ラブライブ!〜ヤンデレファンミーティング〜   作:べーた

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仕事で忙しくても、なんとか書き溜めを放出して更新していきます。

絵里ち編!……っていってもまだ前編だけですが。







私以外はダメよ? ①【絢瀬絵里】

「あれっ……、下駄箱に何か入ってる?」

 

 

下校の時に、靴を取り出す……いつも通りの光景。

 

そのはずだったはずだけど、今日に限っては一つだけ違和感があった。

 

 

(上の段に白い封筒……手紙?)

 

 

それは、白い封筒だった。手にとって詳しく見てみると、封がされていて差出人の名前がないことがわかる。

 

ただ、僕の名前ははっきりと書かれていて、それは柔らかい字体だった。ここは音ノ木坂学園。男の子は、共学化のテスト生として転入した僕たち、たった数人しかいない。つまりこれは、この学校の女の子から僕に差し出された手紙ということになる。

 

……って、そんなの当り前じゃないか。大事なのは外側の推理じゃなくて、これの中身だよ。

 

 

「つまり……これって『ラブレター』、なのかな?」

 

 

状況を確認するために自分で口に出して、自分で恥ずかしくなった。

 

よく見ると、封に使われているシールも可愛らしいシール、紫色のラメが入ったハートマークだ。つまり、あらゆる要素がこれがラブレターであることを示している。

 

ただ……いざ目の前にしてみると、恥ずかしさやうれしさよりも、『これからどうしよう』という不安の方が強かった。

 

 

(女子同士の人間関係とか、断ったらイジメられるんじゃないかとか、そういう怖さがあるからなあ……)

 

 

この学校に来る時に、こういうシチュエーションを期待しなかったと言えば嘘になる。女子校だったんだし、伝統があった。音楽関係も盛んだったし、同じ趣味の合う彼女ができれば……なんて青春に憧れがないわけじゃない。

 

だけど、入学してそれは儚く消え去っていた。たくさんの女子の中に少数の男子というのは、非常に立場が弱いのだ。別に今の僕がイジめられてれとかではないけど。僕の友達であるμ's然り、この音ノ木坂にそんな女性はいないと思う。

 

ただ、それらは全部、この学校の中でも僕の知ってる範囲だけの話だ。勝手に判断するのは危険極まりない。ただでさえ、元女子校のここはかなり男子が少ないんだから。

 

……つまるところ、こうだ。素直に喜べない。

 

 

(とりあえず、これはこのままにはしておけないな)

 

さっきまでの懸念もあり、ラブレター(推定)をそっと鞄に仕舞い込んで、次は辺りに誰もいないか左右をキョロキョロと見回してしまう。ちょっとした不審者だ。

 

 

 

……うん、誰もいない。

 

 

よかった、誰かに見られてたら、余計に話がややこしくなるところだt————

 

 

 

 

 

 

「……今、何を隠したのかしら」

 

 

 

—————ダメだった。

 

見つかっていたんだ。声は僕のすぐ後ろから聞こえてきている……そりゃ見えてなかったわけだよ。

 

そして、この透き通るような綺麗な声の持ち主は、僕の知り合いの中には一人しかいない。ゆっくりと振り向くと、やはりその人物が見つめてきている。ロシアとのクォーター故のブロンドヘアー、テレビの女優と見紛うような、整った顔立ちの彼女。

 

 

————絢瀬、絵里。

 

 

音楽を通して知り合った、数少ない僕の『友達』で、廃校の危機に際して僕達男子数名を音ノ木坂に推薦した、張本人だったりする。それ以外にも、今はスクールアイドル『μ's』の一員として、お手伝いの僕とは関係が続いている。

 

 

その活動の成功もさることながら、バレエで鍛えたという運動能力とスタイル、美貌。勉強もできて、生徒会の何をやらせても完璧で……男女問わず、更には周辺の学校を問わず人気の、まさに憧れの人物だ。

 

 

……だけど今は、そのスカイブルーの瞳が絶対零度の冷たさで僕を射抜いていた。彼女の人気を考えれば、ご褒美だなんて言う人もいるだろうけど……冗談じゃない。こっちはその威圧感を前にして震えそうになってる。

 

 

いや、より正確に言うと彼女が見ているのは……正確にはラブレター(らしきもの)を入れた、この鞄だ。

 

 

 

「……質問に答えてくれないの? じゃあ、勝手に見させてもらうわね」

 

