今回はモスキメラ戦の中編です。
当初はここで終わるはずでしたが、執筆中に5000字を越えていた事に気付いてしまい、止む無く三部作になりました。申し訳ありません。
では、どうぞ。
前回のあらすじ
中国四川省のとある山へハイキングに来ていた凰鈴音と渡五郎は、道中で人間大の大きさの毛虫怪人に襲われる。
怪物の正体は、オリンポスのキメラボーグ、モスキメラだった。
リンを逃すべく、果敢に立ち向かった王は、山の底へ落ちた。
そして、辛くも逃げ出した鈴は、2年前に失踪した筈の立花竜馬と再会する。
その再会も束の間、2人の前にモスキメラが現れた!
*
竜馬は状況がまるで飲み込めていない鈴を庇うようにモスキメラの前に立ち、構えをとった。
「エケケケケケケケ!オリンポスの名を知っている以上、生かしておくわけにはいかん。スパルタ兵!二人を殺せぃ!」
「ゲェーッ!ゲェーッ!」
モスキメラの号令と共に、スパルタ兵が茂みから現れ、二人を包囲した。
「ちょっ!?なによこいつら!?」
「鈴ちゃん!僕の側から絶対に離れないで!」
竜馬は狼狽える鈴に言い聞かせた。
「かかれぇ!」
モスキメラの命令の下、スパルタ兵が一斉に二人へ襲いかかった!
「フン!ハァッ!」
「ゲェッ!?」
竜馬は臆せず襲いかかったスパルタ兵の一人を受け流すと、次に襲いかかったスパルタ兵が持っていたククリナイフを奪い、それで斬り伏せた。
「トォッ!トォッ!」
「ゲェーッ!」
竜馬は鈴を守りながら、次々と襲いかかるスパルタ兵を斬り伏せていった。
しかし、形勢が不利なのには変わらない。竜馬は鈴と逃げることにした。
「こっちだ!」
「きゃっ!?」
竜馬は鈴の手を引っ張ると、そのまま逃げ出した。
「逃すな!追えぇっ!」
モスキメラは命じると、スパルタ兵が二人を追跡し始めた。
スパルタ兵の一人が竜馬めがけてナイフを投げると、ナイフは竜馬の右腕を切り裂いた。
「グッ!?ハァッ!」
「ゲェーッ!?」
竜馬は痛みを堪えながらククリナイフを投げてそのスパルタ兵を倒すと、そのまま鈴と共に走り去った。
*
「はぁ…はぁ…はぁ…」
「ぜぇ…ぜぇ…ぜぇ…」
二人は山中で洞窟を見つけ、その中に隠れていた。
竜馬は右腕の傷を抑えながら息を整えていた。その傷を見た鈴は、自分の不甲斐なさを実感すると、スカーフを引き千切ってそれを巻こうとしたその時、我が目を疑った。
それは、先程の傷が既に治癒していたのである。そして、鈴は恐る恐る問いかけた、
「竜馬さん、あの……」
「あぁ、傷ならもう治ったよ」
「そうじゃなくて、竜馬さんはアイツらについて何か知ってるの?それにこの二年間、どこで何をしていたの?」
鈴の問いに、竜馬は一旦目を閉じて深呼吸をすると、自嘲気味に口を開いた。
「…………そうだね。こうなった以上、鈴ちゃんにも話さなきゃダメだろうね。でも、一つ約束してほしい」
「約束?」
「今から話す事を、決して他人には口外しないこと。例えそれが一夏くんや弾くん、蘭ちゃんでも話さない事。千冬にもだ」
「そんなにヤバいことなの?」
「その言葉で済むなら、ね……」
竜馬は重い口調で話し始めた…………
※説明中
「…………以上が、僕がここに来たわけだ」
竜馬が全てを話し終えた時、鈴は衝撃を受けた。信じられない。目の前にいる兄貴分が、先程の化け物と同じ身体だという事が。だが竜馬の悲しそうな瞳が、それを真実だということを物語っていた。
「……まぁ、信じられないのも無理はないよね。目の前にいる友達が化けm「人間よ!」えっ……」
鈴は思わず反論した。その反論に竜馬は驚くが、そんな事はいざ知らずとばかりに、鈴は続けた。
「人間よ!だって竜馬さんは、あたしを助けてくれたじゃない!アイツらとは違う!竜馬さんは竜馬さんよ!だから…その顔で、そんなことを言わないでよ……うぅ…うわあぁぁぁぁぁぁん!」
感極まった鈴は、遂に泣き出してしまった。竜馬はそんな鈴にハンカチを取り出して、鈴の涙を拭った。
「ごめん鈴ちゃん。たしかに君の言う通り、これは僕らしくなかったね。ありがとう」
「竜馬さん……」
感謝の言葉を聞いた鈴の顔に、笑顔が戻った。
その時、竜馬は思い出したかのように鈴に問いかけた。
「そういえば、どうして鈴ちゃんはあそこにいたんだ?」
「あぁ、そのことね。実は……」
※説明中
「……なるほど。つまり、その渡さんのおかげで君は逃げられたのか」
「うん……」
鈴は肩を落として頷いた。それは、五郎を犠牲にしてしまったという罪悪感があったのだろう。竜馬は鈴の肩を軽く叩いて勇気付けた。
「大丈夫。その渡さんだって簡単にはやられはしない筈だ。きっとどこかに隠れているのかもしれない」
「でも…」
「信じるんだ。他人を信じられなくなったら、その先には絶望しかないよ」
「竜馬さん…」
竜馬は笑顔でサムズアップを掲げた。
それは、元気の証であった。
「……うん。あたし信じるよ。今は多分、それしかできないから」
「よしよし、それで良いんだ」
竜馬はそう言うと、鈴の頭を撫で始めた。あまりに唐突だったので、鈴はびっくりした。
