ラブライブ!〜ヤンデレファンミーティング〜   作:べーた

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今回は、以前書き溜めていたサンシャインのヤンデレ話を投下します。トップバッターは善子から。

「ヤンデレ返し」ってすごい好きです。本作に限らず、短編は長編よりヤンデレが強いので、人によってはホラーに感じるかもしれないのでご注意を。


短編【Aqours+α】
偽りの愛の世界【津島善子】


……1ヶ月前の、ある日。

 

俺は沼津のとある古本屋で、催眠術の本を買った。何バカなことを言ってるのかって?うん、俺もそう思う。催眠術なんてペテン、ここみたいな田舎でも、スマホ全盛の21世紀の現代日本で通用するわけがない。

 

あのバカ千歌にさえ、『試してみようぜ!』って話してみたら、ツボって十千万の玄関で30分くらい笑ってたし。悔しかったから寝顔に落書きしたら、しいたけをけしかけられてエライ目に遭ったっけ……。

 

……まあ、それは置いといて。

 

このままだと本の代金が無駄になるし、かといって鏡を使って自分にかけてもむなしくなるだけだ。誰か実験台になってくれる人はいないものか……と探していると、Aqoursのみんなにも笑われる中でたった一人だけ、アイツが興味を示した。特徴的なシニヨンを大きく揺らして。

 

 

『なによこれ。真っ黒な革の表紙の仕上げ、かっこいい字体のタイトル……私のセンサーにビビッと来たわ! 催眠術ですって!?ちょっと見せなさいよ!』

 

 

動画配信者としてだけではなく、Aqoursの中でスクールアイドルとしても人気急上昇中、黒魔術とかが大好きな厨二病全開のイタい美少女……『堕天使ヨハネ』こと津島善子。

 

「本を持ってきた俺が言うのもなんだけど、お前こんなの本気で信じてるのかよ?」

 

「いけない? 何か危険そうな材料で薬作ったりとか、他人に迷惑かけないものだからいいじゃない。ほら、私とあなただけなんだから」

 

「まあ……俺たちだけってなら、確かに問題ないか。でもいいのか? 催眠術なんて、魔術っぽくも堕天使っぽくもない気がするけど」

 

「フッ……わかってないわね。昔は本当の魔法とか魔術とか、そういう術とか錬金術とかみーんな同じようなモノだったのよ!それに、いずれ練習を重ねれば、目を見ただけで暗示がかけられたり、なんでも命令できるかもしれないじゃない!」ギラン

 

「それ絶対アニメの影響だろ、さすがに無理だと思うけど……」

 

 

俺のことを信頼してくれているのか。それとも、よからぬ催眠に考えが及んでいないだけなのか。なんにせよこの時、俺は大きなチャンスが来たと思った。善子に催眠術をかけるというチャンス。

 

……『俺のことを好きになるように』っていう暗示を、かけるための。

 

 

 

順を追って話そう。俺たちの間柄は、一般的に言えば気心知れたゲーム仲間というだけだ。

 

しかし、俺の方には一つ秘密がある。それは……俺があいつのことを、善子のことが『好き』だってこと。友達としてなんかじゃなく、恋愛の対象として。

 

スクールアイドル活動だけじゃなく、髪をかき上げる何気ないしぐさや、隣に座ってゲームに熱中する姿に、俺は惹かれていった。配信だってこっそり全部見てるし、ゲームの時に隣のソファに座るとドキドキしっぱなしで、集中なんてできない……これが恋でなくてなんだろう?

 

本音を言えば、すぐにでも告白したかった。それぐらい本気で惚れてる。あいつの堕天使なところも、悪ぶったキャラに対して本当は善い子なところも、全部好きだ。

 

(……でも、できなかった。怖かったんだ、断られるのが)

 

 

それに、スクールアイドルのあいつに告白していいものか、ずっと悩んだ。プロと違って恋愛は禁止じゃないとはいえ、世間の男子の反応すべてが温かいものになるとは思えなかった。そして何よりも、あいつが俺のことを好きなのかわからなかった。

 

ゲーム友達してても、そういう雰囲気になったことなかったし……『2年生の桜色の似合うあの人』とすっごく仲良いし。そっちの気があるんじゃないか、って疑ったこともあったくらいだ。

