GW更新企画、10日中8日間更新で終わりました。1日遅れですが鞠莉ちゃんをどうぞ。
「パパもママも関係ない……私たち、ずっと一緒よね♪」
そんな会話を、私たちはいつだって交わしていた。言葉だけじゃなくて、そのためにいろんな『準備』をしてきたわ。
……だから、私達の将来を邪魔する人なんていないんだって思ってた。微笑ましく思ってくれてるだけだって、思ってたのに。
時が経つにつれて……大きくなるにつれて、だんだんとそう簡単にはいかないことがわかってきたの。
「鞠莉!現実的に考えなさい!一般人である彼と結婚なんて許されるワケないでしょう!?」
「何よ……! 彼だってあんなに頑張ってくれてるじゃない。頑張ってたくさんスポーツで賞もとったし、大学もいいところ行けそうなのよ!?スクールアイドルだって、一緒にラブライブに出場を……!!」
「それでも、あくまでもこの国だけの狭い場所でだけの話でしょう!? 貴方はもっといい相手や、世界が……!!」
「もういいわ……!! パパもママも知らない!」
パパはまだ迷ってくれたけど、ママは彼との結婚を絶対に許してくれなかった。
それどころか、私に黙って『相手』まで用意してるらしい。彼以外と付き合うだけでも絶対イヤなのに、一度も会ったことのない人と結婚だなんてとんでもない話だわ……!!
確かに、(自分で言うのもなんだけど)私にはダイヤや果南が心配してくれる程度には、いろんな未来があったんだと思う。でも、そんなのどうでもいいの。私は大切なあなたや仲間と一緒にいたいだけだったのに……。
彼だって、私の両親に納得してもらえるよう頑張ってくれた。私たちがスクールアイドルに打ち込むのと同じように、自分を変えようとスポーツやスキルのトレーニングだっていろいろ手を出してるし、勉強もいつも結果を出してる。
それでも、ママは海外や良家からうわべやスペックと資産だけで男の人を連れてきて……私をなんだと思ってるのよ!
今日もまたケンカしてまた部屋を出たら、海岸に出た私を彼が待っていてくれた。駆け寄って抱きついて、彼の腕に抱かれると安心する。
『今日はまた貴方の事を話してみる』と言っておいたから、心配でわざわざ来てくれたのね……。そんな彼に、いい報告が出来ないままなのは申し訳ないのだけれど。
「鞠莉……大丈夫だったの? お父さんもお母さんも、凄く心配してくれて……」
相変わらず甘いのよ……それが良いところでもあるけれど、買いかぶりすぎ。パパはまだしも、ママは私を縛りたいだけ。娘の幸せが何かなんて、考えてくれもしない。
「あんなの心配じゃないわ! 私とあなたを結婚させたくないだけ。それも自分たち小原家のためよ!」
……そうは言うけど、昔のまま一緒に語れるこの堤防と違って、私たちはいつまでも子供のままじゃない。
薄々は世の中の事だってわかってきたわ。
パパもママも立場がある。
特にパパは、廃校のことも本当は一生懸命私の希望を叶えるために頭を下げてくれたんだってわかってる。
それでも、どうしようもなかっただけで……。
だからって……彼とのことを諦めたくなんてないの!学校のことと比べて優劣をつけてるわけじゃない……彼だけは。彼だけは絶対に失いたくない!!
