ラブライブ!〜ヤンデレファンミーティング〜   作:べーた

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唐突にのんたんヤンデレです。

長編でもやりましたが、彼女がヤンデレになると見た目は正気のままなのに、中身が狂気に支配されてそうですよね。





ウチに任しとき♪ ①【東條希】

「ほら、今日のメニューは肉じゃが! 愛情込めて作ったから、味わって食べてな?」

 

「ありがとうございます。なんか、そう言われると食べるのが勿体ないですね……」

 

「もう……そう言ってもらえるのは嬉しいけど、ちゃーんと食べんと元気が出なくなるで〜?」

 

 

今日も俺は、部屋がお隣の女子高生から『おすそ分け』を貰ってしまっている。美味しそうな匂いが鼻腔をくすぐる……温かいうちにいただかなくちゃな。俺みたいな男の一人暮らしには、こう言う料理はありがたい限りだ。

 

あっ……そうそう、彼女の名前は東條希さん。

 

近くの音ノ木坂に通う高校3年生。独特のエセ関西弁は、柔らかい口調を意識してわざとそうしているって聞いた。あと、占いやオカルト(本人曰く「オカルトじゃなくてスピリチュアルや!」)にかなり詳しく、神社で巫女さんのバイトをしてたりもする。

 

お互いに1人暮らしで、部屋が隣で歳まで同じ……。そんな俺たちが挨拶をしてから仲良くなるのに、そう時間はかからなかった。今じゃこの通り、料理を分けてもらう関係になっている。

 

 

「でも、本当にその位有難く思ってるんです。むしろ、いつもお手数かけちゃってて、ごめんなさい。俺もバイトで忙しくしてなきゃ、もう少しくらいは……」

 

「いいんよ! 食費を抑えるために自炊してるけど、それだとこのくらいは余っちゃうし。何より、美味しそうに食べてくれる人がおると、料理してて楽しいし嬉しいからね♪」

 

「の、希さん……」

 

 

ううっ……彼女の優しさが本当にありがたい。兄弟や姉妹もなく、早めに両親を亡くして、ここで一人暮らしをしている俺には、まるで彼女のことが女友達というよりも、母親のような優しさを感じられる存在だった。

 

いつも貰っているこのおすそ分けも、いわゆるお袋の味というのだろうか……そんな不思議な温かみを感じる。容れ物がタッパーでも、お鍋でもそれは変わらない。大事なのはきっと、相手を思って料理する気持ちなんだろう。

 

 

「でも、ウチらっていつもお裾分けやん? それだと温めて好きな時に食べられるかもしれないけど、もっとこう……」

 

「? そうですけど……あ!やっぱりお代を支払いますよ!貰ってばかりなのに、申し訳ないですから!」

 

「ううん、そうじゃなくてね? どうせお互い一人暮らしだし、もしよかったら今度はウチの部屋の中で————」

 

 

prrrr……

 

 

「あっ……」

 

希さんが何か言いかけたその時、ちょうどポケットのケータイが鳴り始めてしまった。

 

最初はバイト先からと思ったけど、表示された名前を見ると……

 

 

(う、あの娘かぁ……)

 

 

今、俺は希さんと話している最中。何を言おうとしたのか気になるし、こちらはお裾分けをもらっている側だ。失礼はできない。

 

でも、かけてきてるのは、いつも出るのが遅いと機嫌が悪くなる相手だ。申し訳ないけど、希さんにひとこと言って電話に出させてもらおう……。

 

 

「ごめん、電話に出るね。もしもし、にこちゃん?」

 

 

「………………にこっち?」

 

 

『遅いわよ! この宇宙No. 1アイドル、矢澤にこ様が電話かけてるんだから、1コール目で出なさいっ!』

 

……そう思って慌てて電話に出たけど、案の定怒られた。

 

いつものことながら、理不尽だと思う……スピーカーが壊れないか心配だし……。

 

 

「相変わらず、電話越しなのに大きな声だなぁ……」

 

