ラブライブ!〜ヤンデレファンミーティング〜   作:べーた

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でも、実際花陽ちゃんに監視されたいですよね?





孤独なワタシを ④【小泉花陽】

「……よし、ここが花陽の借りてるアパートだ」

 

僕と彼女の間に生まれた、僅かな授業の差。……つい昨日、凛ちゃんと会った時と同じように、僕が花陽の監視から逃れて動けるのは、こういう時間しかない。

 

普通なら、女性専用のアパートに近づくのは勇気がいるから、必要以上に辺りを見回してしまうけど……良かった、誰もいない。移動してる人を見かけないのも、授業の合間なのが良かったのだと思う。

 

もし見つかっても一応、表向きには彼氏彼女の間柄だから、通報されるってことはない……と思うけど、用心に越したことはないと思う。

 

(あとは、この鍵が合うといいけど……)

 

 

ポケットから鍵を取り出し、手の中で転がす。……この鍵は、凛ちゃんから預かったものだ。僕の鍵は花陽に渡してあるけど、彼女の鍵を僕は持ってない。僕はこんなに毎日くっつかれていても、彼女の家に招かれたことがなかった。

 

(今思えば、それがおかしかったんだ。大きな盲点で、不自然だったのに……)

 

ずっと彼女にペースを握られ続けていて、気づかなかった。彼女の部屋には、もしかしたら何か『隠したいもの』があったからなのかもしれない。

 

昨日、凛ちゃんと話すまで気づかないなんて、我ながらダメダメだけど……

 

 

 

 

♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢

 

 

 

 

———『毎日欠かさずつけている』という、花陽の日記。それを見るために、僕は凛ちゃんの協力をそうとは分からない形で求めた。

 

あくまで、ダメ元だった。なのに……

 

 

 

「かよちんの部屋の鍵ならあるよ?」

 

 

「……えっ?」

 

 

それは、意外なほどあっさり実現した。拍子抜けしてしまった僕の気の抜けた声は、彼女のラーメンを啜る音にかき消されるほど小さい。

 

 

「もぐもぐ……だから、かよちんのアパートの鍵なら持ってるにゃ」

 

「凛ちゃんがどうして……って、ああ! 親友なら当たり前、だよね……」

 

「? むしろ彼氏のキミが、せっかくまた付き合い始めたのに持ってないの? 凛は『たまに遊びにきて』って言われてるから、渡されてるけど……」

 

 

ま……まずい、怪しまれてる。当たり前といえば当たり前だけど。花陽がシャイだから……は苦しい言い訳だし、すぐバレそうだ。花陽に口止めしながら、言い訳にするには……

 

 

「…………あ、ううん。『実は貰ってたんだけど、新生活のドタバタで失くしちゃった』んだ。『まだ花陽には言い出せてなくて』」

 

 

……自分でもびっくりするくらい、咄嗟に嘘が出た。仮にも『元彼女』の親友を騙すような、最低の行為で、イヤな気持ちになる。でも、今は非常事態なんだ……今こうしている間の事、今こうして話していることさえ、花陽に伝わる可能性を考えると、冷や汗が出そうになったくらいだったんだから。

 

そして、幸いにも凛ちゃんは、僕のウソを信じてくれた。

 

 

「おっちょこちょいだにゃ、やっぱりかよちんは任せちゃダメ?」

 

「…………そうかもね」

 

「ちょ、本気にしないでよ!? アナタがしっかりしてくれなきゃ、それこそかよちんがまた泣いちゃうでしょー!?」

 

 

呆れたり笑ったり、焦ったり。忙しい凛ちゃんはそう言って、またラーメンを食べ始めた。

 

その間に、僕は『どうして花陽の部屋の鍵を渡されなかったのか』を考える。

 

 

花陽の、部屋……。

 

大学生の恋人同士が、部屋の鍵を渡しあうのは自然なことのはずだ。贅沢な話だけど……大学では、半ば同棲状態に入って、片方の部屋を使わなくなっちゃう場合もあるとか。

 

