ギルが旅立って数日が経ったある日、
「漸く...戻ってこれた。」
ウルクの王 ギルガメッシュは自身の盟友 メリスに国の運営を一任し、不死を求めて旅に出ており、漸く帰還したところであった。
だが、
(どういう事だ?....門の前に兵士が一人もおらぬ...?)
門は何者かの手によってボロボロにされており、普段から門の前に配置されている兵士が一人も居ないのである。
(まさか....あの時我が見たのは....!)
「王。」
「!...シドゥリか。」
突然声を掛けられて驚いたが、その人物がシドゥリだと理解すると安堵の表情を浮かべた。
「シドゥリ、一体これはどういう事だ?...門の前に兵士が一人もおらぬ...それに門が崩れている...これは一体...」
一体、何があったのか? そう訪ねようとした時、
「失礼します。」
一言だけギルに謝罪するとシドゥリは彼の頬に平手打ちを放った。
「な!?....何をするのだ!...シドゥ...リ?」
シドゥリの目からは、涙を滝の様に流しており、とても悔しそうな表情を浮かべてギルを睨み付けていた。
「一体...この数日間、何をしていたのですか!....貴方が居たら....メリス殿は....!」
(メリス?)
「一体、メリスに何があったというのだ!?」
ギルの質問に対し、シドゥリは踵を返すと、
「こちらです、付いてきて下さい。」
とだけ伝え、ギルをウルクへと案内する。
(まさか....あの時見た"未来"が....?)
ギルは旅立つ前、自身が視た"未来"を思いだし、それが現実になったのではと危惧しつつもシドゥリの後に続いた。
━━━━━━━━━━━━━
王宮内の王の間にて、
「ラヌス、連れてきましたよ。」
「ラヌス?」
見るとそこには何故か、メリスの妻でありギル達の幼なじみでもあった女性 ラヌスがしゃがみ、目を腫らしてこちらを見ていた。
「お帰りなさい、ギルガメッシュ王....」
「ラヌス.....。」
自分が不在の際、何かあったのだろう。
そうギルは理解し、申し訳ない気持ちになった。
だが、彼女がしゃがんでいた理由を目撃した瞬間、その気持ちが更に罪悪感に苛まれる事になる。
「メリ...ス?」
ラヌスがしゃがんでいた理由。それは、ボロボロになり、眼は両方とも瞳が白濁に染まり、左胸にナイフが刺さったメリスを介抱しているからであった。
「その声....まさかギルか?」
「あ、ああ....メリス、お前...!」
「安心しろ....急所はギリギリ外れている...だが、もう何も見えない...."魔眼"を使い過ぎたせいかな。」
「"魔眼"?...今、魔眼と言ったのか!?」
「ああ....。」
メリスが"魔眼"を所持していた事は驚きだったが、今はそれよりも何故こうなっているのか疑問を確かめる事にした。
「一体、何があったのだ?」
「.....なら、話すとしよう....そうだな、お前が旅に出た日の話から語ろう....」
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数日前、ギルが旅立った後の事
「おはようございますメリス殿。」
「おはようございます、シドゥリさん。」
互いに挨拶を交わし、業務に取り掛かろうとしたところでシドゥリが気付く。
「そう言えば、まだ王の姿を見ていませんね。」
また何処かでサボっているのだろうと目星を付け、探しに行こうとしたところで、
「あー...シドゥリさん...非常に言いにくいんだけど...」
言葉を濁しながらメリスはシドゥリに伝えた。
「あいつ、旅に出ました。」
「............................え?」
ほんの数秒程であったが、シドゥリはポカンとし、メリスの言葉の意味が分からないといった様子であった。
「え?....な、何故です?」
「エルキの死を体験して死とは何かとあいつなりに考えた結果、不死になろうとしたらしいです...全く、馬鹿だよな...あいつ。」
嘲るように笑うとメリスは仕事に取り掛かろうとして王宮に入ろうとした時、
「....けるな」
「え?」
「ふざけんなあの馬鹿王━━━━━!!!」
「おおっ....こんなシドゥリさん、初めて見た。」
シドゥリは遂に堪忍袋の尾が切れ、この場に居ないギルに対して初めて悪態をついた。
「ちょっとあの馬鹿王殺してきます。」
「え?....いや、え?」
突然のギルガメッシュ殺害予告に戸惑ったメリスだったが、直ぐにシドゥリを止める。
「ま、待って待って...あの馬鹿殺そうと思ったらエルキの力必要になるから...というかシドゥリさんみたいな普通の人なら先ず間違いなく殺されます。」
冷静に分析して落ち着きを取り戻して貰おうとシドゥリを宥めるものの、
「ならメリス殿....私と共にあの馬鹿を殺しましょう。」
と、共謀して殺してやろうとこちらに持ち掛けてきた。
「いやいやいや!何で俺?...何で俺まであの馬鹿を殺さないといけないんですか!?」
「だってそのほうが精神的ダメージ与えられると思ったの。」
「思ったの....?」
普段から真面目なシドゥリがこんな風に可愛く話した事で戸惑いつつも普段とのギャップで少しだけ萌えたメリスであった。
その後、何とか落ち着いてもらい、普段通りの業務を行ったもののメリスの負担は普段の約3倍程となり、業務が全て終了する頃には真っ白に燃え尽きてしまっていた。
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「今日の報告は以上です。」
「分かりました、下がって大丈夫です。」
本日の業務を終え、メリスの代わりにシドゥリが兵を下がらせる。
メリスはギルの分まで業務を行い、へとへとになってしまった。
(つ...疲れた、あいつの分までやるとなると此処まで大変だとは...)
