「どういうこと……?なんでココに曜ちゃんがいるの。キミは私と付き合ってるはずだよね……?」
「ちょっと千歌ちゃん、そんな怖い声出して彼を困らせないでよ。彼はね、私と付き合ってるの。私達、永遠の愛を誓った仲なんだよねー♪」
「ああいや、僕はそもそも彼女はいないはずなんだけど……。」
私は桜内梨子。この春、音ノ木坂学園から転校した浦の星女学院2年生です。そして、今私の目の前にいる2人、千歌ちゃんと曜ちゃんに誘われてスクールアイドルをしているんですけど……見ての通り、あともう1人の男の子を巡って、絶賛修羅場中なんです。
彼のことを2人とも『自分の恋人』だと思ってるみたいだけど、当の本人はどう見ても否定してるわよね? アレって……。
「あーあ、曜ちゃんったら。彼があんまり優しいから勘違いしちゃったんだね。だから貴方にも『あんまり愛想ふりまかないようにね』って言ってあげたのにさぁ……」
「勘違い? まぁ、そう思いたいのもわかるけどね。どっちにしても、千歌ちゃんよりさぁ……私のところに来ちゃいなよ? 2人で幸せになろっ♡」
千歌ちゃんは見たことがないほど怖いオーラを出してるし、逆に曜ちゃんは超上機嫌で千歌ちゃんを煽るように彼にスキンシップしてる。
でも、千歌ちゃんは千歌ちゃんで彼の前だけは笑顔で曜ちゃんには鬼のような目を向けてる。曜ちゃんは笑顔に見えて全然目が笑ってない。
以前から首に腕を回したりすることはあったけど、今ほど『逃がさない』という無言のプレッシャーを2人から感じたのは初めてだわ……。
彼もそれを感じ取っているのか、普通なら両手に花状態なのにカタカタと震え始めている。これまでアプローチに鈍感だったとはいえ、流石にかわいそうよね……。
1年生と3年生のみんなも震えながら物陰で様子を伺ってる。ルビィちゃんはもう気絶した。あの鞠莉ちゃんですらからかったり仲裁できないでいるんだから、読んでくれてる皆さんにもこの危険さが伝わってますよね?
……? なんでみんなそんなに驚いた顔してこっちを見て……?
あっ、余所見してたら千歌ちゃんがついに割って入って行っちゃってた!
「そろそろ離れてよ。わからない?彼が嫌がってるの。好きでもない曜ちゃんに擦り寄られて、でも優しいから断りきれないでいるのがっ、さぁ……!!」
普段の千歌ちゃんからは想像もつかないほど激しい怒りが滲んでるけど、それでも曜ちゃんは怯んでいません。
「千歌ちゃんこそわからない?私と彼の結びつきの強さっていうのかな、そこに千歌ちゃんが入れる隙間なんて、1mmもない、のっ……!!」
無理やり引き離そうとして、必然的にお互いの手を掴む形になってます。私たちの誰もが最悪の事態を予想して飛び出しそうになったけど、その前に彼が止めた。
「ちょ、ちょっと待ってよ! 千歌も曜も力づくなんてダメだよ。ここはちょっと落ち着いて……」
なんだかんだでこういう時は男の子らしいから、2人も惹かれたんだと思うけど……
「「貴方はちょっと黙ってて(よ)!!!!」」
「はい……」
ヘタれるの早すぎじゃない!? せめてもうちょっと粘りっていうか、抵抗っていうか……いえ、止めに入れない私たちが言うのもなんなんだけど。
……っていうか、こういう時は全然息ピッタリのままなのね2人とも。まぁ、同じ人を好きになって同じように勘違いしてるんだからそうよね。喧嘩するほど仲が良い、じゃないけどああやって言い合えるのも仲が良い証なのかしら。
彼のことは蚊帳の外に置いちゃったけど、一応言うことは聞くみたい。同じタイミングで手を放して、また言い争いに戻った。……やっぱり、仲良いんじゃ?
