花陽編にあわせて過去の確執からのヤンデレにしてますが、こういうのはやっぱり王道ですね〜
「ねえ……ひょっとして、りんのこと嫌いになった?」
「とつぜん何言ってんだよ、俺が何かしたのか? それとも、クラスのやつに何かされたか?」
「ううん! ……だって、最近りんと一緒に帰ってくれないし。むしろ、凛の方が何かしちゃったのかなって思って。かよちんと話す時だって、なんだかもじもじしてるし……」
「ええ!?私と話すときってそうなの!? じゃあ私って嫌われ……」
「花陽までへんなこと言い出さないでくれよ!嫌うだなんて、そんなことないってば。ただまあ、最近はさ。もじもじしてるっていうよりは……」
今でも思い出してしまう、あの頃のこと……
好きだった女の子を傷つけてしまった、小学生の頃の何気ない一言……それを発してしまった、あの日のトラウマ。
「その……俺だって、男子なんだからさ。あんまり凛たち女子とばっか遊んでたら、2人のこと、好きだなんだってからかわれるだろ」
「あっ、そーいうこと気にしてたんだ?! わ〜なんだか男の子っぽい!」
「す、好き!?もしかしてあなたって好きな人いるのぉ!? ……じゃなくて、恋バナなんて突然すぎるよー!?」
「ほらーそうやって!だから気にするって言ってんの!そういう凛こそ気にしないのかよ、女子って……ほら、誰と誰が付き合ってるうとか好きとか、そういう話題よくしてるじゃん。花陽だってこのとおり、気にしてるぞ」
「あっ……り、りんちゃん」
「っ、……りんは気にしないよ? だって……あんまり女の子、らしく……あ、えっと!な、なんでもないなんでもない!」
……いや。そういう振り返り方は、心のどこかで自分も被害者だなんて思ってる証拠だ。トラウマになったのは俺なんかより、凛の方なんだから。
あのとき、俺は確かに星空凛という、一人の女の子を深く傷つけた。ただの加害者でしかない。
凛は傷ついてたんだ、クラスのいじめっ子達に揶揄われるより前、あのとき既に。花陽と比べて『女の子らしくない』……そういう言い方をされたんだと思って。
「な、なんだよ2人とも嫌そうな顔して……俺、先帰ってるから」
その理由がわからなかった俺は、なんだか急に居心地が悪くなって、先に帰ってしまった。そのすぐ後に事件が起きた。それを知ったのは、何年も何年も経った、つい最近のことだったけど……せめてあの場に俺がいればと、悔やんでも悔やみきれない。
「……りんちゃん、今日もダメだったね。今まで通り仲良くしようとする作戦じゃダメなのかなぁ。もっともーっと女の子っぽくしないと、振り向いてくれないのかも」
「かよちん……ううん、りんは諦めないにゃ!あいつが『とーへんぼく』なのがいけないんだもん。よーし、今度のおやすみ、うんと可愛いくなって、ときめかせてやるもん!」
「うんうんその意気♪ でも凛ちゃん、服装以外でどうしよっか?だってそのスカート、もうすっごくよく似合ってるよ?」
「え、えへへ。そうかなあ? でも、気づいてくれなかったし……」
「男の子ってそういうの鈍いもんね。いつもは凛ちゃんがスカートはいてないことくらい、気づいてもいいのに。次は私が話題を振って——」
ただ、何よりいけなかったのは……俺がそのあとの出来事を知ったのが、ずっとずっと後だったってことだ。
「あ、スカートだ!」
「いつもズボン履いてるのにー」
「スカート持ってたんだー?」
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(また、夢に見ちまった……)
……文句なしに、最悪の目覚めだ。心臓の音はバクバクと鳴り響き、嫌な汗が流れ、背中をじっとりと濡らしている。風呂に入って寝てから、まだたった数時間だっていうのに、改めてシャワーを浴びなきゃいけないかもしれない。
その原因になった悪夢の内容は、俺がきっかけになって、好きだった女の子を傷つけてしまったという過去の記憶だ。
そのことについて、当時の俺は、まさか自分が原因だなんて想像もしなかった。
『あのさ、りん。今度の日曜なんだけど———……』
『ご、ごめんね!りんはちょっと……またね!』
『りん……?』
凛との会話が減ると、花陽との会話も減った。あれ以来、なんとなく話しづらくなった彼女とは、疎遠になってしまった。そしてだんだん、つきあいもなくなっていって……中学生に上がってから、会うこともなくなってしまった。親から何となく、近況を聞く程度の関係になった。
