魔法とほんのちょっぴりの科学がある。
そんな、異世界の国のお話。
「吸血鬼だ!吸血鬼が出たぞ!」
当に寝静まっていたはずの村人たちが逃げ惑うその奥、吸血鬼が凶悪な笑みを浮かべながら歩いている。村人たちの間をすり抜け、武装した男たちが吸血鬼に立ち向かっていく。
「ハンターが駆け付けたぞ!」
その様子を見ていた少女が、叫ぶ。
「頑張れ!お父さん!」
しかし、その声に気づいた吸血鬼は一瞬で少女の背後に回り、抱きかかえた。
「やめろ!その子を離せ!」
吸血鬼はハンターの言葉に嘲笑で返し、首元に噛みついた。
少女が気が付くと、ハンターの父親に抱きかかえられた状態で村人たちに囲まれ、なぜか手を合わせて拝まれていた。
「聖なる子じゃあ…守り神じゃあ…」
16年後
「ま、また血を吸われた死体だ!」
とある街から遠く離れた森の入り口で、ハンターの服装をした男たちがうろたえだす。ざわめく男たちを押しのけて、他とは明らかに違った風格を漂わせる竜人族の男が前に出、死体のそばにしゃがみこむ。
「おお…セッツさん!」
「気を付けろ!血を吸った吸血鬼がまだ近くにいるかもしれねえ!」
「馬鹿言え、セッツさんがいるんだぜ!それに今は昼間だぞ」
「いや…確かに、危険かもしれないな」
セッツと呼ばれた男が静かにつぶやく。
「へ?」
「この死体は血を吸われてまだ間もない。昼間に吸われたということになる。…青血族の仕業かもしれん」
男たちの顔、引き攣る。
40年ほど前、この国を中心として活動する義勇軍があった。初めは少人数で結成されたボランティアの様なものだったが、ゴミ拾いから魔物の討伐まで仕事を選ばない地道な活動が段々と話題と信頼を集め、入隊志願者を受け入れていくうちにその規模は軍と呼ぶにふさわしいものに成長していった。
しかし、ここで頭を悩ませたのは、活動を維持するための資金だった。基本的に彼らの活動は当人たちの任務外の物売りや賛同者の出資で補われていたが、急激に膨れ上がった隊員と多様な任務を補うには限界があった。
彼らが出した結論が、まだ軍を持っていなかった王宮に申請を出し、王国お抱えの軍隊となることだった。そのためには、それに見合った成果を上げ、王宮に報告する必要がある。そこで、古くから人々を恐れさせてきた吸血鬼、その中でも特に強い力を持つと言われている青血族の里に目を付けた。
義勇軍は侵攻を開始。時間はかかったものの里を殲滅し、これを報告した彼らは正式に王国直属の軍として迎らえることとなった。
だが、それからすぐに問題が発覚。青血族の里を襲撃した際に取り逃がしたと思われる吸血鬼が、各地で人間を襲っているという報告が上がったのだ。これに対し、軍はすぐさま吸血鬼を専門とした討伐チームを編成。目撃情報などが上がるたびに、各地に赴き十数年間、吸血鬼を追い続けている。
魚屋の主人と猿人族…いわゆるホモサピエンスの女性が向かい合ってる。
「払えないのかい?」
財布とにらめっこしていた女性、ミヤマが店主の声と同時に顔を上げる。
「だったら帰んな。金のない奴に用はないよ」
ミヤマ、悔しそうにこぶしを握って立ち上がると、他所の店に向かう。しかしどの店に行っても、どの食材も買える値段ではなかった。
「ここもぉ…?」
「あきらめな嬢ちゃん」
野菜の前に座る、ウサギのような獣人のおばさんが話しかけてくる。
「今は町中の物の値段が上がってるからどこ行っても似たようなもんだよ」
「そんな~…どうして?」
「最近海に大鮫が出るようになって、船が出れなくなってんだよ」
「え~…。鮫はなにしに来てるんですか…」
「アタシの知ったことじゃないさ。そのおかげで交易が滞っちまってるのさ」
ミヤマ、うなだれる。その様子を見たおばさんがオレンジを持ち上げると、ミヤマに向かって差し出す。
「え…いいんですか!?」
「400ウォンズ」
「え゛」
