ラブライブ!〜ヤンデレファンミーティング〜   作:べーた

102 / 198
お待たせしました、ンミチャ③です。


色々書き溜めてはいるんですが、どこから更新しようか悩んでいると時間だけが過ぎていってよくないですね。




逃がしませんよ ③【園田海未】

ピンポーン

 

 

「……おはようございます。私です、入って宜しいですか?」

 

 

……あれから1ヶ月が経ちました。

 

私は毎日、こうして彼の家を訪れています。というと、なにかいかがわしい関係を疑われてしまいそうですが。やっていることは、『ごく普通』のことです。

 

朝は彼を起こして、お弁当を渡して、途中まで一緒に学校に行く。授業が終わったら、μ'sの練習がない時は校門まで迎えに行って、待ち続ける。その後は家に行って、お義母さんの夕食の準備を手伝う……常にとは言いませんが、かなりの頻度です。

 

これがどういうことか、というと……私は『ごく普通』の幼馴染のような、実質的な通い妻を演じることにしたのです。いえ、本心としては演技ではなく、婚約者であり、妻であるつもりなのですが……そこはこの際、置いておきましょう。

 

 

「あ、ああ……おはよう。いつもこんなに早く来なくってもいいのに。うちの母親だってまだ……」

 

「御母様はお疲れでしょうから。ですが私たちは学生ですし、若いうちから早寝早起きは大事だと、TVでも言っていましたし……あ、噂をすれば御母様ですね」

 

「あら? おはよう、海未ちゃん。いつもごめんなさいね、私が朝弱い方だから……」

 

「…………」

 

どこか不満そうな彼と、『幼馴染』の仲の進展に嬉しそうな御母様。そして、ステージの時以上に、満面の笑みを浮かべる私……これがここ最近繰り返されてきた、朝の日常。

 

彼も私に負けず劣らず、家や世間体、他人の目というものを気にしがちな人です。私がこうして毎朝押し掛けてくるのを断りきれないらしく、なし崩しに彼氏の役目をやらざるを得なくなりました。仕事で忙しいご家族に、私のことでうちの親との心配をかけたくない、というものもあるのでしょう。少なくとも、目立った実害のないうちは。

 

これは、ことりが教えてくれた方法だったのですが、さすがというべきですね。やはりこと恋愛となると、私よりも彼女の方が遥かに優れていたようです。持つべきは友……といったところでしょうか(穂乃果の場合は、あまり参考になりませんが)。

 

『大丈夫だよ海未ちゃん。いきなりだったから彼も驚いてただけ。ゆっくり時間を賭ければ、絶対に分かってくれるよ』

 

……彼の優しさを利用しているようで、この方法に心苦しい部分がないわけではありません。

 

しかし、事実として……以前に比べれば、彼はずっと私のことを意識してくれています。園田海未という女を、確かにその目で見てくれているのです。

 

その喜びの方が勝っていると、言えなくない自分がいたこともまた、事実です。一時期は落ち込んでいた気持ちも、最近はだいぶ回復してきました。

 

 

「いえ、彼が起きてしまっているのは少々、寂しい気もしますが……こうして顔が見られるだけでも、私は幸せです。じゃあ、朝ご飯作りますね?」

 

「海未ちゃんも忙しいでしょうに、ホントにいつもありがとね。ほら、あんたもお礼言いなさい」

 

「……ありがとう、いつもお世話になってて。とりあえず、寒いから上がってくれよ」

 

 

私に起こされるのに抵抗があるのか、早起きするようになった彼。

 

ただ、人間の習慣というものは早々、変えられません。私がずっと彼の事を好きなのと同じように。おかげで、こうして玄関にいたり……2日に1回くらいは台所に上がらせてもらえます。

 

ことりのおかげで、私の心はだいぶ余裕が持てていますし……こうして地道なアタックを続ければ、彼もきっとわかってもらえるはず。

 

 

それに、μ'sで成長できたおかげなのか、大胆な誘い方もできるようになりました。

 

 

「それはそうと、最近できたショッピングモールの割引券をたくさんもらえたんです。来週末は練習もお休みですし、一緒にどうですか?」

 

