ラブライブ!〜ヤンデレファンミーティング〜   作:べーた

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初デート回。


第6話 喫茶店の逢引

 

 

 

「明日、喫茶店行かない?」

 

 

昨日、μ'sのみんなとの打ち上げが終わって、穂乃果の告白を断ってから、沢山のみんなからのメッセージが届いている。しかし、俺はどれも見る気になれなかった。

 

逃げ出した自分が、あまりにも情けなかったから。今までみんなに打ち明けられずに拗らせてしまった自分の弱さを自覚しすぎると、壊れてしまいそうだった。

 

そんな状態だったから、ツバサから着信があって、デートに誘ってもらったのは救いではあった。今のところはメッセージだけだが、すぐに家に直接来るであろうことは予想できたし、昨日のことをツバサに相談したくもあった。……相談と言っても、誰かに吐き出したかっただけだ。

 

しかし、こんな精神状態でまさかデートとは。μ'sのみんなにはいつも『ニブチン』呼ばわりされるし、誰かと付き合ったこともデートしたこともない。自慢じゃないが、女心がわかる方じゃない自覚はある。

 

……事実、穂乃果から告白されるだなんて思っても見なかった。女子校に行くことになると知った時は、多少は妄想したりしたこともあったけど。まさか本当に……。

 

それでも、ツバサのせっかくの好意を無下にすることもできず、μ'sの練習に行けるような状態でもなかった俺は、行くことにした。後になって思ったことだが、俺はツバサに救いを求めていたのかもしれない。

 

返信して、そこからツバサが勝手にデートのルートまで決めてしまっていた。どこか行きたいところがあるのだろうし、その積極性がツバサの魅力なのだが、男としては少々甲斐がない。……とはいえ、デートスポットなど全く知らないのだから言い訳はできないんだけど。

 

 

中学生の頃のツバサは女の子って言うより、同志とか悪友って感じだったし、ましてや今、こんなに綺麗になってるなんて思ってなかったから、いざデートとなると、うん。胸がドキドキしてしまっている。

 

……クソ、生意気だぞツバサのくせに。なんて心の中でごち、昨日の打ち上げ中に即、OKを出してしまった。惚れた弱みというやつかこれが。

 

俺の中は、開き直りのような、本心を打ち明けた奇妙な爽快感と、すさまじい程の罪悪感と、これから挑戦するという不安と、ツバサとデートができるという高揚感が混ざって、不安定になっていたが。

 

それもツバサに話せば、少しはマシになると思って、地図アプリを開いた。

 

 

 

「で、やってきたのだが……」

 

 

 

どうもここは、以前ことりがミナリンスキーとしてバイトしていたメイドカフェの近くのお店のようだ。軽く検索した限りでは、ここもUTXの手広いコネのある喫茶店の一つらしい。オシャレな雰囲気とセンスのいい店内で、UTX関係の芸能人などに隠れた人気店なのだとか教えてもらった。

 

ここから見える扉には、A-RISEのポスターも見える。……うん、このポスターのツバサは最高にかわいい。今度同じ奴にサイン書いてもらおうかな。

 

本来ならこの年末は休みに入るようなのだが、ツバサの知り合いがやっているお店らしく、午前中だけ少し開けてくれるのだという。

 

男と付き合っていることがバレると、ファンはもちろんUTXのお偉いさんにはいい顔をしない人もいるだろうから、勿論変装してのことだ。

 

そんなことを考えていると、向かい側の道路からツバサがやってきた。

 

「おっまたせー♪ いやあ、遅れちゃったかしら?」

 

「待ってない。今来たと、こ……」

 

「……?」

 

途中で言葉が詰まってしまう。ツバサもそんな俺を見て怪訝そうな顔つきをした。

 

今日のツバサの私服と変装が、あまりにも完璧すぎるコーデだったからだ。

 

1月になろうかというこの年末の寒い時期。紺のコートに、高そうなベレー帽。そして大きめの、ファッション雑誌の外人が表紙でつけてそうなオシャレなグラサン。ブーツも一味違う。短めの髪は後ろの方で少しまとめられており、いつもと違った印象を受ける。読モだと言われても、全く違和感がない。かつ、ツバサと一見してはわからない。

 

……なんだよ。そんな目で見るな。俺はスクールアイドル以外、ファッションなんてよくわからないんだ。俺の語彙ではこれが限界。とにかく可愛いということだけ。雑誌の表紙とかなんとなく流し見してたけど、その一人一人はこれほど綺麗なものなのだろうか。

 

まったくツバサのやつ、可愛いくせにいっつも制服で歩いているイメージがあるから、面くらってしまったぞ。ライブの時も『ああいう』タイプの衣装だったけど、こういう普通のファッションもできるんじゃないか。実はああいうのも好みなんだけど……じゃなくて。

 

いや、なんというか、こう。ギャップ萌えってやつか。

 

俺がしばらく呆けていた意味に感づいたのか。ツバサはニヤリと笑って、クルリとその場を一回転して……

 

 

「どう?惚れ直した?」

 

 

なんて聞いてきやがった。

 

ああ惚れ直したとも。でもそういうのは反則だ。だから俺も……

 

「ああ。この世で一番綺麗な、俺だけのアイドルだ」

 

なんて歯の浮くようなセリフで返してやった。

 

 

……普段お堅い俺が口にしたからだろうか、彼女には相当お気に召したようだ。その後のツバサの笑顔は、あえて語らない。俺の心のフォルダに永久保存だ。決めたからな。本気だ。絶対誰にも見せないぞ!!!

