それではどうぞ!
嫌な予感がした。
ただそれだけの理由で、ハイルちゃんたちの制止を無視してここまで追いかけてきた。
(…………刀夜くん、君だけは…君だけは必ず…………)
彼が向かったであろう場所は想像がついている。父さんがここに現れたということは、彼らの方にはあの人がいる可能性が少なからずある。
刀夜くんにとって最も効果のあるあの人。死んでいるはずだった、あの人。
私も生きていることを知ったのはつい一年前のこと。刀夜くんに知らせなかったのは、彼女はもう刀夜くんの知っている彼女ではないということが分かってしまったから。父さんたちと共に志していたあの頃の彼女では。
「刀夜っ!!」
漸く見えた彼の背中。思わず叫んだ彼の名前。だが、それに続く言葉も私の歩みもそこで止まってしまった。
「あら、自分からわざわざ来てくれるなんて」
そう言ったのは、彼の目の前に立つ女性。
冷たく私のことを射抜くような瞳。あの旧多ですら足元に及ばないような不気味な威圧感を感じさせるその人物を私は知っていた。そして、なによりここに居てほしくないと思っていた人物だった。
「……………漣日南…………」
彼の母であり、引退するまで最強の喰種捜査官として君臨していた漣日南。
彼女と父さんである”梟”と並んで最強の喰種と言われていた彼の父の間に生まれたのが刀夜。
そんな彼を欲したV。それを拒んだためにVの総力を持ってCCGに殺された彼の父と母。そんな彼女がVに付き従っている理由はたった一つしかない。
「あら、私のこと知っているのね?でも、丁度良かったわ、ノコノコと自分から現れてくれて……」
彼の母は私から視線を外し、刀夜へと視線を移して続けた。
「……刀夜、あの子を殺りなさい。そうすれば、あなたもVに受け入れてもらえるわ」
そう言われた刀夜はずっと下を向いていた顔を上げ、こちらに振り向いた。
(…………君に殺されるならそれもいいかな。それが君が望む未来なのだろう?)
全て受け入れる覚悟で私は私を見つめている彼の瞳に焦点を合わせた。
だが、その瞳は私の想像したものでもなく、どこか決意したような瞳だった。
◇◇◇◇
「…………出来るわね?刀夜」
その言葉で僕は決心することが出来た。
僕は顔を上げ、背後のエトさんに焦点を合わせた。
不安そうなのに、どこか覚悟している彼女の表情に僕がとれる行動は一つしかない。
一歩一歩確実に、母の元からエトさんの方へと歩みを進める。
そして、エトさんの目の前まで来たところで僕は羽赫を発現させた。
「ごめんっ、エトさん………」
そう言って僕は、羽赫で彼女を包み込んだ。
「…………刀夜……くん?」
信じられないといったような声で呼ばれた名前に僕は何も言わずに微笑んだ。
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