「あら、海未ちゃん大胆になったわね! いいわようちの子なんてどこへなりと連れてって♪」

 

「……じゃあ何か必要なものがあったら、一緒に買ってくるよ」

 

 

 

 

 

♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢

 

 

 

 

 

————この前の約束は、しっかりと果たしてもらいました。

 

私たちはショッピングモールで逢引を楽しむことができたのです。手には今日買った物の袋が、しっかりと握られていました。うちの周りのガーデニングが最近、荒れがちだったので、その用品が多めです。

 

特に鉢植えなどは重めですが、そこは男の人である彼が持ってくれているあたり、私もまだチャンスがある。そんなに嫌われていないと……そんな希望も抱かせてもらえました。

 

 

「今日は本当にありがとうございました、こんなに荷物まで持って貰ってしまって、庭作業の約束まで……」

 

「いいんだよ、おじさんとおばさんにはお世話になってたし……こういう土仕事なら女の子より、俺がやった方がいいだろ」

 

「そんなことはありません、やっぱり私達の共同作業ですから。2人で綺麗な庭にしないとダメですよ?」

 

「そ……そうだなあ。でも俺、花とかそういうセンスとかないし……」

 

 

……『将来結婚する』という約束も守ってもらいたいところですが、そこは今は我慢しましょう。こうして逢引して、本当に夫婦になれたかのように庭の話をできているのですから。答えに一瞬、窮している辺りは、今後の課題ですけどね。

 

 

「そうですか? 子供の頃、貴方が花を贈ってくれたことがあったじゃないですか。アネモネの花冠を……」

 

「えっ、そんなことあったかな。今ですら花の名前なんて、チューリップくらいしか自信ないのに」

 

「ふふっ……そういえば、あの時も花の名前は知らずに渡してくれてましたね?」

 

 

やっぱり……覚えてくれてはいないのですね。それとも、私のことがまだ苦手で、忘れたふりをしているのか。どちらにしても、少なからず残念な気持ちはありますが、思い出はこれから作っていけばいいだけの事です。

 

と、いうような会話をしていると、いつの間にか私の家に着いていました。今日は幸い、こちらの両親は出かけているので二人きりです。彼はどこか居心地悪そうに、帰りたそうにしていますが、そこを強引に引き込みました。これは私の最近のいつもの手です。

 

 

「それでは夕食の準備をしますね? さっきの特売のカキがありますし、今晩はカキフライにします♪」

 

「あ、ありがとう。じゃあ俺は『外で』花とか鉢植えを出しておくよ。土も落としておかないと……」

 

「いえ、『そこ』に広げておいてもらって大丈夫ですよ、外は冷えてしまいますし……」

 

ことりのアドバイスの延長線上ですけれど、こうして私の存在を積み重ねていくのです。

 

特に料理については、男性の胃袋を掴むことが大事だとも、よく言いますし。μ'sの何人かがそう言う作戦に出ていたことへの、カウンターでもあります。

 

……夫に食事を作る女など、妻しかありえないではないですか。

 

そう考えると、私の恋路を邪魔するために、みんな色々と有効な手を打って来ていたようですね。

 

 

(……待ってください、もし本当に、そうだとすれば……?)

 

逆に言えば、私が彼と距離を取れるよう、的確な指示を出した? 誰かが入れ知恵していたのではないか?……という疑惑も湧き上がってきました。あそこまで的確に、複数人で連携はとれないはずです。

 

(彼から頼んだ、という予想は間違っていないかもしれませんが、それだけだとすれば、誘い方が不自然ですね……)

 

私がことりからアドバイスを受けたように、もし彼やμ'sにも何か吹き込んだ女がいたら……ということ。

 

女かどうかわからない?いえ、彼を狙うのだから女に決まっています。それも、私と彼の仲を嫉妬して、奪おうとするような浅ましい女……

 

 

「いったい……誰なのでしょうか」ギリッ

 

 

μ'sは今、それなりの人気スクールアイドルグループに成長しています。それを妬む人間も現れて……いえ、それならもっと別の方法をとるはず。私たち個人の関係を壊すよりも、ずっと直接的な方法があるはずです。わざわざ、私と恋人の仲を裂くなど……