これは今日の"夜勤"は厳しいかな と思い、休む事にした。
因みに"夜勤"とは言わずもがな、暗殺家業のことである。
「~♪....ん?」
通り過ぎようとした裏路地に何かを見つけ、立ち止まる。
「止めてください!」
「いいじゃねぇかよ~~ほら、」
どうやら男が女性に対して如何わしい事を仕出かそうとしている様子、
「おい!そこで何やってる!」
メリスが男に向かって声を荒げる。
「チッ!...執務官か...クソッ!」
男はメリスの姿を見るや否や直ぐ様、その場から走り去っていった。
「大丈夫ですか?」
「え、ええ...ありがとうございます。」
メリスは男には目も暮れず、女性に声を掛けて様子を伺う。
どうやら男に襲われそうになっただけであった。
「この辺りは暗くてさっきみたいなのに襲われやすい...気を付けな。」
ヒラヒラと後ろ手で手を振ってその場を後にした。
「あっ...名前、」
聞きそびれちゃったな...と呟いた女性は胸を締め付ける感覚が何なのか分からずにいた。
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それからメリスはギルの仕事まで掛け持ち、王政を何とか取り仕切ってウルクの街を発展させ続け、夜は何時ものように依頼を受け、ある時は女装して潜入...またある時は、魔獣の討伐を行っていた。
そんなある日の事、
「今、何と言った?」
「ええ、ですから...この街から逃げた男達を
一瞬、耳を疑った。何故、自分達の土地から逃げ出した者達を殺さなければならないのか、何故自分達の手でやろうとしないのかなど考えは様々なものであった。
(でもまぁ...今までの依頼内容を考えれば、有り得ない依頼ではないしなぁ...)
少し悩んだ後、彼が導き出した結論は...
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「この辺りかな?」
結局メリスは依頼を受け、逃げ出した男達の居場所を動物に訪ね、そして特定していた。
(いくら仕事とはいえ....やっぱキツいな。)
今までの暗殺者としての活動を思い出しては、そう思うメリスであった。
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「誰だ!」
逃げ出した男達の集落にメリスが脚を踏み入れると、集落の中にいた一人の男が槍を彼に突き立てた。
「...少し落ち着いてくれ。」
両手を挙げて降参の意思を男に見せ、落ち着きを取り戻して貰おうとするが、
「うるさい!...お前"も"なんだろ...」
(お前"も"?)
