構想だけは7年くらい前に友人との会話で生まれていました。時間軸的に、アニメ本編の少し前から始まります。
3月、長い冬が終わって、春が訪れる日曜日の早朝。世間では、この日は同世代の女の子達はみんな、恋だデートだと大忙し。
高校生2年生になろうとしてるのに、ぐうたらなうちのお姉ちゃんはともかく。
私ですか? 私は、大忙しな方です。といっても、まだまだデートの前の段階ですけど。
そうです。もうすぐ中3で、思春期真っ盛り。私、高坂雪穂は今……恋をしてます!
……まあ、まだ片想いなんですけどね?
じゃあなんで、そんなに気合を入れてるかって言うと……実はこの日曜日は、その恋の相手が必ずうちに来てくれる日なんです。だからお店もまだ開けてないのに、早起きしてシャワー浴びて、軽くだけどお化粧もして……
「穂乃果~? ちょっと早いけど、また勉強教えに来てやったぞー」
大好きな人の声に、私は呼ばれた人よりも先に窓から身を乗り出す。
今日もあの人の声が聞けた、あの人の姿が見られた!普段通りの服装、当たり前の日常に、あの人がいる。それだけでも、なんだか嬉しいのに、高校に上がってからどんどん大人っぽくなっていく身体つきの、変化にも気づかされる。
いろんなことに気づいちゃうのも、どんなことでも嬉しくなっちゃうのも、恋のせいですよね?
「お兄さーん! 今日も私とお姉ちゃんのこと、よろしくお願いしまーすっ!」
そう言って手を振って挨拶すると、いつも通りの笑顔で返してくれる。もっと身を乗り出して……って寸前で気づいちゃった!今の私の格好、まだラフなままだったよ!?
うう、危なかった……このままだと、はしたない女の子だと思われるところだったじゃん。
だめだめ、高坂雪穂!私はお姉ちゃんとは違う、しっかりしなきゃ!動揺してても、表情だけは笑顔のまま。あの人が階段を上がってくるまでに、いろいろ終わらせて着替えないと!
「ちょっと、雪穂もだけど大声で叫ばないでよ~!? ご近所に私が勉強できないってバレちゃうじゃん!」
噂をすれば?じゃないけど……お姉ちゃんのことを考えながら今日の作戦を練ってると、奥から寝起きの本人が現れた。って言っても、これはいつもの光景。私のお姉ちゃん……高坂穂乃果は、いつもなかなか起きてこない割には、お兄さんが来ると目を覚ます。
……ちょっと、現金だよね。
「いつも叫んでるのはお姉ちゃんじゃん。だいたい、そのことについてもご近所さんにはとっくにバレてると思うよ」
「そうそう、雪穂の言う通りだよ。とりあえず、今から上がるから」
「!」
あっヤバい!お兄さんが上がってきちゃう!?
もう、まだ服を決めてない今日に限って、早めに来るんだからあ……
とりあえず、いつものホットパンt……ダメダメ、ラフすぎるよ!でも、むしろ足を見せた方がいいって本にも書いてあったし……
「あら、今日も来てくれてたのね! うちの穂乃果にスクールアイドルだけじゃなくて、勉強もしっかり教えてやって。あと、雪穂にも」
「あ、おばさんおはようございます。いつも美味しいほむまんご馳走になってますから。お安い御用です!」
「あら、お上手ね? うちのお饅頭で穂乃果が赤点を避けられるなら、それこそ安いものだわ♪」
声を聴いて、お母さんも出てきて挨拶してる。お母さん、ナイスタイミング!よし、今のうちにこの着替えなきゃ!
