今回もまたしても本文字数が5000を超えてしまいました。書いていたらドンドン文字数が膨れ上がってしまいまして……
それでは、本編です。
仮面ライダーメーデンが、オリンポスの要塞島を壊滅させて一週間後――――――
その日の放課後、IS学園の第3アリーナで1年1組のクラス代表決定戦が行われていた。
対戦カードは、イギリス代表候補生のセシリア・オルコットと、世界初の男性IS操縦者である織斑一夏であった。
現在注目の男性IS操縦者が代表候補生と対戦するという事で、他のクラスは勿論のこと、上級生もこの第3アリーナに押し寄せて、アリーナの会場は満席状態になっていた。
そしてそんな第3アリーナでは、ある問題が発生していた。
そう、一夏のISがまだ来ていないのだ。
この6日前、一夏は千冬を通じて専用機が受理される事を通達されており、その関係で今回の決定戦の日程が調整されていた。
さらに、竜馬はその機体を束が開発している事を束本人から前もって聞かされていた。
束なら期日までに機体を完成させてくれるだろうと思った竜馬は、それに安心していた。
それにも関わらず、一夏の専用機がまだ来ていないのだ。
この事態に、控室にいた竜馬はある一つの考えに行き着いていた。
(まさか束の奴、相当機体に熱を入れたのか?……それならこんなに遅くなるのもわかるが……)
竜馬は、篠ノ之束という女性をよく知っている。彼女はあのような見た目と性格に反してかなりの職人気質であり、一切の妥協を許さないのだ。恐らく、当日ギリギリまで機体の調整にかかりっきりになっていたのだろう。それならば、この遅れに説明がつく。
竜馬は周囲に目をやると、顔には出していないが確実に苛立っている世界最強と、そんな事はいざ知らずで幼馴染の妹と談笑している弟がいた。
ちなみにこの一週間、一夏は箒と剣道の打ち合いや竜馬によるマンツーマンの補習授業を受けていた。
打ち合いは兎も角として、補習授業に関しては、一夏が竜馬に直々にお願いしたもので、曰く
「竜馬さんならなんとかしてくれる!」
との事らしい。
(僕は便利屋じゃあないんだけどなぁ……まぁ、いい経験にはなったけど)
兎にも角にも、この一週間、竜馬は教師として教鞭をとる傍ら、一夏の補習に付き合っていたのだ。
しかし、竜馬には気がかりな点があった。
(しかし、この一週間オリンポスの前哨基地に関する情報を僕なりに集めていたが、結局奴らの尻尾を掴めなかったな……)
そう。この一週間、竜馬は合間を縫ってオリンポスの情報を可能な範囲で収集していたのだが、結局めぼしい情報は得られずじまいだったのだ。
これまで世界各地でオリンポスと戦って来た竜馬にとって、この静けさは却って不気味に思えて仕方なかったのだ。
(奴らの基地に関する情報も、あれ以来一向に掴めずじまいだ。ひょっとしたら、
竜馬が深刻な面持ちでオリンポスの事を考えていると
「うぉっと!?」
突如、背後から出席簿が飛んで来た。竜馬は驚異的な反射神経でそれを避けた。
出席簿が飛んで来た方向を見ると、其処には苛つきを顔に出してきた
「ちっ、外したか……」
「ど、どうしましたか織斑先生?」
竜馬は恐る恐る千冬に尋ねると、千冬は気持ちを切り替えて、竜馬と向かい合った。
「どうしましたか?ではない。貴様、散々私が声を掛けていたのに気付いていなかったのか?」
「すみません。少し考え事をしていまして」
「まったくお前というやつは……まぁいい。実は、織斑の専用機の到着が少し遅れると先方から連絡が入った」
「どれくらいかかるのですか?」
「少なくとも、あと20分はかかる」
「大幅な遅刻だね」
「そこでだ。この際
千冬のその言葉に、竜馬は疑問に思った。既に竜馬は、山田先生との模擬戦でそれなりの実力を発揮している。にも関わらず、千冬は竜馬に模擬戦を所望してきたのだ。竜馬はいつもの口調で千冬に尋ねた。
「えっと……それはどうしてかな?」
「一つはIS学園教師の実力というものを生徒達にこの際ハッキリさせる事。そして、私が直々にお前の実力を見てやろうと思ってな」
「僕の実力を?」
「そうだ。一応、世間的にはお前も世界で二人目の男性IS操縦者だ。山田先生は兎も角、学園内ではお前の実力を疑問視する教師や生徒の声が少なくない。そこで、私と模擬戦を行う事でお前の実力を改めて再確認させておこうと思ってな」
「なる程ね。僕は別の理由があると思ったけど」
