━━━━━━━━━━━━━━
後日、ウルクにて
女性は自分達を助けてくれた"彼"の事が知りたくて、この町を訪ねてきた。
「彼は何処に...」
女性は辺りを見回しながら、この町の中心を目指す。
其処に自分達を救いだしてくれた"彼"がいると信じて━━━
━━━━━━━━━━━━
「何処にも居ない。」
あれから数分後、町中をくまなく探したが肝心の"彼"の姿は何処にも無く、もう諦めて帰ろうか。そう考えた矢先、
「コラァァァ!またサボったなギルゥゥゥゥゥ!!!」
「ち、ちょっとくらいならよいであろう!」
「お前のちょっとは約2時間だろうが!そんなにサボったらウルク崩壊するわ!」
彼女の目の前を二人の男が通り過ぎていった。のだが、彼女は追いかけていた男性の姿に何処と無く、"彼"に似た雰囲気を感じ取った。
(もしかして....あの人が....?)
そんな予想を立てて男性を追いかける。
━━━━━━━━━━━
「だーっ!クソッ!見失っちまった.....あのサボり魔が行きそうな場所は....」
「あの~」
「うひゃう!?」
突然後ろから声を掛けられてしまったメリスは驚いて変な声を出してしまう。
「あの....すいません。」
振り向くと其処には以前、自分が助けたうちの一人の女性が立っていた。
「えーっと.....何か?」
メリスは一応、傭兵稼業は隠れて行っている為、あまり身元が割れるような行いは控えている(それでもギルとエルキにはバレているが。)その為、女性に対しても素っ気ない態度をとり自分に向けられる意識を反らしたいのだ。
「貴方......以前、私達を助けてくれた人...ですよね?」
(いきなり核心付いた発言が飛んできたー!?)
「あの....一体、何の話でしょうか?」
メリスはそれでも惚けた様子で返事を返す。
「惚けてもダメです....先程、貴方とすれ違った時...核心しました....貴方が...貴方こそが、私を...私達を助けてくれた"あの人"だということに。」
そう言うと女性は深々と頭を下げた。
「ありがとうございました。」
「......え?」
予想外の行動にメリスは唖然としてしまう。
「貴方のお陰で、私達は普段の生活に戻る事が出来ました。」
「いや.....その....」
(こうなっては隠しても無駄だな...。)
「そっか....でも俺は、金の為に依頼をこなしただけだ。」
「そうですか.....でも、私にとっては貴方は"英雄"です....あの時の出来事だけで...私達は救われました。」
女性はメリスそう言って抱き付いた。
だがメリスの方は、
(ヤバイヤバイヤバイ!....こんなのがラヌスに見つかったら....!)
先ず間違いなく搾り尽くされるだろう....性的な意味で、
「あ...あのさ、俺....妻と子供がいるんだよ....だから」
「だから....なんです?」
「え....いや、それはその......」
底で口ごもって何も言えなくなってしまう。
「....大丈夫ですよ、バレなければいいんですから。」
「いや、それバレたら後で大変なことになるヤツ....」
その後、メリスは女性の頼みを断りきれずにそのまま共に床についてしまうのだった。
因みに、ギルはシドゥリ達の別動隊に確保された。
━━━━━━━━━━━━━━
それから数日後、
「...となるから、ここではこう動いてくれ。」
「はっ、了解しました。」
現在メリスは兵士達にに兵法を指南しており、隊列の組み方や進軍の方法等の内容を指南していた。
すると、
ズシン、ズシンと地響きが聞こえ始める。
「何だ!?」
「報告します! 南西方向から巨大な牛がこのウルクに接近中!」
「何!?」
メリスが建物から飛び出して見たもの、それは━━巨大な
「牛!?」
