ラブライブ!〜ヤンデレファンミーティング〜   作:べーた

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「学校が大好きで」
 
「音楽が大好きで」
 
「アイドルが大好きで」
 
「踊るのが大好きで」
 
「メンバーが大好きで」
 
「この毎日が大好きで」
 
「頑張るのが大好きで」
 
「歌うことが大好きで」
 
「μ'sが大好きだったから……」




『それでは結果を発表します!第2回!ラブライブ!本選出場は……』

『μ’s!!』



第3話 眩しさに焼かれて

「それではみんな~!かんぱーい!!」

 

 

「「「「「「「「「かんぱーい!!」」」」」」」」」

 

 

10人の声が、やや手狭な部室に響く。もっとも、その狭さも心地よく感じられてきたけど。

 

昨日の最終予選のライブ優勝と、その『お疲れ様パーティ』の乾杯。

 

カレンダーはもうすぐ年末……ラブライブ!本大会が約2ヶ月後に控えていることを考えれば、本来ならいくら練習しても足りないところなんだろう。だが、そこはやっぱり我らがμ’sで。活動方針は、みんなで楽しむこと……それが一番大事。

 

ライブの後はいつも、俺が録画したライブのBlu-rayを流しながら、反省会……というよりは見ての通り、ただの打ち上げをしている。ちなみに、その時の曲のセンターの人が乾杯の音頭を取ることになっているから、今日の当番は希だ。

 

「あ! にこちゃん、凛の残してた唐揚げとったにゃ!?パリパリのところ好きだったのにー!」

 

「ふふん! こーいうのは早い者勝ちよ!」

 

……相変わらずこの2人は特に騒がしい。凛はまだしもにこは3年なのに、こういうとこは子供っぽいままだ。まあ家ではずっとお姉さんなんだし、アイドル部もしばらく1人だった。μ’sだけには、素の部分を遠慮なく見せて甘えられるっていうのが、本当のところなんだろな。そしてそれは、μ'sのみんなを信頼してるからこそ……なんだろう。

 

 

「り、凛ちゃん落ち着いて~! ごはんも炊けてるから~!」

 

「ふふ……こんなところでも子供っぽいのね。まあ、ちょっとは羽根を伸ばさせてあげましょうか」

 

「まったくもう……凛、私の分の唐揚げをあげますから落ち着いてください」

 

花陽は野良猫の喧嘩みたいなムードの2人を抑えていて、見つめる絵里の目も優しいし、海未の気遣いも心地よい。

 

「何やってんだか……ことりがまだまだ揚げてくれてるのに、取りあっても仕方ないじゃない」

 

「えへへ……そんなに美味しいと思ってもらえて嬉しいな♪ おかわり、まだまだあるからね?」

 

呆れる真姫も微笑ましいものを見る様だし、ことりは純粋に自分の料理がみんなに美味しいと思ってもらえるのがうれしい様だ(実際おいしい)。

 

こうしていると、μ'sのみんなは本当に強い絆で結ばれているのだと、改めて感じる。これから一生……いや、何回分も生きたところで、これほど素晴らしい仲間と出会えることはないかもしれない。μ'sは本当に……『ひとつの光』なんだ。

 

……だけど俺は、みんなとは対照的に『本当の気持ち』を話せていないままだ。昨日からツバサと付き合いはじめたこと。そしてμ’sのみんなに嫉妬と罪悪感を抱いてること。そのどちらも言えてない。

 

その問題は解決したわけじゃないから、正直このパーティもそんなに楽しめていないというのが、正直なところだったりもする。後ろめたさで、本当は居ても立っても居られない。流し始めた、せっかく撮った記念すべきスノハレの映像も、今もこうして目を背けてしまっている。

 

俺だけがこの空間で、『一人だけ何もできていない』と感じると、孤独感は強くなってしまう。考えないようにしても、嫌でも考えちまう。μ'sのみんなはこれほどの成果を出してるのに、俺は夢を諦めたままだって……。

 

……ハッキリ言って、無理をしてる自分がいる。こんなところでも、やはりみんなの足を引っ張っていると思うと申し訳なくて、ますます自己嫌悪は深くなってしまう。

 

そんなことばかり考えていたからだろうか? 背後からかけられた声に、俺は咄嗟に対応できなかった。

 

 

