東方小魔録   作:店頭価格

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2・未熟な二人

「よっと、邪魔するぜ!」

 

 地下の扉を蹴破り、勝手知ったる他人の屋敷と我が物顔で大図書館に押し入ったのは、何時もと同じ恰好で箒に跨る霧雨魔理沙だった。

 彼女は、頭の三角帽子を押さえながら床に着地し、きょろきょろと周囲を見渡す。

 彼女が、この大図書館に訪れる理由は、大抵二つに絞られる。

 一つは、この場所の主であるパチュリー・ノーレッジに会う為。もう一つは、広大な大図書館から、魔道書を失敬する為。

 今日の用事は後者だ。

 

「ん? 珍しいな、今日は誰も居ないのか?」

「いえいえ~、私が居りますよ~」

 

 直ぐにでも迎撃が来ると思いきや、何の反応もなく拍子抜けした魔理沙の正面に降り立ったのは、何時もの通り書庫の管理をしていた小悪魔だった。

 

「よぉ、小悪魔」

「お久しぶりです、魔理沙さん」

 

 侵入者である魔理沙に対し、小悪魔は朗らかな会話で応じた。

 パチュリーから、大図書館の警備も任されている小悪魔ではあるが、彼女はもっぱら「部屋」を守る為にだけ働き、その中に貯蔵される「本」を守ろうとはしない。

 

「今日は、どういった本をお探しですかぁ?」

 

 しかも、小悪魔の行動は更に先をいっており、あまつさえ魔理沙に盗品の検索まで願い出る始末だ。

 危険な魔道書をなるべく触らせない為、という表の理由と、お気に入りの魔道書を持って行かれて、困ったり苛立ったりしている主人の顔が見たいという、下種な裏の理由からの申し出である。

 

「うーん。今日は入るのに苦労しなかったし、自分で探す気分だな」

「承知致しました」

 

 申し出を断られ、小悪魔はあっさりと引き下がった。魔理沙の監視も兼ね、彼女の後ろをまるで従者の如く付き従って歩く。

 大図書館は、空間を拡張し、入り口から伸びる一本の大きな通路を中心として、左右に天まで伸びる巨大な本棚を規則正しく並べた、非常に広大な場所だ。

 莫大な蔵書量故、本来ならば目当ての一冊を探すなど、ほとんど不可能に近い。

 だが、通路の奥に置かれたパチュリー用の質素な木製机には、検索で該当した図書館内の書籍を召喚、帰喚させる事の出来る術式が掘り込まれているので、魔法使いや魔力を持つ妖怪であれば、探索は容易だった。

 館の住人が誰でも利用出来るよう、自分以外にも使える術式を組んでいるのだが、部外者である魔理沙にすら扱える辺り、彼女の思惑が透けていた。

 

「これと……お、これも面白そうだな……後は……ん?」

 

 そんな事情は露とも知らず、しばらく机の術式をいじり、二、三冊の魔道書を手にした魔理沙だったが、不意に吸い込まれるような反応で、その場所に視線を移した。

 無限に続く本棚の一角は、一見何の変哲もないように見える。

 

「どうかなさいましたか?」

「いや……」

 

 だが、小悪魔の疑問に曖昧に答えた魔理沙は、何もないはずのその空間に近づくと、おもむろに右手を伸ばす。

 

「――づっ!」

 

 途端、弾かれるような衝撃が彼女を襲い、魔理沙は顔をしかめつつ慌てて手を引いた。

 

「ってー。何だ、結界か? これだけ巧妙に隠してあるって事は、見られたくないものがこの先にあるのか?」

「さて、どうでしょうねぇ」

 

 今度は、魔理沙の質問に小悪魔が曖昧に答える。

 

「ま、良いや。開けてからのお楽しみだぜ」

 

 小悪魔の返答は、魔理沙の負けず嫌いに火を付けただけだった。勿論、小悪魔はその反応が返って来る事を理解した上で、彼女を焚き付けている。

 結界の先には、三日ほど前からこの大図書館に住まう、主の大事な玩具が居るからだ。

 