男の言葉に耳を傾け、何か裏があることを悟ったメリス。
「あんたの言い分だと、以前にも依頼されてあんた達を殺しに来た奴らがいたようだな...だが、俺は一思いにあんた達を殺そうとは思っていない...少しばかり、話を聞きたいだけだ。」
落ち着いた言葉で何とか男達を落ち着かせようとするが、
「うるさい!そんなの...そんなの、信用出来るか!やっちまえ!」
男は怒りで我を忘れており、メリスの言葉など聞く耳持たない様子。
これにはメリスもやむ無しとみなして痛い目を見てもらおうかと考えた時、
「そこまでだ!」
突如、男の後ろから別の男性の声が響いた。
「リーダー...!」
男性はリーダーと呼ばれ、男達の注目を浴びていた。
「ラーム、この者の言葉に嘘偽りは全く感じられない...ここは素直に話をすべきではないだろうか?」
「リーダー...しかし...!」
「"暫く黙っていろ...!"これはリーダーとしての命令だ。」
「....分かった。」
リーダーはラームと呼ばれた男を黙らせるとメリスに近付き、メリスを取り囲んでいた男達を下がらせた。
「手荒な歓迎で済まない...私はこの集落のリーダーを努めているマーニアという者だ。」
「いや、侵入者に対しては正しい反応だ...俺は依頼を受けたメリスというものだ。」
マーニアはメリスの名を聞いて戸惑いを見せた。
「メリス...!?まさかあんた、ウルクの執務官では?」
「まぁ、そうだが。」
「何であんたがこんなことを?」
「まぁ、色々事情があってな....今の仕事だけじゃ子供を養えないんでな。」
メリスがそう説明するとマーニアは納得した。
「成る程な....それで、何で俺達から話を聞きたいと思ったんだ?」
いきなり核心を突いた質問をメリスに投げ掛けるマーニア。
「依頼してきた村長の反応がおかしかったんでな、依頼した理由を聞いても全く答えてくれなくて...これは、あんた達に聞いた方が分かるかと思ってな、仕事を受けるかどうかはそれから決めれば良いと...そう、俺が判断しただけさ。」
「成る程....。」
マーニアはメリスの言葉を聞いてから少し考える素振りを見せた。
「ここで立ち話もなんだ...少し移動しよう。」
「ああ。」
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集落の中心部にて、
焚き火を囲うようにしてマーニアとメリスは座り、マーニアは話を始めた。
「俺達も最初は、あの村はとても住みやすい場所だと思って暫く過ごしていたさ。」
「なら何故?」
「.........」
マーニアはメリスを一瞥し、黙った。
「....話すべきかどうか....いや、言った方がいいな。」
「?」
独り言でブツブツと何か呟くマーニアにメリスは疑問符を浮かべる。
「あんたなら話しても大丈夫そうだな.....あの村では、夜な夜な恐ろしい事が行われていたんだ。」
「恐ろしい事?」
マーニアの表情は次第に曇り始め、次に彼の口から飛び出た言葉はメリスを驚かせた。
「"生け贄"さ....それも全く意味の無い、ただの殺しだ。」
「!!」
マーニアの話はこうだ。
自分達は別の場所からやって来た流れ者だったが、あの村で暮らし始めた頃、村人達は自分達にとても優しく、親切にしてくれ自分達は彼らに恩を返す為に毎日毎日、汗水垂らして畑を耕したり、家畜の世話をして暮らしていたそうだ。しかし、ある日の夜マーニアは眠れず、散歩でもしてから床につこう...そう考えて家を出た時、
村長の家から灯りが漏れている事に気付き、何をしているのだろうと興味本位で覗いたそうだ。
その中では何と、
「以前、流れ着いた者が生きたまま"解体"されていた...と。」
「.....ああ。」
なんとも信じられない話であったが、マーニアの表情から察するに真実のようである。
「流石に目を疑った....しかし、俺が今話した事は事実だ。」
「....流石に、キツかっただろう。」
「ああ、直ぐに家に戻って床に付こうとしたが...目に焼き付いちまって....吐いてしまったよ。」
無理もない。生きたままの人間の解体ショーなんて常人が見れば嘔吐するのは当然の反応である。
「そこからは、流れ者達を全員集めて逃げ....現在に至る訳だ。」
マーニアの話を聞いて、納得した。
「成る程、合点がいった....要するに、あの村長は自分達の所業を見られたと思い、俺をあんた達に差し向けた訳だ。」
"狂っている"...メリスは村長に対してそう評価した。
生きた人間を解体するなんて正気の沙汰ではない。
何よりも、現在ギルが居ないこの国でそんな悪行は断じて許す事が出来ない....そう思った。
「話してくれてありがとう...俺はこれで。」
「もう行くのか?」
「ああ」
何にせよ、真実を見極めなければならない。
マーニアの言葉を信じるべきかどうかはこれから考えるとしよう。
そう思い、集落を後にした。
━━━━━━━━━━━━━━━
「さて、どうしたもんか。」
マーニアの話を聞いて、これは村から話も聞くべきではないだろうか?と思った。
「そうだ...こういう時は...」
何かを思いつき、メリスは再び村へと足を踏み入れるのだった。
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深夜、
「....準備はいいか?」
「ああ。」
ある場所から様子を伺う集団が、闇夜に紛れていた。
「よし、行くぞ!」
「
意気込んで、
そして、
『うおおおおおお!?』
入り口に罠が仕掛けられており、男達は一人残らず網に捕らえられてぶらんと宙に浮かんでしまう。
「"やはり"....