「いいや、あれはただの牛ではない....天の牝牛、名をグガランナという。」
「グガランナ...。」
建物の上には既に臨戦態勢となっているギルがグガランナを睨み付けていた。
「メリスよ....直ぐに支度しろ、奴を止める。」
「ああ、了解した...!」
急いで自宅へと戻り、裏の仕事人の姿へと装いを変える。
そして、
(仮面はこっちの方がいいな...ペストマスク風は見えずらいから。)
新調した仮面(目元を隠すゾロマスクと呼ばれるもの)を装着して家を飛び出して、ギルの元へと向かう。
━━━━━━━━━━
「...来たか。」
「ああ。」
ギルの隣に立ち、グガランナを見る。
「....流石に大きいな...。」
「当然だ、グガランナはシュメル最大の神獣....普通の人間なら太刀打ちできまい。」
「なら、何故俺を?.....って今更聞くのは無粋か...」
━━━━━━━━━━━━
数日前、
「どうしたギル?...こんなところに呼び出して。」
メリスはギルに呼び出され、
「以前、我達が行ったフンババの討伐後、イシュタルが来ただろ?」
「あぁ、お前に求婚したアレか...」
「奴の事だ....父神に泣きついてグガランナをこのウルクに向かわせて滅ぼすやもしれん。」
「あぁ......成る程、納得した。」
イシュタルの素行の悪さはギルから聞いていたので理解していた。
その為、次にイシュタルがする行動もおおよそではあるが、メリス自身も理解が出来ていた。
「要するに、俺とギル....お前でグガランナを討伐する...そういうことだろう。」
「そうだ。」
此所でエルキの名前が出てこなかったのには理由がある。
エルキは神に作られた泥人形であり、神に逆らうような行動を行えば即座にエルキドゥとしての意識は奪われてしまい、ただの泥に戻ってしまう。
だからギルはもう一人の友であるメリスを呼び出し、エルキをグガランナと戦わせない為にこうして話を進めていた。
「....それで?策はあるのか?....流石に無策じゃ俺達に勝ち目は無いぞ。」
「だからこそお前を呼んだのだメリス....お前ならば必ず良い策を見せてくれるとな。」
フハハと高笑いするギル
やれやれ、また俺に全部任せるのか...と、ため息をつきながら
ギルに愚痴るもメリスは長考する。
「こんなのはどうだろうか?」
そして、メリスが思い付いた策とは━━━━━━━
━━━━━━━━━━━━━━━
「そろそろグガランナが襲ってくる.....手筈通りに頼むぞ、メリス。」
「任せとけ.....ギル。」
二人は建物から飛び降りると、二手に分かれた。そしてメリスが先ず最初にとった行動は━━━━
「オラァ!」
グガランナの左前脚に左腕のロープをくくりつけ、霊体化させるというものであった。
「ブモッ!?」
突然自分の左前足が消失したことに驚いてバランスを崩してしまう。
無理もない。痛みもなく、自分の前足が突然消失すればどんな獣であれ戸惑いを覚えてしまう筈だ。
「ブモォォォォォ!?」
そのまま左側に身体が倒れ、ウルクの町は一部崩壊してしまう。
「よし!今だギル!」
メリスの合図と同時に、ギルがグガランナの眼前に姿を現す。
「喰らえ、天の遣いよ!」
背後から剣や槍、斧などをグガランナ目掛けて射出する。
「ブモォォォォォ!!!」
様々な武器を撃ち込まれたグガランナはたまったものではなく、悲鳴を上げ、痛みから必死に逃れようともがき始める。
「無駄だグガランナよ....我達の策の前に...無様に死に行け。」
だが、その時...
「ブモォォォォォ!!!」
「なっ!?」
突如グガランナが身体を起こし、咆哮を上げた。
「確かにバランスを崩した筈なのに....!?」
分からなかった。何故倒れた筈のグガランナが突然起き上がったのか?...何故、ギルの攻撃を受けたのにダメージが少ないのか?