「ぺっぺっ、そんじゃ――だあぁぁぁぁぁぁ!」

 

 術式を読んで魔法を解いたり、適切な方法で結界に穴を開けたりといった、本来の魔法使いが行うような理詰めで無駄のない解術とはほど遠い、両手に付けた唾と魔力を頼りにしただけの、強引な破壊。

 

「ぐぬぬぬぬぬ……っ。だっしゃあぁぁぁぁぁぁ!」

 

 力任せもここに極まり、といった無茶苦茶な力技で、魔理沙は結界そのものを消し飛ばす。

 

「ぜぇっ、ぜぇっ……さーて、一体何が出て来るかなっと――子供?」

 

 肩で息をしながら、消滅していく結界から中を覗いた魔理沙の目に飛び込んで来たのは、大図書館の床で一枚の毛布に包まれ、小さく寝息を立てる黒髪の少年だった。

 

「おいおい、小悪魔。こいつはどういう事だ? 何で人間の子供がこんな場所に居るんだよ」

「さぁて、どうしてでしょうねぇ」

 

 正に予想外といった結界()の中身に、困惑する魔理沙からの質問を、先程と同じく曖昧に答える小悪魔。

 

「しかも、結界が張ってあったって事は、今の今まで監禁してたって事だよな?」

「私の一存では、お答え致しかねますねぇ」

 

 苛立ち始めた魔理沙にも、やはり小悪魔は笑顔のままだ。この小さな悪魔は、今の状況を存分に楽しんでいた。

 

「良いから教えろよ」

 

 元々直情的な性格である魔理沙は、解り易く怒っていた。

 年端もいかない子供が、人外の館で閉じ込められて隔離されていたのだ。真っ当な理由ではない事は、容易に想像が出来る。

 魔理沙が子悪魔に向ける手には、彼女の象徴である八卦炉が納まっていた。

 その名の通り、八方体をした小さな箱型の魔道具で、魔力を火力へと変換し、外へと放出する機能を持つその道具は、魔法使いとして未熟な彼女の切り札とも言える代物だ。

 

「流石のお前も、全身を消し飛ばされたら死ぬんじゃないか?」

「私を殺す? それは、この館の全てを敵に回すおつもりでなければ、お勧めしませんねぇ」

 

 絶体絶命の状況にありながら、小悪魔は余裕の笑みを崩さない。

 性格や言動に問題があっても、小悪魔はパチュリーの下僕であり、紅魔館の一員だ。

 館の住人は、例え何者だろうと身内を害する者を許しはしない。もしもそれが、小悪魔自身の自業自得であったとしてもだ。

 

「……ちっ」

 

 しばらく睨んでいた魔理沙は、脅しが効かない事を悟ると小さく舌打ちして、八卦炉を懐へと戻す。

 牽制からこう着状態となったその時、再び入り口の扉が勢い良く開かれ、門番であるはずの美鈴が姿を現した。

 

「よう、美鈴。今日は内勤か? お陰で妖精メイドが門番やってて、楽に入れたぜ」

「単なる休憩時間よ」

「そうか、今日の私は色々ついてるな」

 

 魔理沙は、この大図書館に訪れるまで、館の主要人物に一切出会わず到着していた。

 今、目の前に居る門番も、館の中では何時出会っても不思議ではないメイド長とも、館の主である吸血鬼にもだ。

 運が良いにもほどがある。これぞ、日頃の行いというものなのだろうと、魔理沙は一人で勝手に納得した。

 

「なぁ、お前はこの子供の事を知ってるか?」

「えぇ、知っているわ」

「教えてくれ。何で人間の子供が、こんな化け物屋敷に居るんだよ」

「教える義理はないわね」

「お前も小悪魔と一緒かよ……だったら、無理やりにでも聞き出すぜ!」

 

 机に置いた魔道書をそのままに、魔理沙は箒に跨ると、懐から再び八卦炉を取り出し、勢いを付けて美鈴へと飛び上がる。

 

「――っと思ったけど、まずはこの子を助けるのが先だな!」

 

