自己紹介を終え、教室の奥で待機していた竜馬は、真耶の授業風景を観察していた。
(しかし、まさか真耶ちゃんと同じクラスになるとはね。てっきり違うクラスになると思っていたんだが……)
竜馬は腕を組み、先週の事を思い出していた……
*
一週間前、竜馬がIS学園の講師になるに際し、彼を講師としての採用するか否かの試験が急遽執り行われる事になった。
一次試験の筆記と二次試験の面接に関しては、竜馬は苦も無く合格し、最後の三次試験を残すのみであった。
「さて?最後の試験は何なのかな?」
「最後の試験は模擬戦を通した実技試験だ。お前にはこれからISに乗って試験官と模擬戦を行ってもらう。ここでの勝敗は採用試験には影響しない」
「ならなぜ行うんだ?」
「お前がISに対してどれだけの適性があるか測るには、実戦に勝るものはないからだ」
「成程、僕がどれほどISとの相性が良いかを見極めるって事だね」
「そうだ。本来であれば訓練機としてラファール若しくは打鉄に乗るべきなのだが、お前は専用機持ちだから、そちらで適性を見極める事になる」
「相手の試験官は?」
「
「わかってるよ。でも……」
「でも……?」
「別に、勝ってしまっても構わないんだろう?」
竜馬は笑顔で応えた。それに千冬も釣られて、笑顔になった。
「ふっ、お前らしいな……っと、そろそろ時間だな。頑張ってこい」
「ああ、行ってくる」
竜馬はそれだけ言うと、カタパルトに向かった。
「……よし、行くぞ!打鉄改!」
竜馬はキーホルダーを掲げると、キーホルダーが輝き、一瞬にしてISを形成、竜馬の身体に装着された。
これぞ立花竜馬専用IS、「打鉄改」である。
「立花竜馬、打鉄改。行きます!」
カタパルトから出撃した竜馬は、眼前にISを纏った女性を見つけた。
(形状からしてラファール・リヴァイヴか……)
ラファール・リヴァイヴとは、フランスのデュノア社が開発した第2世代型ISで、汎用性の高さから打鉄以上の人気を持っていた。
竜馬はラファールの前で静止した。
「貴方が今回の試験官ですね?」
「は、はい!本日の試験官を担当します山田真耶と言います!」
女性―――山田真耶はそう言うと、深くお辞儀した。
すると、管制室に到着した千冬が、マイクで竜馬に話しかけてきた。
『竜馬、ルールは簡単だ。制限時間内に
「わかってるって。まったく、心配性だな千冬は」
『なっ!?し、心配などしてはいない!!お前のためにルールを確認しただけだ!』
千冬は少し顔を赤くして否定した。
「(やれやれ。素直じゃないな)山田先生。今日はよろしくお願いします」
「あっ、はい!よろしくお願いします!」
真耶はお辞儀で返した。
『よし、では始め!』
千冬の号令とともにゴングがアリーナに鳴り響いた。
「フンッ!トォォッ!」
「ッ!?ハッ!」
竜馬は
「むっ、ならば!」
竜馬は真耶の射撃が牽制と読み、そのまま追いかけて上昇した。
「(牽制を見抜いた……!?)だったら!」
真耶は拡張領域からキャノン砲を呼び出してラファールの両肩に装備し、砲弾を発射した。
「甘い!トォッ!」
しかし竜馬は、両腕の固定武装であるトンファーブレードを使って砲弾を両断した。
「嘘!?至近距離の砲弾を切断するなんて!?」
真耶は竜馬の人外じみた行動に戦慄した。それも無理はない。如何にISを装着しているとはいえ、竜馬は今日初めてISに乗った初心者だ。とてもはじめての挙動とは思えない。
それは、打鉄改が改造人間である竜馬の身体能力を反映したカスタマイズが施されているからなのだ。
打鉄とは、日本の倉持技研が開発した量産型第2世代ISで、デュノア社のラファールとともにIS学園の訓練機として採用されている。
打鉄の特徴はなんといっても、堅牢な装甲と近接格闘能力の高さである。
