「デニス隊長に敬礼!」
運ばれていく棺に向かい、制服を着た参列者が敬礼する。端の方ではデニスの妻、リリィが泣き崩れていた。参列者たちが並ぶその後ろで、ミヤマは葬儀を見つめていた。
「…おいミヤマ」
隣に並ぶシャウラが声を掛ける。
「旅の仲間を二人も失いました。これは私たちの責任です」
「そりゃそうだが…」
「セッツさんを殺した奴は必ず倒します」
「あのな、焼き魚抱えながら言われても説得力ないんだよ」
「仕方がないじゃないですか、腹ごしらえの際中にシャウラさんが呼びに来るから」
謎の言い訳をするミヤマの頭をシャウラは思い切りひっぱたく。
「痛~…。そういえばマトウさんは?一緒に城まで連れてこられてましたよね?」
「ん?そういえばあいつどこ行った」
「おい…貴様っ!勝手に歩き…回るな!」
マトウは手錠を付けられたまま、手錠の縄を持った兵士を引きずり、廊下を歩き回る。鼻をヒクつかせると角を曲がってどこかに向かっていく。
「おい吸血鬼。どこいった?」
「マトウさーん?」
廊下の奥からドタドタと兵士が走ってくる。
「シャウラさん助けてください!」
「な、なんだ…どうした?」
兵士に連れられてある部屋に到着すると、マトウが箱を漁って輸血パックを吸っていた。床にはすでに空になったパックの山。ミヤマとシャウラに気づき、座ったままそちらを向く。
「よう」
「お前何してんだ」
「マトウさん、輸血のパックなら飲んでもいいんですか」
「フン。吸うか否かの線引きは俺が決める」
ホレと言わんばかりに手に持ってるパックをシャウラに差し出す。
「吸うか?」
「お前ブッ飛ばすぞ!それ置いて来い。陛下がお前と話があるそうだ」
「知ったことか」
シャウラの怒号も意に介さず、マトウは次のパックに手を伸ばす。
「お、おいちょ…止めろ!」
「は、はい!」
「ぬ…なんだ貴様ら…!離せ!」
そこから数人がかりでマトウを引きずって城内を歩き、あるゲートをくぐろうとしたとき。シャウラがミヤマの歩行を止めるように手で制する。ミヤマは何事かとシャウラの顔を見た。引っ張られたまま渋々自分で歩いていたマトウがだけが少し前に出、わずかに孤立する形になった。マトウの縄を引っ張っていた兵士は手を離し、急いでゲートから離れていく。違和感に気づいてマトウが振り向くも時すでに遅し、ゲートの前後の柵が降りてきてそのままマトウは閉じ込められてしまった。慌ててマトウが柵をつかみ、シャウラを睨み付ける。
「貴様何のつもりだ!」
「シャウラさん!?」
「お前の疑惑はまだ晴れていない。あの後これまでの被害者の遺体を調べたら、確かにいくつか無傷の遺体が存在した。けどそれ以外に何者かに噛みつかれたような跡がある遺体も確認された。これから私たちは調査のためにもう一度森に入る。それで真犯人がもし見つかったら、そん時は出してやる」
「夜になればこんな柵、何の役にも立たんぞ」
「うん」
シャウラが手を上げると、城から巨大な照明装置が6個出てきた。3つずつ、檻の前後に設置して明かりをつける。
「うわ!」
「ぐ…」
光と共に強い熱を放つ巨大照明にマトウはうろたえ、それを見てシャウラはニヤニヤする。
「どうだ?くるしいか。夜中は一晩中こいつで照らしてやるからな」
マトウはすがるような顔つきになって檻につかみかかる。
「輸血パック…せめてあれを置いてってくれ…」
「お前さっき飲んでしまっただろう」
「なんだと…!」
「ま、陛下は明日には帰ってくるらしい。それまでゆっくりしてろ」
ミヤマがシャウラを押しのけて前に出る。
「マトウさん、必ず私たちが真犯人を捕まえてきます。しばらくそこで我慢していてください」
しばらく視線を交わす。やがてミヤマの方が切り、シャウラに出発を催促する。
「シャウラさん、城から出るにはどこから?」
「ん、北門がこいつの檻になってしまったからな。東門を使おう。良いかお前ら!」
「は!」
「見張りについてる者、絶対に檻に近寄るなよ」
「は!」
マトウは声にならないうめきを上げ、壁を殴った。
二人は廊下を歩く。
「で、これからどうするんだミヤマ。真犯人を早く挙げないと、お前もあの吸血鬼との繋がりを疑われてるんだぞ」
「シャウラさん、マトウさんの使っていた、転送用の魔法陣。あれって誰でも覚えて使えるものなんですか?」
「そんなわけあるか。…確かに、あれは認められた機関にだけ使用方法と許可が降ろされるものだ。マトウさんは何処からあれを…」
