ラブライブ!〜ヤンデレファンミーティング〜   作:べーた

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「実はお母さんから重大なお知らせをもらってきました。なんと!スクールアイドルや音ノ木坂が、アメリカのTV番組の取材を受けさせてもらえるかもしれないんだって♪なんと……ニューヨークで現地ライブもやれるらしいよぉ~♡」


μ'sのみんなが……

海外でまで、ライブ……???






第4話 ふたつの告白

「あ、アメリカぁ!?」

 

「にゅ、にゅにゅにゅニューヨーク~!」

 

「スーパーアイドルにこにーの魅力が、ついに海外にも認められたのね!?」

 

「ことり、それは本当なのですか!?」

 

「ハラショー!そんなことってあるの!?とっても素敵じゃない!」

 

約1名変なことを言ってるが(ぬゎによ!)、俺も含めてみんな驚いているのは同じだ。確かに……スクールアイドルは近年、日本で本格的なブームになりつつあるし、海外から注目されてもおかしくない。

 

しかしまさか。エンターテインメントの聖地アメリカ……それもニューヨークのテレビとは思ってもみなかった。凄すぎて、凄い機会だとしかいいようがない。本当に、他に例えられる言葉が出ないんだ。

 

……俺は、日本の中ですら何もできていないのに。

 

μ’sのみんなは、もうそこまで認められているのか。海外に……世界にまで。

 

 

「ラブライブ本大会は2月です。確かに、追加の曲はやってやれないことはないかもしれませんが……」

 

「それはそうだけど、まだ本大会の曲も完全にはできてないのよ!? ……まぁ、アイデアはないことはないし?作るとなったら作って見せるけど……」

 

「真姫ちゃん髪クルクルして素直じゃないにゃー。正直に行ってみたいって言えばいいのに」

 

「カードが告げとる……これは行くべきやって!」

 

プレッシャーはあっても、こんな機会を断る理由はないとばかりに。あっという間に意見は固まってきた。みんな既にやる気満々だ。

 

こういう時、やっぱりμ’sの結束力というか、団結力というか。普段一人一人は個性的でまとまりがないのだが、スクールアイドルとなると、あっという間に一つになれる。

 

μ'sとして、『みんなで楽しむ』ということ、そのためだけに。その輝きが本当に美しくて、羨ましくなってくる。

 

(……ツバサも、こんな気持ちを抱いていたのかな)

 

勝者への羨望。敗者の喪失。正確には俺の場合、ツバサと違ってμ'sのみんなによって何か失ったとか、そういうわけではないのだけど。

 

穂乃果は?

 

じゃあ穂乃果の方は……どう感じてる?

 

 

「穂乃果、穂乃果は……行きたいか?海外に」

 

「? うん……私は、行きたいかな」

 

「それは、3年生のみんなとスクールアイドルをできるのが、もう最後だから……?」

 

「ううん、みんなと歌いたいから、踊りたいから!楽しみたいからだよ! ……μ'sを世界中のみんなに届けたい。みんなと、最高の『今』を一緒に過ごしたいから!勿論、しゅー君にもね?」

 

こんな時でも、みんなのことを最高の笑顔で語ることのできる穂乃果。

 

その穂乃果と、輝くμ's。

 

……分かってしまった気がする。今の自分が、なんなのか。これからどうするべきなのか。

 

 

「そっか……そうだよな。穂乃果だもんな」

 

「……? 褒められたのかな、よくわからないけどありがとう!」

 

 

俺は、いつの間にか。いや、もしかしたら最初から『届けられる側』になってたんだな。

 

そうだ……届ける側じゃないんだ。

 

 

だから……

 

 

 

 

♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢

 

 

 

 

「ごめんねしゅー君。つきあってもらっちゃって。実は、しゅー君だけに話したいことがあったんだ」

 

 

片付けが終わって、みんな鞄を持って部室を後にしようとしたあたりで、俺と穂乃果だけは、夕焼けの教室にやってきた。

 

……ただし、教室の外に8人がコソコソしているのがバレバレだけど。

 

普段ならそんなにデリカシーのない彼女たちじゃないから、もしかして、何の話か知っているのだろうか?穂乃果はなんだか緊張しているし、大事な話なのは間違いない。とりあえずそれを聞こう。

 

「気にすることじゃないって。俺と穂乃果の仲だろ」

 

そうだ、穂乃果とはずっと一緒にやってきた。今さら一つ二つの頼み事や相談くらい、何も遠慮はない。

 

俺がそう言うと、続きを促しているととったのか、穂乃果が遠くを眺めながら切り出した。

 

 

「……もう懐かしくなってきたよね。ここで私が教室に駆け込んで、スクールアイドルだよ!って言いだして……」

 

「ああ。そこからμ'sが始まったんだよな。まあ、その時はまだμ'sって名前もなかったけど」

 

そう、あの日のことは今でも思い出せる。いきなりスクールアイドルやる!って言いだした穂乃果だったけど、最初は白い目で見られる事もあった。でも、努力を重ねるうちに、海未もことりもだんだん理解してくれて、たくさんの仲間を得て、今に至ってるんだ。μ'sという名前だって、何処かの誰かがつけてくれて……

 

俺だけでなく、彼女たち自身もその名付け親も、まさか今みたいな事になるなんて、誰も想像していなかったに違いない。これが奇跡でなくてなんだろうか。

 

 

「うんうん。A-RISEの人たちを見たときのことが忘れられなくて。同い年なのに、カッコよくて、可愛くて、キラキラして!……4人の予定が合わなくて、一人で練習することもあったよね。最初はスクールアイドルって、やっぱ無理だったのかな。って悩むこともあったし」