メリスはそんな事を考えたが、それよりも次の手を考えなければと再度、思考の渦に意識を傾けた。
「メリス!」
「ハッ!」
気が付いた時には、時既に遅くグガランナの脚が今にもメリスを踏み潰そうとしていた。
「クソッ!....此処までなのか....!?」
ただ巨大な脚を見上げる事しか出来ないメリス、自分の死を悟り自分は此処までの活躍しか出来ないのかと絶望してしまう。
だが、
「いや、まだだよ。」
(え?)
声と同時にグガランナの脚には金色の鎖が巻き付いていた。
振り返ると太陽を背にして何者かがメリス達を見下ろしていた。
「な....」
「な.....」
「何で、此所にいるんだ....エルキ!」
見下ろしていたのは二人の親友 エルキドゥであった。
「大きな地響きが響いた瞬間、二人が居なくなったのに気付いて探してたんだよ....そしたら天の遣いであるグガランナを倒してたから、加勢したってだけだよ。」
メリスの元に降りて軽く言ってみせたが、メリスの心情は穏やかではなかった。
「...けんな」
「うん?」
「ふざけんな!...エルキドゥ、分かってるのか!?...お前が加勢したら....お前は....!」
「分かってる....でも、どうしても抑えられなかった。君達が頑張ってるのに...僕だけ何もしないなんて考えられなかった。」
その時のエルキドゥは悔しそうな表情をメリスに見せていた。
「お前...」
(ここまで感情的になるエルキを見るのは初めてだ。)
それほどまで二人と行動を共にしたいと思っていたのだろう。
「....分かった。」
「メリス...!」
「ただし!....止めはギルに任せて俺達はグガランナの足止めだけだ....それ以上はたとえお前でも俺は許さない。」
メリスの目には怒りの感情が見え、エルキに負担を強いることが無いように配慮したつもりでそう言ったのであった。
「分かった、君の言うとおりに行動しよう。」
エルキはメリスに従う意思を見せると、我先にと自身の身体の一部である鎖を地中から生み出し、グガランナの脚全てに巻き付ける。
「足止めは僕に任せてくれ、ギル。」
「エルキドゥ....貴様、」
「大丈夫だ、俺がそうならないよう配慮する.....だから、」
メリスは一度俯いたが、直ぐに顔を上げて頭上のギルに向き直る。
「俺を信じろ!ギルガメッシュ!!!」
メリスの力強い声にギルは、フッとだけ笑い、グガランナに向かって再び
「喰らえ、天の遣い、グガランナよ....そして公開するがいい、貴様が狙ったウルクは.....三人の英雄が居たことを...!」
『ブモオオオオオオオ!!!!』
グガランナはギルの放った投擲を全て一身に受け、そのまま絶命してしまった。
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「宴だ!」
その後、グガランナの死体はギルの意向によって解体され、全て焼き肉としてギルと兵士達に賄われた。
「やはり美味い.....天の遣いなだけあって肉質も上等な様だ....それにしても、メリスとエルキは何処へ行ったのか。」
そう言いつつもグガランナの焼き肉に舌鼓を打つギルである。
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ギル達から少し離れた建物の屋根の上、具体的に言うならエルキが登場した建物の上にメリスとエルキはギル達を見下げていた。
「本当に....これで良かったのか、エルキ?」
不安そうにエルキを気遣って訪ねるメリス。
「心配いらないよ.....僕は兵器だ....それに、何かあれば君とギルが何とかしてくれる....そう、信じているからね。」
「そうか....。」
「......」
「......」
そして二人の間に、暫しの沈黙が続いた。
「杉の木を、」
「うん?」
「杉の木を取りに行ったあの日遭遇した怪物」
「フンババか....」
左腕に巻き付けた縄を一瞥してエルキの返答を待つ。
「彼は、僕の親友だった。」
「!?......親友、だった?」
コクりと頷くとエルキは更に話を続けた。
「ギルやメリスと出会う前の僕は、神様達からギルを殺す様に命じられ、このウルクの地に降り立った。」
「そこで最初に降り立ったのが、あの杉の木が生い茂る森で最初に出逢った怪物、フンババだった。」
「...」