確かに花陽は、今や通い妻状態だ。最初の時も、僕の部屋は勝手に侵入され、『お試しでもう一度つきあおう』なんて言って、強引に生活圏内に入られた。そして、一日のほとんどを、すっかり一緒に過ごさざるを得なくなっている……。

 

そこに『花陽とまた過ごせることに幸せを感じてしまう』自分がいたのも確かだけど、そのせいで抜け落ちてしまっていたんだ。

 

花陽が僕に、自分の部屋の鍵を渡してきていないことを。

 

 

(完全に流されてるじゃないか、僕はなんてバカなんだ……!!)

 

 

そう考えていくと、必然的に一つの疑問にたどり着く。もちろん、彼女が何故そうしているか、だ。これまでの彼女の態度なら、むしろ自分から鍵を押し付けて、無理やり部屋に連れていくことだってしただろう。だけど、それをしなかったということは……

 

(花陽には、僕を部屋に呼びたくない理由がある……?)

 

 

きっとそうだ。花陽は僕に対して、自身の部屋の中で『何か』を隠している。それも僕に見られたくないものを。それが、彼女が僕を追って(?)この大学に来たことの目的と手段を明らかにする手掛かりかもしれない。

 

……特に、凛ちゃんが口にした『日記』。

 

部屋の中に入って、『何か』を見つけるか……日記を見ることができたら、何かがわかるかもしれない!! それだけじゃない、警察……そう、警察や他の人にも、花陽が何を考えてるかのれっきとした証拠になるはずだ。盗聴や盗撮だなんて僕の想像でしかないことより、よっぽど期待できる。

 

だから……そのためには、僕はもう1つ、凛ちゃんに嘘をつかなくちゃいけない。

 

 

「えっと、それでさ。その鍵、ちょっと貸してもらえないかな?」

 

「なくしたって、かよちんに謝ればいいのに? ひょっとして、なにか悪い事企んでるにゃ~?」

 

 

彼女の言葉に、ドキリとさせられるけど、それさえも呑み込んで……

 

 

「い、いや!実はその……花陽が最近、はげしくって夜寝かせてくれなくて。僕の部屋に入り浸るものだから、色々処置というか、大変でさ……この前やっと、花陽の部屋にしてくれって約束ができて……」

 

「は、激しいー!?夜ー!?ら、ラーメン屋で何の話してるにゃあぁ!?//」

 

「花陽にこの事が知れたら、また僕の部屋ばっかりになっちゃうんだ!せめて、しばらくの間だけでいいから……!!」

 

 

こんなに顔を赤くしてラーメンを吹き出し、鍵を差し出してくれる凛ちゃんに嘘をつくのは、本当にイヤだった。

 

でも、この機会を逃して……真相がわからなくなったり、このまま流されたままでいるのは、もっとイヤだった。

 

 

 

♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢

 

 

 

 

あれほど花陽が僕から隠したいもの。例えば……部屋の中にある盗聴や盗撮の機材とか、それこそ『日記』とか……。

 

いや、むしろそう考えたら色々と説明はつく。それ以外に希望がないというのもあるけど。とにかく、花陽の部屋に入って、『そういったもの』を見つける。それをもとに、家族や警察に相談するなり、逃げるなり色々と決める……それで何の解決になるってわかでも、ないかもしれない。

 

 

(だって、その予想がもし当たっていたのなら、花陽は……)

 

 

……『元に戻る』事はないんだから。

 

 

それでも、迷うべきじゃない。

 

今やるべきことは、彼女の……花陽のことを確かめることだ。

 

 

(彼女の目的?……そんなの分かってる。僕と『元の関係』に戻ること。それ以外にない)

 

でもそれはしょせん、『目的』でしかない。僕が知りたいのは、そのために彼女がとっている『手段』だ。

 

 

鍵を差し込んで、扉が開く。中から花陽の香りが漂ってくるけど、とても嬉しい気分にはならない。

 

早速大きなパソコンを見つけて電源を入れてみたけど、当然のようにパスワードがかかっている。デスクに引き出しがついていたけど、こっちも鍵がかかっていた。さすがに壊して開けるわけにもいかなくて、他のところを探すことにした。

 

……待てよ?なんでこんな事が?