 

「海未以外、運動やストレッチもよく知らなかったからなぁ。俺や絵里が教えなきゃどうなってたことか……。あと、最初のライブで誰もいなかったのは今でもキツイ思い出だよ」

 

「あはは……ってもう!大事な話なんだから茶化さないでよ〜!」

 

すまん、と思わず謝るかたわら……A-RISEの、ツバサのダンスは、歌は。やっぱりたくさんの人に夢を与えていたのだと思い返して、なんだか少し誇らしくなる。

 

今の穂乃果の言葉も、こっそり録音してツバサに聞かせてやりたいくらいだ。あいつもあいつで普段はアイドルの顔なのに、プライベートではきっと耐性ないから、真っ赤になるかもしれない。お前の『翼』からこぼれ落ちた羽が、色んな人に夢を与えてるぞーって……俺も恥ずかしいからこのセリフはやっぱり無しだな。

 

 

「……だからこそ、μ'sが9人になって、しゅー君もマネージャーになってくれて、最高のパフォーマンスができた時は、涙が出るくらいうれしかった。生きててよかったー!って思えたの」

 

 

そんな、浮かれていた頭を。さっきの海外の話からもう一度、ハンマーで殴られたような衝撃を感じた。

 

 

……俺はまだ、『生きててよかった』って。思えないんだよ、穂乃果。

 

 

「学校の人たちにも、私たちにとっても。本当に奇跡だったと思う、この9人と、しゅー君じゃないとできなかった。ラブライブ!に出場できるなんて、夢みたいなこと。それで気づいたの。誰にだって、奇跡は起こせるって」

 

……俺は何もしていない。

 

むしろ、邪魔だったかもしれないとすら思う。

 

(みんなだけで、奇跡は起こせた。俺は必要なかったって。一番近くにいたからわかるんだ)

 

穂乃果はそんな意味では言ってない。……言うわけがない!そんなこと誰にでもわかる!!

 

でも……皆が奇跡を起こしても、俺だけはまだ奇跡なんて起こせてないんだ。

 

夢を追いかけて、『怪我』をして、現実に負けて……

 

 

そんな考えなんて当然知らずに、穂乃果は続ける。

 

「10人の気持ちが一つになれば、なんだってできちゃうぞー!って感じ。上手くいかないからってあきらめずに。楽しみたい、やりたい!っていう自分のホントの気持ちに、嘘をついちゃだめだよね……」

 

 

本来なら感動を伝えるはずの言葉は、負の思考のループ……バッドトリップのような状態の俺に無自覚に刺さり続ける。穂乃果の笑顔と、誇らしげな言葉が、辛い。

 

そうだ、自分の気持ちに嘘をつくことはない。

 

やっぱり俺には、みんなの仲間でいる資格なんて———……ない。

 

 

「私はもっとみんなと踊りたい。たくさんの人に歌を聴いてもらいたい。μ'sのみんなと、貴方と一緒に頑張っていきたい、って思うの。ニューヨークとかラブライブ!とか。これからどうなるかわからないけど、だから前を向いていきたいなって思う!」

 

 

だからこそ確信できた。

 

迷っていた俺の気持ちに、整理がついた。

 

こんなに笑顔で、こんなに幸せに語れる穂乃果のいう『みんな』に、俺はこのままではいられない。

 

きっとμ'sの皆も穂乃果と同じ気持ち……。

 

あんなにいい仲間が、そう思ってくれないはずがないって、よくわかってる。

 

 

————こう思ってくれるみんなだからこそ。俺はこのままじゃ、ダメなんだと。

 

 

「ずっと前を向いて頑張ってたら。みんなと一緒なら!見たことがない最高にキラキラした未来に、みんなで行けると思うんだ!!」

 

 

これからの穂乃果の言葉を、昨日ツバサと話す前の俺だったら、素直に受け入れてしまっていたかもしれない。

 

でもみんなの輝く姿を見て、思い出してしまった。

 

その眩しすぎる輝きで、なにも輝いてない俺を直視せざるを得なくなってしまった。

 

 

 

だから————

 

 

「たくさんのお客さんも大切。だけど、貴方にいつも見てもらえることが、穂乃果にとって……一番幸せなの」

 

 

「……穂乃果は、しゅー君のことが好きです」

 

 

「すぐ走り出して、いつもすぐに転んじゃう穂乃果だけど。そのたびに手を差し伸べてくれる貴方がいるから、ここまで来られました」

 

 

「この世界の誰よりも。貴方のことを愛しています。私と、つきあってください……!」

 

 

ライブの時以上に真剣な表情の穂乃果は、青く、まるで宝石のように輝く瞳で、真っ直ぐに俺を見つめている。その顔は紅潮して、しかし声は僅かに震えていた。

 

 

……胸の奥に、温かい気持ちが生まれてくる。夜なのに、穂乃果というポカポカした太陽に、心が照らされているような気持ちになる。

 

でも、『俺がいたから』じゃないんだ、穂乃果。

 

穂乃果の、μ’sのみんなが支えあった力なんだ。

 

 

 

————だから、つきあえない。その告白に、応えられない。

 

 

 

 

「……ごめん、無理なんだ。俺は、ツバサと付き合うことになったんだ」

 

 

 

 

 

 

「………………………………………………えっ?」

 

 

 

 

 

 

 




大好きな人に無自覚で抉られ続けるつらさ

無自覚で抉っていたと気づくつらさ……

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