「ちょ、ちょっと!いきなり撫でないでよ!」
「ははは、変わってないなぁ鈴ちゃんは」
「茶化さないでよ!」
かつてのように馴れ合う二人だったが、それに近づく足音が聞こえてきた。
「っ!?」
竜馬はすかさず鈴を庇いながら立つと、鈴の口元に指を立てた。鈴は声を抑えながら聞いた。
「まさか、もう追手がきたの!?」
「わからない。だが、足音は一人だけだ」
「わかるの?」
「改造人間である僕の聴力は人間の十数倍に強化されてるからね。数キロ先の足音を聞き分ける事ができるんだ」
「す、凄いわね……」
竜馬は鈴を庇いながら、足音が聞こえる方向を向いた。
足音が聞こえる方向は、洞窟の入り口からだった。
二人は近くの岩に身を潜めて様子を伺った。
すると、入り口から人影が入っていくのが見えた。
人影は一つだけで、連れはいなかった。
どうやら二人には気付いていないようだ。
(あいつらかしら?)
(それはわからない。兎に角様子を見よう)
人影は徐々に二人が隠れている岩に近づいており、二人は息を殺しながら身を潜めた。
人影は岩から三間先の所で立ち止まった。そして……
「いるのはわかっている。出てきたらどうだい?」
「っ!?」
(あれ、この声って……)
人影は二人に呼びかけるように声をかけた。声質からして、男性のものだ。
竜馬は警戒するが、鈴は異なる反応を示した。
「何も心配はいらない。今から灯りを灯す」
人影はランタン型の懐中電灯を取り出すと、電源を入れた。
LED電球が洞窟の中を照らし、人影はその正体を晒した。
(わ、渡さん!?無事だったの!)
人影の正体は、鈴と共にこの山に来ていた渡五郎だった。竜馬は鈴に確認をとった。
(鈴ちゃん。あの人が渡さんかい?)
(このあたしが見間違える筈がないじゃない!あの顔と声は間違いなく渡さんよ!)
(しかし、キメラボーグの擬態という可能性も……)
(このあたしがそんなに信用できないっていうの!?)
(そうじゃない。だけど、鈴ちゃんがそう言うのなら、彼の言う通りにしよう)
二人は五郎の支持通り、岩陰から姿を見せた。
「渡さん!」
「鈴ちゃん!無事だったんだね!」
「怖かった…怖かったよぉ…」
「よしよし、もう大丈夫だよ」
姿を見せた途端、鈴は五郎に抱きついた。五郎はそれを受け止めると、鈴の頭を撫でた。
竜馬はその光景を優しい表情で見つめた。
すると、竜馬の視線に気づいた五郎が話しかけて来た。
「ところで、君は…」
「渡さん。この人が前に話した竜馬さんよ」
「立花竜馬です。はじめまして」
「君があの立花竜馬くんか。鈴ちゃんから話は聞いているよ。渡五郎だ。はじめまして」
竜馬と五郎は握手を交わした。その際、五郎の手に触れた竜馬は、ある違和感に気付いた。それは五郎も同様だった。
(ん?なんだこの違和感は……)
(この感触は……)
手を離し、二人は互いに自分の手を見つめた。それを不思議に思った鈴が、二人に話しかけた。
「ねぇ、手がどうかしたの?」
「いや、大した事じゃないよ。それより渡さん。貴方はどうやってここへ?」
「あぁ、あの後僕は怪物の攻撃で山から転落してね、気が付いたら茂みに倒れていたんだ。それで近くを探索していたらここに来たんだ」
「なるほど……」
「ところで、竜馬君はどうしてここへ?」
「それは……っ!?危ない!」
竜馬が五郎の問いに応えようとしたその時、洞窟の入り口から殺気を感じ取り、二人の身体を引っ張り岩陰に隠れた。
すると、先程までいた場所が爆発したのである。
「エケケケケケケケ!とうとう追いつめたぞ!」
竜馬は洞窟の入り口に目を向けると、そこにはスパルタ兵を引き連れたモスキメラが立っていた。
「嘘!?もう嗅ぎつけられたの!?」
「馬鹿め!この山はこのモスキメラの庭のようなものだ!どこへ隠れようと逃げ場はない!それにしても仕留めたと思った相手がまだ生きていたとはな…これは好都合だ。丁度いい、この場で貴様ら三人を皆殺しにしてくれる!」
モスキメラが構えを取ると、スパルタ兵達は右手にロッドを持ち、ジリジリと三人に近づいた。
「……っ!?渡さん!何の真似ですか!?」
竜馬はモスキメラを睨みながら、上に羽織ったジャケットを脱ごうとしたその時、五郎が竜馬と鈴の前に立った。
「二人共、この場は僕が引き受ける。早く逃げるんだ」
「渡さんこそ早く鈴ちゃんを連れて逃げるんだ!奴らは人為的に肉体を強化改造された改造人間だ!“ただの人間の貴方”では……」
「そうよ!渡さんもあたし達と一緒に逃げようよ!」
鈴と竜馬が五郎を説得するが、五郎は引かなかった。
「…………“ただの人間”か」
「えっ……」
「渡さん、まさか貴方は……」
五郎は小さな声で呟いた。鈴はそれを全く聞き取れなかったが、改造人間である竜馬の聴覚は、その呟きを完璧に聞き取っていた。
五郎は両腕を上げて、扇子の端のように動かすと、両手を胸の前でクロスし、念じるように言葉を発した。
「剛力招来!」
すると、両手から生糸状の線が現れ、五郎の全身を包むかのように繭を形成し、その繭から芋虫のような見た目の戦士が現れた!