王国マイシェ。商業で栄えた国で、多種多様な人種が入り乱れる。ギルドから仕事を受けるハンター業も多岐にわたり、駆け出しから熟練の者まで数多く滞在する。
街の広場でスピーカーが震える。
『ここ最近、森に入ったものが次々に血を吸われた状態で発見されている。この緊急事態を軍は吸血鬼の仕業と断定して討伐チームを結成することにした』
人々がざわめく中、スピーカーから聞こえる声が話を続ける。
『犯人と目されている青血族は非常に強力な力を持った吸血鬼であるが、幸いなことに高名なハンターであるセッツ、そしてこの国の吸血鬼討伐を長く牽引してきたデニス隊長が名乗り出てくれた。一般市民は事態が収まるまで、興味本位で森に近づいたり絶対にしないようにとの通達だ』
ミヤマ、お腹をさすりながら街をふらつく。
「腹減った…」
ふと、いい匂いにひかれて店に寄っていく。値段が高騰して人はまばらだが、食事を楽しんでいる人をガラス越しにうかがえる。
「くそ、金持ちめ…。むっ」
食事がまだ皿にたくさん残っているにもかかわらず、話に夢中になっている一行がいる。ミヤマは脚の赴くままに店に入っていった。
軍人二人が並んで座り、向かい合ってセッツが一人で座る。
「デニスさんも討伐に加わるとは…体は大丈夫なんですか」
セッツの質問に位の高い軍服の男が煙草を吹かしながら口を開く。
「歳の問題じゃねえよ。青血族の巣を襲っておきながら、何匹も取り逃がしたのはあのころ義勇軍だった俺たちだ。今も逃げ延びた連中は人間を襲って好き勝手やってると聞く」
岩のような肉体を軋ませながら話すこの男は鉱人族。剣を携えてはいるが、その肉体だけで十分凶器になりそうだ。
ドアが開いて鈴が鳴るが、セッツの一行は気づく様子はない。
「いらっしゃいませ。おひとり様ですか?」
「…はい」
店員の肩越しに一行の皿を窺いながら答える。
「では空いてるお席に…」
「あ、自分で探します。はい。大丈夫」
ヘコヘコと会釈しながら、ミヤマは一行の後ろの席に歩いていく。
「…変わったお客さん」
「奴らを一匹残らず始末する。それが俺の責任だ。この討伐にセッツが加わってくれて、本当に心強く思っている」
「いえ。俺もデニスさんと一緒に行けて、嬉しく思っています」
「いやいやしかし、こんな豪華な組み合わせと一緒に私も討伐に参加できるとは。討伐部隊の人間として光栄です」
そう相槌を入れるもう一人の軍人、シャウラは同じく鉱人族だが、デニスと比べるとかなり華奢で俗な言い方をするなら宇宙人のよう。性別もはっきりしない風貌である。
話に夢中になるデニスとシャウラの脇からミヤマがそっと手を伸ばし、食べ物をかすめ取ろうとする。
「調査の目星はついているのか?」
「それがサッパリでしてね。なにせ手がかりは血の抜かれた死体だけですから。襲われた被害者に共通点もないし…」
「あとちょっと…!」
無事、ソーセージが手元にやってきた。
「やった…!」
ソーセージを口に放り込む。
「ん!~!~!」
「美味いか?お嬢さん」
ミヤマは目を丸くして後ろの席を見る。デニスとシャウラの隙間からセッツが笑顔でミヤマを眺めていた。慌ててシャウラたちも振り向く。
「誰だお前…他人の食べ物に何してんだ!!?」
慌てたミヤマはどうしていいかわからずキョロキョロした挙句立ち上がり、思いつくままに喋りだす。口にはソーセージが入ったまま。
「私もその討伐に連れて行ってもらっていいですか!」
「は?」
「私、え~…まだハンターとしては駆け出しで、色々と経験を積みたいんです!」
「ダメに決まってるだろ!んな初対面の怪しい人間を」
「シャウラ」
「なんですか!」
「さえずるな」
「さえっ…」
「ギルドの依頼を受けるとなれば、初対面のハンターとチームを組むことは珍しくもないし、ルーキーのお守りをするなんてザラだ。ただ、今回の討伐は軍の依頼だ」
「そうですよ!こんな…」
「報酬が無くてもいいなら、好きについて来ると良い」
「えっ」
「やった!」
「足手まといになるんじゃないのか?」