汎用性と豊富な装備が売りであるラファールに対し、打鉄は安定した性能に加え近接格闘戦を基本とした設計と操縦者の生残性を考慮した為、ラファールに比べて防御力が高められている。これは開発グループの中に剣道有段者を始めとした武道の有段者が関わっているとされるが、詳細は不明である。
だが、竜馬が駆るこの打鉄改は束によって極限にまでチューンナップされており、打鉄の特徴である装甲を敢えてギリギリまで削り取って機動性を確保したほか、反応速度と出力は最早人では扱えないほどの調整が施され、実質的なトータルスペックはそこら辺の第3世代ISを軽く上回っている。
まさに、改造人間である立花竜馬だからこそ扱える機体なのである。
「よし、今度はこちらから行くぞ!トオォォッ!」
竜馬は瞬間加速で一気に真耶との間合いを詰めると、反撃を開始した。
「トォッ!トォッ!トォッ!」
「くっ……早い……」
真耶はなんとかギリギリのところで一撃一撃を回避するが、竜馬の拳打の早さはあまりに人間のそれとは思えない程の速度であった。
そして、遂にスタンナックルの一撃が真耶を捉えた。
「っ!?機体がショート!?」
スタンナックルの直撃を受けたラファールは、駆動系がショートしてしまった。
「今だ!トオォォォッ!」
竜馬は天高く飛翔すると、足裏部のレッグスラッシャーを起動した。
「スラアァァッシュ、キイィィック!」
「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
スラッシュキックの直撃を受けた真耶は、そのまま地面に激突した。それと同時に、ラファールのSEが0になった。
『それまで!勝者、立花竜馬!』
「よし!」
竜馬は小さくガッツポーズを取ると、そのまま真耶の許へ向かい、手を差し伸べて、彼女を起こした。
「大丈夫かい?」
「うぅ……お、お強いですね……」
「まぁ、鍛えてましたから」
竜馬は笑顔で答えた。
*
その様子を、千冬は管制室で見ていた。
「全くアイツは……いや、アイツだからか……」
千冬は竜馬という男をよく知っていた。彼が自分よりも他人を優先するお人好しで、しかもお節介やきだという事を。
誰にも優しく、笑顔で接する彼を……
千冬が懐かしさに浸っていると、背後にいる気配を察していた。
「ふっ……で、貴様はいつまでそこにいるつもりだ?」
千冬は振り向きながらそう言うと、管制室に赤い瞳に水色の髪の女生徒が入ってきた。
「随分と新しい教師を買っているようですね?で、噂の二人目の男性操縦者の腕前はどうですか?」
「ふっ、私の見立て通りだ。と言っても、貴様は別の方が気になるのではないのか?楯無」
女生徒——————更識楯無は扇子を開いて口元を隠した。扇子には、
「勿論」
と、草書体で書かれていた。
「その通り、私が気になるのは“IS操縦の技量”よりも“改造人間”としての彼の力量ですから」
「ほぉ、よくご存知だな。さしずめ“組織”の事もリサーチ済か」
「勿論。で、彼の返事はどうですか?」
「ほう、本人に聞かないのか?」
「白々しいですね織斑先生。彼には内緒話など意味をなさないでしょう?ねぇ、立花竜馬?」
楯無はそう言うと、扉の方を振り向いた。
すると、先程までアリーナにいた筈の竜馬が現れた。
「やれやれ。僕の聴力も調査済とはね。流石は政府のの対暗部用暗部〔更識家〕の現当主だ」
竜馬は、楯無の正体を見抜いていた。
更識楯無。IS学園現生徒会長兼ロシア代表で、〔学園最強〕の異名を持つ生徒。
しかしてその正体は日本政府直属の対暗部用暗部〔更識家〕の17代目当主である。
「あら、盗み聞きとは感心しませんね。立花竜馬……いや、“仮面ライダー”と言った方が宜しかったですか?」
竜馬は千冬を守るように楯無と向き合い、彼女を警戒した。