「シャウラさん、出発までどのくらいですか」
「ん…もうあまりないが…」
「少しお願いしてもいいでしょうか」
街の葬儀場。軍の指示で埋葬がいったんストップされたいくつかの石棺が一つの部屋にまとめられていた。入ってきたシャウラに対して兵士が敬礼し、ミヤマに対して露骨に嫌そうな顔をする。ミヤマは独特な異臭に顔をしかめる。
「何かご用事でしょうか、シャウラ隊長」
「あれ、シャウラさん隊長になったんですか」
「ん?ふっふっふ…まあな」
「へー。シャウラさんが隊長だと途端に胡散臭く感じますね!」
「うさっ…」
「血を吸われて亡くなった人たちの遺体を出発前に一度見ておきたいんです」
兵士たちはミヤマを懐疑的な目で睨み付ける。
「ちょっと頼むわ。1から9の棺とりあえず開けてくれ」
「了解です!」
シャウラの指示にコロッと態度を変え、素直に棺桶を開けていく。魔法陣や薬品で腐敗は多少抑えられているが、それでも死者の放つ独特な空気にミヤマは嗚咽する。
「平気か?無理するなよ」
「…っすみません、大丈夫です…」
ミヤマは一人一人の傷跡などを確認していく。
「さっきも言った通りだ。この中では…3、5、6の遺体は外傷がなく、恐らくセッツさんが魔法陣で殺したものだろう。しかしそれ以外の遺体は噛まれたような痕があった」
ミヤマがある遺体の横で立ち止まる。
「この人…」
「ん?ああ…その人も噛み痕が確認されてるな」
「シャウラさん、デニスさんの遺体もこちらに?」
「ん?たしか、軍の関係者は南側の第2安置場に…」
そこまで聞くと、ミヤマは何も言わずに部屋を出て行く。慌ててシャウラそれを追いかける。
「お…おい、ミヤマ何処に行く!?」
「デニスさんの遺体ももう一度拝見させて頂きます」
「そりゃ不味いって…デニスさんの遺体は私の管轄とは別で…」
「なら私一人で見ます。シャウラさんは人が来ないか廊下を見張っていてください」
「お前そういう問題じゃ…」
特に見張りが付いているというわけでもなく、ミヤマは安置所の中を歩き、デニスの棺の前にたどり着いた。
「デニスさん …失礼します」
「おいおい…全く、仕方がないやつだな」
ミヤマは一つおじぎをし、棺桶のふたを開けようとする。しかし、予想よりもふたが重く、ミヤマは厳しそうな顔で押したり引いたりする。
「…すみません、これ開けてもらっていいですか」
シャウラは呆れた顔をするが、渋々と言った様子で蓋に手をかけ、棺の横に下す。
「やっぱり…」
一人合点し、遺体のポケットを漁り始める。
「お前っ、いい加減に…!」
「あっ」
シャウラがミヤマを遺体から引きはがすと、ミヤマの指には何かがつままれていた。シャウラがそれに気づき、ミヤマの手から取り上げる。
「指輪…?」
「いてて…それ、奥さんとのペアリングじゃないですか?」
「そういえば…。それが何でポケットにしまってあるんだ」
デニスの指を確認すると、先程の遺体の女性と同じ指輪をしている。
「…不倫…?」
「シャウラさん、私がリリィさんをセッツさんの奥さんだと勘違いしたのを覚えてますか?やっぱり、あのときのデニスさんは何処かよそよそしかったんですよ。それに言ってましたよね、『このところは口も聞いていない』って。デニスさんはあの時にもう、何かしらの危険を感じていたんじゃないでしょうか。だから、万が一のことがあったときのためにこのメッセージを残していたのかもしれません。夫婦仲は決して円満ではなかった、奥さんを探ってみてほしい…と」
「デニスさんを殺すように…リリィさんが糸を引いてたとでも言うのか?」
「まだ仮説ですけど。可能性はあります」
「でも、不倫なんて不名誉な証拠を自分で残すか?」
「もう不倫相手は死んでましたし、もし自分も死んだならその後はどうでもよかったんじゃないですか?とにかく、確認したいものは見れましたから、棺桶を元に戻しましょう」
「ん、ああ」
言われるまま、シャウラは棺桶のふたを閉め直し、疑問を抱く。
「なんでお前が指示出してんだ」
ミヤマはべッと舌を出して誤魔化す。扉の方から足音がして、二人は振り返る。
「リリィさん…」
小さな花束を手に持ったリリィが、軽くお辞儀をする。
「綺麗な花…」
「ラクラウスっていう熱帯の花で、花言葉は『気高さ』なんだそうです。旦那が喜ぶかと思って…」