セッツ、ミヤマの目の前にソーセージエッグの皿を差し出す。ミヤマは引き寄せられるように手を伸ばす。セッツが皿をテーブルに戻そうとすると、ミヤマは手を伸ばしたままみるみる悲しい表情に変化する。改めてミヤマの前に皿を差し出して頷くと、手にとって幸せそうに目玉焼きを食べ始めた。
「いざとなったら囮にでもすればいい」
全員、店員までもがセッツの方を向いた。
「冗談だ」
ミヤマ、バリケードが張られた道の前に立つ。
「この先が吸血鬼のいる森…」
ふと周りを見ると、ミヤマ以外の3人は後ろの方で1人の美しいエルフの女性と会話していた。
「じゃあセッツさん。旦那のこと、よろしくお願いします」
「ええ」
「任せてください、リリィさん!我々は必ず、無事に戻って参りますから!」
「ふふ、頼もしいわね、シャウラ君。それじゃあ貴方、お気を付けて」
「ああ…」
三人がバリケードの前に戻ってくる。
「セッツさんの奥さんですか?」
「違う!お前今の会話聴いてたか!?あの人はデニスさんの奥さん!」
「あ、そうなんですか…すみません」
「義勇軍が国のお抱えになるかならないかのころから、一線で戦い続けるデニスさんをずーっと精神的に支えてきた、立派な女性だぞ!ねえ、デニスさん?」
「…そうだな」
「あれ…」
「このところはろくに口も訊いていなかった」
「何かあったんですか?」
「いや、大したことは…何も。一体どういう風の吹き回し何だか…」
「へー…。セッツさんはご結婚はされてるんですか?」
「お前…少しはデリカシーとか考えたらどうだ」
「いい、いい。俺のことは気にするな。セッツは確か独身だったな」
「あ、そうなんですか。恋人とかいないんですか?」
「おいミヤマ、少しは自重しろ」
「え?あ、すみません」
「君は本当に喋りだな…」
「すみません、なんか…気になるんですよね、セッツさんのこと」
「おいおい、まさか惚れたっちゅうんじゃないだろうな」
「あ、それはないです」
デニス、ずっこける。
「ただ、なんていうんだろうな…一緒にいると、なんだか何かが起こりそうな…。私、そういう勘は良く当たるんです」
「お前、セッツさんのこと馬鹿にしてんのか?」
「いえそんな、そういう訳じゃ…」
「シャウラ」
「はい!」
「さえずるな」
「え」
「結婚ね…してないよ」
「あ、そうなんですか」
「婚約者がいたが…吸血鬼に殺された」
「あ…」
「だから俺は吸血鬼中心のハンターになったんだ」
「す、すみません。いやなこと思い出させちゃったみたいで…」
「気にしてないさ。先を急ごう」
「婚約者がいたのか…」
「あれ、デニスさんも知らないんですか」
「ああ。奴とはいろんな話をしたことがあるが…そんな話は初めて聞いた」
「ほーん…なんで言わなかったんでしょうね」
シャウラ、しかめっ面で地図を見る。
「あれ?」
「どうしました?」
「いつの間にか進む方角を逸れていたらしい。あっちだ」
しばらく歩く。
「ねえ、セッツさんって今おいくつなんですか?」
「フッ、そんなの気になるか?」
「はい」
「今年で45になる」
「凄い!40超えてハンターやってるんですか!」
「はは、おかしな子だな。見るからに俺よりもデニスさんの方が年上だろう」
セッツは後ろを指さす。
「もうすぐ60だぞ」
「え?見えないですよ!逆サバ?」
「へっ。若く見られはするがね、体はもうガタガタだよ。薬も10種類は飲んでる」
「うわ…凄い執念ですね」
「…俺の仕事だからな」
「すみません、そんな大事な討伐にお邪魔しちゃって」
「気にすんな」
シャウラが方位磁針を確認する。
「む?またずれてる…」
「おいおい、壊れてるんじゃないのかそれ?」
「来る前までは使えていた筈なんですけどね…」
「セッツさん、磁石でも持ってるんじゃないですか?」
「なっ…」
「お前な…セッツさんを何だと思ってんだ!そんなしょうもないミスするわけ」
「シャウラ」
「はい!」