……あ、そうそう。もうわかると思うけど、成績がすっごく悪いお姉ちゃんは、うちの名物ほむまんと引き換えに、いつも近所のあの人に勉強を教えてもらってる。幼馴染で、私は親しみを込めてお兄さんって呼んでる。私もくっついて宿題したり、分からないところをアドバイス貰ったりしてるんだよね。
(実を言うと、お姉ちゃんはまだしも、私はそんなに勉強で困ってないんだけど)
似てない似てないーってよく言われる姉妹で、実際、性格も得意分野も正反対だし。
だから、わからないフリをして、いつも一緒に勉強させてもらってるんだ。嘘をついてるみたいでちょっと心苦しいけど、これもアピールのためですっ!早速今も、笑顔笑顔っ!そして、今日はこのスカート!
「ほむまんなら、いくらでも持ってっちゃってください。あ、お姉ちゃんにはまず顔を洗わせますから、私が迎えに降りますねー♪」
「えっ階段上がるだけだから今行くよ?……って、早!」
「秘技、階段4段飛ばしです!」
「あっ……」
ちょっと膝が痛いけど、我慢我慢。何より、あなたの顔を見られれば痛みは吹っ飛んじゃいました♪
でも、あれ?なんだかやけに驚かれてるような……
……ああーーっ!?今日短めのスカートだったのに、思いっきりジャンプしちゃったんだぁー!?
「み、見ました……?」
「見えてない、見てないよ!?」
「ご、ごごごごごめんなさいー!?」
顔を赤くして手と顔を無意味に左右に振る私。びっくりしてるお兄さんと私の間に、またしてもお姉ちゃん(とお母さん)が追い付いてくる。そのおかげで、気まずい空気はなくなった。
「ふぁあ……まず朝ごはん食べなきゃ勉強なんてムリだよお……」
「穂乃果がさっきまでずっと寝てたんでしょう!?まったく、誰に似たのやら」
「え?あー……穂乃果はまだ無理そうだから、雪穂、勉強するか」
「(や、やった!)はーいっ♡」
騒がしいけど、これが最近の高坂家の日常……。
そうです、私は高坂雪穂。中学3年生……恋も勉強も、全力がモットーの女の子です!
……最近は、恋については悩む方が、ずっと多いんですけれど。
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「むうぅ~……わっかんな~い!!」
「大声で言わなくてもいいよ。ていうか雪穂と一緒にやってるんだから、中学の内容だぞ穂乃果。それで雪穂、この公式だけど……」
「はい、こう使うんですよね? それで、こっちの式を……」
ウンウン唸ってるお姉ちゃんを差し置いて、さっそく猛アタックを……ってわけには、なかなかいかないですよね。勉強中ですし、私もあくまで中2。そんなにスタイルいいとか、女の武器とか、そういうのはムリですし。
だから、できることから少しずつなんて考えて。不自然じゃない程度に室内でもオシャレしたり、わからないフリとわかったフリを使い分けて、じわじわと距離を詰めてるけど、あんまり反応らしい反応がない。最近ダイエットを頑張ってるのも、髪の毛のお手入れを欠かさずしてるのも、全部この時間のためなのに……
……バカですよね、私。さっき自分でその理由、考えてたじゃん。しょせん私は—————……
それでも、気づいて褒めてもらえないのは、寂しい。恋に障害はつきもの、とは言うけどさ……
「エヘヘ~、今日もなんだか賢くなった気がするっ! ありがとね!」
「昔の内容で間違いまくってたのによくいうよ。こんなんで次のテスト大丈夫なのか……」
「穂乃果はテストの点数なんてとらなくてもいい仕事につくもん!」
「なんだそりゃ。あんこ飽きてるのにこのお店継ぐのか?てか、売上とか税金とか、このくらいの数学できたほうがいいだろ」
「それはこれから探すの!」
勉強が終わると、決まってああやって『2人』になる。お姉ちゃんはパンやお菓子を、お兄さんは御礼のほむまんを食べながら、楽しそうにお茶をしてる……。最初は我慢しながら一緒にいたけど、最近はかなりつらくて、わざと席を外すことが増えた。
今もそう……私だって、一緒に勉強したのに。お茶したいのに。
ずるい。
お姉ちゃん達ばかり見てもらって、ずるい……。
そこにいてそこにいない私は、バレないように唇をかみしめ、机の下でギュッとスカートを握りしめてしまってた。
「そんなことじゃ、また海未に怒られるんじゃないか?期末テストも赤点まっしぐらじゃないか」
「う、海未ちゃんのこと思い出させないでよ~……あれはもはや鬼だよ、古文で読んだ鬼だよ……」
「ロクに授業は聞いてなくても、そーいう内容だけは覚えてるのか……」
……今朝は動揺してて気がつかなかったけど、よく考えたら私のスカートの中が見えても、あんまり反応してくれてなかったんだよね。
もっと、もっと焦ってくれてもよかったじゃないですか、お兄さん?