悲しそうな顔をして、男達を見上げる一人の男
そう、メリスであった。
「何で...!?」
「何で
簡単な話さ。そう言って、右腕を真横につき出す。
するとメリスの腕に一羽の鳥が止まる。
「俺は昔から動物の言葉が分かる....何故かは知らないが、コイツに聞いた所、村で殺しをしていたのはお前らだと証言してくれた。」
「.....くっ!」
ここまでかとマーニアは悔しがった様子を見せた。
(計画が破綻して悔しがっているのかお前達が殺してやる癖に俺に嘘をついたな....全く、
メリスは自身の考えにふとした違和感を感じた。
(今...なんて考えた?....これだから、人間は信じられない...?....何だ...それ?まるで俺が、人間に
「ぐっ!!」
再び、メリスの身体は強烈な頭痛という警鐘を鳴らす。
まるで、それ以上考えれば今までの自分には戻れないような...そんな感じであった。
(ここまで頭痛が酷くなると....俺は、自分自身の過去に近付いて来ているのか....?)
恐らくはそうなのだろうと、納得する。
━━━━━━━━━━━━
その後マーニア達を引き渡し、 メリスは先程の頭痛の理由について考え始めていた。
(最初に頭痛が起こったのは、グガランナを討伐した次の日だったな....)
その時、メリスは自分が
この事からメリスは、過去の自分は、実は子供ではなく大人か青年の姿をしており、医者として働いていた。そして、人に裏切られた事がある。
そういう事か...と納得する。
勿論、頭が割れそうな程の痛みが彼を襲ったが、それでも何とか思考を続け、上記の仮説に辿り着いた。
「此処までは分かった...後は...
メリス自身、ホントは此処まで思い出せただけでもよかったのだが、自分の本当の名前を思い出す。それだけで、何か新たな"力"に目覚めるるのではないだろうか?そんな気持ちが浮かび上がってくる。
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「それで、自分の過去の記憶を殆ど思い出した訳か...」
「と言っても、全体の9割位だな....残りの記憶は虫食い状態で肝心なものは全く分からなかった。だからこそ、後は名前を思い出せれば全ての記憶を取り戻せると考えた。」
まぁ、かなり時間が掛かったが...と、
「それで、その後どうやって記憶を取り戻したのだ?」
「そうだな....まぁ、色々あったが....」
━━━━━━━━━━━
それから数日が経ったある日、
「はぁ....今日も憂鬱な1日....。」
ため息を吐きながら鬱蒼とした様子のメリス。
「ま、まぁ...頑張りましょうよ...ね?」
シドゥリが何とかメリスを説得して今日の業務を開始しようと試みる....そんな時、
「報告します!このウルクに向かって大量の魔獣が押し寄せてきます!」
一人の兵士からの報告に耳を疑った。
「何だと!?」
不足の事態に、メリスは戸惑いを隠せないでいる。
突然の強襲、それに対する策など何一つとして出来上がっていないのだから...
「直ぐに伝令を回せ!」
「ハッ!」
慌てて、対策を講じるメリス。それが吉と出るか凶と出るか誰にも分からない。
「先ずは、ウルクの防衛の為にバリケードを作る....粘土板をこっちに...!」
「此方に...」
渡された粘土板にイメージしたバリケードの設計図を刻んでいく。
「これを木で作れ。」
「木で...ですか?」
「いいから急げ!ウルクの危機なんだぞ!」
「ハッ、はい!直ちに!」
「そっちは門の強化を急げ!」
「そこの隊は砲台を用意しろ!」
次々に指示を出し、魔獣に対して戦う意思を見せる。
しかし、
「砲台完成までの時間は?」
「急いでも、3日は掛かるそうです。」
「門の強化は?」
「今、急いで作らせていますが....時間が...」
といった具合で、出来上がるまでに時間が足りず、例え完成してもそれまでにウルクは魔獣の手によって壊滅は免れないだろう...