「……とにかく…使えないものは仕方がない。ここは俺が先頭になろう。森の歩き方は心得ている」
「おお、それなら心強いな」
「……お前これ、やるわ」
シャウラ、方位磁針をミヤマに渡す。
「え?あの…」
ミヤマ、壊れた方位磁針を渋々カバンに入れる。
しばらく歩き、ミヤマが森の向こうに開けた景色を見つける。
「?」
ミヤマの様子に気づき、セッツが景色に近づいていく。
「崖になっているな」
崖の淵まできて、しゃがみこんで足元を見下ろす。ミヤマもセッツの隣まで行ってしゃがみこみ、崖を見下ろす。
「おい…崖の近くにいる人間に不用意に近づくな」
「あ…すみません。うわー高い…落ちたら死んじゃいますかね」
「森も深い…運が良ければ助かるかもな」
「あ…あそこ」
「ん?」
「屋敷がありますよ。電話でも借りられませんかね」
「電話なんか借りてどうする気だ?」
「電話局からこの場所を探知してもらえるかもしれませんよ」
「お前それでもハンターか!?」
「地図にあった屋敷だな。確か夫婦が住んでいるらしいが…」
「わからんぞ。とっくに魔物の巣窟になってる可能性もあるし、電話回線の法印も崩れてて使い物にならないかもしれん。…だが目指してみる価値はある。もう少しこのあたりを調査したら、行ってみよう」
「はーい」
ミヤマ、勢いよく立ち上がる。
「あ…」
ミヤマが突然バランスを崩し、崖から転げ落ちていく。
「おい、ミヤマーーーー!!」
「……手の掛かる…」
転げ落ちた先で、ミヤマが目を開ける。
「イタタ…え?ここどこ?デニスさーん?セッツさーん…私どうしたんだっけ」
少し考え、悔しそうに顔をしかめる。
「あー…よりによってあんなとこで…」
よっこらせとそこに立ち上がる。
「皆を探さなきゃ…ん?」
遠くで物音がする。何事かとミヤマが音の方へ歩いていくと、男がイノシシの傍らにうずくまっている。イノシシはみるみるうちにしぼんでいき、ミイラのようになった。ミヤマは思わず、男が良く見えるように回り込む。男はイノシシの尻に歯を立てていた。ミヤマの足音に、男が顔を上げる。壮年の猿人族のようだが顔色は悪く、牙は鋭くとがっていた。
「あ…デニスさーん!吸血鬼いましたー!」
「ば…ま、待て!」
「おーい!くそ、聞こえないとこに行っちゃったかな…」
吸血鬼、一安心して息をつく。
「近頃発生している変死体の調査か?それなら俺じゃない」
ミヤマ、睨む。
「本当だ。俺はずっと魔物の血しか吸っていない。人間の失踪者や死体が出ればすぐに軍の捜査が入るし、昼間襲われれば俺は簡単に捕まる。そんなリスクを負う気はサラサラない」
「だったら…」
「?」
「屋敷の場所…知っていますか」
「それがどうした」
「案内してください」
「吸血鬼に道案内を頼むのか?」
「…それもそうですね。じゃあ一応…」
剣を抜き、吸血鬼に突きつける。
「それ以上近づいたら切り倒します」
「…腰が引けてるぞ」
ミヤマ、姿勢を整える。
「はぁ…こっちだ」
「ほれ、ここだ」
ミヤマ、吸血鬼に剣を突き付けて距離を置きながらついて行き、先程崖の上から見た屋根の色と同じ屋敷にたどり着く。
「そういえば吸血鬼さん」
「マトウだ」
「いつもこのあたりにいるんですか?」
「俺の屋敷だ」
「買ったんですか!?もしかして前の住人を…」
「俺が来た時には誰もいなかった。4か月は入り浸っているが…住人は一向に帰ってこない」
ミヤマ、マトウを睨む。
「それはそうと小娘」
「ミヤマです」
「フン…屋敷に何の用だ」
「電話って使えますか?」
「軍を呼べばその瞬間に電話を叩き壊すぞ」
「あ、まだ壊してないんですね」
「興味が無いから触れてもいない」
「…警備隊に連絡するだけです。貴方のことは話しません」
デニスが空を見上げる。
「すっかり暗くなってしまったな」
「なんか…森の中の夜はエラく不気味だな…」
「下手に動かない方が良いかもしれんな…今日はここで夜を過ごして、明るくなったらミヤマを探しに行こう」