 

 

 

 

♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢

 

 

 

 

そんな漫才を繰り広げた後、俺たちは喫茶店で他愛のない話をしながら、美味しいコーヒーを飲んでいた。といっても、ツバサは俺と違って、苦いものが好みではない。この前ジュースを飲んでいたように、いつも砂糖たっぷりのココアだ。あと地味に猫舌なので、アイス。

 

付き合い始めたあの時は『好みが変わってない』とか『若いのにコーヒーなんて親父くさい』(※そこまで言ってない)なんて言われたが、お前も子供っぽいまま変わってないじゃないか。と少し抗議したくなる。

 

と、ツバサは一杯目を飲み終わったあたりで、ふいに背伸びをして当たりを見渡した。

 

「ん~!やっぱりここのお店は最高ね。ムードがよくて、1日中話し込んじゃいそう」

 

「ああ。こんなセンスのいい店までお抱えなんて、やっぱりUTX学園の芸能界とか、有名人とのコネというか、そういう手広さはすごいな」

 

話し込むって言っても、ツバサが一方的にいろいろと話題を振ってくるのだが。とりあえず、彼女の言ってることは本当だと思う。

 

洋風の店内だが、高級すぎる印象は受けない。何処か日本の一般的な家庭の雰囲気が漂っていて、落ち着ける場所だ。それでいていろんな部分のセンスが良くて、飽きが来ない。

 

そのお店の人はさっき買い物に行ってしまった。2杯目はもう少し後になるわけだが、当然ながら、さすがにそこまでわがままは言えない。

 

「UTXの卒業生の人がやってるお店でね。個人的に知り合いなの。ほら、私って変装してても、あんまり秋葉原で歩けないじゃない?でもこういうとこなら周りの目もないから、大丈夫なのよね」

 

「そういう人脈も作れるのか。やっぱツバサはすごいな。本当にトップアイドルまっしぐらって感じだ」

 

特に嫌味もなく、心から褒めたつもりだったのだが。どうも最終予選で負けたことを思い出させてしまったのかもしれない。……また地雷を踏むのか、俺。ツバサの顔が少しだけ暗くなるのがわかった。

 

「そのトップアイドル候補生は、夢をあきらめた修也のマネージメントするμ'sに負けちゃったけど?」

 

ちょっといじけたツバサに、こんな皮肉まで返されてしまう。

 

昨日穂乃果の輝きにあんなことを叫んでしまったのに、ツバサの輝きにそうはならないのは、『ツバサが負けた側だから』というわけでは断じてない。

 

μ'sの皆にはため込んでしまったものがあったのと、ツバサとはμ's以上に長い付き合いだというのが大きい。一緒に夢を誓い合った仲だから、確かにライバルではあるしお互いに越えるべき相手なのだけど、同志のようなものでもある。

 

ツバサになんとか機嫌を直してもらおうと、少ないボキャブラリーから言い訳する。

 

「蒸し返さないでくれよ。トップアイドルだって、挫折や負けくらいあるさ。それに、μ'sのみんななら、『穂乃果なら俺なしでも多分A-RISEには勝ってた』って言ったのはツバサだろ?」

 

「冗談よ冗談。そんなムキにならないで。もう吹っ切れたから。……貴方は私を選んでくれたんだし」

 

……からかわれてしまっただけのようだ。向こうの方が一枚も二枚も上手だった。

 

だが、他愛ない会話の中に、わずかな引っ掛かりを覚えて、俺は少し踏み込んで聞く。

 

 

「『選んだ』って、どういうことだよ。俺はツバサ一筋だぞ」

 

「あ、ありがと。……言葉通りの意味よ。このままじゃ鈍い貴方は気づかないだろうから、言ってあげる」

 

ツバサは俺の反撃に顔を少し赤くしながら、爆弾を投下した。

 

 

「μ’sの皆さんは、全員が貴方のことが好きなのよ。異性として」

 

 

その言葉を聞いてしまった俺は、またも頭を殴られたような衝撃を受けてしまった。

 

……俺はこの数日で、何回驚かねばならないのだろうか。

 

 

 

 

 

 




僕もこんなかわいい女の子とデートしたかったですね。

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