(どうする?...仮に急がせれば...最高でも3日...かといって遅らせても魔獣によってウルクは壊滅....兵士を防衛に回す?...駄目だ、犠牲が多くなる...。)
メリスは必死で考えた、どうすれば魔獣の群れを倒せるか...どうすれば、犠牲無くウルクを救う事が出来るのかを...
「!」
そして気付いた、必要最低限の犠牲でウルクを救う方法を...
━━━━━━━━━━━━━
「これでよし...後は、」
その後、メリスは自宅へと戻り暗殺家業で使う衣装、武器、薬品等を準備していた。
「ダガー、剣、薬品よし....最後に」
仮面を手にし、そのまま付ける。
「.........」
自宅を見渡し、目を閉じる。そして覚悟を決めたメリスは、
「行ってくるよ。」
そう言い残し、家を出ようとした所、
「誰!?」
ラヌスに見つかってしまう。
「既に避難したと思ったんだが...」
「...忘れ物を取りに戻ってきたのよ....それより、あなた誰...?」
暗がりなので顔は見えず、今のメリスは仮面を付けているため、ラヌスは正体が分からなかったのだろう。
「気にするな...何も盗っちゃいない...邪魔したな。」
そう言ってラヌスの横を通り過ぎようとした時、
「...!...待って!」
メリスから漂う匂いにラヌスはハッとなり、そのまま腕を掴んだ。
「....まだ何か?」
怪訝そうにラヌスを見るメリス、彼なりの最期の別れのつもりなのだろう。
「...そうやって、誰にも知られずに死ぬ気?...メリス。」
「!...やっぱり、気付くか。」
自分の変装には自身があったものの、匂いは消すことが出来なかった。
「当たり前よ、私があなたの事で気付かない事なんか無いもの」
「それにしては、俺の正体に気付くまで時間が掛かったみたいだが?」
「そ、それは...その...」
「...まぁ、下らない話は此処までだ....俺は行く...例え、俺が死ぬことになってもだ。」
メリスの目は真剣そのものであった。だが、
「...駄目よ。」
「...駄目か。」
「認めない....認められないわよ...こんなの、貴方を見殺しにしろと言ってるようなものじゃない!!!」
ラヌスはそんなの受け入れられないと怒りを露にする。
(そりゃそうか......そうだろうな...でも...それでも俺は、)
「それでも俺は、このウルクを救いたい...ただ、それだけなんだ。」
メリスはそう言って、ポーチから小瓶を取り出してラヌスに嗅がせる。
「何...を......!?」
ラヌスはそのままメリスにもたれ掛かるように倒れ、メリスに抱き抱えられる。
「強力な睡眠薬だ....最低でも3日は目を覚まさない....悪いな、こんな...不出来な夫で。」
自虐的に笑い、ラヌスを寝かせる。
「じゃあな。」
そして、門の前まで歩いて行くのだった。
その途中、
「あ、あの!」
「ん?」
ふと呼び止められ、足を止める。そこには身体を腕で覆い、顔を俯かせた女性がそこに立っていた。
「あんたは?」
「以前、貴方に助けて頂いたものです。」
そんな事あったっけ?と思いながら思い出す。
「もしかして、夜襲われそうになってた...?」
「はい!...やっぱり、覚えててくれたんですね。」
そう言うと女性は嬉しそうに笑顔で此方に近付いてくる。
「....えっと、どういったご用で...?」
恐る恐る聞きながら女性の返答を待つ。
「どうせ、最期ですから...せめて、貴方にお礼をと...」
女性の目からは光が消えており、これから死ぬのであろうと予感し、悟った様子。
どうやらこの都市に、大量の魔獣が責めてきている事を知り、自分の死を悟ったのだろう。
だからこそ、最期に自分を助けたメリスにお礼を言いに来たのだろう。
メリスはそんな女性の肩に手を置いた。
「え?」
「安心してほしい、この街は...必ず俺が救う....何があっても。」
それだけ言い残すと、メリスは再び門へと歩いていった。
━━━━━━━━━━━━
「さて、行く前に思い出さないと....」
路地裏で自分の過去について思い出そうと躍起になっていた。
どうやら最期にやり残した事として、自分の過去を思い出すことがあったようで、現在門の近くの路地裏に佇んでいた。
(といっても、俺の過去を知ってる奴なんて...いないよなぁ。)
そんな事を考えていたら、チリン、と鈴の音が聞こえた。
「!?....今の、音は....」
周囲を見渡すと、メリスの目の前に一匹の黒猫が鎮座し、此方を見ていた。
「どうした?....こんなところ....で!?」
その瞬間、メリスは再び激しい頭痛に襲われた。
「ぐあっ.....!!!」
(何だ....急に頭痛が!?....黒猫を見ただけで.....ん?黒、猫?)
