《…示現エンジンを狙ったテロ行為の防止を目的として、地球連邦政府は駐留軍の増備を議会で決定しました。先月発生した「テロ組織ラ・イデンラのモビルスーツが示現エンジンに突撃する」事件を受けての対応とされており…》
3月の終わり、少しだけ肌寒い風が吹く中でバスが走る。今年は比較的暖かい、なんて言われているが、雲が広がっているせいか実感があまり無い。
「…教授、何か面白いニュースでも出てる?」
「示現エンジンを狙ったテロへの対応が決まった、と言ってるわね。現場はこの近所じゃないかしら」
「…伊豆か…」
「プロデューサーは休めたの?」
「バスの中なんて寝られないよ」
"教授"と呼ばれた少女は、スマートフォンから流れるラジオを聴きながら、ぼんやりと窓の外を見る。随分と小柄で可愛らしい、しかしどことなく大人びた雰囲気を持つ、ピンクのツインテールである。
スマートフォンから流れる音はラジオのニュースだが、画面にはおよそニュースと関係の無さそうなものが映っていた。
「…それにしても、わざわざ県外から来た入学希望者を受け入れるというのも、変な高校ね」
「5人一斉に志願して通るというのもそうだけど、その内の2人が男なのに女学院の体裁を保とうとしているのもおかしいよ」
「存続の為になりふり構っていられない、というところかしらね。もっとも今回は好都合だけど…」
私立浦ノ星女学院…日本の片隅、静岡県沼津市の外れにある、ちょっと寂れた高校。"教授"のスマートフォンに映った学校であり、バスの外で少しだけ見えている岡の上の校舎である。
《…県内で活動するスクールアイドルの総数が、今シーズンは150組に上ったという情報が上がりました。静岡県統計センターの集計によると、138校ある高等学校のうち120校がスクールアイドル部を持ち、その約2割程が1校内で複数のグループを持つということです。グループの総数が学校数を上回ることは、ラブライブの開始から静岡が初めてで、人気の高さを伺わせます》
「…プロデューサーは、スクールアイドルに関わる気は無いの?」
「難しいな…実業系の芸能学校が強いから、ただの進学校が勝つのは奇跡だよ」
「勝てない勝負には乗らないって?」
「誰だってそうだよ」
「…何というか,妙に諦めが良いわね…」
"プロデューサー"と呼ばれた少年もまた、ぼんやりと窓の外を見ていた。黒い髪に縁なし眼鏡、透き通る様な青い瞳…しかし、その姿からは何故か覇気が見られず、落ち込んでいる感じさえ見て取れる。
彼の手には、スマートフォンの画面に映ったメールのメッセージが流れている。何かの連絡だ。
「…巡査達は?確か先行して入居してるでしょ?」
「してるね。ついさっき、全員分の制服も届いたらしいよ」
「男用が2人だから、もう少し掛かると想像してたんだけど…」
「確かに。入学式ギリギリになると見込んだら、意外と早いんだね」
画面に映るグループメッセージも、名前の全てが役職になっている。
巡査
[制服が届いたぞ。後はお前達の到着を待つだけだ]
プロデューサー
[郵便物は届いてない?]
巡査
[俺がさっき精査した。ご令嬢が手続きをしているから、その辺は心配しなくて良い]
プロデューサー
[何が届いてた?]
巡査
[ガス、水道、電気だ。後は30分もあればインターネットの開通まで終わるだろう]
教授
[ホームセンターを通り過ぎてるけど、本当に何も買わなくて良いのね?]
パパラッチ
[大丈夫だよー!]
「…パパラッチの"大丈夫"って、今一つ信用出来ないんだよな…」
「巡査が居るから平気でしょ。その為に先行させたんだから」
ご令嬢
[ごめん、単4電池を3本ちょうだい!]
パパラッチ
[あれっ、買ってなかった?]
ご令嬢
[さっき袋を見たら無かったよ]
パパラッチ
[おかしいなぁ…]
「あ…」
「ほら、やっぱりね。忘れることが有り得るんだよ」
「仕方ないわね…」
教授
[単4を3本ね?買って持ってくるわ]
ご令嬢
[助かるよ!]
…この面子がそれぞれ何を意味するのかは、これから分かること。彼らはこの地で、新しい生活を始めるのだ。
…三ノ浦にあるこじんまりとした住宅街、その一角にある小さな家。人目にはつきにくいが、元々ここは空き家であった。お世辞にも綺麗な家とは言い難いが、インターネットをはじめとした現代生活を営むには別段困りそうにない。
「ようプロデューサー、やっと来たな」
「遅くなっちゃったよ、もっと早く東京を出るつもりだったけどさ…」
「仕方あるまい、あの襲撃の直後ではな」
「巡査は部屋の用意は終わったの?」
「終わってるぞ。その辺は心配ない」
"プロデューサー"を出迎えたのは、"巡査"と呼ばれた少年。少し紫がかったボブカットの、鋭い三白眼が印象的な男。歳で言えば間違いなく高校生だが、その佇まいからは既に人の父親とも言えそうな空気が漂う。
この家を整えていたのは、この巡査だった。
「ほら、お嬢様。電池が要るんでしょ?」
「やめてよ、私はお嬢様じゃないってば」
「でも血筋はそうでしょ?」
「今の私はただの高校生だよ…」
「これから高校生、よ」
「あはは、そうだったね…」
「それで、手続きは?」
「ほら、これが書類だよ。私の別荘扱いだから、何も気にしないで住んでね」
「いつもながら、あなたの金遣いには感心するわ…」
"お嬢様"…つまり"ご令嬢"は、"教授"から荷物を受け取る。緑のポニーテール、無邪気で幼げな顔つき、そして呼び名からは少しズレたはしゃぎっぷり…それでもどこかの名家の生まれだ。
どうやらこの家は、彼女が買ったらしい。
「それで、もう一人は?」
「パパラッチなら料理中だ」
「私はジャーナリストよ!いい加減に覚えて、堅物君!」
「お前ほどに下品ならパパラッチが似合いだ」
「こらーっ!そうやって私を弄らないで!」
「ははは…もう許してやりなよ」
「それより、もうすぐ食べられるよ!」
奥のキッチンで料理をしている"パパラッチ"が吠える。青いショートカット、パッチリとしたつり目、そして身のこなしが軽そうな体つき…とは言うものの、この中では比較的品の無い少女に入るようだ。
「じゃ、すぐに着替えないと…」
「後は教授とプロデューサーだけだ」
呼び名からはまるで繋がりが見えない、この不思議な5人…その事情が判明するのは、また後の話である…。
…やはりこの部分は書きたくないところである為か、メチャクチャですね…。
それでも書かなければならなかったのは、物語全般を端折りたくなかったからです。