「私なんて曜ちゃんよりずっとずっと前から彼のことが好きだったんだよ?そう、子供の時に出会ったあの日から……!」
「会ったのは3人だったから同じ日だし、最初に挨拶したのは私だったよ!あの日からずーっと好きなのは私も同じだもん」
「ううん、私の方が先だった!たとえ本当に曜ちゃんの言う通りだったとしても……過ごした時間だって違うでしょ?曜ちゃんは水泳とかで忙しかったから、私の方が彼のことはよくわかってるよ!」
「それこそ大差ないでしょ!多少の時間くらい、あっという間に取り戻して見せるよ。それに、その大会をいつも応援しに見に来てくれてたんだから、私の方が好きってことじゃん!」
なんだか微妙に話がずれてきちゃった。どっちが彼の恋人に相応しいか、という論点になってるみたい。
……貴方もそんな助けを求めるような目線で私を見ないでよ。でも、『男らしくきっぱりと否定しなさい』なんて言えないわよね。どうしようもないわ、あれじゃ……。
「だ、ダイヤ生徒会長でしょ、何とかしてよ!」
「生徒会長が何の関係がありますの!? 男女の縺れだなんて私はどうしようもありませんわ!」
「う~ん……嫉妬FIREがメラメラね。曜はまだわかってたけど、千歌もここまでだなんて……。」
「ルビィちゃんも意識が戻りそうにないずら……。」
「目が覚めてまた気絶されても困るし……運ぶわよずら丸!」
冷静に分析して諦めたり、責任(?)を押し付けあったり、逃げだしたりとこっちもカオスになってきちゃった。遠巻きによいつむの3人や生徒まで集まり始めてるし。心配してきたのかと思ったけど、どっちが勝つかでトトカルチョまで始まってる……。
しょうがないわね。こういう時は私がしっかりしないと……!!
「だいたい曜ちゃんは—————」
「千歌ちゃんだってそれは——————」
「二人とも待ちなさい!ここは公平に彼に決めてもらうべきじゃないの!? 大事なのは、彼が誰を好きなのかってことじゃない。それとも……彼の気持ちはどうでもいいっていうわけ?」
私が声を振り絞ってあげた一言は、なんとか3人を冷静にさせることができたみたい。こういう喧嘩はこういう決着が一番シンプルよね。
「そ、それはそうかもしれないけど……絶対、絶対私だよね!曜ちゃんじゃなくて、私のことが好きなんだよね!?言い寄られてるだけなんでしょ!?」
「千歌ちゃんの言葉に惑わされないで!貴方の恋人は私だけだよ!そうでしょ!?」
「過ごした時間とか、相手への理解とか将来とか出会いとか……。言った言わないの話をし続けてもキリがないでしょ?……さあ、どうなの。答えて!」
キッとした表情で見つめると、彼も決意を固めた顔をしてる。しっかりと言ってあげた方がいいわ。貴方の口から、本当の気持ちを。
そうじゃないと、この2人の目は醒めない。
「ぼ、僕は……千歌のことも曜のことも好きだよ。でも、恋人としてじゃない……幼馴染としてだよ。告白なんてどっちにもしてないよ。ごめん……少なくとも今は、二人のどっちを選ぶなんてことはできない」
その言葉で、2人はさすがにショックを受けてたみたいだけど……とりあえず今日のところは解散になった。残ってた3年生達は安堵の息を漏らして。
後ろの方でみんながやってたトトカルチョは全員負け……と思いきや、仕掛け人のよいつむ達は大勝を収めてた。なんだか利用されたみたいで納得いかないけど、今は状況が落ち着いたことを喜ぶべきね……。
「ごめんね、私……勘違いしてたのかな。でも……明日からまた貴方のこと、見ててもいい? 絶対好きになってもらうように頑張るから!お願いだよ……!!」
「私からも……勝手なこと言っちゃってごめん。千歌ちゃんも。今日はちょっと頭を冷やしてくるよ……」
二人がこの場からそっと出ていくと、彼も緊張しっぱなしだったのか腰が抜けてしまってた。まったく、カッコいいんだか情けないんだかわからない人なんだから……。鈍感は罪、あの2人を勘違いさせちゃったのは少し責めたい気分だけど、今は助けてあげないとね。
そっと手を取ってあげて、周りの女生徒たちを押しのけながら『休める場所』に連れていく。
あとでよいつむトリオと逃げた花丸ちゃんと堕天使はお仕置きだけどね……!
♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢
そして、今日の騒ぎから数時間ほど経って……
今、私はソファーの上で彼がシャワーを浴び終わるのを待っている。このまま一緒に入ってあげてもいいけど、彼を待つこのひと時もまた愛おしい。
「まったく、千歌ちゃんにも曜ちゃんにも困ったものね。ずっと前からあの人の彼女は私なのに……」
私もまた、惹かれてた……。一度捉えた彼のこと……逃がす気なんて私はさらさらない。
あの2人を『その気』にさせるのも、その争いに前から心を痛めていた彼を癒してあげるのも簡単だったわ。千歌ちゃんにも曜ちゃんにも悪いけど、彼の心はもう私のモノなの♪ もちろん、私も彼の虜なんだけどね。
「フフフ、2人とも。『急いては事を仕損じる』って言うでしょう……?」
いつからバトルが2人だけだと錯覚していた…?タイトル名→曲名→この曲でわかってた人もいらっしゃるかもしれませんが。
梨子ちゃん短編での「そもそも告白してない」というセリフがこの話では逆に活きてきてしまいましたね。
→@LL_SS_BETA
ラブライブ!用と本SS用を兼ねたTwitterアカウントの運用を始めてみました。通常のつぶやきに加えて、更新情報や没案なども発信していきますので、よろしくお願いします。