メリスはエルキの話を黙って聞いた。そうすべきなのだと、理解していたから。
「彼と出逢い、この土地での出来事を全て教えてもらいいざギルを殺しにウルクへと向かった先で...."彼女"と出逢った。」
「"シャムハト"....」
エルキの語った"彼女"というのは、エルキに人間とは何かを説いた、人物である。
メリス自身も出逢い、肌を重ねた事が幾度もあった為、シャムハトの事は知っていたし、彼女から頼まれていた事もあった。
エルキとギルの仲を取り持ってほしい、と。
「そう...彼女から人として大切な事を教えてもらい、彼女の姿を借り、ギルと殺し合いを始めた。」
「だけど、決着はつかなかった...。」
「ああ。」
「そして暫くしたある時、何処かからやって来たメリス....君と出逢った。」
今まで楽しそうにしているギル達を見下げるだけだったエルキがメリスに顔を向けた。
「ありがとうメリス....僕みたいな兵器と友達になってくれて....ギルとの仲を取り持ってくれて。」
エルキは笑っていた。だが、その笑顔は嬉しいといった感情のものでなく、泣きそうな気持ちを圧し殺しているようであった。
「エルキ.....」
メリスはエルキを抱き締める。
「メ、メリス....!?」
「隠さなくていい....ホントは怖いんだろ....死ぬことが。」
メリスの一言を皮切りに、エルキは遂に...
「ヒッ.....グスッ.....ホントは....死ぬの....怖い....怖いよ、メリス....。」
メリスを強く抱き締め返し、圧し殺していた感情を爆発させた。
「当たり前だ......死ぬのが怖くない奴なんて....一人も居ないんだからさ。」
エルキは暫く泣き続け、メリスはそんなエルキを抱き締めて気持ちを受け止め続けた。
そして暫くしてからエルキが口を開く。
「メリス....頼みがある。」
「何だ?....俺に出来る範囲なら、何でもやってやるよ。」
「何でも?....ホントに?」
「?....お、おう....出来る範囲でだけど。」
次の瞬間、エルキの口から飛び出た言葉は彼の予想をはるかに越えていた。
「僕を....抱いて欲しい。」
「...........................は?」
暫くメリスは思考停止してしまい、エルキの言葉の意味が理解出来なかった。
「何を......言ってるんだ.....エルキ?」
「?....聞こえなかったのかい?僕をラヌスみたいに抱いて欲しいんだ。」
そう言うとエルキは着ていた服をおもむろに脱ぎ始める。
「今までギルがやってることを見て、何故か抱かれている女性達が羨ましく思えた....更に言うなら、もし機会があるなら...僕の相手は君がいいと思っていた。」
「.....ギルじゃ駄目なのか...?」
「ギルは基本的にだらしないから嫌、真面目なメリスなら僕を気遣ってくれるし優しいから....いいかなって...。」
「お前なぁ....。」
「駄目.....?」
エルキはメリスに対して上目遣いでこちらを見てくる。
「.......」(これは.....断れないっ!!!)
エルキドゥの上目遣い+ウルウルとした瞳に断れないと感じ取り、エルキドゥの願いを叶えることにした。
「後悔.....するなよ。」
「しないよ....メリスなら、尚更だ。」
そして二人は肌を重ね合い、それは夜明けまで続いた。
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「もう朝か....」
夜明けの朝日をバックに、エルキを見守る。
(とうとう、やってしまった.....。)
昨日の事を思い出し、失意に陥る。
(いくらあのシャムハトと同じ見た目でも、相手は親友のエルキドゥだぞ....何で手出したんだ俺!....あぁ、あの上目遣いか....はぁ、死にたい。)
かなり落ち込んでいる。
彼の頭の中では、大切にしている親友とヤってしまった事で一杯いっぱいになっており、ラヌスにどう弁明しようか等とは考えていなかった。
(でもまぁ、流石に子供は出来ないだろう.....なんたってエルキだし、というかデキたらヤバい....俺が死ぬ....ラヌスに服上死させられる。)
今度はラヌスの事を思いだし、ガクガクと震えだす。
(そう言えば、昨日エルキが気になることを言ってたな....俺が"何処かからやって来た"...と、)
(俺は一体、何処から来たのだろうか?)