「あっ、ちょっとそれは……!」

 

「何かいけないかしら、ここは学校よ。見られてまずいものなら尚更、生徒会長としては見過ごせないでしょう?」

 

 

その視線に怖がっているうちに、手紙は鞄から少し出ていたところを手に取られ、するりと彼女のものになってしまっていた。

 

もっと奥まで入れておけば、という後悔も後の祭りだった。さも当然というように封はあっさりと解かれ、中から可愛らしい便箋が取り出される。僕からは中身が見えず、書かれている内容はわからない。

 

だけど彼女はそれを読んでいるうちに、絶対零度まで至ったはずの瞳の冷たさは、ますます冷たくなっていったように見える。中身がわからない以上、ハッキリとしたことは言えないけど……。

 

間違いないことは……彼女が今、ものすごく怒っているということだ。

 

 

穂乃果達と衝突してた時とは違う、彼女が本気で怒った時は、こういう状態になる。僕は何度か、それを見る機会があった。

 

1度目は、吹奏楽部の女の子と楽器を見に行ってたのを見られて、不純異性交遊を疑われた。必死に説得して疑いを晴らしたけど、結果その女の子とは疎遠になってしまった。

 

2度目は、穂乃果達を庇って絵里と言い合おうとした時。これは結局みんな和解してμ'sに入ったことで赦された。

 

そしてこれは、きっと3度目だ。

 

毎回、絵里が怒るのにも理由は確かにある。ただ、今回はそれがまだわからない……。

 

 

「…………ふん、自分の名前も書かずに」

 

 

怖くて目を合わせられずにいた僕でも、ビリビリと音がしたから流石に見ざるを得ない。予想どおり、彼女はあっという間にその手紙を破いてしまっていた。

 

 

「え、絵里! 何するの!?」

 

 

無残な姿になり、床に落ちていく紙片。中には可愛い紙が入っていたのが僅かな柄から伺えたけど、それはもう読むことはできなくなっていた。さすがに抗議の声をあげるけど、また彼女の瞳がこちらを向くと、怖くて何も言えなくなってしまう。

 

それほど、今の彼女は有無を言わせぬ空気を放っていた。

 

 

「何って……『邪魔なモノ』を捨てただけよ。『ゴミ』は捨てなきゃダメでしょ?」

 

「そんな。邪魔だなんて……誰からもらったものかも、中身がなんなのかもまだ分からないのに……」

 

「決まってるでしょう? あなたに近づこうとしている女の子からの手紙よ。そんなモノあなたには必要ないわ」

 

 

それがさも当然というように言ってのける彼女の態度に、さすがに僕も恐れてばかりではいられなくなる。これじゃいくらなんでも、この手紙を出した子に可哀想だし、『僕には不要』っていうのも悪い意味にしか捉えられない。

 

 

「それってどういう意味だよ! いくら絵里でも……」

 

「……『私でも』、何? あなたこそどういうつもりなのかしら。例えステージに立ってなくても、μ'sの一員っていう自覚がないようね……誤解されるような事は慎むべきよ」

 

「『誤解』って……僕が恋愛することが、μ'sに良くないってことなの?」

 

「そうよ。μ'sの近くにいる男子に彼女がいる……なんて噂が広まれば、当然深い関係を勘ぐられていくじゃない。初めから恋愛に一切興味がないフリをしておかなきゃダメだわ」

 

 

絵里の口から出てきた言葉は、確かに一理あるものだった。

 

スクールアイドルはあくまで高校生の部活動。恋愛が禁止ということはないけど、μ'sは今、一気に有名になりすぎている。

 

いろんな注目も浴びてるし、同じ高校に通う男子との関係を知りたい、という人たちだっているだろうとは思う。恋愛はいつだって、世間の一番好きな話題だ。

 

そのμ'sの、絵里の近くにいる僕も……少なからず注目を浴びる事になる。

 

 

「だからって……なにも、破り捨てなくても」

 

「別に私達以外が見てるわけじゃないわ。どうせ捨てるのなら一緒だし、むしろゴミ箱にあっても分からない状態にしておいた方が、あなたに都合が良いでしょう?」

 

「……それは……」

 

 

まただ……彼女は僕と違って、弁が立つ。それが彼女が完璧超人たる所以の一つ。

 

