「真鈴!質問に答えろ!どうしてお前が……⁈」
「いや、どうしても何も、普通にお見舞いに来ただけなんだけど」
「……………そうか……そりゃ…そうか」
そうだ。何も変なことはない。真鈴も大赦の人間なのだから見舞いにぐらい来よう。…だいぶ私は寝ぼけているらしい。
「まだちょっと寝ぼけてる?だいじょぶ?」
「あ…ぁぁ。大丈夫だ。うん…もうだいぶ意識も覚醒した」
「そう?んじゃ未だに意識が覚醒しない彼を見舞おうかね」
安芸真鈴。歳は私やひなたの一つ上で大赦の巫女の一人だ。ひなたを中心に勢力を築き上げてい巫女たちの中でもひなたのサポートなどをしている人だ。西暦の頃は面識はなかった………いや……あるにはあったがあれはとてもそんないいものではなかった。あの時の真鈴のことは今でも覚えている。ひなたに聞いていたのでイメージなど微塵も感じさせなかった。ただ悲しみにくれ、後悔し、涙を流していた。
互いに会話どころか挨拶もなかった。私もそうではあったが、とてもそんな空気ではなかった。
静かな葬儀場に彼女の泣き声がとても大きく聞こえていたたまれなくなって仕方がなかった。
だからあれを面識があるとは言えないだろう。私はそう思う。
ーーーーーーー
「はじめまして、ひなたからよく話は聞いています。乃木若葉です」
「おぉーはじめまして。安芸真鈴ですっと。こっちも上里ちゃんからよく、そりゃーよくあなたの話を聞いてるよ。乃木ちゃん」
「そ、そうですか…?……あの、ひなたのやつ変なことを言ったりしていないでしょうか……?」
「んーいんやぁ別に」
「ほ……それなら良かったです」
「上里ちゃんから聞かされる乃木ちゃんの話って言ったら『あぁ…若葉ちゃんはかっこよくて可愛くて優しくてウブでちょっと天然なところがあって、普段はとても真面目でシャキッとしていてまるで隙がないようですが、二人きりの時などはこっそり悩みや不安を相談してくれるんですよ!しかも膝枕で耳かきされながら!猫なで声で!そんな若葉ちゃん……!最高だと思いませんか…!』とかそんなもんだから安心していいよ〜」
「ひなたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ⁈⁈⁈」
「あはは、いい反応。乃木ちゃんがあまりにも聞いてた通りの子だったからついついからかいたくなっちゃった。ごめんね?」
「はぁ……なんだよかった。じゃあ今のはただからかっただけでしたか」
「上里ちゃんが言ってたのは本当のことなんだけどねー」
「……えぇ⁈」
と、まぁ始めて会った時からこんな感じで私は真鈴にそれはもうからかわれまくっていた。でもこんな風に同世代の人と対等な立場で話すことができたのは本当に久しぶりでなんだか嬉しかった(ひなたは除く)
それに私は昔から同世代の人にも年下の人にも言ってしまえば年上の人にも話すときは萎縮されてしまうことが多かった。ひなたがいてくれなかったら私は友達なんてものは得られなかったかもしれない。
それを考えるとひなたには感謝してましたりない。真鈴に私のことをそれこそ恥ずかしい話まで暴露していたことは審議案件なのだが………裏を返せばそれほどひなたも真鈴のことを信頼しているということなのかもしれない。
「あ、あとアタシのことは真鈴でいいよ。敬語もなし。堅苦しいしね」
「むぅ…まぁそういうことなら」
「物分かりがいい子で助かるね〜あーでも上里ちゃんの話を聞く限り頑固だって話だからなぁ。でもそんなところも可愛いってね」
「か…からかわないでくだ………からかわないでくれ…///」
自己紹介をすませると私たちはすぐに打ち解けた。ちなみに互いの間に入る存在である肝心のひなたいない。
なぜかというとーーー
「一緒にあってはくれないのか⁈」
「はい。大赦の方で会議がありまして。ですが心配はありませんよ。安芸さんは歳は一つ上ですがそれを全く感じさせないフレンドリーさですから。それに若葉ちゃんのこともよく知っている人ですし、きっと仲良しになれますよ」
「その安芸さんがとてもいい人なのはよくお前から聞かされるからそれを疑うようなことはしないが………私が人付き合いが苦手なのはお前だって知っているだろう……?」
「それはもちろんです」
「…………それに正確には私と安芸さんは初対面ではない。球子と杏の葬式で一度会ったことがある。あれを会ったことがあるとは言いたくないが……私にはその時の彼女のイメージが脳裏に焼き付いてしまったんだ。そのイメージを持ったまま彼女と二人きりで会ってしまえば私は彼女に嫌な思いをさせてしまうかもしれない」
それに加えて若葉はもう会えないと思っていた友奈と再会した。しかしそれは友奈が神樹様に取り込まれたということと若葉が神樹様の力をお借りしていた勇者だったからだろう。
真鈴はあくまでただの巫女であり、何より球子と杏は大社が英霊として弔った。
真鈴が再び球子や杏と会うことはない。そんな奇跡はこの残酷な現実には訪れない。神樹様は神ではあるが、万能ではない。あくまで人類同様敗者なのだ。
若葉にはその罪悪感もあった。しかしひなたは
「そんなことはありません」
はっきりと言い切ったのだった。
「……どうしてそこまで言い切れるんだ」
「たしかにあの時の記憶は若葉ちゃんにとっても私にとっても安芸さんにとっても辛く悲しい記憶です。ですが若葉ちゃんも安芸さんも立ち止まらず進み続けています。それが何よりの証拠じゃないですか。二人なら大丈夫だという」
「ひなた………お前はすごいな」
いくらでも反論はできたかもしれない。言い返すことができたかもしれない。でもーーー不思議とひなたにそうはっきりと断言されるとそんな気がしてきてしまった。
「 私は若葉ちゃんのことはもちろん安芸さんのことも詳しいですからね」
「全く…かなわないな」
たしかにひなたの言う通りだった。真鈴とはすぐに打ち解けることができた。しかし………やはりひなたは超能力者か何かではないだろうか?それか…もしや神託…?