次に彼が考えたのは、自分がどうやってこの地にやって来たのかだった。
(今思い出しても不思議な事だ、気がついたらこのウルクの土地に一人で立ち尽くしていた....それも、子供の姿で....ん?"子供の姿".....?)
子供の姿という言葉に疑問を感じ取り、次の瞬間、突如として頭に激痛が走り出す。
「ぐっ.....がっ....」 (何だ!?....急に、頭が....割れる様に....痛い。)
頭を押さえて必死で考える。自分という人間の存在価値を...
(子供の姿に疑問を感じた....それは、つまり...俺は子供ではなく、ここに来る前は....既に大人だった...?)
ならば何故、子供の姿となってウルクに来たのか、メリスは考える。
(ウルクに来る前.....俺は、何をしていた?....大人だったら...仕事をしていた筈だ.....一体、何の仕事を....)
メリスは更に長考する。
(そういえば、何故か毒とか薬草に詳しかったな....なんでだろうか....)
もしかして、人を助ける仕事をしていたのだろうか?
そう考えた途端、また頭が割れるような感覚に襲われた。
(また....この痛み、まるで俺を妨害してるようだ...。)
だが、それと同時にこの痛みは真実に近づく度に起こっているような気がした為、自分が真実に近付いている。そう、メリスは感じ取っていた。
(人を助ける仕事....."医者"?)
その言葉が思い浮かんだ瞬間、まるで足りなかったパズルのピースが嵌まったような感じがした。
(俺は、ウルクに来るまでは大人で....医者だった...そういう事か?)
(だがまだ名前を思い出せない...."メリス"は違う...."それ"は此処に来た時の名前だ。)
だが、どうやっても思い出せない。
(....まぁ、俺の過去はまた今度にしよう....今はそれよりも、)
隣で眠っている女性、の体型をしているエルキの頬に指をなぞらせる。眠っているエルキを見て、何故だかとても愛しく感じてしまい、そんな行動をとってしまう。
「ん?....メリ...ス?」
「悪い、起こしたか?」
「ううん....ん?」
身体を起こしてメリスに近付こうとした時、何かに気付く。
「これ、メリスの外套?」
「あぁ、建物の上でそのままするのは冷たいと思ってな...」
「フフッ。」
「?」
「やっぱり、メリスは優しいね。」
「俺が、優しい?」
「だって、僕を気遣ってこんな事をしてくれるんだもの。」
笑顔でメリスを見つめるエルキ。
「........///」
「あれ?どうしたの...そんなに顔を真っ赤にして。」
「わ 、悪い....今のお前は、美少女にしか見えなくて...その、照れ臭くなった。」
「.........../////.......!」
メリスの照れ顔を見てエルキは自身の顔が赤くなっていくのを理解し、それと同時に自分の下腹部が暑くなっていくのを感じた。
「ゴメンメリス....もう、我慢....出来ない。」
「え?」
顔をエルキに向けた途端、彼女に馬乗りになられた。
「ち、ちょっとエルキドゥさん!?」
「君の照れた顔を見てたら....ココが、どんどん暑くなってきて....君に、静めて貰いたいんだ。」
「え?...ええええええええ!!!?...ちょっ、待て待て待て...お前もしかして発情してんの!?...昨日までのシリアスな展開何処行った!?」
「さぁ、どうなったんだろうね?」
「あ、あの.....エルキドゥさん....目、目が怖いです。」
「大丈夫だよ...大人しくしてれば...直ぐに終わるよ。」
「いやこの場合、直ぐには終わらな....ア━━━━━━━!!!」
この日、メリスはエルキに昼まで犯されてしまい...後日、執務を行っているメリスの腰は、生まれたばかりの小鹿の如く、震えていたという。
━━━━━━━━━━━━━━━
グガランナを討伐してから数日後、