 

それで得をして、なおかつμ'sにある程度影響を与えることのできる人物。そんなもの……

 

 

(……思い浮かびません。いえ、私の知っている人物とは限りませんし、そもそも最初から全部勘違いという可能性もあります)

 

 

ただでさえ私は、彼の想いについて勝手な思い込みをしてしまっていたのです。あまり考えすぎない方が良いのかもしれません。もしこれが完全に間違いで、また彼に嫌われるようなことがあれば、今度こそ——————

 

 

「あっ……これがアカシアの木なんだ。鉢植えでも結構大きいんだな」

 

 

—————また、自分の気のせいだと考えようとして。

 

料理の下ごしらえに没頭しようとしたその瞬間、ふと聞こえた彼の、独り言……。

 

 

 

「へぇ……さっきあんなこと言ったばかりなのに、貴方が花の名前を知ってるだなんて。珍しいですね?どんな花なんですか?」

 

 

……私はそこに『何か』を感じ取ってしまいました。

 

感じ取りたくはない、間違っていてほしいと願ってしまう……『何か』を。

 

 

「海未が知らない方が珍しいな。黄色い花が咲くんだよ」

 

「そんなに有名なんですね……それ、どうやって知ったんですか」

 

「えっ、あ……そ、それは」

 

 

途端に目をそらして、言葉を詰まらせる彼。

 

……軽い質問に対して、可哀想なくらいの狼狽えぶり。

 

 

 

『やはり』、ですか。

 

 

「……どこで見たんですか? 実際にその花を」

 

「え、えっと。近所のおじさんの家で綺麗に咲いてるのを見て……」

 

「開花の時期は春ですが、昨年の事だと? そもそも、私が買ってきたのに知らないわけがないでしょう。何を慌てることがあるというんですか?」

 

「え……えっと……その」

 

 

この反応で、私は確信しました。

 

……それならばもう、容赦しません。

 

 

「……『誰』ですか?」

 

 

彼の体がわずかに震えます。

 

他の『女』だと。何よりも如実にそう物語っていました。

 

先ほど感じた『何か』、強いて言えば『女の匂い』……とでもいうべきでしょうか。

 

 

その女が身につけていたか、何かしら話しでもしたのたか……どちらにしても。

 

今、私の中で何かがプッツリと切れました。信じていたのに……信じていたのに、私は二度も裏切られた……なぜか笑いまでこみ上げてきます。

 

まだ、本当の恋人になったわけではないのに。

 

勝手な期待が、僅かなチャンスが。また裏切られただけだというのに……すべての希望までも砕かれた。そんな気がしたのです。私がつきっきりでいた気になっていても、彼は隠れて他の女と……

 

 

「私がこうまでしてあげても、どれだけ想っていても……貴方の心は離れていってしまうようですね……? ふ、ふふ、ふふふふふ……」

 

 

包丁を持ったまま、ゆっくりと近づくと、悲鳴を上げて距離を取られました。

 

なんです、そんなに避けることはないでしょう……?

 

 

「う、海未……落ち着いてくれ、何か誤解してるんだ。包丁を、置いて……!」

 

「私は落ち着いていますよ? 正気でないなら、すぐにでもこの包丁を『使って』しまっているでしょうから……」

 

 

いやですね、アナタったら……。

 

例え『浮気』がわかったとはいえ、まさか愛する夫を傷つけたりするわけないじゃないですか……?

 

 

 

 

「料理やお仕置きの前に、先に『片付け』ないといけないのは、その女のようですからね……?」

 

 

 

私の腕は、自分の意志とは関係なく暴走し……彼の悲鳴とともに大きな音を立てて、包丁が机に刺さりました。

 

 

 

 

 




次回で完結です。クロボン(ヤンデレ好きの紳士)さん、高評価ありがとうございました!本当の本当に感謝です!!


ところで、既に聡明な皆様はお気づきとは思いますが、この短編の元ネタ曲は「Anemone heart」です。

つまり……

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。