真鈴とはそれからいろんな話をした。最初は神世紀になってからの話をした。大赦の話。ひなたの話。お互いの身分の話。互いに日々の苦労や楽しさを分かち合った。
そのあとはーーーーー
西暦の頃の話をした。私のかつての仲間たちの話をした。球子や杏の話をした。
「そっかぁ………最後まで土居ちゃんは伊予島ちゃんのことは守ろうとしたんだね…伊予島ちゃんもそんな土居ちゃんのために後ろから逃げることもせずにか……初めて会った時はそれはもうブルブルに震えてたあの子がなぁ。強くなってたんだね」
終始楽しそうに私の話を聞いていた真鈴もこの話をし始めると表情が変わった。でも、決してそれは絶望や悲しみにくれていたあの時の葬式の時の表情ではなかった。
私は球子と杏が戦死した時の話をした。進化体のバーテックスに。蠍座、スコーピオンバーテックスに球子と杏が二人揃って胴体を貫かれ体中から血を流して死んでいった話をした。
この話はどうやらひなたも深く話したことはなかったらしい。そもそもひなたはその場にいなかった……いられなかったのだから無理もないだろう。
ならば私が話さなければいけない。そう決めた。勇者のリーダーとして、目の前で仲間を守れずに死なせてしまった。何もできなかった。彼女たちの最後の言葉を聞くことすらできなかった。その事実を包み隠さず話した。
ひなたはそれで私が恨まれたり嫌われたりすることはないと言っていた。それを疑うわけではない。
でも覚悟はしていた。何を言われてもいい覚悟は。
「手を繋いで見つめ合いながら……………うん…うん。最後の最後まで互いを思いやってたんだね……すごいなぁ本当に大好きだったんだなぁ。……全くなんで死んぢゃうんだろうなぁ…………また会おうねって言ったのに…………約束破りやがって……」
真鈴の声が次第に震えていく。真鈴は顔を伏せる。若葉に見られないようにするためか、あるいは無意識なのか。
「実際過ごした時間なんてさ……全然少なかったのにさ………どうして、どうしてこんなに悲しくなっちゃうんだろうなぁ、あの時もう散々泣いて涙なんて全部使い尽くしたと思ったのに、おかしいなぁ」
次第に言葉の一つ一つが涙声になっていく。それを必死に耐えながら言葉を紡いでいるのが若葉にも痛いほどわかった。
「あの子たちの写真どれも笑顔が眩しいものばっかりでね、二人セットで写ってるのばっかなの。でもその中にもほかの勇者の子達、高嶋ちゃんとか郡ちゃんとかと一緒に楽しそうに写ってるのみてね、すっごく幸せな気持ちになったんだ。でもね、同時にすっごい嫉妬した。私も勇者だったら、あるいは上里ちゃんみたいに勇者専属の巫女だったらこんな風にこの輪の中に入れたのかなって思うとね悲しい気分になっちゃってたんだ」
「でもあの子たちよく手紙送ってくれたんだ。土居ちゃんも伊予島ちゃんも全然性格は違うのに書いてることはなんだか似ててね。文面とか字の特徴とかそういうのは全然違うのに……不思議でしょ?」
それは若葉も初耳なことだった。球子と杏、真鈴の交流は決して途絶えてなどいなかった。細々と対面して会うことはできなくともその友情は続いていた。
「毎日手紙届いてないか楽しみにしてたんだ。来てなかったらなんとなく落ち込んで、来てたら心の中でそれはもう喜んで」
「でも、葬式のあと次の日になってもう二度とあの子たちから手紙が来ないと思ったら散々泣いたはずなのにまた悲しくなってきちゃってまた泣いちゃった」
「でもね来たんだ。手紙」
「えっ……………………」
「うん、私も乃木ちゃんみたいな反応してたよ。大社の人が持って来てくれたの。上里ちゃんが二人の自室を整理していた時に見つけたんだって」
「それですぐ読んだ。何も考えずにすぐ読んだ」
「内容はね、お花見の誘いだった」
その瞬間、いや真鈴の話を書き始めてからずっとではあるがそれ以上に重く苦しいものが若葉の胸を突き刺した。
つい表情を苦くする。拳に勝手に力が入る。
言っていた。球子と杏が言い出したことだった。丸亀城にある丸亀公園で桜の花見をしようと。祝賀会も兼ねてやろうと。
忘れるはずがーーーなかった。
「二人ともね、揃って『一緒にお花見行きませんか?』『一緒にお花見するぞ!このまま花が散ったらタマらん!』ってね書いてあったんだ」
若葉が悲壮な表情をより強めるのと同時に
真鈴の瞳から雫が一粒垂れて彼女の膝を濡らした。
もうちょい真鈴と若葉で続きます。え?オリキャラ?…………どうしようか…(タイミング)