会社辞めてマリア・カデンツァヴナ・イヴのヒモになった   作:雨あられ

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第2話

朝ごはんに玉子焼きを作っていると、マリアが瞼をこすって目を覚ましたようであった。

 

「おはよう」

 

そう軽く挨拶すると、えぇ、おはよぅ……、とあいさつはかえって来たものの、まだあくびをしてソファの上で膝を抱えてうとうととしている。何時はしっかりしている彼女だが、朝は結構弱いらしい。そういう所も、何だか猫っぽい。

 

昨日切ったサラダのボウルを冷蔵庫から取り出すとラップを外し机の上に置く。同時に、作っていた味噌汁の煮えばなに刻んだネギを入れていく……。

 

?妙に視線を感じると思ったら、どうやら寝ぼけ眼(まなこ)のマリアがじっとこちらを眺めているようであった。口の端を釣り上げて、何だか幸せそうに見えるが……。

 

「どした?」

 

「なんでもないわ。ただ見てるだけよ」

 

「出来るまでテレビでも見ててくれ」

 

「ええ、テレビより興味深いものを見ておくわ」

 

……そういってマリアは笑う。その後もジッと俺の事を眺め続けてきた。正直かなりやりにくかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日の予定は?」

 

「そうね、今日は午前中に写真撮影、後は夕方まで「レッスン」が入っているわ。夜はいつも通り帰ってくるつもりだけれど、場合によっては遅くなるかもしれないわ」

 

玉子焼きをぱくつきながらそう話すマリア。

嘘はついていないのだろうけれど、彼女の仕事はきっとそれだけではないのだろうと思う。何せ彼女は国連のエージェントとして世界を救ったこともあるのだ。(知らなかったがウィキペディアに書いてあった)。きっと度々鳴っているアラートなんかはその緊急招集なんじゃないかと俺は睨んでる。まぁ、彼女が話したがらないようなので、深くは聞かないが。

 

「この前みたいに、夜中まで起きてることないのよ?」

 

「その日はたまたま夜更かししてただけだって」

 

「そう……そういう事にしておきましょうか。ふふ」

 

マリアの全て見透かしたような微笑みを見て、少しばかり顔が熱くなる。夜中まで待っているのだって、帰ってきたときに、俺の事を見つけてマリアが嬉しそうに笑ってくれるからである。

 

「マリアこそ、俺が起きてられなくて寝てるときは寂しくって寝室まで見に来るくせに」

 

と、適当なことを言ってみるとマリアの顔が一瞬で茹蛸のように赤くなる。え?まさか。

 

「そ、そんなわけないじゃないのッ!?」

 

「そ、そうだよな。わかってるって」

 

「えぇ、寝顔を見たり、頬をつついたりなんてしてないわ」

 

「……」

 

「……ぁ」

 

……その日の朝食は妙に甘酸っぱい空気で過ごすことになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

会社辞めてマリア・カデンツァヴナ・イヴのヒモになった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁッ!!」

 

マリアの光輝く銀腕から放たれた一撃により、アルカノイズが雲散していく……。どうやら今のが最後の一体。自然と皆の張りつめていた緊張が解かれていく……。

 

「……殲滅、完了だ」

 

「ふぃ~……1日に3度も緊急出動するなんて、ノイズのバーゲンセールかッてんだよ」

 

「もうクタクタデ~ス……」

 

「シャワー浴びたい……」

 

へなへなと力なく地面にヘタレこんだのは暁と月読。無理もない。都心に現れたアルカノイズとの戦闘。昼は砂漠、夜はハイウェイ。息つく暇もないとはまさにこのこと。そんな中、マリア一人が顔色を崩さずに笑みを浮かべる。

 

「お疲れ様、調、切歌。二人ともよく頑張ったわね」

 

「デースッ!マリアはどうして平気そうな顔をしてるデスか~!今日は一番活躍していたのに……」

 

「それはあ……コホン、経験の差ね」

 

暁の質問に対し、余裕のある笑みを浮かべるマリア。

ふむ、最近の彼女は歌だけでなく、ノイズとの戦いにおいてもその力を遺憾なく発揮しているように思える。経験の差だけでは説明できない何かがある気がするが……六韜三略、奥の手があるとでも言うのだろうか。

