ラブライブ!〜ヤンデレファンミーティング〜   作:べーた

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ヤンデレは周到にして応変に布石を打つ。


第7話 それぞれの仲間へ

「あ、ありがと。……言葉通りの意味よ。このままじゃ鈍い貴方は気づかないだろうから、言ってあげる」

 

それは本来なら、自分で気がつかなければならなかったはずのこと。

 

でも、気づかなかったこと……。

 

「μ’sの皆さんは、全員が貴方のことが好きなのよ。異性として」

 

その言葉を聞いてしまった俺は、否が応にでも、昨日の出来事を思い出してしまった。

 

 

————————穂乃果は、しゅー君のことが好きです。

 

 

……今思えば、薄々みんなから好意の兆しはあったように思う。

 

それでも、どうせ恋人なんてできないだろう、みんなには男としてみられてないのだろう、という考えを持っていたから、見ないフリをしていたのかもしれない。仲間でいられれば心地良いと、気づいて仕舞えば、μ'sが壊れてしまうんじゃないかと、無意識で考えていたのかもとすら思う。

 

4月から始めたこのスクールアイドル活動。普段の練習やストレッチのボディタッチでも甘い展開がなかったわけじゃないけど、そこどまりだったし。特に合宿の時とか、みんな一緒の部屋で寝てたから。でも手を出したり出されたりとかはなかったし……。

 

かつてのみんなからの、あの言葉の数々が思い出される。

 

『修也、どうせ今回のライブも、私達のために頑張って無理したんでしょ。今度私の家で星を見ながらゆっくりしてみない?』

 

『修也さん、どうですかこのおにぎり!昨日特に美味しいお米が貰えたので……。え、みんなに?……そ、その!最初に貴方に食べて欲しかったんですけど……ダメ、でしたか?』

 

『修也くん!ストレッチの相手になってくれない?ええと、その……ほら、μ'sって9人になって奇数だからだよ!変な意味はないにゃー!』

 

『ねえ修也? 今日こそ生徒会の仕事、手伝ってくれるのよね? 今日は希もいないし、二人きりね……。頼りにしてるから、待ってるわよ?』

 

『今日の占いによると……修也くんのラッキーカラーは紫やん?だからウチがつきっきりで宿題手伝ってあげるね! 手伝うのは修也くん? えへ、バレちゃったなあ? 手伝ってくれたら帰りにほむまん奢ってあげるから、一緒に帰ろ!』

 

『修也!今日こそアンタにアイドルのなんたるかを叩き込んであげるわ!……ってどこ行くのよ!? 宇宙No1アイドルが輝き続けるためには、アンタみたいな存在が欠かせないの! ……マネージャーのアンタが一番、にこにーの魅力をわかってないで、どうするのよ……』

 

『修也、来週のメニューはこれで行きませんか? 貴方に負けてはいられませんからね。……知ってますよ?いかに男女の体力差があるとは言え、貴方が私達との練習後もメニューをこなしてるのを。……気づきますよ。ずっと見てましたから、貴方のことを』

 

『しゅーくんっ♪ この新しい衣装どうかなぁ? 可愛すぎてマトモに見られない……? もう!嬉しいけどそれじゃ参考にならないよぉ。一生懸命作ったんだから、しゅーくんにもっと見て欲しいんだ。私のこと……』

 

好意を持たれていることに一瞬、素直にうれしい気持ちが沸き上がる。だが、その感情は許されない。

 

だって現実に、俺はツバサと付き合うことを選んだ。穂乃果を裏切ってまで、その道を選んだ。自分のちっぽけなプライドのために、弱すぎる心のために、こうしてデートまでしている。それどころか、ツバサの言うことが本当なら。

 

知らないこととは言え、俺はμ'sの他の8人まで傷つけて———————?

 

 

————————そんな俺に、皆からの好意を喜ぶ資格なんてあるはずがない。だから、正の感情は抑えて、必死に負の感情で自分を罰しようとした。それで俺のしたことが変えられるわけでも、誰も喜ばないと分かっていても、後悔は一度始めると止まらなくて……

 

「ストップ。それ以上は考えないで」

 

ツバサの言葉で、急に現実に引き戻された。彼女の目は鋭く俺を射抜いている。

 

「悩むとフリーズするのは、相変わらず貴方の悪い癖ね」

 

「でも、俺は……」

 

「『でも』じゃないわ。どうせ、『俺は彼女たちの好意を受ける資格なんてない』なんて思ってたんじゃないの?」

 

何もかも、見透かされていた。いや、初めから俺がそうなることまで気づいていて、この話題を持ちかけたのかもしれない。

 