メリスは目の前の黒猫が気になり、一瞥する。
「ニャーン」
猫は嬉しそうに此方を見て鳴いた。
(この猫は....俺の事を知っているのか?)
「黒猫...いや、違う....こいつの....名前は....」
目の前の黒猫に既視感を感じ取り、必死に名前を思い出そうとする。
「そうだ...確か......ネロ...」
そして、メリスも....遂に、
「轟....烈斗...!」
自身の名前を思いだし、途端に自身の両目に何かの力が宿ったのを感じ取った。
「これは....一体...?」
目をネロに向けると身体が透けて見え、 赤く光る箇所を見つけた。
「もしかして....弱点....か?」
恐らくはそうなのだろうと考え、ネロを撫でた。
「悪いな...お前まで巻き添えにしたみたいで...でも、俺は大丈夫だから....お前はラヌスの所に行ってくれ。」
メリスの言葉を聞き、ネロは一言 ニャーン、とだけ鳴いてそそくさと何処かへと歩いていった。
「....さて、と...行くか...!」
━━━━━━━━━━━━━━━
門の上、メリスは目下の地面を見下ろし、その先を見た。
「来ているな....それもかなりの数だ。」
そこには、恐らく数十万匹の魔獣であろう影が此方に向かって走ってきているのが見えた。
「.........」
それを見てメリスは目を閉じて胸の前で拳を握った。
思い出すのは、ギルやエルキ、ラヌス達と出会い楽しかった思い出の数々。
「ありがとうよ、ギル...ラヌス....そしてエルキ....お陰で俺は幸せだったよ。」
そう言って飛び降りようとした時、
「そこで何をしている!!」
振り向くとそこには門を守る兵士が二人に此方に近付いてくる。
「ここは危険だ....早く避難しろ!」
「メリス殿の指示があるまで、住民は避難が言い渡されている筈だ。」
その言葉を聞いてメリスはクスリ、と笑い。
「なら命令だ....砲台と門、そしてバリケードの完成を急げ。」
それだけ言うと、メリスは門の前に飛び降りた。
「あっ、おい!」
兵士達は訳が分からなかったが、それでもメリスの伝えた砲台と門、そしてバリケードの完成を急ぐ必要があると理解していたので、直ぐに門とバリケードの作成に取り掛かった。
━━━━━━━━━━━━━
「さて....俺の人生最大の修羅場だ....やるだけやってやる...!」
降りた先で先ず最初に襲いかかってきたのは、四足獣のウシュガルムだった。
噛み付かれそうになった所で避けつつ、首を切り落とす。
それを幾度も重ねて行い、徐々に門から引き離していく。
『怯むな!相手はたった一人だ...数で押せば勝てる...前進しろ!』
どうやら魔獣の中にの人語を介する物がいるらしく、そんな声がメリスの耳に届いた。
だが、
「遅い...」
魔獣の動きよりもメリスの速度が勝っており、魔獣がメリスに近付くよりも速くメリスは反応して、魔獣の首を落としていく。
「かかってきな...人間の力を思い知らせてやる...!」
メリスの眼光は鋭く、魔獣のリーダー格となっているギルタブリルを圧倒するほどであった。
『なんだ....お前は一体、何者なんだ!?』
「この都市を守護する王の....親友だ!!!」
それからのメリスの活躍は凄まじい程であった。
ウシュガルム、ムシュフシュの頸をダガーで斬り落とし、ウガルの脚を黒曜石の剣で切断、他にも多種多様な魔獣の急所を"魔眼"の力を使い、的確に見抜いて攻撃を繰り返していた。
そして...