竜馬の余計な一言に、千冬は顔を紅潮してしまった。少し照れを隠しながら理由を付け加えた。
「け、決してお前と久し振りに組手をしたいとか、そういうのではないからな!あくまで、織斑の専用機が来るまでの間を埋めるためだからな!」
千冬のその仕草に、逆に竜馬は可愛く見えてしまい、微笑みを浮かべた。
(やれやれ。素直じゃないな)
「と、兎に角!私は向かいで機体を準備するから、お前もさっさと準備しろ!」
「ああ、わかったよ。そんなに照れなくても良いじゃないか」
「て、照れてなどない!先に行って待ってるぞ!」
「ああ、行ってらっしゃい」
千冬は顔を少し赤くしながら向かいの控室へ向かうのを見送ると、竜馬も準備を始めようとした、その時
「あの、竜馬さん」
「ん?」
不意に、背後から声をかけられた。竜馬は後ろを向くと、それまで二人で話し合っていた一夏と箒がいた。どうやら先程の会話を聞いていたらしい。
「あの、大丈夫なんですか?相手はあの千冬さんですよ」
「おいおい箒ちゃん。僕の実力は君達もよくご存知だろう?そう簡単にやられはしないよ」
「それはあくまで“痴話喧嘩”での話じゃないですか!流石に竜馬さんでもISを纏った千冬姉じゃあ……」
「一夏君。僕は間接的にとはいえ一応ISの開発に携わった人間の一人だ。そう簡単にやられはしないよ」
「しかし……」
「ま、死なない程度には頑張るよ」
竜馬はそう言うと、準備に向かった。
*
ピットに到着した竜馬は特注のISスーツを身に纏い、待機状態になっていた打鉄改を取り出した。
「さて……行きますか!」
竜馬は打鉄改を装着し出撃すると、既に打鉄をその身に纏った千冬が空中で仁王立ちをしていた。さらにその姿からは強者の風格が満ち溢れており、まさに
「来たか。まさかこういう形でお前と打ち合えるとはな」
「僕も驚きだね。しかし、やっぱり良いものだね。空は」
「ふっ。お前は変わらんな」
「そうだね。だが、今は目の前の事に集中しないとね!」
竜馬は
二人が出す殺気に、アリーナに詰め寄った生徒達も静かになり、周囲が静寂に包まれた。
その様子を控室で見ていた一夏と箒も、真剣な表情になった。
そして、試合開始のブザーが鳴った。
「うぉぉぉぉぉぉっ!」
「ハァァァァァァッ!」
ブザーと同時に、両者は
「フンッ!セイッ!ハァッ!」
「トォッ!トォッ!トォッ!」
千冬の鋭い剣戟を、竜馬は時には受け流し、時には両腕のトンファーブレードで受け止め、時には回避した。
「まったく、本当に君は引退したのかい!これなら現役復帰した方が生徒の為だと思うね!」
「こんな時にも皮肉とは随分余裕があるな!」
「まさか!こういうのを言わないとやってけない程だよ!」
「ふっ、ならもっと飛ばさせてもらうぞ!」
千冬はさらにその剣戟を速めた。一発一発の重く、そして鋭い一撃を、竜馬は丁寧に対応していった。
その様子を、一夏と箒は控室のモニターで観戦していた。
「すげぇ……千冬姉の剣戟に正確で対応している……」
「流石は竜馬さんと言うべきか……」
二人の戦いはモンド・グロッソのような「スポーツ」では表せない。言うなれば、「決闘」と言うに相応しい戦いであった。
その戦いを見て、一夏と箒はある事に気付いた。
「一夏、これは……」
「箒もか。実は俺もそう思っていたところなんだ」
「ああ。今の状況では確かに千冬さんが優勢だが……」
「決定打に欠けている。それに対して竜馬さんは、千冬姉の攻撃に対応しながら、常に逆転の機会を伺っている」
「いつもの“痴話喧嘩”では見られなかった戦法だ。竜馬さん。いつの間にあのような戦術を……」
箒と一夏が知らないのも無理はなかった。この3年間、竜馬が《仮面ライダー》として戦ってきた事で、かなりの戦闘経験を培ってきた。その過程で、竜馬の戦闘スタイルは徐々に変化していったのである。
その頃、竜馬は千冬の剣戟に対応しながら、次の手を模索していた。
(千冬の剣戟は3年前に比べて更に洗練されている。それに一発一発の間に隙が全然見当たらない……だが、この攻防が徐々に千冬の体力を消耗させている……このまま行けばいずれ息切れを起こす。そこが勝負の時だ!)
しかし、それは千冬も同様であった。
(改造人間である竜馬との戦いは長期戦になれば必ず私は負ける。だからこそ短期決戦で奴を倒す以外に方法はない。しかし奴のガードは頑丈だ。だが、どんな頑丈な守りにも必ず綻びがある筈だ……そこを突ければ勝てる!)