「急いで解熱用の薬草を用意しろ!これに全て書いてある...全部は取るな少し残して採取してこい!」
「は、はい直ちに....」
メリスは突然高熱を出して倒れたエルキの看病を行っていた。
「何でだ.....エルキはグガランナの動きを封じただけの筈だ....なのに何で...?」
「それが....グガランナを討伐した要因の一つ...だったからじゃない?」
横になっていたエルキが上体を起こしてメリスに答える。
「エルキ!?今は大人しく安静にしてた方が...」
「大丈夫、今はまだそこまで苦しくないから。」
そうメリスに告げるがメリスから見たエルキはやせ我慢をしているようにしか見えなかった。
「メリス。」
エルキを尻目に、薬草の調合を行っているメリスに話しかけるエルキ。
「何だ、エルキ?」
「もし、僕の人格が消えたら...この鎖を君に託そう...。」
そう言ってエルキは自身の身体から取り出した鎖をメリスに見せた。
「....」
「メリス?」
「いらねーよ....その代わり、ちゃんと治して俺とギル....そしてエルキ...お前達とまた三人で楽しく日々を過ごさせてくれ。」
それは、メリスの心からの願いであった。自分はどうなってもいい...だけどエルキは助けて欲しい。それだけを心に留め、何度も何度も、試行錯誤を繰り返して薬を調合し続けるのだった。
━━━━━━━━━━━━━━━
それからメリスは自身の知識を活用し、薬草から作り出した薬を何度も服用させたが効果は無く、それどころか日に日に増して、エルキは苦しんでいった。
ギルも今回ばかりはメリスの指示に従い、何度も必要な薬草や薬に使える花等を採取してはまた採取といった様子で手伝ったものの、そんな二人の頑張りを嘲るかの如く、エルキの様子は前述の通りであった。
そして、エルキの原因不明の高熱から約12日後のある日、
「僕は....どうやら、ここまでのようだ。」
「何言ってんだ....まだ助かる方法はある筈だ!」
「でも....」
「待ってろ、今から薬草を採りに...」
篭を背負い、何処かへと出掛けようとした所、ギルが行く手を阻んだ。
「メリス....もうよい。」
「でも.....でも.....!」
メリスは悔しくて涙を流した。自分には薬草だけでなく、人体に関する知識がある。漸く思い出した自分の技術や知識...それらを活用してもエルキを助けることが出来ない。その事実を認めたくはなかった。だが、ギルに「もういい。」と言われ、体から力が抜けていくのが分かった。
「クソッ....何も出来ないのか....俺には何も...」
「メリス....」
「そんな悲しそうな顔をしないでくれ...メリス」
「エルキ...?」
エルキに声を掛けられてメリスは少しずつ、近付いていく。
「こんなにもしてもらったんだ...悔いは無いよ....でも、ただ一つ....たった一つだけ心残りがあるとしたら....それはギル...君の事だ。」
「我のこと....?」
「僕が居なくなってしまえば....もう君を理解出来る者は居なくなる....誰が君の孤独を埋めてくれるのか....それだけが、僕の心残りだ。」
エルキは悲しそうな目をしてギルを見た。
するとメリスは、エルキの手を取って、
「大丈夫だ....俺がいる....例え、お前が居なくなっても...俺はギルを孤独にはしないしさせない...約束するよ....お前に、ギルにも。」
「メリス....」
メリスの言葉を聞き、エルキはクスリと笑った。
「それを聞けて安心したよ....もうギルは...一人じゃないんだね。」
エルキはそれだけを告げると眠るようにして息を引き取った。
「エルキ?...おい、エルキ....エルキドゥ!」
「エルキドゥ!」
二人が何度呼び掛けてもエルキドゥは答えず、二人は自分達の親友エルキドゥはもう此処には居ないのだと、嫌でも理解させられた。
「エルキ....お前言ってたな、俺に鎖をやると...」