 

「それじゃあ、私は先に帰るわね」

 

「あん?なんだ、今日はみんなで飯食いに行かねぇのか?」

 

「ほう?それは雪音が皆と一緒に夕食をとりたいという事か?」

 

「!!?ち、ちがっ!!いつも流れでそーなってるから言っただけで!?」

 

「え~、あたしはクリス先輩と一緒にご飯が食べたいデ~ス!」

 

ぎゅっと、雪音の腕に抱き着く暁。

 

「うん、わたしも……」

 

反対側から抱き着く月読……二人に挟まれた雪音は二人を交互に見比べながら徐々に顔に血を上らせていく。

 

「うッ……!?……だ~!!そんな目でコッチ見んなッ!食えば良いんだろ、食えば!」

 

「イエーイやったデース!今日はクリス先輩の奢りデ~ス!」

 

「脱、カップラーメン……!」

 

「お、お前らなぁッ!!」

 

パチンとハイタッチを交わす暁と月読に対して、怒った雪音が二人を追いかけまわす……。いつもの仲間。いつもの流れ。いつもの景色……。残念ながら今日は立花が居ないが、私は、この暖かい光景を守るために、防人として剣を振るっているのかもしれない……。ん?

 

「マリア?どうかしたのか?」

 

「い、いえ、なんでもないわ」

 

そう言いながらも、マリアはポケットに入れた携帯を何度か覗き込んでおり、落ち着かない様子であった。この前のライブの時といい、一体誰と連絡を取り合っているのだろう。月読と暁はここに居るが……。

わたしが一人思案していると少し前を歩いた雪音から置いてくぞ!と声がかかる。ふふ、なんだかんだ言って、食事を一番楽しみにしているのは彼女なのではないだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こんな大変な時に、あのバカは一体何をやってたんだっての!あーん、んぐんぐ……」

 

ハンバーグを口いっぱいに詰め込みながらそう愚痴る雪音であったが、立花を毛嫌いしてこんなことを言っているわけではない。彼女なりに、立花を気にかけての言葉なのだろう。

 

「そう言ってやるな。立花は最近学業の成績が芳しくないらしいからと今頃みっちり補習を受けているころだろう」

 

「司令も毎回アラートが鳴ってたら勉強に集中できないだろうからって、今日は響さんだけお休みにしてくれたみたい」

 

「あのバカのことだから、どうせアラートに関係なく今頃ネンネでもしてるんじゃねぇか?ッたく」

 

……否定できないのが悲しいところだ。まぁ、彼女にはあの小日向もついているのだ。大丈夫だとは思うが……。

 

「……ごめんなさい、少し席を外すわね」

 

「はいデース」

 

そういって席を立つ、マリア。

ふむ、レストランに入った時からそうだが、彼女はずっと浮足立って居る様子でどうにも落ち着きがない。それを感じ取ったのは私だけではないようで

 

「マリア、やっぱり変だね」

 

「うん……あ、これマリアの携帯……デス!!?」

 

?マリアが座席に忘れて行った携帯の画面を見て、固まる暁。

 

「切ちゃん、あまりレストランで大きな声は……」

 

「し、調ッ!これを見るデスッ!!?」

 

「…………えッ!?こ、これって……」

 

「おいおい、何だぁ?」

 

「どうかしたのか?」

 

雪音と二人で携帯を覗き込むのと、慌てた様子のマリアが席に戻ってきたのはほぼ同時だった。

 

「ちょ、あなたたちッ!何を勝手にッ……!?」

 

「ま、マリア!?だ、誰デスかッ!?この男の人!!?」

 

「男だぁッ!!?」

 

「何ッ!?」

 

「そ、それはッ!?」

 

ちらっと見えたマリアの携帯の待ち受けには、見知らぬ男の寝顔が使われていて……。それを見られたマリアは顔を真っ赤にさせて口を鯉のようにパクパクさせていたが、やがて観念したのかガクンと頭を垂れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「い、一緒に住んでるッ!!!!?」」」」

 

「こ、声が大きいわよ」

 

マリアの放つ、衝撃の事実に驚愕の色を隠せない。いつもと変わりないと思っていた彼女に、伴侶がいたとはッ!?