お互いに一進一退の攻防に、会場は唾を飲んだ。そして、それは別室の控室にいたセシリア・オルコットも同様であった。
(なんという凄まじい戦い……男は貧弱と思っていましたが、これ程の
暫くして、千冬の顔から疲労の顔が出始めてきた。それを見た竜馬は、旗色がこちらに傾いている事を薄々感じ取った。
「どうしたんだい千冬、息が上がってきてるぞ。昔に比べて体力が続かないのか?」
「はっ!この程度で根が上がる程私も軟弱ではない。お前こそもう限界じゃないのか?」
「
「そっちの事ではない!そろそろケリをつけさせてもらうぞ!竜馬ぁ!」
千冬はそう言うと、渾身の袈裟懸けを振り下ろそうとしたその一瞬の隙を、竜馬は見逃さなかった。
「!!今だ!トォォォッ!」
≪推奨BGM:交響詩ザ☆ウルトラマン第四楽章 栄光への戦い~勝利の闘い~(ザ☆ウルトラマンより)≫
竜馬は千冬の右腕に強烈な手刀を叩き込んだ。
「グッ!?しまった……私としたことが……」
手刀の衝撃に、思わず千冬は手にしていたブレードを落としてしまう。
竜馬は間髪入れずに千冬の身体を両腕で掴んだ。
「いくぞ!必殺、竜巻シュート!」
竜馬は両腕で掴んだ千冬の身体をまるで独楽のように振り回すと、その遠心力で投げ飛ばした。
「ぐぅぅぅっ!姿勢制御が追いつかない……!?」
投げ飛ばされた千冬は独楽のように投げ飛ばされたため、姿勢制御もままならなかった。
「トォォォォォォッ!」
投げ飛ばされた千冬目掛けて、竜馬は空高く飛翔し、足裏に装備されたレッグスラッシャーを起動した!
「スラァァァッシュ、キィィィック!」
「グワァァァァァァッ!」
竜馬は必殺のスラッシュキックを手負いの千冬に叩き込んだ。
スラッシュキックの直撃を腹部に受けた千冬は、その衝撃をモロに受け地面に激突した。
そしてその衝撃で、千冬の機体のSEが0になり、試合終了のブザーが鳴った。
『それまで!勝者、立花竜馬!』
アナウンスが流れると、アリーナは一旦静寂に包まれたが、程なくして大歓声が地響きの如く響き渡った。
「千冬、大丈夫かい?」
竜馬は地面に激突した千冬の方に駆け寄ると、そっと手を差し伸べた。
「ふふ……ISなら遅れはとらんと思っていたが、私も歳かな?」
「おいおい。まだ20代半ばでそれを言うのかい?ほら」
千冬は差し伸べられた手を掴むと、自力で立ち上がった。
「しかし、これ程の試合をやっちゃったら本題の代表決定戦が霞みそうだね。一夏君とオルコットさんには悪い事をしてしまった気分だよ」
「ふっ、それだけは貴様に言われたくないな。貴様もノリノリだったではないか」
「それを言われると僕も手厳しいね」
「ふっ……さぁ、戻るか」
「ああ」
二人はそんなやり取りをすると、それぞれのピットに戻った。
*
ピットに戻った竜馬を待っていたのは、一夏と箒、そして真耶が迎えてくれた。一夏に関しては、見た事もないISをその身に纏っていた。
「どうやら一夏君のISが届いたようだね」
「は、はい!織斑先生と立花先生が試合を行ってくれたおかげでなんとか
竜馬は真耶の話を聞きながら、一夏に目をやった。
一夏がその身に纏ったISは綺麗な純白の装甲に、かつて千冬が現役時代に使っていた刀をその右手に持っていた。
「これが……一夏君のIS……
「はい。竜馬さんほど上手く動かせるかわかりませんけど、千冬姉の顔に泥を塗らない程度には頑張ります」
「そうか。それでいいよ。ああ、それと一夏君」
「はい?」
「この一週間で僕が出来るのはここまでだ。後は君次第、実践あるのみだ。ほぼぶっつけ本番だけど、君ならできると、僕は信じてる」
「……はい!頑張ります!」
「うん、いい
竜馬は一夏の肩をポンと叩くと、打鉄改を待機状態に戻して、ピットを後にした……
それから数分後、織斑一夏とセシリア・オルコットによる1年1組クラス代表決定戦が執り行われた。
試合は先の試合同様の激戦となり、結果は僅差で一夏が勝利した。その時のセシリアと一夏のSE残量差は、コンマ1ミリだったという。
これによって、1年1組のクラス代表は、晴れて織斑一夏が就任する事になったのである…………
次回予告
「やぁ!暑い日は夏野菜をふんだんに使った料理を食べて、夏バテに気を付けるんだよ。次週はこれだ!」
クラス代表決定戦から一夜明けた朝、一夏と箒の寮室と寮長室にちょっとした異変?
次回「それぞれの朝」