俺が凛のことをもっとちゃんと見てあげていたら。傍にいてあげたら、スカートをはいた意味を理解できていれば。ああなることは防げたかもしれない。
……それに、それを知ったのは、凛と再会して少し経った頃。μ'sの先輩のひとりに、偶然教えてもらったことがきっかけだった。凛が過去、スカートについてからかわれたトラウマがあったことについて。
俺を避けようとしていた理由……大切な友達俺は、凛を傷つけていたことにすら気づいていなかったんだと。
それを聞いて俺は、そこでようやくすべてがピンときた。凛が
だけど———……凛は俺のことを許してくれた。同じく花陽も。
『———いいの。凛はもう、昔の凛じゃない。かよちんがいて、μ'sのみんながいて……かわいいスカートだって履けるようになったんだ』
『凛の方こそごめんね? あんな言葉をつい最近まで気にして、ずっとキミとぎくしゃくし続けて……こんな凛でよかったら、また仲良くしてくれる?』
『やった……これでまた「友達」だね! 凛、まだまだスクールアイドル頑張るから、絶対目を離さないでいてね♡』
俺にとって、ずっと気がかりだった凛との確執。それを雪解けさせてくれたμ'sのみんなと花陽には、感謝の気持ちしかない。
……じゃあ、それなのになんで、俺の方が過去の出来事を未だに悩んでいるかということだが。俺が自分自身を許せていないことと、凛とどう付き合えばいいかわからなくなっているからだ。
凛は、昔の姿からは想像もつかないくらい、立派になったけど……そのきっかけになったことについて、にこっていう先輩の人に聞いたことがある。そしてがあったこと、そして、それをバネにして頑張っているという話を知ってしまったんだ。つまるところ、俺は自分の至らなさが、凛をどれだけ苦しめてしまっていたのか知ってしまった。そして、あの時にもっと詳しく話を聞いておけばよかったとか、そういう後悔も一気に出てきて……。
(そんな自分が、のうのうと凛と仲良くする資格なんてあるかと問われれば、NOだ)
凛は、花陽やμ'sのみんなと、過去を乗り越えて先にいる。だけど、俺はそれに何かしてあげたわけではない。全部、彼女達自身の力だ。俺では、彼女に何もしてあげられない。
最近では、μ'sのライブは欠かさず見ているし、凛と連絡を取る機会も増えた。トラウマを解消した今となっては、より女の子らしく、より可愛くをモットーに色々なオシャレに挑戦しているらしく、男目線ではどうかと、俺に色々とアドバイスを求めてくる。
それに頑張って応えようとする俺がいるけど……もしかしたら、それは純粋に凛を友達と思う気持ちではなく、少しでも罪滅ぼしをしたい、許されたいという自分の下心なんじゃないかと思う。だって、それらは俺じゃなくてもいいんだから。
(自分を許してやらなくちゃいけない……。でも、そのために今、凛を助けるってのは、違う気がする……)
凛がそういう気持ちを求めてないと分かっていても……分かっているからこそ。俺は悩んでしまっていた。
だいたい、俺にファッションなんて分かりっこない。少ない小遣いで買った、イケメンばかりが表紙を飾る男性向けのオシャレ雑誌が、机の上には何冊も積み上がっている。そう、俺はこの雑誌の表紙のような、イケメンってわけでもない。俺は、多少人より勉強が得意なだけの、なんでもない高校1年生だ。アイドルや服飾なんて分野、これまでほとんど気にしたことすらなかった。秋葉原にμ'sの広告がデカデカと垂れ下がっていること、そこに知り合いが写っていることにだって気づいてなかったくらいだ。
一方で、彼女たちはまさにその広告を飾った、今をときめくスクールアイドル。凛も花陽も昔のように友達として俺に接してくれるが、あまりに釣り合わないだろう。俺には、凛の友達として相応しい要素なんて、何一つ持っていない。
ベッドから降りて、シャワーを浴び終わっても、悪夢とこの悩みを引きずり続ける俺は、勉強に逃げることにした。今日は両親は仕事だから、休日だし、来週テストあるし。近くの喫茶店に長居して、また儲からない客だって目で見られながらのんびりと……
……そうそう、凛と花陽と再会したのだって、あのファミレスで、全くの偶然だったな。
突然、赤い髪の女の子に話しかけられて……
『……ねえ、アナタ。いつもこの時間にここで勉強してるわね』
『そうだけど、それが何か? 勉強の邪魔をしないでもらえるかな、今はこの数学の問題に、真剣に悩んでるんだけど』
『ちょっと……もしかして、本気で私に気づいてなかったの? 呆れた……てっきり私目当てでストーカーしてるかと思ってたのに』