 

「ッは!!びっくりしすぎて呼吸を忘れてたデスッ!」

 

「ど、どこの誰なんだよッ!こいつはッ!」

 

「それはその、どうでもいいじゃない、そんなこと」

 

私は辛うじて意識が飛ぶのは抑えられたが、月読にはショックが強すぎたらしい。口を開けて白目を剥いたまま気絶している。

 

「い、何時頃から一緒に住んでたデス!?」

 

「……か、かれこれ2ヶ月になるかしら」

 

「「に、2ヶ月!!?」」

 

デぇス……と今度は暁が白目を剥いた。

 

「えっと、住んでいると言っても、まだおかしなことは何もないわよ?彼も紳士的というか、奥手というか、私に対して、気を遣ってくれてとても優しいし……」

 

惚気とも思えるセリフを次々と吐いていくマリア……。わたしも雪音と目を合わせて絶唱後のような虚無感を味わっていた……が、やがて涙目の月読が意識を取り戻す。

 

「ひ、一言くらい、言ってほしかった……ッ!」

 

「ごめんなさい、調、切歌……私も事が事だから、中々言い出す機会がなくて……」

 

「い、何時から付き合ってるんだよッ!?」

 

お、落ち着け!雪音!どのようなことがあっても、装者たるもの明鏡止水の心で、そう、落ち着くためには羊を手のひらに書いて食べると良いと昔、緒川さんが……?

 

「……つ、付き合うッ!?」

 

…………ん?彼女の顔が真っ赤に染まる。彼女のその空色の瞳が、空を泳ぎ始める。

 

「……待って、マリア。もしかして、その人と付き合って……ない?」

 

「……」

 

顔を伏せ、うなじの先まで真紅に染めて、彼女は静かに頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……た、ただいま」

 

あれ?マリア?

外でご飯を食べてくるという話があったので、一人で夕食を済ませてテレビゲームをしていたのだが……もう帰ってきたのか。いったん画面をポーズにすると玄関の方に身体を向けて……。

 

「お邪魔します」「お邪魔するデース」

 

とぞろぞろと来客が……!?

何事かとマリアの方を見るが、マリアはただただ恥ずかしそうに顔を逸らすばかりで、何も答えてくれない。

 

「え?えぇ?」

 

「どうも夜分遅くに失礼いたします。風鳴翼と申します」

 

「あ、は、はい、いつもテレビで見てます。大ファンです……」

 

「そうなんですか。嬉しいです」

 

ニコリと笑う翼さん。うわ、うわうわ可愛い~ッ!え、か、風鳴翼?す、すごいぞ!!生で翼さんを見てしまったッ!!?そう内心はしゃいでいると、いつの間にか隣に来ていたマリアが思いっきり背中をつねってきた!い、痛いッ……!

 

「んで、あたしが雪音クリスで……」

 

「切歌デス」

 

「調です」

 

でっかいおっぱいの子に、ジトーっと何かを見定めるようにこちらをの覗き込む小さな二人組……。切歌に調?……まさかいつもマリアが話してる、大切な二人じゃ……ということは、マリア、俺の事を話したのか……。

 

「初めまして、俺は…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は、今の現状を彼女たちに包み隠さずに話すことにした。きっと彼女たちはマリアにとって本音を話せる大切な人だと思ったからである。ノイズの事件にあった事、マリアに助けてもらったこと、そして今は働いていないこと……。

 

彼女たちは俺の話を途中で茶化したりすることなく、黙って聞いていたが、やがて全て話終わると、ようやく調ちゃんが口を開く。

 

「……切ちゃん、この人とゲームでもしてて」

 

「え?どうし「良いから」デ~ス……」

 

「わたしたちは、今から少し話し合いたいのですが、良いですか?」

 

「あ、ああ、もちろん」

 

「じゃあ、私もいっしょ「マリアはこっち!」……」

 

何だか吐きそうな気分だった。調ちゃんがマリアと後の二人を連れ立って、別室へと向かっていくと、俺は、切歌と呼ばれた娘と二人ぽつんとリビングに取り残される……。

 

「……え~、っと、とりあえず、言われた通りゲームでもするデスかッ!!」

 

「そ、そうだな……」

 