「ねえしゅー君!しゅー君はどう思うの?」

 

 

高坂穂乃果……。

 

音ノ木坂に男である俺が入ることになってから、あらゆる意味で色々と一緒にやってきた、大切な仲間の一人。彼女の明るさには、ずっと助けられてきた。『天才』で、『勝者』で、日陰者の俺とは違う。その明るさは、まるで太陽で———……

 

考えが悪い方向に行くのを必死で抑え込んで、訝しげな表情の穂乃果に返事をする。とはいえ、思考に没頭していてロクに内容も聞けていなかったから、まずはそこからだ。

 

「……ごめん、ちょっと考え事してた。どう思うって、何が?」

 

「もう、しゅー君ちゃんと聞いててよ~……。ほらここ、そろそろ始まるよ!」

 

「始まるって……ああ、撮ったやつの?」

 

そう言って穂乃果が指差すのは、ちょうど今、目を逸らしていたスノハレの映像。光が一斉にオレンジ色になり、観客の人たちの歓声が聞こえてくる。

 

『ハレーション』……ざっくりいうと、カメラで撮った写真が白くぼやける時の現象だ。希はカメラが結構好きで、昔に父親から高校進学祝いに買ってもらったという一眼を大切にしている。その技術あってのμ's結成当初の紹介PVの撮影だったし、俺も写真については希から勉強させてもらうところは多い。

 

そして、彼女のラブソングを作りたいという願い、μ'sのラブライブに出るという思い、クリスマスという季節、冬の雪……そういうものをカメラのハレーションという言葉とあわせて、みんなで考えた演出と曲が、このスノハレだ。画面を見ると、みんなの白い衣装がオレンジの光に包まれるのが見える。

 

でも俺は……そこにはいない。当然だ、俺はみんなとは違———

 

 

「……しゅー君?どうしたの?怖い顔してるけど……」

 

 

……あっ、やってしまった。どうやら、顔に出てしまっていたらしい。

 

周りを見れば、穂乃果だけじゃない……みんな騒ぐのをやめて、心配そうに俺の方をじっと見ている。18の瞳が真っ直ぐに、俺だけを射抜いていた。ただでさえ後ろめたさを感じていた俺は、咄嗟に下手な言い訳で誤魔化すしかない。

 

「いや、もっといい演出やライトアップが出来たな、って。反省してるだけだよ。あと1日早くこれを思いついてれば、もっともっとLEDだって用意できたのにって……」

 

「そうかなぁ……? 私は十分だと思うけど。相変わらずしゅー君は理想が高いんだね」

 

「理想が高い、だなんて。俺はただ……」

 

「ううん! 前から思ってたけど……しゅー君は私たちのことをいつも助けてくれてるけど、その目は私たちより、ラブライブ!よりもずっとずっと高ーいところを見てる気がするんだよね」

 

穂乃果はくりっとした瞳で、なんの悪意もなくそう言った。そう言われればそうなんだけど……厳密には違う。俺の人生はたかだか20年にも満たないけど、そこまで上手く行ってる人生ってわけじゃなかった。親だってゴタゴタしてるし、身体のことも……。

 

だから理想を、夢を……何十年かかったってかなえないと、納得できないっていうだけで。その気持ちだけで一生懸命頑張ってきた。ツバサもそうだ。

 

それは個人的で、ある意味では不純で、自分勝手なことで……ひたすら学校を救おうとしたμ'sとは違う。みんなの想いを力に変えられる穂乃果に褒めてもらえるような立派なものじゃないんだ。

 

 

『学校を救うっていうあんなに綺麗な目標も!心からそれを応援してくれる純粋な人達も!「私だから」ついてきてくれる仲間も!!私にはなかったのよ!!』

 

『信じてくれてたはずだ。ツバサなら、A-RISEだから応援できる!ってさ。英玲奈さんもあんじゅさんも、ツバサだからついてきてくれた。一緒にここまでこれた!誰も幻滅なんて、するわけない』

 

 

——こんなときになって、ツバサとの会話が蘇ってきた。

 

つい昨日あんなこと言っておいて、自分に返ってくるなんて。

 

 

「そんな貴方を見て、もっと頑張ろう、って穂乃果は思えるんだ。しゅー君がもっとこうしたい!もっとすごい振り付けを!って私たちにいろんなものをぶつけてくれるたびに『それに応えよう』って感じなのかな? とにかく、力がもらえる気がするの……」