 と見せかけて、彼女は寝ている少年を空から拾い上げ、一度大きく旋回した後で、入り口兼出口の扉を守る門番へと突進した。

 

「行かせないわよ――なっ!?」

 

 左拳を腰に置き、開いた右手を眼前に据えた美鈴の顔が、驚愕に染まる。

 魔理沙は高速で突っ込みながら、助けると言った少年を両手で前へ突き出し、思い切り盾にしてきたのだ。

 

「へへっ、じゃあな!」

 

 美鈴が驚いた隙を付き、あっさりと脇を通って大図書館の脱出に成功する魔理沙。

 内側に開く扉を魔法で作った拳大の弾――通称弾幕でぶち破った後、一気に加速してその場を後にする。

 

「……不覚」

 

 破壊された扉を見ながら、美鈴は拳を握り締めていた。彼女の速さは、幻想郷の中でも屈指だ。一度抜かれた以上、追い付くのは容易ではない。

 

「最初から見ていましたが、偶然でも魔理沙さんがパチュリー様の結界に気付けたとは思えません。恐らくですが、お嬢様の能力ではないでしょうか」

 

 終始、傍観者として事の成り行きを見ていた小悪魔が、美鈴に近づきながら今までの感想を告げた。

 

「だったら、動くのはきっとパチュリー様ね。一応、私と咲夜さんも後を追いたいと伝えておいて」

「かしこまりました」

 

 美鈴や咲夜の主人であるレミリアの能力は、目に見えない分結果からしか推測が出来ない。

 美鈴の休憩や、レミリアの外出準備の為に、咲夜が手を外せなくなった時間帯に重なるという、偶然に偶然が重なった今の状況からでも、恐らくといった可能性の話しか出来ないのだ。

 当のレミリア本人に問い質しても、適当な答えか自信満々の嘘しか教えて貰えないので、従者たちはほとんど当て推量で動くしかない。

 きっと、レミリアは彼女たちのそうした様子を見て、楽しんでいるのだろう。

 

「でも、ぷくくっ。美鈴さんも、随分とあの子に入れ込んでるんですねぇ。その隙を利用されるだなんて、らしくないですよぉ?」

 

 美鈴に対しても、遺憾なくその毒を発揮する小悪魔。

 

「住み始めて日が浅い分、無茶をして良い加減が解らなかったのよ。それと――」

「がひっ!」

 

 会話の途中で、無造作に小悪魔の頭へと自分の右手を置いた美鈴は、横に傾けながら捻りを加え、鈍い音を立てて彼女の首を圧し折った。

 

「確認の為に必要だったとはいえ、これであの時ノーネを恐がらせた件は許してあげるわ」

「くひひ、ありがとうございます」

 

 片手を振って門番の仕事へと戻る美鈴に、あらぬ方向に首を曲げながら、身体だけはそちらに向けた小悪魔が、何時も通りの変わらぬ笑みで礼を言う。

 司書として働く小悪魔のもう一つの役割は、館の住人にストレスを与え、同時にストレス発散のサンドバックとなる事だ。

 人間とは違い、妖怪は比較的暇な生活をしている。生きる為に金銭を稼ぐ必要がなく、紅魔館の面々ほどになれば食事や睡眠すらほぼ不要な存在となるので、やる事がない。

 妖怪は人間を襲うのが本分だが、同時に人間に認識され、恐れられなければ存在を保てない。

 幻想郷では人外の数が人間より多く、人里に囲った人間を絶滅させない為に、基本的にその役目は退治が容易な木っ端妖怪たちが請け負っているので、結果として更にやる事がないのだ。

 人間ならば、それでも六、七十年も生きればお迎えが来るのだろうが、少女にしか見えないレミリアが現在五百歳という事実を考えれば、無為に過ごすには余りにも長過ぎる時間を持て余している事になる。