「俺も……鞠莉とつきあいたい。もっともっと頑張って結果を出せば、きっと認めてくれる。鞠莉が海外の大学に行っても、向こうの男に負けない凄い男になれれば、きっとさ。それが何年後でも。」
「うん……! 楽しみにしてるわ。私も、貴方と幸せになるためにいろいろと『準備』してるもの。それが必要ないくらい、すぐ結婚出来ちゃえばいいんだけどね。」
そう、私が彼以外の男に触れられるのも勿論イヤだけど……。
貴方が私以外の女を抱いて、私以外の女と子供や家庭を作るなんて、想像しただけでも吐き気がしてくる。
だから準備を続けてきた。それを使わないことを願いながら……。
でも、そんな願いは数日も保たなかった。
聞いてしまったんだもの。彼と……よりにもよって、『私の縁談相手』との会話を。
本当は聞くはずじゃなかった。それとなく彼が私を遠ざけたのを感じたから、パパとママが何かしたんじゃないかと思って後をつけたのがきっかけ。言うことを聞かない私に対してじゃなく、彼に対して圧力をかけようとすることは予想してたからね。
ホテルの従業員の一人が止めようとしたけど、私が本気で一睨みすると怯えて道を開けたわ。……情けないわね。そんなことなら初めからパパとママじゃなくて私の言うことを聞けばいいのに。
そして……扉の前で耳をすませた私に聞こえてきた会話は、それこそ吐き気を催すようなもので。
「君か?鞠莉がご執心の男というのは」
「まさかこんな男とはね……。いや、気を悪くしないでくれ?当然のことを言ったまでだ」
「あまり長く話しをしても仕方ない。結論から言おう。鞠莉に相応しい相手は僕だ。君には身を引いて欲しいんだよ。わかるだろ?……聞いていたか。そう、僕が今回結婚相手として名前が挙がっている者だ」
「鞠莉は君のことを大切に思っていてね。今回の話に反対しているのも、きっと君が主な原因だ。鞠莉のご両親もキミのことを……ああ、話が早いね、そういうことさ。僕だって、何も君に恨みがあるわけじゃない。君と鞠莉の周りの人をどうこうしようとかは考えてないさ。高海千歌さん……君の幼馴染もね」
「調べたところ、僕ほどでないにせよ君もそれなり以上に頭のいい男のようだ。わかってくれると信じている……一晩あげよう、ゆっくり考えてくれたまえ」
「鞠莉にとって君と僕、どちらがより彼女を幸せにしてあげられるのかを、ね……」
……なんて、こと。
あの男は、会ったこともない私を馴れ馴れしく名前で呼んでいる。怖気が走るわ……!!
それだけでも気分は最悪なのに、あろうことか私の彼を脅して、遠ざけようとしている。
それも、最終的にはAqoursのみんなまで巻き込むことをチラつかせてまで———————
————————ユルセナイ。
あの男も、ソイツを外面だけで選んだパパもママも絶対に許せない。そう考えた瞬間、私の中で理性とか世間体とか……彼以外のすべてがどうでもよくなるのがわかった。
いいわ……これは『戦争』よ。
彼と結ばれないのなら……もう、何も要らない。
彼との幸せを邪魔するのものは、私の手ですべて壊してあげるわ……。
当然よね?私の大切な彼も、Aqoursも壊そうとするんだもの。その覚悟があってやって来てるんでしょう? ……別に覚悟がなくても潰すけど。
ドアから離れて携帯を取り出す。電話をかける先は、あちこちに忍ばせた小原家の関係者の中でも、特に私の息のかかった人達。まぁ、『そうじゃない』人たちについては、巧妙に排除させてもらったんだけどね♪
「—————ええ、私よ。『例の仕掛け』を早めるわ。……そうよ、もうなりふり構っていられないの」
さっきの従業員に後で聞いたことなんだけど。この時、電話をかけながら歩く私は笑顔だったらしい。
誰もが震え上がるほど恐ろしく、美しい笑顔だったって。
……それはそうよね?だって、恋い焦がれ続けた彼がやっと手に入るんですもの♡
ずっとずっととっておいた大好きなデザートを口に入れる瞬間みたいに、ね……♪
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「鞠莉、またお話って何なの? やけに上機嫌だけど、もしかしてお父さんやお母さんとの話し合いがうまくいったとか……?」
あれから数日、私は彼をある部屋に呼び出していた。私が『準備』の一環として用意させていた、淡島のホテルにある特殊な一室に。
「そこはまだヒミツ……♪ まずは私の見せたいものを見てからよ♡」
……それにしても、あの男との会話は一切顔に出さないようにしてるのね。
私を心配させないために、色々悩んだりAqoursのみんなに相談してたの……知ってるわよ。『自分はどうなってもいい』って、なんとか私を不幸にしたくないって一心で動いてくれていたの……。
ホント、私のことを愛してくれてるのよね♡ ふふ、私もスキよ♡
だから……今日用意してあるものも気に入ってもらえると思うわ♪
「ほら、ここはガラス張りになってるの。中がよく見えるし、スピーカーで声も聞こえるわ……」
本当は耳が腐っちゃいそうで1秒も聞いていたくないような声だけど、苦しむ声なら滑稽よね?
「……ッ!? ま、鞠莉……!?」
「どう? 貴方を苦しめる男は私がこうしてあげたわ……もう、貴方が悩む必要なんてないの」
そこには、椅子に固定されて『色んなコト』をしてあげた、あの薄汚い元『縁談相手』の姿があった。
猛犬に噛ませたり、水責めしたり……色々してあげたけど、まだまだ足りない。今もキズだらけだけど、彼や私が味わった苦しみはこんなものじゃないのよ?