「そういえばことりちゃん、この前新しい服買ってたよ!見せてもらったら~?」
「人を何だと思ってるんだよ、まあことりなら興味はあるけど」
「それって穂乃果に興味ないってこと!?」
「そういうセリフは、ことりみたいにオシャレにお金かけてから言うセリフだろ!?」
お兄さんの友人はもともとお姉ちゃんや、その幼馴染の皆さんで……私はその妹ってだけ。海未さんやことりさんとも、過ごしてきた時間が違いすぎる。
私はまだ高校生ですらない。
そんな私なんかが、会話に割り込むことなんてできない……。
「貴方が教えてくれるから、こうして赤点回避できてるんだよ? これも成長だよ!」
「確かにそうとも言えるか、あの穂乃果が部活も勉強も頑張ってるんだから」
「うーん、なんか引っかかる言い方だけど、もっと褒めて良いよ! ほらほら、私褒められて伸びるタイプだし。海未ちゃんもガミガミいうより褒めてほしいよね~」
「自分で言うか自分で……」
私とお姉ちゃんは真逆だけど、こういうところもそう……。
お姉ちゃんならきっと、私と同じ境遇でも突撃してるはず。
でも私は、嫌われたり変に思われるのがイヤで、周りの目や評判を気にして……そんなことできない。優等生ぶっていつもこうして、遠くから眺めるだけ。お姉ちゃんと衝突だって、したくないし。必死に隠してるから、お父さんもお母さんも気がついてない。もちろんお姉ちゃんも。
それは同時に、誰にも相談できないってことでもある。亜里沙にだって内緒にしてるくらいだから……
「私なんかじゃ、どうせダメだもんね……」
仮に相談できたって……相談したって、心配をかけちゃうだけ。
お姉ちゃんと彼……誰がどう見たってお似合いだもんね。誰に言ったって、理解してもらえるわけでも、解決できるわけでもない。
……わかってるんだ、自分でも。
あの人に見てもらえない理由、恋がかなわない理由、これ以上アプローチしていけない理由。みんな同じ。
私は……『幼馴染』でも『同級生』でも『友達』でもない。
『妹』で……まだ『子供』なんだからってこと。
なんで。なんで私が姉に産まれなかったんだろう。
こんなに頑張ってても、お兄さんに見てもらえないんだろう?
『お兄さん』じゃなくて、名前で呼びたい……叶うなら、同じ学校にだって通いたいよ……。
考えれば考えるほど、悩みの深いところにハマって言っちゃってる気がする。こんな自分じゃダメだって分かってるのに、それをやめられない。気づいたらお兄さんの事を考えてて、お姉ちゃんのことを羨ましく思ってる。
ずっと、このままなのかな?
—————そう考えてた私に、大きな転機が訪れたのは、少しだけ後の事だった。
「雪穂、私ね? スクールアイドル始めようと思うんだっ♪」
ユキホチャンは嫉妬可愛い。異動準備って、忙しいですよね……ヤンデレとラブライブだけが癒しです。
こんつばさん、いつも感想に加えて、このたびは高評価本当にありがとうございます!