 そんな途方もない年月が、何の目新しさもないルーチンに陥れば、いとも容易く心を壊死させるのは確実だろう。

 好奇心は猫を殺すが、退屈は心を殺すのだ。

 その為の異変、その為の刺激を求めた生活。

 花を育てる者、組織を作り一員として仕事をする者、屋台を営む者、気ままに漂う者、人里に寄り添う者。

 惰性であれ、義務であれ、求めるものは昨日とは違う何かだ。そして、この紅魔館では小悪魔がその役の一助を担っている。

 小悪魔の挑発は、相手を不快にさせる一方で、決して本気の怒りを買わないラインで行われる。加えて、本人が人外故に死に辛く、お仕置きに手加減も必要ない。

 本人の趣味である事は間違いないのだが、逆に言えば相手からの嫌悪やお仕置きでさえも楽しめる小悪魔でなければ、この役は務まらないだろう。

 

「ぐっ! うーん、美鈴さんは真面目な分、遠慮深い性格が難点ですねぇ。今のお仕置きだって、かなり適当でしたし」

 

 首の位置を戻し、小悪魔は腕を組んで人間が聞けば頭の中身を疑うような不満を漏らした。

 

「ま、仕方ありません。次はもっと怒って貰えるよう、これからもじっくりと美鈴さんの弱みを探りましょう」

 

 その後、考えるだけ無駄だと判断して、己の主の下へと飛翔していく小悪魔。

 人外の館に、人間の常識は通用しない。

 紅魔館は、今日も平常運転だった。

 

 

 

 

 

 

 紅魔館を抜け出し、霧の湖を飛び越えて、魔理沙の住処である魔法の森へと差し掛かった時、彼女が脇に抱えていた少年が目を覚ました。

 

「ん、む……」

「お、起きたか?」

「……え?」

 

 しばらく、両目を擦ってむずがっていた少年は、目を開けた後も自分の置かれた状況が理解出来ないようで、呆けた声を上げていた。

 床で寝ていたと思ったら、見知らぬ少女に抱えられて空を飛んでいるのだ。誰であっても困惑するのは道理だろう。

 

「私の名前は霧雨魔理沙。お前は?」

「……ノーネ、です」

「ノーネ、ねぇ。どう見ても、お前は人里の人間だろうに。本当の名前は?」

「……ありません。ボクは、ノーネです」

「……捨て子かよ」

 

 短い会話で事情を察した魔理沙が、不快感を隠しもせずに吐き捨てた。

 幻想郷の人里は、妖怪に襲われないという点では平和だが、口減らしや育児放棄などで親が我が子を捨てる事もある、子供にとっては非情な場所だ。

 この少年も、そうした事情で親が居ないのだろうと、少年の態度からも魔理沙はそう推察した。

 

「あの屋敷に拾われたのか。地下の図書館で何をしてたんだ?」

「……ボクには、魔力っていうのがあるらしくて、パチュリーお姉ちゃ――様に、魔法を教えて貰っていました」

「ぶっ! アイツに弟子入りかよ!」

 

 驚愕の事実を知り、魔理沙は盛大に噴出した。

 魔法使いとして、百年以上を生きた生粋の探求者。その知識は、幻想郷の賢者と伍するとまで言われる、最高峰の魔女への弟子入り。

 

「羨ましいぜ」

 

 たまに教えを請う機会はあるが、弟子というより悪友に近い付き合いしか出来ていない魔理沙は、ノーネに純粋な感想を漏らす。

 

「アイツの授業は、難しい理屈ばかりで退屈だったろ?」

「そ、そんな事はありません」

「噛んだな。ちょっとはそう思ったんだろ?」

「うぅ……」

「内緒にしといてやるから、言ってみろよ」

「……ちょっとだけ」

「あっははは! やっぱりな!」

 

 気安い性格である魔理沙は、空の旅をしながらあっさりとノーネと打ち解けていた。

 未だ、ノーネから余り懐かれていないパチュリーが見たら、さぞや複雑な表情をする事だろう。

 

「到着っと。ほら、降りろよ」

「わわっ」

 

 霧のような胞子が、森全体で漂う魔法の森の一角。

 自分のねぐらである、木造仕立ての一軒家。「霧雨魔法店」の前に到着した魔理沙は、地面に着くと同時にノーネから手を離した。

 

「けほっ、けほっ」

「おっとしまった。ちょっと息を止めてろ――よし、もう良いぜ」

 