笑顔でそう言ってくれる切歌ちゃん。きっとこの子も優しい子なんだろうな……。

ポーズにしていたゲームをセーブし、二人でもできるレースゲームを取り出す。切歌ちゃんはゲームを見ておぉッ!と嬉しそうな声を出したが、俺は今心臓がバクバクと暴れ回ってて楽しむどころじゃなさそうだ。なんだろうな、この感じ、悪いことして親が先生に電話で呼び出されていった時みたいな、そんな感じだ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「デスデスデース!1位は貰ったデース!」

 

「いやぁ、切歌ちゃん早いなー、2位から中々抜かせないなー」

 

「トップを独走デース!……あ!」

 

ドカンとトゲゾー甲羅がぶつかりクラッシュする切歌ルイージ。その隙にこちらのマリオが一位でゴールする。

 

「デース!!?ず、ずるデスよこんなの!?もう一回、もう一回デス!!」

 

「はははは」

 

何て、表面上は笑ってプレイしているが、内心は気が気でない。というのも先ほどから後ろの方から、彼には私が付いてないとだめだからッ!とか、ちゃんと私が面倒を見るからッ!というまるでペットでも拾ってきた子供のようなセリフを叫んでいるマリアの声と、元居たとこに返してきなさいッ!とか、将来の事をちゃんと考えてッ!とか現実的な響きを持つ調ちゃんの声が聞こえてきて……胃が痛い。

 

「あたしたちも混ぜてくれよ」

 

「すっかり二人がヒートアップしてしまってな……」

 

部屋から出てきた翼さんと、おっぱいちゃん。てか、おっぱいでかいなぁ。

俺は二人分のコントローラーと飲み物を追加して、ただただどうなるのかを天に祈るのみであった。仕事はいつか探そうと思っているが、今の暮らしは心地よいと思っているし……でも、家族のような存在だと話していた調ちゃんは俺の事をよく思っていないようだし……。

 

「クッ!雪音!路上にバナナを撒くなど卑怯千万ッ!」

 

「そういうゲームなんだよ」

 

「デース!?このアイテムボックス偽物デス!!」

 

「はははは」

 

とりあえず切歌ちゃんとは仲良くなれる気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んじゃ、マリアたちによろしくな」

 

「では、失礼致しました」

 

「ああ、どうも、また、来てください……」

 

バタンと扉が閉まると俺は大きく息を吐きだした。あまりにも二人の口論が長いために、おっぱいちゃんと翼さんは帰ることになった。何だか久しぶりにマリア以外の人とあんなに長時間喋ったなと疲れを感じていると、マリア達の居た奥の部屋が開く。ドクンドクンと、心臓の音が、早くなる。

 

「……あれ?」

 

出てきたのは、マリアが一人?

……あぁ、よく見ると、腕の中にはマリアにしがみついた黒い髪の少女が……。

 

「すぅ……」

 

「寝ちゃったのか?」

 

「えぇ、もともと今日は疲れていたもの。私の部屋に布団を用意してくれるかしら?」

 

「わかった」

 

「他のみんなは?」

 

「おっぱ……えー雪音ちゃんと翼さんは家に帰って。切歌ちゃんは……」

 

そういってソファを指さす。そこには、未だにゲームをプレイ中なのか、ぐえぇ、もうバナナはイヤデース……とか、寝言を言っている眠った切歌ちゃんの姿があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二人を寝室で寝かせると。すっかり静かになった居間で二人、時計の音を聞いていた。先ほどまで騒がしかったこともあって、二人だけの空間がすごく落ち着く……。

 

「……ごめんなさいね。今日は突然」

 

「いや、大丈夫だよ。寧ろ、俺が居たせいで今まで彼女たちを遊びに呼んだりも、できなかったんだな」

 

「そんなことは……」

 

ゲームをしながら切歌ちゃんが教えてくれたことだが、どうやらマリアは俺と食事をするために、わざわざ早く帰ってきたり、皆の誘いを断ったりしていることも多かったという。俺のせいでマリアに気を遣わせてしまっていたのだ。

 

「ごめん」

 

「もう、別に気にすることないわよ。調たちはちょっと心配性なところがあって……」

 

「それだけマリアの事が気になるんだろう。愛されてる証拠だよ」

 

そういうと、マリアは困ったような、けれど嬉しそうな笑みを浮かべる。そしてゆっくりと俺の隣に腰を下ろす。

 

「……あなたは」

 

「え?」

 

「あ、あなたは、私の事、気になるのかしら……?」

 

「マリア?」

 

隣にいるマリアが、じっと、こちらを見る。潤んだ水色の瞳。うっすらと、上気した赤い頬。柔らかそうな桜色の唇……。や、やばい、この雰囲気、やばいぞ……今まで、こんな雰囲気になりそうでも、マリアの方が恥ずかしがって避けてたのに!?