 

(結局のところ、全部自分が傷つくのがこわいだけだったんだろう。でも……)

 

それでも、この機会を逃すという考えはなかった。どうせそんな卑怯な男だっていうのなら、それを貫き通してやろうっていう、よくわからない意地だ。

 

2人であの本の内容が本当かどうか『実験』する中で、俺はその催眠術をついに実行に移した。あわよくば、上手くいけばいいなとか、まさか現実にはならないだろうというつもりだったんだけど……なんとこれが成功してしまった。それも、かなり上手く。

 

今ではAqoursの練習以外では、俺にべったり。隙を見つけては毎週デートに行くほどの、大切な彼女になっている。そう、この放課後だって一緒に……

 

 

「あーまったく、今日も疲れたわね~……ずら丸達ときたら、彼氏持ちをひがんで、練習量とか片付けとか多めにしてくるんだからまったく」

 

(自分でしたこととはいえ、どうしてこうなったんだ……?)

 

「どうしたのよボーっとして? さっさと帰って、先週の続きやるわよ。イベント今日までだし、あんまり遅くまでいるとママも帰って来ちゃうんだから」

 

 

いや、善子が恋人なんて本当に嬉しいし、そこまでしてでも振り向いて欲しかったのは本心なんだけど。

 

……それでも、善子の思いを歪めてまで、無理やり彼女にしていると思うと、嬉しさよりも胸が痛む。

 

デートをしていても、善子がなんの疑いもなく『彼氏』に向けてくる笑顔が……辛い。大好きな彼女だからこそ、その意思を奪っていることが。

 

堕天使としても、善子としても。彼女の微笑みは、操られているものだとは思えないほどに屈託がないんだ。その目を見るたびに、俺は自分のウソと、浅ましさを見通されるんじゃないかと、ずっと怯えていた。

 

 

 

……そうして悩んで悩んで、悩み続けた末に。結局俺は今晩、善子の催眠を解くことにした。

 

もう終わりにしたい。この罪の意識から解放されたい。

 

いいや、俺のことはいいんだ。何よりも、この世で誰よりも一番大好きな……善子を苦しませたくない。大好きだからこそ、このままじゃいけないんだ。許されるかはわからないけど、いつまでも謝る。何度だって土下座する。できる限り、どんなお詫びだってしてみせる。

 

俺ができることならなんだってやる。だから……

 

 

「善子、聞いてほしい。大切な話があるんだ」

 

「ヨハネ!……それで、今日はなんかずっと変よ? 全然似合わない真剣な顔しちゃって」

 

 

善子の家。教師をしているおばさんは多忙で、今日も帰りが遅いらしい。

 

俺たちが二人だけになれるこの場所とタイミングで、いつまでも話さないでいるわけにはいかない。善子にすべてを打ち明ける……今日がその日なんだ。

 

 

「ごめん。実は俺……今までずっと善子に嘘ついてた。卑怯なことして、無理やり善子に好きになってもらってたんだ……」

 

「…………よくわからないけど、どういうこと?」

 

「信じてもらえないかも知れないけど。この前の催眠術の本。あれ、本当だったんだ」

 

 

必死に、ひとつひとつ。言葉を絞り出す。

 

善子は黙って腕を組んで聞いてくれている。『ヨハネだ』といういつものお決まりのツッコミも、止まってしまうほどに。

 

もしかして、自分でも違和感にどこかで気づいていたんだろうか?それとも、俺の言葉は現実味がなく、何かの冗談だと思われているのだろうか。あまり動揺している様子が感じられない。その瞳は、何かを探るようにじっと俺の方を見ている。

 

……俺はそれに、向きあわないといけない。

 

 

「……」

 

「それで俺は、善子に催眠術をかけた。『彼女になってくれ』って……!」

 

「…………ふぅーん、『私たちの関係は催眠術のせい』って言いたいわけ?……じゃあ、あなたはどうしたいの?」

 

「善子に謝りたい。本当にごめん!もう2度とこんな事しない。だから、だから……!」

 

 

何でもする。

 

叩かれてもいい、蹴られたっていい。

 

一生軽蔑されても、口をきいてもらえなくてもいい。

 

警察に突きだされたって、いい。

 

 

 

それでも、善子に謝るためなら————!!

