個性が身体機能とか信じられないです。
「ああ、マジか…」
ここのところ蒸し暑い日が続く。肩からカバンを担ぎ中学の制服の上から白いパーカーを被っていることを除けばごく普通の男子が弱々しく溜息混じりにつぶやく。
彼はいつものように通学路を歩いていた。途中で大きな音がしたがまたヴィランが暴れているのだろうか。それとも誰かの個性の暴走か、個性同士の喧嘩か。だがそれもいつものことと考えていた。
だがいつもと少し違うのは大きな音の後、曲がり角を曲がった先のすぐ近くにヴィランがいたことだ。
突然個性が使えるようになったかと思えば、前世らしき記憶を思い出し、太陽が苦手になり、朝起きれなくなり、髪の色素は抜けていった。
前世の記憶を思い出してから今まで疑問にも思わなかったことに疑問を抱くようになり、ついでに以前にも増して面倒ごとに巻き込まれるようになってしまったようだ。
「ヒャハハハハハハハハハッ‼︎‼︎ほらほら立てよ、起きろよ、踏ん張れよ‼︎ヒーローがこんな様でいいんですかねぇ!ほらほらお前らヴィランが暴れてるぞ!!地面に寝ててヴィランを止められるんですかねぇ!!ほらほらまた一人男の子がヴィランに狙われてますよぉ‼︎守らないとまた犠牲者が増えちゃいますよぉ‼︎」
ヴィランが周りを破壊しながら叫ぶ。周りには倒されたのだろう、三人のおそらくヒーローだと思われる大人が倒れている。
遠くにはほかの人がいるけれど、近くにいるのは俺だけ。
ヴィランは異形型なのかところどころ人とは違う体をしている。一際目立つ象のような長い鼻。二メートルを超えそうなずっしりとした体格。丸太のように太い腕。ものすごく固そうな皮膚。
外見で判断するのはこの世界でも良くないことだが、今まで何故犯罪行為をしていなかったのか疑問に思ってしまうほどの凶悪な見た目である。
「ほらほら少年、逃げないと死んじゃうよぉ?ああ少年ヒーロー志望かなぁ?じゃあ逃げられないかなぁ?」
ヴィランがゆっくりと古城の方へと歩いてくる。楽しそうに。嬉しそうに。
「ああ、本当に勘弁してくれ…」
思わずまた溜息を吐く。走れば逃げれるかもしれないが、そうするとこのヴィランは怒り狂い倒れている人たちに暴行するかもしれない。もしかしたら殺そうとするかもしれない。たとえ殺されないとしても目の前で傷ついている人がいたのならば、もう逃げるという選択をすることは出来ない。
たとえ知り合いでは無くとも傷つく人がいたなら暁古城はそれを見逃すことが出来ない。
覚悟を固め、鞄を下ろす。瞳が眩い真紅に染まる。過去を思い出し弧を描く唇の隙間から、牙がのぞく。過去のように、過去と同じ言葉を。
「…ここから先は、
雷光を纏った右腕を掲げ、暁古城は静かに吼える。
いつも続いていたあの透き通るような声を
もう聞くことは無い
主人公:暁古城 :あかつきこじょう
第四真祖。前世の記憶をつい最近思い出した。だが覚えていることに穴があったりしている。前世と言っているが死んだ時のことも覚えておらずそもそも本当に死んだのかもわかっていない。
眷獣は第四真祖の11体揃っており、ある程度指示も聞いてくれるがたまに無視する。古城が支配下に置いたアスタルテの"薔薇の指先"、アヴローラの"妖姫の蒼氷"などはいない。