バクバクと心臓の音が早くなっている。俺の返事がないのが恥ずかしいのか、困った顔をしてさらにこちらを覗き込むマリア。む、胸の谷間が……

 

「ね、ねぇ?」

 

「マリア……その」

 

マリアから目が離せない。やばい、やばい、やばい……!顔、ちか、良い匂いッ……!

 

ピピピピピピッ!

 

はっとする。

そこで聞こえてくるアラームの音。あれは、マリアが仕事に呼び出される時の……。

マリアはがくりと項垂れたかと思えば、恨めしそうにアラームをにらみつけ、勢いよく立ち上がると、端末を拾い上げ玄関へと駆け出し始める。そして扉が勢いよく閉まったかと思えば

 

「Seilien !!coffin!! airget-lamh tronッッ!!!!!!!」

 

怒号にも似たマリアの歌が聞こえてくる……。残念なような、安心したような……。

 

けれど、今が、最後のチャンスなのかもしれない。

調ちゃんが言っていたように、無職の俺なんかと居ては輝かしい彼女の将来に影を落としてしまうかもしれない。だから、俺は……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいま……」

 

アルカノイズたちを一瞬で掃討し、扉を開けたが中は暗くて誰も起きていないみたいだった。まぁこんな時間だし、彼が起きていないのは仕方が無いか……。少し期待していただけに残念な……?

彼の靴がない?

でも、まさか!

 

ダッと、部屋の中を駆ける。すると、机の上に一通の書置きを見つけた。慌てて灯を点けて、それを読み始める。

 

マリア・カデンツァヴナ・イヴ様

 

今までお世話になりました。

ありがとう

 

 

と、大きく書かれたシンプルな置手紙だった。……別れの手紙にしては、あまりにも、あまりにも呆気なさすぎるッ!!

他に何かないのかと探してみるが、目の前には温める、と書かれた鍋や、チンする、と書かれたラップのかかったお皿……。彼に渡していた携帯電話にキャッシュカード……合鍵……!!

 

「……」

 

「マリア……?」

 

パジャマを着た調が呑気に起きてきたのを見て、私は、私は抱いてはならない感情を、一瞬抱き、そして、歯を食いしばり、それを殺した。

 

……ッ!置手紙には2枚目があった。それを慌てて取り出すと、そこには少し安っぽいシンプルな指輪……。そして

 

元々持っていたお金では、こんなものしか買えませんでした。ごめんなさい。

家族を大切に

 

この、この……!!

 

「この、臆病者ッッ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ッたく、こんな時間にまで現れるたぁいよいよもって、どうなってやがるんだよッ……!」

 

早朝に近い深夜。マリアと一仕事終えて早めの朝ごはんを買いにコンビニへと歩いていると、途中、公園でグッタリとした野郎を一人見つけた。

見覚えのある奴だなと思っていたが、それは、昨日みたあいつんところの……アレだった。

 

「おい、ど~したんだよ、そんな辛気臭い顔して」

 

「……おっぱ、雪音ちゃん……」

 

ぽけーっと間抜けそうな面が、口を開けたまま虚空を見つめてやがる。あいつら、こいつを家に置いとく置いとかないでかなり揉めてやがったからな……。ってことは。

 

「ははぁ~ん?お前、さては、追い出されたな?」

 

そう、冗談で言ったつもりであったが。そいつはこっちを見て、ポロポロと泣き出し始めた!?

 

「お、おいッ!!な、泣くなよ、こんなところで……!?」

 

「ご、ごめん」

 

そういって涙を拭うその姿が。昨日見たときのコイツよりも、何倍も小さく見えて……。何だか、昔のあたしを見るようで……。

 

「ッたく!しょうがねぇなぁ……」


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