 

(あまり機械に強くない花陽が、こんなにいいパソコンを買って、周辺の引き出しに鍵まで……?)

 

元々、僕にすら鍵を渡さなかったんだ。セキュリティという意味では万全かもしれない。

 

でも、花陽がそれをするということ自体に違和感が生まれてくる。

 

(もし僕が本当に、何らかの方法で監視されていたのだとしたら。このあたりにそういった機器や、それに関するものがあったんじゃないか?)

 

隠してあるのは、今の僕みたいな事態に備えているのか、急に何かあった時のために厳重に管理しているのか。

 

……これについては、今これ以上考えても仕方ないか。

 

そう思った矢先に、ベッドの隣にある小さな本棚に、分厚い冊子をいくつか見つけた。まさかと思って、手にとってみると……

 

 

(間違いない。これが凛ちゃんの話してた、花陽の日記だ……)

 

それは、予想通り日記帳だった。毎日欠かさずつけている、って話だったけど、流石に全てをこちらに持って来ているわけではないのだと思う。実際、ここにあるのは4~5冊程度だ。白紙のものも、予備なのか1冊だけある。

 

見たところ、どれも一冊365ページのタイプだから……ちょうどここ数年の内容が全部、書かれている事になる。試しに一つ手にとってみると、彼女が高校1年生になった頃の日記帳だった。早速パラパラとめくって、僕に関する記述を探す。

 

 

≪5月15日≫

 

今日、学校の帰り道で迷っていると、ある男の人に助けてもらいました。

 

私と同い年に見えましたけど、あの制服って近くの高校でしょうか?

 

最初はびっくりしちゃいましたけど、いい人だって分かってからは、すぐに仲良くなった気がします。

 

なんていうか、私から助けてもらったのにあの人、聞き上手で……スクールアイドルを始めた矢先にこんないい出会いがあるなんて、私の高校生活、どうなっちゃうんでしょう!

 

P.S よく考えたら、出会いがどうこうの前に、連絡先はおろか名前すら聞いてませんでした……。

 

 

≪7月9日≫

 

なんと、またあの人と会いました!この前助けてくれた、あの男の人です。μ'sのライブに、来てくれたんです!

 

友達に誘われて見に来てくれて、ライブ中も気づけなかったんですけど……終わってから、2人きりでお話する機会ができました(凛ちゃんや真姫ちゃんが不思議そうに見てましたけど)。

 

この前聞きそびれた名前も、絶対聞かなきゃって思ってましたし、お礼もぜんぜんできてませんでしたし。ただ、あっちは私だって気づいてくれなかったみたいです……眼鏡も外してステージ衣装着てたから、『全然見違えた』って。なんだか、嬉しい。

 

そう書いていて気づいたのですが、花陽は最近、気がついたらあの人の事ばかり考えてしまってます……これって、なんなんでしょうか?

 

 

 

≪7月12日≫

 

今日の練習中、ついボーっとしちゃいました。彼の事を考えてしまっていたんです。今、どんなことをしてるのかなとか、私のことどう思っているのかなとか……そんなことです。

 

それもこれも、この前名前や高校を聞いたのに、連絡先を聞きそびれてしまっていましたから……

 

そう悩んでいたら、凛ちゃん真姫ちゃんが心配して声をかけてくれました。正直に相談すると、『恋』だと言われました。

 

この気持ちって、恋なんでしょうか?

 

私……あの人のこと、好きになっちゃってるんでしょうか?