 咳き込みだしたノーネに、魔理沙は慌てて胞子を弾く魔法を掛け、森の胞子が少年の肺へと流れるの阻んだ。

 太陽の光を遮るほど、鬱蒼と茂ったこの森には、その湿気から化け物キノコがそこら中に群生し、耐えず幻覚作用を及ぼす胞子を振り撒いている。

 普通の人間は勿論、力の弱い妖怪にとっても猛毒となる胞子を撒く、この化け物キノコの存在こそが、この場所を魔法の森と呼ばせる由縁だ。

 人間より大きいものすらあるこのキノコたちは、魔法の触媒や魔法薬の素材として、魔法使いの間で重宝されていたりする。

 

「よし、ノーネ。今日から私が、お前の先輩になってやる!」

「はい?」

 

 突然、胸を張って宣言する魔理沙に、ノーネは理解が追い付かずに疑問符を上げた。

 

「お前はパチュリーに弟子入りして、魔法使いを目指してるんだろ? だったら、先輩魔法使いとして私が色々教えてやるぜ!」

「……良いんですか?」

「おう! 先輩後輩だからって、もう敬語なんていらないぜ? 私に習った魔法で、パチュリーを吃驚させてやれ!」

 

 当初は、少年を助けて人里の親元へと届けようと考えていた魔理沙だったが、人里に少年の帰る家がないのなら、この件は一端保留だ。

 妖怪という人外である、種族としての魔法使いを目指すというのなら、彼は人間の里にはいられない。

 だからといって、魔理沙はノーネを紅魔館の連中に預けて良いとも思えなかった。

 あそこは、良くも悪くも妖怪の屋敷だ。妖怪の気紛れで集い、妖怪の理屈で動く。

 既に館の住人となった咲夜はともかく、人間であるノーネがその価値観に染まってしまうのは、出来れば避けたい事態だ。

 問題を棚上げし、とりあえず少年を鍛える事にした魔理沙は、自身の八卦炉をノーネへと手渡した。

 

「よし、とりあえずコイツに魔力を込めて、一発撃ってみろ」

「え?」

「小難しい理論なんて、後回しで良いんだよ。何も考えず、まずは派手にぶちかまして、魔法の凄さってやつを教えてやるよ――弾幕は、パワーだぜ!」

 

 素晴らしい笑顔でサムズアップする魔理沙だったが、彼女の間違いは三つあった。

 まず一つ目は、ノーネを弟子にすると決めた、パチュリーの思惑だ。

 魔法の研究以外は物臭な彼女が、なぜノーネを弟子としたのか、その理由を魔理沙は考えなかった。

 二つ目は、渡した八卦炉という魔道具だ。

 込めた魔力をそのまま火力へと変換するという、至ってシンプルな工程しか存在しない魔理沙の切り札は、今のノーネにとって正に最高であり、最悪の相性だった。

 三つ目は、ノーネが魔力の制御を学んでいた事だ。

 たった一日だけとはいえ、瞑想という手段で放出する魔力を一点に集める方法だけ(・・)理解していた彼は、言われるままに疑問も持たず、手に持つ八卦炉へと自身の魔力を限界まで注ぎ込む。

 唯一の救いは、魔理沙の家ではなく、反対側のやや上空に照準を向けていた事だろう。

 

「お、おい、ちょっとま――」

「ひゃぁ!」

 

 何も知らない魔理沙が、収束する異常な量の魔力に発射を止めようとした瞬間、目が眩むほどの極大の閃光が、少年の悲鳴と八卦炉からの轟音と共に撃ち出された。

 魔力波は森の木々を薙ぎ払い、空飛ぶ鳥たちを焼き尽くし、それでもなお幻想郷の空を駆け抜け、最後には彼方にそびえ立つ妖怪の山へと直撃した。

 

「――え?」

「――は?」

 

 遠く離れた位置からでも見えるほどの、盛大な土煙を上げるその余りな光景に、魔理沙とノーネはしばし呆然と佇み、阿呆のように大口を開ける事しか出来なかった。

 

 

 




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