『ぬ、ぬゎんですってぇー!? この美声を耳にしてるのにうるさいとは何ようるさいとは!?』

 

「いやいや、別にそこまでは言ってないって。宇宙最高ノアイドル矢澤ニコお姉サマ」

 

『くっ……それはそれでバカにされてる気がするわね!?なんか片言だし!』

 

 

あ、この電話をかけてきてる元気な娘は、俺の友達の矢澤にこ。

 

俺のよく使ってるスーパーでアルバイトしている、これまた同じ高校3年生。発育とか身長は俺の後ろにいる希さんとは大違いだけど(以たようなこと言ってみたら蹴られた)。

 

最近話題のスクールアイドルが大好きで、自分自身もかなりのレベルなんだとか。どこの高校かとか、グループ名はまだ聞いてないけど、今度教えてもらおうと思ってる。主に冷やかしのために。

 

知り合ったきっかけは、話すと長くなるから端折るけど、彼女の弟さんと妹さんがきっかけだった。スーパーで迷子になってたのを助けてあげたんだ。

 

それ以来ちょくちょく会う機会が増えて、いつの間にか向こうの家族とも仲良くなっていたんだ。僕としても弟や妹ができたみたいで楽しかったし。多分この電話も、久々に遊びに来いとかそんなところだろう。

 

 

『まっ、いいわ。用件はね、虎太郎達が久々にアンタに会いたがってるのよ。だから遊びにきなさい』

 

「あ、予想はしてたけど、やっぱりその話だった? ごめん、バイトとか勉強とか、つい自分の事で手いっぱいで」

 

『……ごめんなさい。悪いとは思ってるけど、私もバイトだけじゃなくスクールアイドルもしてるし、ママも仕事が忙しいから……こんなこと頼める人、アンタしかいなくて』

 

 

……まったく。気が強いのに、寂しがりなところあるからなぁ。こうやって急にしおらしくなるんだから、断れない。いや、こっちが本当のにこちゃんなのかもしれないけど。

 

矢澤さん家はお父さんがいないらしく。お母さんが働いているのはさることながら、彼女も夜遅くまで働いて、妹2人と弟1人を養ってる。にこちゃんがスクールアイドルをすることで3人は大喜びらしいから、悪いってことはないんだろうけど、どうしても練習中は心配だ。

 

というわけで、知り合いの僕がたまに頼まれて、妹さんたちの面倒を見てあげることがある。

 

……報酬の晩ご飯に釣られてた側面は否定できないから、そんなに立派なもんじゃないけど。

 

 

「うーん、最近は会いにいけてなかったもんね……」

 

『自覚があるなら、構ってあげてよ。……こう見えて感謝してるし、お願いね』

 

「……わかった、近いうちに絶対行くよ」

 

 

これは彼女の妹の一人……こころちゃんから聞いたことだけど、にこちゃんはここ1、2年ほどは元気がなかったらしい。気づいていないフリをしていたけど、スクールアイドルがうまくいってなかったみたいです、と話してくれていた。

 

こころちゃんももう、それなりに大きい。彼女の変化に薄々は気がついていたんだろう。ただ、それが今年に入ってから凄く元気になったのだという。たぶん、スクールアイドルが成功したからだとも言っていた。

 

『今やバックダンサーの人たちがいっぱいいてくれるくらいらしいですよ!』って自信満々に言って……うーん、信憑性が薄くなってきた。とにかく元気になったのはいいことだけど。

 

また彼女の笑顔が曇らないように、俺も協力してやるべきだろう。

 

 

『……あと、最近はスーパーにも顔出さないけど、ちゃんと料理してるの?まさか、カップ麺とかで済ませてるんじゃないでしょーね?』

 

「いやあ、前まで晩ご飯いただいちゃってたのがむしろ申し訳なかったくらいだよ。料理については心配しないでよ、最近は作ってくれる人が……」

 

 

「————ねえ、ちょっとごめんな?」

 

 