━━━━━━━━━━━━━
それから三日程経過したが、メリスは一睡もせずただただ自分に近付いてくる魔獣を一匹、また一匹と屠っていった。
だが、
「ハァッ...ハァッ...ハァッ...」
流石のメリスにも疲労の色が見え始め、肩で息を始める。
『奴に疲れが見え始めた!今なら殺せる...かかれ!』
そんなメリスをほおっておく筈もなく、メリスの様子から現在の身体状態を察知したギルタブリルは襲い掛かるよう指示を出した。
「....」
しかしメリスはいち早く反応し、右腕に巻き付けたかつての友
エルキドゥの鎖を使い、魔獣を数匹捕獲する。
「オォ...ラァ...!!!」
纏めた魔獣を地面に叩き付け、殺す。
その瞳には、未だ闘志が宿っていた。
「何の...目的があって....このウルクを...攻めて...来たのか...知らないが、引き返すなら....今の内だぞ...魔獣ども...!!!」
メリスの言葉に底知れぬ威圧感を感じ取った魔獣のリーダー格
ギルタブリルは、
『て、撤退...直ちに撤退しろ!!!』
魔獣達に撤退の指示を出すと、引き返していった。
攻めてきた魔獣の数はおよそ数万匹いたが、撤退した魔獣の数はおよそ数百匹程度にまで減っていた。
この事から、メリスはたった一人で三日三晩一睡もせず魔獣の群れに立ち向かっていったのだと分かるほどである。
━━━━━━━━━━━
(流石に....ヤバイな。)
メリス本人は、魔獣が撤退したことで安堵したがそれと同時に自身の視界がボヤけていくのを感じ取った。
(完全に見えなくなる前に、ウルクへ...)
一歩、また一歩と歩みを進めてウルクへと戻ろうとするメリス。
そして、
(もう...少し)
あと一歩でウルクに戻れる。
そう思った瞬間、
ザグッ!!!
そんな音を立てて、背中から刃物が胸まで飛び出していた。
「な...に...!?」
振り向くと其処には、
『ゲ...グゲゲゲ...。』
以前メリスが殺さなかったゴブリンがメリスの身体を貫いた刃物を握りしめていた。
『アイツラノ...カタキ...!!!』
その様子を見たメリスは、沸々と自身の中で怒りが噴き出してくるのを感じ取った。
「俺が生かしてやった理由....分からなかったみたいだな...!」
左腕の縄でゴブリンを拘束し、そのままダガーで頸を翅ねた。
「全く、最後まで...格好つかないな。」
その後、目を覚ましたラヌスに抱き締められ、自身の背中に深々と突き刺さった刃物を抜いてそのまま膝枕を堪能している所で、
━━━━━━━━━━━━━━
「我が...帰還したと云う訳か...。」
「そういう事だ。」
「....」
メリスの様子と話を聞いて、ギルは後悔した。自分がもっと早く、ウルクに戻ってきていればメリスのこんな姿を見る事は無かったのに、と。
「なぁ、ギル...」
「なんだ...メリス。」
メリスは一呼吸置いて話し始めた。
「俺は...エルキと共に、お前達を見守ってるよ。」
自分の死を悟り、そう呟いた。
「馬鹿な事を言うでない!....お前は、お前が居なくなれば....我は...」
「はは....お前の感情的な所、見るのはこれで二回目だな...」
そう言って目を閉じようとした時、
『メリスさん』
突如としてメリスの耳に声が聞こえた。
(誰だ....?)
『私は何者でもありません。ですが、呼ぶのでしたらら"抑止力"と呼んでください。』
(その抑止力が...死に行く俺に、何の用だ?)
『簡単な話です、貴方に"英霊"となってもらいたいのです。』
(ハッ、俺が英霊だ?...馬鹿な事を言うな....それならギルになってもらえばいいじゃないか。)
メリスがそう言うと、
『ええ、彼"にも"英霊となって貰いましょう...只し、彼の死後に...ですが。』
(な...!?)
言っている意味が分からない。コイツは一体、何を言っているのだろう?そんな疑問がメリスの中を駆け巡った。
『貴方には英霊になってもらいます....その代わり』
(その代わり?)
『どんな願いも一つだけ叶えて差し上げましょう。』
(願い...か)
メリスは考えた。これと言って特に叶えたい願いなど無かったからだ。
だが、一つだけメリスの中で叶えたい願いがあった。
(なら、俺の願いは...)
━━━━━━━━━━━━
『宜しいでしょう、では今から貴方を英霊に昇華させましょう。』
抑止力は、メリスにスポットライトのような物を当て、彼を空に昇らせていく。
そして、
(此処は...?)
気が付いた時、メリスがいたそこは.....
第二章はどの物語に参加させたい?(どの話でもクラスは確定)
-
蒼銀のフラグメンツ
-
Fate/apocrypha