おはよう琲世   作:おんぐ

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本編はヒナミヒロインにしようと思って書きました。
でも、読み返してみればヒデがヒロインになってました。

(別)はエトさんルートです。
書いてみました。




エトの番
(別)後編〜


 

 

 

 

 

 

 「チッ、(ぁ"〜クソうぜえなもう)……ごめんねダーリン。売れっ子作家もなかなか辛いものでして…急用ができてしまったぜ」

 

 たはは、と高槻さんは困ったように笑った。僕も釣られて笑ってしまう。

 すると、彼女の笑みが悪戯っぽくなった。目と鼻の先まで、無遠慮に顔を寄せてくる。

 

 「でもあなたの匂い、私ちゃんと覚えたから…会いたくなったらいつでも会えるわ!うふふふーー逃げようなんて考えてないよな、もし?」

 「 」

 「うーん、お返事聞こえないなぁ」

 「はい」

 「うんいい子、いい子よ」

 

 

 

 店を出て別れた後。高槻さんは数歩先で振り返って、見た目相応に可憐に笑って小さく手を振ってきた。

 体感で、一時間は話したような気がする。彼女は話し上手で、その上聞き上手な人だった。特に相槌のタイミングがよくて、何も知らずにいられたのならば、心から楽しく会話が出来ていたと思う。

 表向きの性格の相性が悪くなかったことは認めよう。しかし時折、一瞬だけ高槻さんが見せる無機質な目が、僕をその度に現実へと引き戻した。

 と、現実逃避はこれまで。

 僕は高槻さんと交際する気なんて微塵もないのだ。できるわけがない。

 

 ーーこれから、どうしたらいいのだろう。

 考えても、考えても、考えても、何も浮かばない。

 

 

 生け垣のブロックに腰を下ろして頭を抱えていると、地面に影が射した。頭を上げる。目と鼻の先に、人の顔が迫っていた。

 

 「ねえ、これからデートしましょう?」

 「……用事、あったんじゃないんですか?」

 「うん。でもサボタージュすることにしたのだよ。なんだかね、もう二度とハイセ君と会えなくなる気がして」

 「……はあ、そうですか」

 「あ、信じてないな。中々に当たるものだよ。女の勘ってやつはさ」

 

 僕は困惑していた。

 そして、この申し出は、どちらにせよ無理な話だ。僕には、この後大切な用事があるのだから。

 

 「すみません。せっかくのお誘いで申し訳ないんですが、この後僕も用事があるので…」

 「誰と?」

 「…友人達とです」

 「ほーん、何するの?」

 「映画を観に…」

 

 高槻さんは何を思ったのか、その場にしゃがみ込んで、考える人のポーズを取った。本当にやる人初めて見た。少し感動。

 

 「それは私も……いや、私も参加決定だ。君のハニーを、是非ともご友人に紹介しておくれ」

 

 この人、どんな脳みそしているんだろう。会わせるわけがない。隻眼の梟かもしれないこの人を、僕が永近君に会わせる筈がないのだ。

 僕は、そんな思いを表に出さないようにして、再度申し訳なさそうにする。

 

 「すみません…実は、観る予定の映画は結構過激なので、高槻さんのような女性には…」

 「わたくし、過激なやつ大好物ですのでー。あ、ハイセ君は、女の子してる子の方が好み?」

 

 態とらしく、しなを作る高槻さんに、僕は何も言えない。

 

 「若者よ。ノリが悪いぞう」

 「…本当ですね。性格が合わないのかも。僕なんて面白くないので別れーー」

 「いやいやいや…。ハイセ君って、結構言う人なのかな。てっきり流されるタイプかと」

 

 今の一言で、はっきりと僕は理解した。やっぱりこの人は、遊んでいるだけだったのだ。他人を弄び、楽しんで喜ぶ、最低最悪な人だった。

 絶対に永近君に会わせるわけにはいかない。

 そして、タイミングを図ってどこかで通報することを、僕は今心に決めた。

 だから、ここはこの人に合わせるしかない。

 僕は、携帯を取り出して、永近君に謝罪のメールを送る。

 そして、高槻さんに向き直ろうとしたらーーいなかった。

 

 「へー、用事とな。私は二人きりで嬉しいけど」

 

 横にいた。

 さっきから、どうしでこんなに距離が近いのだろう。僕は、離れようとしてーー

 

 「その子さ、友達でも何でもないんでしょう?」

 「ひっ」

 

 僕は、小さく息を呑む。なぜ、僕はこんな反応をしているのか。高槻さんは、覗き込むようにして、僕の顔をじっと見てきた。

 

 「ふふ」

 

 高槻さんは、まるで聖母のような微笑みを顔に貼り付けた。そして、僕の正面へと回った。

 

 「私、君のこと少しわかっちゃった…君は、自分自身にも大うそつきだね、ハイセ?私と反対だ」

 

 高槻さんは、僕の顔にゆっくりと手を伸ばしてくる。

 僕は、心の底からこの人に恐怖していた。離れたいのに、触れられたくないのに、身体はピクリとも動いてくれない。

 高槻さんの指が、僕の頬に触れた。僕は、固く瞼を瞑る。

 

 「………あ。その顔いい。

  うん、好き。

  かわいいなぁ。

  なんか好き。

  なんだろーな…あー…

  好き……ウン、ウン…ん?……あっ?…おい何だこれなにこれやべぇぞ……はぁ……(これなに?)