「あれ?セッツさん、首んとこ…ペンダントつけてませんでした?」
「ん?ああ、本当だ」
「ああ…そういえば、そうだな…。どこかで落としてしまったらしい。まあ、仕方がないな。こんな森の中じゃ探しようがない」
屋敷の中でマトウが電話を探してくれている間、ミヤマは元の住人が残したらしい日記を読んでいた。
『Verdict day』
半年ちょっと前の日付。
『酷い雨。大きな土砂崩れがあったそうだけど、近くの人たちは大丈夫かしら』
『Beat full day』
数ヶ月前の日付。
『辺りに住んでた人たちは皆怖がって、次々居なくなってしまっている。森の外れに新しく集落を作っているそうだから、旦那と話して私たちも移ろうかと思う』
数日後の日付
『旦那が狩りに出かけたきり帰ってこない。何かあったのかしら。一人で出歩くのは危険だと言われたけど、探しに行くべきかしら。こういう時に、近所の人がいると助かるのに』
そこで日記は終わっていた。
「おい小娘」
マトウの声がして、振り返る。どうやら電話の場所がわかったらしい。
「かけるならとっととしろ」
「あ、はい」
ミヤマが電話を使っている傍で、マトウはソファーでくつろいでいる。
「…はい。ええ、羅針盤が狂ってしまって…森から出られなくて…。はい。お願いします」
ミヤマ、電話を置く。
「フフ…磁石一個失うだけで森から出られなくなるとは。人間は不便だな」
ミヤマ、うつむく。
「そう気に病むな。人間など道具が無ければ非力なものだ。しかし…ハンターはとっとと辞めるべきだな」
「なんでですか…?」
「森で迷って警備隊を呼んでる時点でサバイバル能力は底辺。それ以前に、魔物にはお前みたいな人間をおびき寄せる手段を持った奴らはゴマンといるぞ。俺が人間を襲わないと言ってお前は信じたのか?」
「はい」
「吸血鬼だぞ」
「というか誰かに案内してもらわなきゃどうしようもなかったですし。騙されてたらその時考えます」
「…本当に馬鹿らしいな」
「信じるかどうかなんて私の勝手じゃないですか。それに、マトウさんは吸血鬼だけどこうやって話を聞いてくれてるし」
「…」
「ねえマトウさん。どうして人間の血は吸わないんですか?」
「…さっき言っただろう。無駄なリスクを避けたいだけだ」
「本当にそれだけなんですか?」
「…」
「マトウさんを見てると、どうしてもそれだけが理由とは思えないんです。何か事情があるんじゃないですか?」
「小娘」
「人の血を吸わない…吸いたくない理由…」
「あまり調子に乗るな」
「…」
「用は済んだんだろう。迎えが来るなら屋敷の外で待っていろ。目障りだ。耳障りだ。シッ!シッ!」
「…わかりました。電話、ありがとうございます」
ミヤマが部屋を出る。しばらくして、戻ってくる。
「すみません、出口…どこですか?」
たき火を囲み、シャウラ、デニスが寝ている。
火の番をしているセッツ、二人が寝ているのを確認すると立ち上がると、物音に気付いたのかシャウラの方が目を覚ました。
「セッツさん…どちらへ?」
「なくしたペンダントを探してみる。火を見ててもらえるか?」
「ふぁい…」
ミヤマ、家の外で迎えを待ちながらブラブラと歩き回る。空はすっかり暗くなっていた。
「辞めろ…何様だっつーの…」
ミヤマ、何となく腰の剣を鞘ごと抜き、ぼんやり眺める。
「はぁ…私向いてないのかなぁ。…あれ?」
鞘の先に、セッツが無くしたといっていたロケットペンダントがくっついていることに気づく。
「あ、これ…。…あれ…」
方位磁針が狂っていた時のことを思い出そうとする。
「まさか…でも…。…あ、薬の時間…」
ミヤマはロケットをポケットにしまい、薬入れにしている自分のロケットを取り出す。後から足音。振り向こうと思った時、何者かに首を絞められた。
「あ゛…かっ…!」
どうにか逃れようと腕をつかむが、逞しい腕はピクリともしない。ミヤマの意識は段々と遠のいていく。