シャウラは何か言いたげな顔でミヤマに視線を送り、ミヤマはバツが悪そうに視線を逸らす。リリィは献花を終えると、シャウラに振り返る。
「ではシャウラさん。また後程…」
それだけ言い残し、部屋を去っていった。
「後程?」
「ああ、今回の捜索にはリリィさんも参加することになってる。デニスさんの遺志を継ぎたいと名乗り出たらしくてな。…お前の仮説は、私は杞憂だと思うぞ」
森の入り口にミヤマとシャウラ、リリィと兵士数名が集まっている。
「リリィさん、治癒系のエルフなんですね」
「旦那と結婚する前は私も、義勇軍の一員としてこんな風に任務に参加していました。ブランクはありますが、魔法は忘れていません」
「よろしくお願いします、リリィさん」
シャウラの挨拶に対し、リリィは軽いお辞儀をする。
森の中を、地図と方位磁針を頼りに歩いていく。
「やはり、怪しいのはあの屋敷だよなぁ」
「あの吸血鬼が潜伏していたという屋敷ですか?」
「ええ。まぁ、調べたら元の住人がいた記録がありましてね。失踪の原因を辿れば何か…」
「ん?」
地図を眺めていたミヤマが何かを呟く。
「どうした?」
「あ、いえ、何でもないです」
「?」
「…?あれ、なんでしょうか」
リリィが遠くの方に何かを見つけてその方向に歩き始める。
「ちょ、ちょっとリリィさん…。あんまり勝手に動かないでください」
シャウラが追いついたとき、リリィは口を押えて後ずさっていた。
「リリィさん、どうしました?」
「あ、あれ…」
リリィが指をさした方にあったのは、血を失った生き物の亡骸だった。
「…ミヤマ」
シャウラはあとから追いついてきたミヤマに震えるリリィを預け、死体に近づいていく。体を確認すると、何者かの噛み痕があった。
「死後しばらく経ってるが…やっぱり吸血鬼か。森に人間が立ち寄らなくなって仕方なく動物を襲ったんだな」
「…シャウラさんは、やっぱりマトウさんがあの人達を殺したと考えているんですか」
「当然だ。奴は吸血鬼だぞ」
「それならお城に連れてくのは危ないと思わなかったんですか?」
「知らん。俺は命令に従っただけだからな」
「命令…?」
「あの…」
「ん…あ、ああ…そうですね。捜査を続けましょう」
そのころマトウは余りに退屈で、アリの隊列を崩して遊んでいた。そこに、陽が落ちてきたのを確認した兵士が照明を点灯する。
「ぬっ…!」
赤外線にさらされ、早くも汗をかき始める。
「…コレ吸血鬼とか関係なしにキツイんじゃないか…」
森の捜査を続ける一行は、一本の川にたどり着く。
「あれぇー?」
「なんだ、さっきからうるさいな」
ミヤマが地図をくるくる回しながらうろたえる。
「いえ、地図の通りなら川なんて無いはずなんですけど…」
「お前な…ちょっと貸せ」
シャウラはミヤマから地図と方位磁石を奪い、あることに気づいてミヤマの頭をひっぱたいた。
「いたっ!何…」
「お前…これ前セッツさんに狂わされた方位磁石じゃないか!」
「……あ、どおりで!」
「どおりでって…っ、あん…ホンットに、どうすんだ!結局また迷子だぞこんな森の中で!」
「ごめんなさい…」
「チッ…リリィさん、コレ魔法でどうにかなりませんか」
「え…生き物の治癒はできますけど、道具の修理はちょっと…」
「あ!こ、こういう森で迷った時には川を辿っていけば人里に出るって…」
「あのな。一応私達捜索に来てんだけど」
「それに、日も堕ちてきたし今はあまり動かない方が良いと思いますよ」
「…しっ」
突然、シャウラが二人を手で制し、身を屈めて耳を澄ます。
「シャウラさん?」
「…なにかいる……!ミヤマ、後ろ!」
「え!?」
ミヤマが慌てて振り向くと、巨大な蛭が今まさにミヤマにとびかかろうとしていた。
「う、うわっ」
「ミヤマ剣!抜け!抜け!」
「え、あっ」
ミヤマはたどたどしく剣を抜き、蛭の脳天に突き刺す。が、その後ろからも、右からも左からも、気が付けば巨大な蛭と蚊に周りを囲まれていた。
「ひぃー!」
「クソッ!」
ミヤマは両手で剣を持ち、素人丸出しで斬りかかる。シャウラは腕を銃に変えて1匹ずつ仕留めていくが、いかんせん数が多い。
「い、いや…!」
悲鳴に振り返ると、リリィが蟲たちに動きを封じられてどこかに連れていかれようとしていた。
「リリィさん!」
近づこうとするも、大量の蟲が行く手を阻んで近寄れない。
「この…」
「だめだ、ミヤマ!一旦引け!」
「クソ…リリィさん!」