そこまで話したところで、唐突に後ろから携帯を取り上げられた。

 

一瞬、何が起こったのかわからなかったけど、振り向くと希さんが俺の代わりに電話に出て話している。そこまでして、やっと希さんが携帯を取り上げたのだと理解した。

 

普段は柔らかい雰囲気をしている希さんだけど……今はなんだか、怖い。此方を向いているわけじゃないのに、それは間違いなく伝わってくる。

 

 

「ああ、にこっち? やっぱりそうだったんやね。実はウチと彼、部屋がお隣なんよ~。それで最近、料理を作ってあげててな?」

 

 

「うんうん、そうそう……。食材もウチが用意しとるし、新鮮さは保証するよ? あ、もちろん栄養バランスもバッチリ!」

 

 

「いつも『とっても美味しい』って言ってもらっちゃってるんよ♪ ……だから心配せんでもええよ?」

 

 

希さんの言葉には明らかに棘がある。顔だって、口元は笑ってるけど……声は全然笑ってない。希さんって、こんなに怖かっただろうか……?

 

……にしては、結構親しそうに感じるけど。もしかしてにこちゃんと希さんって、知り合いなのか?

 

などと、やっとそこまで考えが至ったあたりで、希さんは電話を切ってしまっていた。最後に『ちょっとのぞm————』という、にこちゃんの大声が途切れたままの携帯が、少しの時間を経て僕の手に返される。

 

 

「あっ、ごめんな!勝手に電話出ちゃって。知り合いだったからつい……ね?」

 

 

そういって屈託のない笑顔を向ける希さんは、いつもの様子と変わらない。なんだ?やっぱり俺の勘違いだったのか……?

 

な、何か言わなきゃ……。

 

 

「いえ!え、えーと。向こうからかけてきてたんですし、当のにこちゃんがいいなら、別にいいですけど……」

 

「ふうーん。『にこちゃん』、かぁ……」

 

 

———ま、まずい。また希さんから、さっきのような怖いオーラが出ている。

 

もしかして希さんとにこちゃんって、昔に何かあったりした?それで犬猿の仲とか……?もとは仲が良かったけど、喧嘩したとかそういうパターン?

 

だとしたら俺って、やらかしちゃったのか……!?

 

 

 

「—————ウチのことは、これからはさん付けは要らないからねっ♡」

 

「えっ……?」

 

 

 

そんな不安に駆られていると、希さんからは、またさっきまでの雰囲気は霧散していた。元通りの優しい、いつもの希さん。だけど、今の俺にはその変わり身こそが、より恐怖を感じさせた。彼女の唐突な提案も、頭にすんなりとは入ってこない。

 

「だから、にこっちには『ちゃん』づけやろ? ウチとはお隣さんなんだし、もっと仲良くしようってことで、名前呼び♪ いいアイデアやん?」

 

「あっ……は、はい。あの、にこちゃんとはどういう関k……」

 

「よし、じゃあウチもこれからは名前で呼ぶから、楽しみにしててな~?」

 

 

聞こうとしても、無理やり遮られた。

 

間違いなく、彼女はにこちゃんに何か対抗意識を抱いている。呼び名を指定してきたのは、きっとそのためだ。

 

 

「ふふふっ。名前呼びしあって、お料理作ってあげるなんて……まるでウチら、夫婦やねっ♡」

 

 

俺は希さんも大切だけど、にこちゃんだって大切な『友達』だ。多分、一方的に希さんが対抗心を抱いているんだと思うけど……これからの日々に落とす影の暗さを考えると、彼女の冗談に顔を赤くすることもできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 




更新ペースを維持するために、無理にでも色々書き溜めを完成させていこうと思います。また、かよちんの後半は概ねできているのですが、諸事情でもうちょっと後に更新します。

ところで、長編や短編をまちまちに更新してしまってますが、最新の更新をすぐに追える機能があるんですよ。ハーメルンってサイトに登録して本小説をお気に入り登録すると(ry




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