 

 

 

「……ねぇ、それ。()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 

 

———……えっ?

 

()()()()()()()……?

 

 

「えっと、それは……? その本、に……書いてあった、とおり、で」

 

 

 

……おかしい。

 

何かが変だ。

 

でも、『何』が変なのかわからない。

 

俺は何に引っかかっているんだろう。

 

 

「だからぁ……それを具体的に聞いてんじゃない。ほら、ついこないだやったばかりなんでしょ? 覚えてるわよね?」

 

 

そう、善子は何気ない質問をしているだけのはず。当たり前の疑問を聞いているだけだ。

 

それなのに、俺の違和感は眩暈がするほど強烈で……何も答えられない。

 

 

「どうしたのよ、なんで黙ってるの?さっきまで、あんなに威勢よく謝ってたのに」クスクス

 

 

善子の質問が、頭から離れない。

 

考えがまとまらない、なんで善子が知ってて黙ってた?最初の問いかけはなんだった?

 

どうして俺は……

 

 

……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「そんなに私、変な事聞いてるかしら。ただ単に、貴方が何をしたのか……それを話してくれればいいのよ?」

 

 

何も言えないでいる俺を見て、彼女は勝ち誇ったような笑みを浮かべている。三日月のように弧を描く口元、それこそ堕天使のように。

 

まるで大好きで大好きで、欲しくてほしくてたまらない獲物が、やっと餌に食いついたといわんばかりに……嗤っている。

 

 

「催眠術をかけてから……告白はいつのことだった? 私たち、どんなデートしたっけ? Aqoursのみんなはなんて言ってたかしら?」

 

 

なんでだ……!?()()()()()()

 

どこで催眠術の本なんて買った?

 

どうやって善子にかけた?

 

デートを繰り返したはずなのに、いつやった?

 

Aqoursのみんなにも一言くらい伝えてるはずだ。()()()()()()()()()()

 

彼氏彼女の関係なのに、なんで覚えてないんだ!?

 

どうして、何もわからない……!?

 

 

「覚えてないわよね? だって……そもそも()()()()()、このヨハネは()()()()()んですもの。……忌々しいことだけど、ね」

 

 

(なんだよこれ。最初から全部……知ってたみたいじゃないか。こんな……)

 

 

頭の中がぐらぐらする。なんで俺は思い出せない。そして、なんで善子は全部初めからわかってた……? 俺は、告白してない?

 

だがその一方で、少しずつだけど誰かの顔が思い出される気がする。

 

善子じゃない、誰か……

 

 

()()()()()()()()()に、貴方は会ってるはずよね? 見ず知らずの相手にコクったわけないでしょ? そう、ヨハネ以外の誰かに」

 

 

「う、ぐう……」

 

「ほらほら、もうちょっと♪ 頑張れば思い出せるかもしれないわよ……?」

 

 

善子の言葉も耳に入らずも視界に入らず、俺は膝をついて頭痛に耐える。

 

彼女は告白されてない?俺は誰かにそれをした?告白?恋愛を?

 

『2年生の、あの人』……待てよ、千歌のことも、曜と鞠莉のことも思い出せるのに、あの人だけなんで名前が出てこないんだ!?

 

 

「り、り……」

 

「へぇ~……あれだけしてあげても、結構出てくるものね。それとも、ちょっと弱かったのかしら」

 

 

揺れるような紅い髪、都会っぽい上品さ、でも同人誌がこっそり好きで、善子と仲が良くて……!!

 

そうだ。()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

覚えてる、覚えてるのに!顔と名前が出てこない!?善子に催眠術なんてかけてない。そうだ、やられたのはむしろ俺が。いや、今は善子のことはいい。彼女の事を思い出せ。

 

2年生だってことはぎりぎり頭に残ってる。そこからたどって……そうだよ。善子とすっごく仲の良かった、あの人じゃないか。

 

桜……そう、桜色だ!なんで結びつかなかったんだ。

 

告白をしたかったんだ、そして本を買って、善子に相談して……!