それは、自分が仮面ライダーである事を楯無が見抜いていたのだ。
「……それで、何が望みだい?」
楯無は再び扇子を開いて口元を隠した。扇子には先程とは異なり
「情報提供」
と、書かれていた。
「私が提示する条件は、貴方が腰に巻いているベルトのデータを私に提供する事。その見返りとして、我々更識家から国内で暗躍している“組織”の情報をそちらに最優先で提供する。悪い話ではないでしょう?」
竜馬は警戒心を解かなかった。
「悪いけど、君の申し出は受け入れられない」
「ほぉ、理由を聞いてもよろしいですか?」
「理由は三つ。一つは情報提供役はもう既に間に合っている事。もう一つは君が“組織”と内通していないという証拠がない事。そして最後は……」
竜馬は一旦間をおくと、ハッキリとした声で答えた。
「……最後は、本心を見せない人間は信用できない事だ」
「…………」
室内に、張り詰めた雰囲気が漂っていた。千冬は2人の駆け引きをただ見つめ、竜馬と楯無は向かい合ったまま、動こうとはしなかった。
しかし、それは長くは続かなかった。
「…………ふふっ」
「…………?」
唐突に、楯無が笑みを浮かべたのだ。その意図を竜馬は理解できなかった。
「いえ、貴方のそのお言葉が聞きたかったのですよ。どうやら、貴方は敵ではなさそうですね」
「一応、信用されたと見ていいのかな?」
「勿論です。ベルトのデータは諦めますが、“組織”の情報に関しては逐一貴方にお届け致します。貴方もそれをお望みでしょう?」
「まだ僕は君を信用したわけではないけど、ないよりマシだね。良いだろう」
「では、私はこれで。バアァ〜イ〜」
楯無は手を軽く振りながら、部屋を後にした。
「やれやれ。貴様も厄介な奴に目をつけられたな。しかし良かったのか?更識家と本格的な協力関係を結ばなくて」
「まだ僕は更識家を完全に信用しているわけじゃないからね。それはあちらも同様だろうさ」
「貴様いつからそんな策士めいた事をするようになった?」
「長い間一人で戦って来たからね。いやでもそうなるさ」
「そうか……」
束から聞かされていたとは言え、竜馬はこれまでたった一人でオリンポスと戦い続けていた。だがそんな過酷な事にもめげず、人前では絶対に笑顔を絶やさない竜馬に、他人が見れば痛々しく思うだろう。
そう考えると、千冬の顔は少し沈んでいた。
それを見た竜馬は、あえて話題を変えた。
「さて、試験で一杯身体を動かしたからお腹空いちゃったな。千冬、ご飯にしようか!」
竜馬は笑顔で言った。千冬はその笑顔を見ると、何故か心が安らいだ。
(ふっ、そうだな。私はあの時誓ったのだ。たとえ人ではなかろうと、絶対に竜馬を支えると!)
「全く、酒の肴も頼むぞ」
「了解!」
そう言うと、二人は管制室を後にした。
*
現在––––––1年1組教室
(まぁ、あの後酒を飲んだ千冬に絡まれて色々あったけどね……)
竜馬はそんな事を思っていると、一限目も終盤に差し掛かろうとしていた。
(って、もう一限目も終わりに近いな。それにしても……)
竜馬は最前列中央に座る一夏の様子を見た。
一夏は頭を抱えて授業に苦戦していた。
(う〜ん、一夏君のあの様子、恐らくちゃんと予習してこなかったんだろうな。それにしても、一夏君はどうして参考書持ってきてないんだ?)
竜馬は一夏が参考書を持ってきていない事に気付いた。IS学園に入学する際、生徒には入学式一月前に参考書が無償供与される決まりになっている。
(ま、それは後で聞くとするか。二時限目は僕の授業だからね)
そう考えると、授業終了のチャイムが鳴り響いた。
次回予告
一夏に接触するイギリス代表候補生セシリア・オルコット。果たして彼女の目的は?
そして、クラス代表を決める投票で教室で波乱が起きる!
次回「珍騒動!?英国淑女は世間知らず?」にご期待下さい。