ツバサと俺は、出発点と見ているところが同じだ。違う人間だけど、何年同じ気持ちで頑張ってきたかを考えれば、自然な事でもある。だからこそ、わかるのだろう。

 

しかし、それでも俺は彼女の洞察力を甘く見ていた。実際には、ツバサは更に奥の奥まで見抜いていた。

 

「……今朝から様子がおかしいとは思ってたけど。もしかして誰かに……告白、されてたんじゃない?」

 

「なんで、そこまで……!?」

 

「……前にμ'sの方々と会った時から察してたわ。私と同じ、恋する乙女の瞳。しかも、あなたも喜色満面でデートに来てくれるかと思ったら、ずっと後ろめたそうな顔してるし。駄目押しに、この話題はじめたら、コレだもの……。勘づくな、っていう方が無理でしょ?」

 

やっぱり、修也という人間は、綺羅ツバサにはかなわない。スクールアイドルの頂点に立った女帝は、もう俺の手の届かないレベルに至ったのかもしれない。

 

「私のためにその告白を断らせちゃったり保留させちゃったなら、ちょっと悪いことしたかもしれないわね、μ'sの皆さんには。私からしたら、貴方を手に入れるのは子供の頃からの夢のひとつだったけど。彼女たちにとっては、横から好きな男を攫われたようなものだし……」

 

責任を自分にむけようとする言葉。それが、彼女なりの俺に対する気遣いなのかはわからないが、きちんと言わなければいけない。俺を恋人に選んでくれたツバサには、本当の気持ちを。

 

「違うんだ、ツバサ。俺は自分のために、断ったんだ。穂乃果の告白を」

 

「……どういうこと?」

 

「俺は、ツバサに言われてずっと感じてた胸の痛みの正体に気づいた。μ'sが輝いて、夢をかなえて、皆と笑顔になるたびに、幸せなはずなのに苦しかった理由は、嫉妬だったって。夢を諦めたことを直視しなきゃいけない辛さだって」

 

「それは、もう話したけれど?」

 

「穂乃果は、みんなで楽しみたい、幸せになりたいって言ってた。だから、俺は告白を断って言ったんだ。『マネージャーを辞める』って。今の俺は、まだ幸せじゃないから。夢をかなえて、人生を楽しめないと……みんなの隣に立てない、みんなの近くにいる資格がない。みんなと一緒に楽しめない」

 

「……………」

 

ツバサは、黙って聞いてくれていた。続きを促しているんだろう。

 

「知ってるか?μ'sのみんな、アメリカのテレビ局に取材を受けるんだってさ。今度ニューヨークでライブするってことまで決まったんだ。……今のままの俺じゃ、とても追いつけないよ。目の前にいるツバサにも。それどころかどこにでもいる、誰にも」

 

俺は、頂点であるツバサにだって追いつきたい。それを乗り越えたμ'sにだって、ただ負けて燻っているだけの男でありたくない。

 

みんな、『そんなことは気にしないで』とは言うかもしれない。でもこれは他の誰かじゃなく、俺が俺でいられるかどうかの話なんだ。俺自身の問題なんだ。

 

そこまで聞いて、彼女はまた口を開いた。

 

「—————貴方の決めたことなら、私は何も言わないわ。彼女たちのマネージャーを辞めるっていうのも、私が口を出すことじゃないし。……それに、私でも貴方と同じ立場なら、同じ決断をしたかもしれない。でも、辞めるにしてももう一度、穂乃果さん達とは話し合うべきでしょうね」

 

どうしても顔を合わせづらいなら、来年からUTXに転校する?なんて付け加えられた。

 

……そうだ。逃げたままなんて、そんな俺にだけ都合のいいことは許されはしない。みんなにはきちんと、もう一度。どこかで話さないといけない……。俺のエゴを通すなら通すで、そちらの筋も通さないといけない。

 

ツバサは、その様子だと覚悟はできたみたいね、と言ってから窓の外を見つめて少しだけ話題を変えた。

 

「でもまぁ、恋は戦争みたいなもの。ちょっとの勇気と情熱の差と…後はタイミングで結果は簡単に変わるわ。ましてや、貴方みたいな奥手な男が相手なら、先に告白した方が勝ちよ。ほら、聖人なんてタイプじゃないし、私」

 

「そりゃ、そういうのはツバサの趣味じゃないだろうけど……。」

 

言葉を紡ごうとした俺の口をふさぐように、ツバサはそっと俺の唇に人差し指を当てる。この動作をされる俺の顔も赤いが、やっぱりまだ恥ずかしいのか、彼女の顔も少し赤い。

 