 

 

 

 

(……このあたりまでは、μ'sや高校生活のことと、僕との出会いだ。僕だってドキドキしてたけど、花陽の方も日記にかくほどだったのか……)

 

女の子、それもスクールアイドルを相手にして、ビクビクしていた当時の自分の失敗が赤裸々に描かれていて、ちょっと恥ずかしい。

 

……もっとも、そんな気持ちを抱く必要はないと、すぐに思い知らされることになる。

 

 

(この日記、途中からほぼ全部、僕のことじゃないか……!?)

 

 

 

≪7月21日≫

 

私、そんなに悩んじゃっていたんでしょうか。ライブに向けての練習は万全なんですけど、ため息が多いらしくって……μ'sの皆からも心配されてます。

 

だからでしょうか?真姫ちゃんと凛ちゃんが、彼との関係について手伝ってくれると言ってくれました。

 

真姫ちゃんいわく、まず彼の事を調べないといけないとのことでした。私も同意見です。

 

早速、真姫ちゃんがおうちの人に頼んでくれるそうです!

 

凛ちゃんもそれとなく、知り合いの女の子たちに聞いてくれるみたいで……私って、優しい友達に囲まれて幸せです♪

 

 

≪7月30日≫

 

彼の事がだんだん、わかってきました。私と同い年で、あの隣町の共学の公立高校に通ってみるみたいです。部活はサッカーで、試合ではいつも頑張ってるんだとか。真姫ちゃんのおかげで、おうちの住所や連絡先も手に入れましたけど、流石にいきなり連絡するのは不自然ですよね……。

 

と悩んでたら、凛ちゃんが名案を持って来てくれました!なんと、彼の高校のサッカー部の試合の日と場所について、調べてくれたんです♪彼も私のライブに『偶然』来てくれたんですし……ちょっとウソをついちゃうみたいで申し訳ないですけど、私も『偶然』観に行って、いいですよね?

 

その日はμ'sの練習もないですし、大チャンスです!

 

……チャンスって、なんのチャンスになるんでしょうか?

 

告白は、まだ早すぎますよ!?焦っちゃダメです、まだデートもできてないのに……。ヘンじゃない、ですよね?好きな人のことを調べたりアタックするのって、普通のことですよね?

 

 

≪8月7日≫

 

ついに、彼の試合を見ることができました!夏休みと凛ちゃんのおかげです。

 

この前話したときは、僕……だなんて、優しくて大人しそうな性格なのに、部活中はあんなに荒っぽくプレーしてるので、ギャップに驚きました。……でも、そういう激しさはキライじゃないです。

 

さらにさらに!お話して、今度こそ連絡先を交換できました♪もともと持ってるんですけど、これで今度こそ堂々と連絡できます。私のライブの方も見に来てもらいやすくなりますし……えへへ、『偶然』ってすごいですね?

 

でも、1つだけイヤなことがありました。

 

私じゃない人と、帰ってました。男の人が多かったんですけど、中には女の子も……確か、マネージャーです。誰だったんでしょうか。彼とどんな関係なんでしょうか?

 

試合の後なんだから当たり前だって思えても、モヤモヤして、眠れません。

 

……真姫ちゃんに頼んで、調べてもらおうかな。

 

 

次にμ'sのライブに来てもらえた時は、みんなに頼んで、一緒に帰らせてもらおうと思います。

 

 

 

 

———時間があまりないのに、ページをめくる手が重くなっていく。

 

僕は花陽とつきあっていながら、彼女のことを知らなさ過ぎたのかもしれない……。あの時の思い出、出来事が、偶然じゃなかった。真姫ちゃんや凛ちゃんも仲間だった。

 

でも、それだけならまだ、よかった……僕には分かっていたんだ。

 

このまま読み進めていけば、僕にとってもっと恐ろしいことが書いてあるのだと。

 

だって……

 

 

 

だって、あのマネージャーの女の子は……誰にも相談せず突然、9月に転校してしまったのだから。

 

 

 

 




そういえば、この前の更新で合計1,000,000文字を突破してました。単行本10冊分くらいでしょうか?(これ、いつも言ってますね)


諸月さん、高評価ありがとうございます!!!


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