 

やめてくれ、穂乃果。

 

俺には何の力もないんだ。全部、μ'sのみんなの力であって、俺はその手伝いをしただけ……いや、手伝えてたかどうかもわからない。できてたとしても、それは俺じゃなくたって……

 

……ダメだ、話を、変えないと。

 

 

「……俺じゃなくて、みんなの力だよ。理想ってのも買い被ってる。みんなは俺の理想とか夢なんかより、ずっと高いところにいるさ」

 

実際、あの絶対王者だったA-RISEを……あんなに努力してたツバサを破ってラブライブにも出たんだし。スクールアイドルにとって、それ以上を望むなんてあり得ないだろう。

 

だがそんな返答が、逆に穂乃果にはそっけなく感じたようだ。

 

 

「むぅ~……なんか心がこもってない! 今日もずっと上の空だったし、何か悩んでるんでしょ!?そんな隠し事するしゅー君にはこうだ~! えいっ!」

 

「おわっ!?」

 

どうやら、俺がこの打ち上げでぼーっとしていたことは見抜かれていたようで、元気づけようと穂乃果は俺に抱き着いてくすぐってくる。下手っぴなのか、そんなにくすぐったくないけど。

 

それでも久々に、自然に笑みが浮かんだのが自分でもわかる。

 

「ほら、笑って笑って! やっぱりしゅー君だって笑顔じゃないと!」

 

周りのみんなもそれを見て安心したのか、またさっきのように微笑ましいものを見る目でニコニコしていた。

 

(やっぱり、μ’sのみんなは最高の仲間だ。こんな俺のことでも、本当に大切に思ってくれている)

 

だけど。そんなみんなを見たからこそ、俺は羨ましいと思ってしまった。捨てたはずの夢を諦められなくなった。

 

みんなみたいに、夢をかなえたい。ツバサに追いつきたい。みんなに負けていたくない。『叶えなきゃいけない』っていう気持ちがくすぶり続ける。そんな俺がマネージャーとして、ラブライブを控えたみんなの、負担ではありたくない。

 

……なら、俺はもうやらなくちゃいけないことがある。

 

 

 

 

そう考えていると、くすぐるのを止めて穂乃果が耳打ちをしてきた。

 

 

「ねえ、しゅー君。……後で大事な話があるの。聞いてくれる?」

 

穂乃果が大事な話とは珍しい。ラブライブの最終予選に何か思うところがあったのか、それとも何か個人的な相談か。なんにしても……

 

「俺が穂乃果にそんな風に聞かれて、首を横に振るわけないよ」

 

「……ありがとっ。片付けが終わったら、一緒に帰ろうね?」

 

そう言って離れる穂乃果の顔は、思わずドキッとしてしまうほど綺麗な笑顔だった。

 

穂乃果、こんな表情もできたんだ……。

 

 

(……ええい!煩悩よ去れ! いくら穂乃果にずっと憧れてたからって、俺はもうツバサ一筋なんだ!!)

 

こんな俺にも笑顔を向けてくれる穂乃果。さっきも心配そうにこっちを伺っていたμ'sのみんな。……本当に俺は、素晴らしい仲間を得られたんだ。

 

μ'sが今後、どうなっていくかはわからない。廃校が無くなった今、俺もいつまで音ノ木坂に居られるかも、わからない。だけどこの痛みは胸に抱えたまま、やっぱり最後まで見届けよう。変な気は起こさずに、最後まで……

 

 

 

 

————そう、思えていた。

 

 

その一言を聞くまでは。

 

「はいは〜い、みなさん、注目〜! 実は今日、お母さんから重大なお知らせをもらってきました♪」

 

盛り上がってきたところで、ことりがそういってみんなを集めた。何か発表があるようだけど……

 

「なんと!スクールアイドルや音ノ木坂が、アメリカのTV番組の取材を受けさせてもらえるかもしれないんだって! なんと……ニューヨークで現地ライブもやれるらしいよぉ~♡」

 

 

μ'sのみんなが……

 

海外でまで、ライブ……???

 

 

その言葉を正確に認識したとき。俺の中で何かが崩れ去った気がした。

 

とてつもなく、大きな音を立てて……。

 

 

 


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