『いきなり因縁つけてきて、呆れたってなんだよ。 自分を芸能人か何かだと思ってるのか、確かに可愛いけど変なコだな……』
『な、何よ!私の顔見て何とも思わないワケ!? ……にこちゃんみたいで不本意だけど、こうまで知らない反応されると腹が立ってくるわね。すぐ後ろにあんなデカい看板まで立てられちゃったっていうのに。いい?私は———』
『あっ、真姫ちゃんいたにゃーっ! かよちんもこっちこっちー♪』
『ま、待ってよ凛ちゃん!走らないで〜!』
『えっ……あ、キミは……?』
……西木野真姫。
μ'sのメンバーで、凛と花陽(と俺)と同級生だ。そもそもあの2人をμ's加入させるのにも、彼女が骨を手を焼いてくれたおかげだという。さらには偶然とはいえ、俺と彼女たちを再会させてくれて、仲直りする機会をくれた恩人だ。今では、たまにお互いに勉強し終わった参考書を交換したり、凛や花陽たちの近況もこっそり教えてもらったりしている。そして、今の俺の悩みの相談にも。
いい機会だから、勉強ついでに相談で、呼び出してみるかな……
ピロリン
「あれ、通知が来てる……真姫から?」
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「にしても奇遇ね、今日は私も一緒に勉強したいと思ってたのよ。ここの新作のカフェオレも飲んでみたかったし」
「開いた途端に、そっちから通知が来ちまったから、すぐ既読ついて断りづらかっただけだよ」
「可愛くないわね~……そもそも、休日にわざわざ私のメッセージ見てたんだから、誘おうとしてたか、期待してたってことでしょ?」
「むう……ま、確かに見てたのは事実だけど。そっちこそ、カフェオレは一人でだって飲みに来れるだろ」
……真姫を誘うはずが、先手をとられてしまった俺は、結局一緒に勉強することにした。
暗記項目を書き写して、カリカリとペンを走らせる真姫。そして、数学の公式に四苦八苦して、参考書をペラペラとめくり続ける俺というこの光景と環境音は、この喫茶店では最早珍しくもない。
こうして、憎まれ口を気軽に叩きあいながら勉強できる関係の仲間というのは、意外に貴重だったりする。そして、それは真姫にとっても同様で。
「花陽と凛が二人そろっても、こういうとこにはあんまり来ないでしょ。特に凛が勉強なんて付き合ってくれると思う?」
「そーだけど。上級生の人とかもいるしさ。ほら、あの矢澤にこって人と仲良いじゃん」
「……ああ、知らないのね。にこちゃんも凛と同じタイプよ、成績は壊滅的。それに、家族のことで忙しいし。ていうか、にこちゃんのこと気になるの?」
「そうだったのか……っていうか、気になるってなんだよ。聞いただけだよ聞いただけ」
まあ、確かにそうか。凛と花陽はあんまりこういうとこで勉強するタイプじゃないし……凛ならラーメン、花陽ならファミレスとかのほうが嬉しいだろうな。
しかし、なんか真姫のやつ、つっかかってくるな……何が気に入らないんだ?
「私には、凛との関係のことで、いつも相談してきてるくせに。最近はにこちゃんに浮気してるの?……推し変?」
「は、はぁ!? 浮気とか推し変ってなんだよ……凛のことは友達だ、友達!」
「……そう。つまり、未だに悩んでるわけね。凛とどう付き合っていくかってこと」
ぐむう。凛とのことを差し置いて、他のμ'sメンバーのことなんて気にしてる場合じゃないぞってことか。そりゃあ……確かにまあ、その通りだ。
「少なくとも、凛の方はアナタのことを大切に思ってるわよ。だから、いつもライブとか些細なことでも相談してくるんじゃない。あのコに裏表なんてないってことは、私よりよーくわかってるんでしょ?」
「そ、そうだけど……!?まだ申し訳なさとか、苦手意識あるし……俺のせいで凛は苦しんでたわけだから……」
「『まだ』? じゃ、その辺が解消したら告白でもするわけ?」
「し、しないってそんなの! 少なくとも、俺からなんて……」
「はぁ……必死になって否定するところが、かえって怪しいのよねこういうとき」
「うぐっ……」
くっ……男子高校生の純粋で複雑な悩みを、茶化しやがって……!
「おかげで勉強に集中出来ねえよ」
「あら、また気が合ったわね……私もよ」
「真姫……なんだか、怒ってない?」
「怒ってないわよこの唐変木!勉強は終わりよ……今からちょっと付き合いなさい!」
プロローグは「彼」視点でお送りしました。サブタイは後で変えるかもです。
vviさん、ご評価ありがとうございます!励みになります!