「そ・れ・に!ラブライブの決勝は譲ったんだから、貴方くらい私のモノにしたってバチは当たらないわよ。……これで勝ち負けはイーブンよ。次に何かで戦う機会があれば、今度は私が勝ってみせるわ」

 

……そこまで言われたら、黙るしかない。そもそもこれは俺とμ'sの間の問題なんだし。

 

「何より、今日は私とのデートでしょ?ゆっくり楽しみましょ。時間はまだまだあるんだし。年末であんまりお店は開いてないけど、貴方と一緒ならそれで十分だわ。」

 

……真っ直ぐに目を合わせてこういう不意打ちをしてくるから、ずるい奴だと思う。天下のスクールアイドル、綺羅ツバサにそんなことをされたらまず、この世の男は勝てない。

 

「彼女たちも、そんなに弱くないはずよ。なんたって、このA-RISEと綺羅ツバサを破ったんだもの。そうでなくちゃ困るわ」

 

確かに、μ'sのみんなは、穂乃果はそんなに弱くないはずだ。少し時間が要るだろうが、別に俺が年明けからすぐ、音ノ木坂からいなくなるわけじゃない。またじっくりと話す機会もある。

 

それに冷静になってみると、穂乃果だけじゃなく、μ’sの皆まで俺のことを好きなんてのは、未だに半信半疑だ。ツバサを疑うわけじゃないが、流石に信じられない。

 

……どっちにしても、ちゃんと、謝らないとな。マネージャーを続けるかは、そのあと考えよう。

 

 

 

 

♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢

 

 

 

 

「……昨日、あんじゅと英玲奈と、話し合ったの」

 

またしばらくして店主さんが帰ってきて、2杯目も半ばというとき。話題がA-RISEのことになった。

 

「ほら、私一応リーダーじゃない?だから責任みたいなのがあるのよ。それで『ごめんなさい』って言ったら、なんで謝るんだー、って怒られちゃってね……」

 

「そりゃそうだろ。俺も言ったように、きっとあの二人はこの結果にも、A-RISEにも、ツバサにも後悔なんてしてないって」

 

統堂英玲奈さんと優樹あんじゅさん。どちらもA-RISEの欠かせない二人だ。ツバサは俺と同じで目標が高すぎるがゆえに、変なところで自信がないから、負けたことを謝ってしまったのだろう。

 

「ちょっと、この後の話取らないでよ。……でも、その通り。『私たちはこの三人でA-RISEなんだ。一人もかけてはならない』『ツバサや英玲奈がいてくれたから、今の私があるんです』なんて言われちゃって、また泣いちゃった」

 

「ほら、言ったとおりだろ?俺はあの二人とはそんなに会ったことはないけど、やっぱそうだよ。仲間だもんな、大切な」

 

「ええ。だから貴方も、きっとマネージャーをやめてもμ’sの皆との関係は大丈夫よ。そんなにヤワじゃないはず。……夢はまだ捨てないで。私とあなたで一緒にかなえないと意味がないわ」

 

 

ツバサにとって大事な、A-RISEの人たち。A-RISEの二人からも大事なツバサ。その絆は本当に羨ましいし、輝いて見える。μ'sのみんなに負けないくらい、輝いてる。

 

俺は悔しかった。自分は挫折したのに、μ'sのみんなが成功したのがうらやましくて。A-RISEやμ'sみたいな仲間がいないことに一人でいじけて。嫉妬して、壁を作ってしまって。

 

……それが、彼女たちを傷つけてしまった。だから、謝る。新年になったら。もう彼女にはなれないけど、μ'sが、まだ俺の大切な「仲間」でいてくれるなら。

 

「……あと、ヤワじゃなさすぎて、諦めずに狙ってきても、何度でも貴方は私のものだって教えてあげるから」

 

物騒なセリフを涼しい顔でココアを飲む女性から聞いてしまった。その言葉遣いにはちょっと恐ろしいものを感じる。うすうす感づいてたけど、やっぱツバサって独占欲強いタイプなんだな……。

 

そんな彼女を得られたことにまたしても内心、ドキドキしつつ、少し冷めてしまったコーヒーを口に運ぶ。

 

冷めても美味しいその味に、μ'sのみんなとの関係を重ねながら。

 

 

そのころ、穂乃果がどんな思いでいるのかにも、目をそらしながら……。

 




修正前ではこの喫茶店に穂乃果が乗り込んできて修羅場になってましたが、今回は平穏ですね。

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