 

 何やら幻聴が聴こえてきたので、恐る恐る見上げると、高槻さんがもの凄い顔をしていた。犬歯をむき出しにして、弱々しくも懸命に食いしばっている。目は潤んで逆上せたようにーーしかし爛々と輝いて、開かれた瞳孔は揺れていた。そして、真っ赤だ。

 宙で行き場を失った高槻さんの両手は、フラフラと漂って、頬の横に力なく添えられる。

 

 「……」

 「(ぅわあ………いやぁ……)

 

 僕は、すぅーと冷静になった。

 

 これは、決して自惚れではない。

 極めて、客観的に見てからの意見だ。

 

 ーー僕は、人が恋に落ちた瞬間を、初めて目にした。

 

 いや、いきなり、これはなんだと思った。

 僕は、この人に追い詰められていた筈だ。この人は、悪辣とした笑みを浮かべていた筈だ。何故こうなった。本当に突然なんなのだ。訳がわからない。

 

 見ているこちらが恥ずかしくなるような顔を、高槻さんは晒しているーー少し、気味が悪い。

 その顔を隠す余裕もなさそうで、ただこの人は、自分の状態に戸惑っている様子だった。

 

 あ。

 頬にやった手が、眼鏡の蔓を浮かせていた。

 落ちそうだ。

 僕は腰を上げ、高槻さんの顔から眼鏡が滑り落ちてしまう前に、手を伸ばした。

 抑えたそれを持ち直し、そのまま彼女の耳にかけ直した。

 気づかなかったけど、僕も意識が停止していたようだ。無意識からの行動だった。だから、やった後に後悔した。

 しかし、それを上書きする出来事が起きた。小さな悲鳴と共に、高槻さんの姿が僕の視界から消えたのだ。

 どこにいったのか。

 彼女は、地面にぺたんと尻もちをついていた。そして、そのまま背中から倒れた。

 ガン、と鈍い音がする。

 しかし高槻さんは、依然として逆上せたような顔をしたままだ。いや、さっきより赤い。もう、茹でダコみたいに真っ赤だ。動きはなかった。

 

 道を歩く人達の視線が、ぐさぐさと突き刺さる。

 僕は観念して、高槻さんを起こすべく、彼女の背中に手を差し入れた。

 

 

 「ひあっ」

 「うぉっあッ!?」

 

 ビュンッと高槻さんの頭が通り過ぎた。彼女は、宙でくるんと一回転して着地ーーあ、失敗した。足を挫いていた。

 いや、それどころではない。

 今の頭突きが当たっていたら、僕の額は割れていただろう。もしかしたら、破裂していたかもしれない。それほどのものだった。

 改めて、この人の危険さを再確認した。

 高槻さんは、僕から少し距離を取って、恐る恐ると目を合わせてきた。そして直ぐに、向こうから目を逸らされた。

 

 「高槻さん。少し体調悪いみたいですね。今日はゆっくりと休んで下さい。では、失礼します」

 

 先ほどとは別の意味で、嫌な予感しかしなかった僕は、勢いのままにその場から去ろうとした。

 しかし、待ったが掛かった。上着の袖を、掴まれていた。僕の心臓は縮み上がった。

 

 

 「い、いや待って…さい。そ、そうだ!お茶でもしていかないかな!!」

 

 高槻さんが指差す先にあったのは、ついさっきお茶したカフェだった。

 ボケたのだろうか。いや、違うだろう。

 慌てる高槻さんの様子を見て、僕は再度冷静になった。

 高槻さんが、自分の指の先を見る。

 

 「?……ぁっ」

 

 僕が声をかけるまで、この人は石のように固まって動かなかった。

 

 

 

 

 その夜ーー僕は、世間一般的にデートと呼ばれるだろうものを初体験した。

 映画の入場券を購入して、時間つぶしに目的もなく歩いたり、目についたゲームセンターでUFOキャッチャーをしたり、吐き気を我慢しながらパスタを胃に詰め込んだりーーした。

 その後は、普通に映画を見て、駅で別れて帰宅した。

 終始、高槻さんは、別人になってしまったかのように、言葉数が少なかった。

 

 

 

 

 




正しくは、自覚した。でしょうか。きっと、前の話で落とされてました。理由は知りません。





オレンジ…よし寝よう。おやすみなさい。
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