いきなり手紙を破かれると言う、本来なら理不尽なことであっても、こうして言いくるめられてしまう。

 

 

「もういいかしら? これからは振る舞いにも気をつけなさい。前から思ってたけど……貴方は同じ音ノ木坂の生徒といっても、μ's以外の女の子に愛想を振り撒きすぎよ。それじゃあ周りだけじゃなく本人も勘違いしちゃうわ」

 

「……それは、『誤解』されるから?」

 

「そうよ? やっと分かってきてくれたようで嬉しいわね。これからはμ'sの他に仲の良い女の子は作らないこと……いいわね?」

 

 

僕の抵抗が弱まったのを感じたのか、先程までとは一転して絵里は機嫌が良くなる。それでも目の中に不満の色を感じたのか、返事を聞く前に僕の口元に綺麗な指を当て、有無を言わせないようにしていた。

 

……あの絢瀬絵里とこんなシチュエーション、普通の人なら手放しに喜べるところなんだけど。

 

彼女の瞳に宿っている、僕とは対照的な昏く燃える『何か』を直視してしまった僕は、反論できず背中を震わせていた。

 

 

そうこうしているうちに、下駄箱にも人が通りがかって……

 

 

「あ、絵里ち……貴方まで。下駄箱の前でまでイチャつくなんて、さすがアツアツやね〜?」

 

「あら希、からかわないでよ? ちょっと『お話し』してただけ。彼は今後ますますμ'sのみんなと頑張ってくれるのだからよろしく……ってね」

 

「…………」

 

 

その相手は、同じ3年生でμ'sの希さんだった。絵里とは相棒とも言える関係にある彼女は、僕たちを見て面白そうに囃し立てている。

 

 

「ふふふ、ありがとね! でもさっきのはよろしくしすぎ、やなぁ。ただでさえお似合いの2人なんだから、他の生徒に見られたら『誤解』されちゃうで〜?」

 

「そ、そうかしら……ならこれからは、お互いの部屋や部室とか、屋上でだけ、ね?」

 

「乙女やね~えりち!……あれ、床に落ちてる紙はなん、なん……?」

 

 

自分が誤解される分にはいいのかとか、どこであってもイチャついた覚えなんてないよと、内心は抗議の声を上げている。だいたい、彼女と僕とじゃ住む世界が違いすぎるだろう。友達としての関係すら、最近の彼女の束縛ぶりを見ていると不安だというのに。

 

そんな中で、希さんが地面に落ちたバラバラの紙片に気づいた。口調は平静を装っているが、心なしか驚いているように見える。まあ、明らかに引きちぎられた紙が知り合いの周りに落ちていたら驚くのも無理はないと思うけど……。

 

 

「ああこれ? 彼の下駄箱にイタズラの手紙が入ってたのよ。今時流行らない、不幸の手紙みたいなのがね……彼ったら気にするものだから、思い切り破いちゃったわ。ちゃんと掃除するわね?」

 

「そ、そんな手紙が来るんやね。いったい誰がイタズラなんて……」

 

「変にトラブルになっても男子生徒全員に迷惑も掛かるし、犯人捜しは今のところするつもりはないわ、続くなら考えるけど……あ、私がやっておくから、希もあなたも触らなくていいわよ♪」

 

 

僕には破った手紙を集めて読むことすら許さない徹底ぶり、そして突然の希さんの登場にも動じない冷静さと機転。

 

 

「うん……それじゃあウチはもう帰るね。明日の練習でまた……」

 

「あ、希さん。ちょっと……」

 

「貴方はちょっと残ってて、こんなもの信じないようにちゃんとお話ししなきゃ。希、それじゃあまた明日ね?」

 

 

背を向ける希さんを見送って、彼女に見せていた笑顔とはどこか違う笑顔を向けてくる絵里。

 

2人だけで残る口実まで、あっさりと作ってしまった手腕を前に、僕は抵抗する術を持たなかった。

 

 

 

「嘘じゃないわ。いい機会だから、話しておきたいことがあるの……ちょっと遅いけど、今から生徒会室に行けるわよね?」

 

 

 

……無言の圧力、とはきっとこのことを言うのだろう。

 

 

逃げ道を全て断たれている僕は、彼女と共に生徒会室に行くしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




不穏な空気(いつものことですが)を残しながら、次回は後編です。

2021年も、仕事が今以上に大変になりそうですが、なんとか更新頑張っていきたいと思います。
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