 

 

 

 

「————『スイッチ』」パチンッ

 

 

 

……

 

 

あっ……。

 

 

 

その言葉と共に指を鳴らされて、俺の身体は糸の切れた人形のように、プッツリと動かなくなっていた。

 

「これが『切り替え』の合図。……思い出させないわよ、リリーのことは」

 

後に残されたのは、おぼろげで、僅かな意識。善子に促されるままに、身体の方はソファに座らされた。善子はそんな俺を見て相変わらずクスクスと嗤っている。

 

「まったく……私はこんなにあなたの事が好きだったのに。愛してたのに……まさかリリーと両想いだったなんてね……リリーもあなたも、私に相談したのが運の尽きだったわけだけど」

 

善子が何を言っているのか、よくわからない。この部屋には俺と彼女しかいなくて、よく聞き取れているはずなのに。何を言われても、虚ろな目でうなずくしかなくなっている。

 

「……そんな時に、貴方がこの本を手に入れた。リリーにかける前に試しに……って、私に預けてね。うまく言いくるめて貴方を実験台にしたら、まさかこんなに上手くいくなんて。これもヨハネが堕天使たる才能かしら?それとも、貴方と私だから起きた奇跡……なのかもね♪」

 

 

パラパラと善子は催眠術の本をめくっている。

 

真っ黒に装丁されたそれは、催眠術というよりも、黒魔術の本だったのかもしれない。少なくとも、普通に市販はされていない代物だろう。こんな危険な本に手を出してまで、好きな人に振り向いてもらおうとした、俺への報いなのか。

 

……もっとも、今となってはその本の正体や真贋に大した意味はない。決まりきった俺の行く末にも。確かなことは、それが使われて。大成功したという事実だけ。

 

 

「これで私は貴方からリリーの記憶を消した。せっかくだし、リリーからも貴方の記憶を消してあげたわ。2人してあんなに抵抗して……時間はかかったけど、貴方はもう私だけのものってわけね」

 

「貴方に偽の記憶を植え付けて、しばらく罪の意識を残してたのは、私を裏切ったちょっとした罰。『催眠術をかけたのは自分』って思い込ませて、少し仕返ししてあげたんだけど……。あんまり申し訳なさそうにするのだから、さっきのでもう許してあげるわ。お返しにしてはちょっと意地悪だったわね、ごめんなさい」

 

「……それじゃあ、お話は終わりね。そろそろ、『新しい貴方』になりましょうか?」

 

 

 

貴方が好きなのは私、津島善子ことヨハネ。

 

……私だけ。この私だけよ。

 

他の女の子やAqoursのメンバーを好きになったりはしない。

 

さあ、この声をよく覚えてね……?

 

私たちは恋人。彼女、妻……愛する人。

 

あなたにとって、誰よりも何よりも大切なのは、ヨハネただ一人のことよ。

 

 

 

善子の声が、頭の中で反響する……。

 

鐘の鳴る音みたいに、何度も何度も聞こえて、刷り込まれていく感覚……。

 

まるで砂漠で乾ききった身体に、オアシスの水が染みわたっていくように吸い込まれていく。

 

 

 

「大丈夫。もう何も悩まなくていいのよ。このヨハネにすべて任せておきなさい……♡」

 

 

 

そして、その言葉すら意識の奥の奥に沈み込んでいって。

 

彼女の望んだとおり、俺は何も考えられなくなっていった。

 

 

 

 

♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢

 

 

 

 

 

「————ねぇ、『桜内さん』って知ってる?」

 

「? 確か善子の友達にそんな人がいたような……それがどうかしたのか?」

 

 

「だからヨハネ!! ……ううん、なんでもないの。さぁ、今日は何処にデートに連れて行ってくれるのかしら♡」

 

 

 

 

その苗字に一瞬、何か大きな喪失感と頭痛を感じたのだが。なにも思い当たる節はない。

 

俺はそれが何なのかわからないまま、『連れて行って』といいながら手を引いてくれる、目の前の堕天使に夢中になっていた。

 

 

「誰にも渡さないわ。私だけの、愛しいリトルデーモン……♡」

 

 

 

 




……やっちまったか?スイッチの合図は、ヨハネの某曲から。

地震は一応無事でした。長編の更新再開は事態が落ち着いてからになると思います。

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