「!?」
「わ、渡さ…」
二人は五郎の変身した姿に呆然となったが、すぐに平静さを取り戻し、近くの岩陰に隠れた。
「な、何者だお前は!」
モスキメラが変身した五郎に問いかけると、五郎は構えをとって答えた。
「お前達のような人々の平和を脅かす悪魔から人類を守る戦士、サナギマンだ!」
「サナギマンだと……面白い、我らオリンポスに楯突くとはいい度胸だ。者共、サナギマンを殺せぇ!」
「ゲェーッ!ゲェーッ!」
モスキメラの号令と共にスパルタ兵がサナギマンへ一斉に襲いかかった。
「フン!トォッ、!トォッ!」
しかし、サナギマンは持ち前の怪力でスパルタ兵を圧倒した。
「すごい……」
「なんて強さなの……」
岩陰に隠れていた竜馬と鈴は、サナギマンの奮戦ぶりに圧倒されてその場を動けずにいた。
襲いかかるスパルタ兵に対し獅子奮迅の活躍を見せるサナギマンだが、そこへモスキメラが乱入した。
「ええい不甲斐ない奴らめ!こうなればこのモスキメラの火炎攻撃をくらえ!エケケケケケケケ!」
モスキメラは口から火炎放射をサナギマンに浴びせた!
「うっ!?くうぅぅっ!?」
火炎放射をモロに受けたサナギマンの身体に炎が燃え移った。
「エケケケケケケケ!どうしたさっきまでの勢いは?お次はこれだ!」
モスキメラは苦しむサナギマンを嘲笑うと、今度は口から粘着質や糸を吐き出してサナギマンの首を絞めつけた。
「ぐっ!?く、苦しい……」
首を絞められ苦しむサナギマンを、二人は岩陰でじっと見ていた。
「このままじゃ渡さんが……」
「…………」
鈴はサナギマンの身を案じるが、竜馬はサナギマンの腰に巻かれたベルトのバックルは、着々と光を灯しているのに気付いた。
サナギマンは、ベルトのゲージが頂点に達する時、彼はイナズマンへの変身が可能になる。
だがその間、サナギマンは敵の攻撃にじっと耐えねばならないのだ。
サナギマンは待つ。イナズマンに成長できる時を、ひたすら待ち続けるのだ!
(おそらく渡さんは今の姿では真の力を発揮できない。だから敵の攻撃に耐えているんだ。だが、このままではいずれ限界がくる……なら!)
「鈴ちゃん。ここでじっとしているんだ。いいね?」
「えっ?ちょ、竜馬さん!?」
竜馬は岩陰から飛び出すと同時に上に羽織ったジャケットを脱ぎ捨て、そのまま変身ポーズを取った!
「変っ…身!」
竜馬の音声を認識したケイモーンがメインダイナモの防御シャッターを展開し、大気を吸収し始めた!
改造人間立花竜馬は、変身ベルト「ケイモーン」の風車ダイナモが大気圧を吸収することで、仮面ライダーメーデンに変身するのだ!
「トオォォォッ!」
メーデンに変身した竜馬は、そのまま手刀でモスキメラの糸を断ち切った。
「エケェッ!き、貴様は!?」
「き、君は……」
モスキメラは一歩下がって構えを取り直し、サナギマンは首に巻きついた糸を解くと、突然現れたメーデンに視線を向けた。
メーデンはサナギマンの前に立つと、名乗りを上げた。
「俺の名は、仮面ライダーだ!」
窮地のサナギマンを間一髪のところで助けた仮面ライダーメーデン。
果たして二大ヒーローは、強力怪人のモスキメラにどう立ち向かうのか?
次回予告
さぁ、3話にかけてお送りしたモスキメラとの戦いもいよいよクライマックス。
果たしてサナギマンとライダーメーデンの二大ヒーローはモスキメラに勝てるのだろうか?
次週マスクドライダー・ストラトス「火を吹く毛虫怪人モスキメラ後編」にご期待ください!