死なない程度に痛めつけ続けてあげる……。そうね、あと1年くらいで許してあげようかしら♪
「な、なんてことをしてるんだよ! まさか、鞠莉がやったのか……!?」
「? そうよ。だってこんな最低なヤツ……二度と私達の前に顔を出したくなくなるくらい苦しめてあげなきゃわからないわ。『私と貴方の関係に割り込むことなんてできない』ってことを、よ~くね……」
壁に向かって後ずさりを始める彼を、私は一歩一歩近づいて追い詰める。
ああ……貴方は優しいから、こんなゴミにも心配しちゃうのかしら。でも、その優しさは私だけに向けてほしいわ。
……それとも、ちょっとした追いかけっこみたいなもの?それもいいわね。
「貴方に酷いこと言ったヤツなんて、私が許しておくと思う?本当は始末してやりたいけど……あんまり騒ぎになるのもなんだし、パパとママの顔もあるし。まぁ、死なない程度にしておいてあげるわ」
「ま、まさか……小学生の時、僕をいじめてた人が急に転校したのも……!?」
「あっ!覚えててくれたの? それをしたのも私よ♡」
うん、いい質問♪ 私はずっとこうして、陰ながら貴方を守り続けてたの。騒がれて私たちの関係が壊れないように……ちゃんと周りにバレないようにしてきたわ。
うーん、私ってやっぱり最高の妻ねぇ……♪
「でも小学生一人ならまだしも、それなりの家柄の人にこんなこと……大変なことになるんじゃ……!?」
「こんなときも私の心配をしてくれるのね、ステキ……♡ 大丈夫、コイツの家なんてうちに比べたらたかが知れてるし、もうパパもママも『邪魔できない』ようにしたから」
そう、それこそが私の『準備』であり、仕掛け……。
また一歩、彼が後ずさる。
だからまた一歩、距離を詰めてあげる。
私たちの間には……誰も、何もいない。
「一体何をしたの!? 鞠莉……!」
「簡単なコトよ♪ 結論から言えば……小原家はもう私のモノ、ってところかしら?」
「実権を乗っ取ったっていうのか……鞠莉が!?じゃあお父さんとお母さんは……」
「私が本格的に表舞台に出るまで、しばらくは私の言うことを聞かざるを得なくなってもらってるのよ。弱みとかスキャンダルとか株とか土地とか……いくらでも材料はあったわ。私と違って、こういうところの詰めが甘いんだから」
ついに彼は壁に背をついて、へたり込んでしまった。
……私が怖いの? それも仕方ないかもね。
これが私の、マリーの『本性』……。
でもね、貴方にだけはそれを認めて欲しい。どんな私でも受け入れてくれるって信じてる。彼をそっと抱きしめて、逸らされた顔を掴んで私に向ける。
都合が悪くなると目を逸らすのは、貴方の悪いクセよ……。
「目を見るのよ……。貴方だけは絶対誰にもあげない、私の元から逃がすこともしない。どこにいたって、奪ってみせるわ」
フフフ……貴方のことならなんでもわかってるわ?
ずっと一緒にいたんですもの。口では私を恐れていながら……そこまでして愛そうとする私に、熱くなる心を抑えられないでいる。
だから今もその瞳は……畏れだけじゃなく、ハッキリと期待もこもってるのがわかるわ♡
素直になっていいのよ……少なくとも、私の前でだけはね。
「あそこのゴミクズにも見せつけちゃいましょうか♪ 私と貴方がどれだけ深い愛情でつながってるか。……あ、録画してパパとママに見せるのもいいわね」
だってもう……邪魔する人間なんて誰もいないんですもの♡
これからも、私たちを引き離そうとする連中はみんな私が消してあげる。
貴方には私だけいればいい、私にはあなただけいればいいの……。
これからは、マリーだけがずっとずっと一緒よ……♡♡
七宮 梅雨(ななみや つゆ)さん、高評価ありがとうございます!4か月ぶりのご評価……(*ノωノ)
鞠莉は俺の母親になってくれるかもしれない&俺を救ってくれるかもしれない女なのでオルフェノクから守り抜きます。これで殆どのネタのストックは使い切ったのですが、聖良と理亞の短編や忘れてはならない逆襲のヤンデレ怪獣ちかちー、Aqoursヤンデレ長編などもまだまだやります。