メリスはエルキの服から飛び出していた鎖を掴むと、それを自身の右腕に巻き付けた。
「有り難く使わせて貰うぞ...エルキドゥ。」
「!....この気配は...」
「!....あいつ....よくも...!」
ギルとメリスが何者かの気配を感じ取り、我先にとメリスが飛び出していった。
━━━━━━━━━━━━━━━
「さて、あいつらの間抜けな顔でも拝んでやるとしますか。」
ふたりが感じ取った気配は女神、イシュタルのものであった。
「さてさて...あの暴君ったらどんな様子かしら....ってあぶな!」
イシュタルが王宮に入ろうとした時、鎖が彼女の顔目掛けて飛んできた。
「これは...エルキドゥの鎖...?」
「貴様、よくも俺たちの前に姿を見せられたな、この恥知らず!」
イシュタルが顔を向けた先には、右腕に鎖を巻き付けたメリスが怒りを剥き出しにしてこちらを睨んでいた。
「貴様の性で.....貴様のせいで....エルキは....!」
メリスの目には、イシュタルを殺す対象としか認識出来ておらず、彼はエルキを殺された怒りと憎しみをイシュタルにぶつけてやろうとしか考えていなかった。
「止めろメリス!...人間のお前が、女神に叶うものか...!」
メリスを後ろから羽交い締めにして、止めるギル。
「放せギル!...俺はコイツを...!」
「お前がエルキを失った悔しさは我も理解している....だが、お前が今此処でイシュタルに殺されたら...残された者達はどうなる!」
「ハッ!」
ギルの言葉で我に返り、鎖を納めて怒りを何とか静めた。
「そう...だな、悪かったよギル。」
「ちょっと!私に対する謝罪の言葉は無いの!?」
「「は?」」
イシュタルの発言にメリスとギルは怒りを露にした。
「な、何よ....大体、あんな泥人形が居なくなった程度で落ち込んでんじゃ無いわよ!」
「あ?」
イシュタルの発言は文字通り、火に油を注ぐ行為であった。
「貴様....ん?」
メリスは隣にいたギルにふと顔を向けた。そこには、今まで滅多な事で怒る事の無かった暴君が女神に対して、怒りの矛先を向けていた。
「女神イシュタルよ...我が盟友に対する侮辱の言葉...これ以上発するならば、命は無いと思え...!」
ギルの言葉には、怒りだけでなく先程のメリスと同様の感情が篭っていた。
「う...わ、悪かったわよ....暫くは此処には来ないわ。」
それだけ言うとそそくさと姿を眩ませるのだった。
そしてこの日を境に、メリスは「女神」とエルキドゥに対する「侮辱」に怒りを覚える様になった。
━━━━━━━━━━━━
それから数日後、
「行くのか?」
「ああ、我はこれから不死を求めて旅に出る。」
「.....止められないんだな?」
「ああ、止まるつもりは無い。」
メリスはエルキの死から死とは何かを探す為、そして不死となるため旅に出る事を決めたギルを見送りに来ていた。
「留守は任せるぞ、メリス。」
「全く、何時も何時も...面倒事は俺に任せて....まぁ、良いさ....行ってこい...お前が帰ってくるまで...俺がこのウルクを守る...約束しよう。」
「ああ、頼んだぞ....メリス。」
「じゃあな...ギル。」
「また逢おう...我が盟友、メリスよ。」
ギルはメリスをそう呼んでから旅に出た。
これから先、ウルクを任されたメリスはどうなるのか、それはまだ誰にも分からない。だが、確実に言えるのは、ただ一つ━━━━
メリスの運命はもうじき終わりを迎えようとしている。ということである。
第二章はどの物語に参加させたい?(どの話でもクラスは確定)
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蒼銀のフラグメンツ
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Fate/apocrypha