ラブライブ!〜ヤンデレファンミーティング〜   作:べーた

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第8話 もっと深い繋がりを

また負のスパイラルに陥ろうとする俺を、ツバサは助けてくれた。必死に、穂乃果を。μ'sを拒絶しようとして、でもできないでいる俺のことを、ツバサはよくわかっていたのだと思う。

 

「なんか俺って、昔からツバサに助けられてばかりだな」

 

一番最初は、おとなしかったツバサを俺が手を引いてたと思う。だんだん対等になって、中学時代に引っ越しで別れてからはすっかり逆転されたらしい。

 

俺も足踏みしてたが、一番の原因はやはりツバサ本人の血の滲むような努力によるものだろう。

 

「何言ってるの。子供の頃私を助けてくれたのはあなたでしょ?貴方がいなかったら、間違いなく今ここにはいないんだからお互い様ってトコね。ま、新年あけたら、ちゃんと全員に改めて話しなさい?」

 

そうだ。俺は自分で自分を傷つけたなんてセンチメンタルに浸っているわけにはいかない。 

 

……本当に傷ついているのは、穂乃果やμ'sのみんなだからだ。

 

俺は俺の夢のため、わがままのため、ちっぽけなプライドのために、みんなを傷つけてしまった。

 

皆の好意を、受け入れられなかった。それは俺がこれ以上、傷つきたくなかったから。皆の光が、眩しすぎたから。俺が弱かったから……恋人に、なれなかった。ツバサがいてくれないと、本当にダメだったはすだ。

 

告白のタイミングが被ったのは今思うと、きっと単なる偶然だったけど。もしμ'sのみんなにそのまま告白されていたら、俺は『()()()』みんなと付き合う道を選んでいたかもしれない。

 

ツバサと先に付き合うことがなければ、差し出されたその手を振り払うことはできなかっただろう。

 

……でもそれは、みんなに甘えて、夢を捨てて。誓いも破ってしまう道だ。それこそ、俺はダメな奴で終わってしまう。皆に相応しい男には、なれなくなる。

 

そうだ。『こんな俺』のままじゃ、ダメなんだ。

 

ズルズルと幸福になるだけなんて、俺自身が耐えられない。

 

 

 

「……穂乃果、本当に俺なんかのこと。好きでいてくれたんだな」

 

 

 

その好意は本当にうれしい。俺のことをみんなが好いてくれた。もしかしたら、知らないだけで俺のことを好きな女の子はかつていたかもしれない。でも、面と向かっては完全に初めての経験だった。

 

誰かに本気で好意を持って貰えるなんて……それが、こんなに気持ちが温かくなることだったなんて、知る由もなかった。

 

そう考えると、これまでのμ'sの皆との思い出も、穂乃果のことも、より一層、煌めいて見えてくる。学校のために、みんなのために、夢のために、自分たちのために—————

 

 

 

でも、()()()()()なんだ。

 

みんなの輝きが、綺麗な光が。かなった夢が、ひとつになった力が。

 

『何も為せていない俺』を傷つけ続けていた。悪意なんか、あるはずない。むしろ悪意ではなく、俺のことを愛してくれているからこそ、その光が辛いんだ。

 

俺はμ'sの一点の曇りもない、あの煌めきの陰になるわけにはいかない。

 

俺なんかが、穂乃果の邪魔になるわけには……

 

 

 

「その『俺なんか』って、私の前ではやめてよね。そのあなたを好きになった、私の立場がないじゃない」

 

 

「……あ。悪い、失礼だった」

 

 

口に出してしまったことを、ツバサにまた指摘されてしまった。

 

……まずい、今の声色は、明らかにイラついている。ツバサがそこまで怒るなんて予想外だったが、それだけ今の俺の姿が情けなく映ったのだろうか?

 

慌てて目を合わせて謝る。 

 

「気にしないで、っていってるでしょ?私たちはもう一心同体なんだから」

 

いつも通り綺麗な瞳を向けられて、てっきり怒られると思ってたから、え、なんて間抜けな声を出してしまった。

 

 

……一心同体、か。

 

そんな風に言われると、なんだか変なことを想像してしまう、というわけではないが確かに。

 

ツバサとは長い付き合いだし、このまま一生過ごしても、彼女ほどの理解者はいないと自信を持って言える。

 

ツバサは俺の夢を理解してくれる。俺と夢を語って、誓い合って、同じ道を歩んでいる。

 

才能がなくても、努力や努力の仕方で夢をかなえて、人生を最高のものにしたいという道を。

 

すっかり先を越されてしまっているのだが、それは言わないお約束。

 

これで5年くらい老け込んでたらまだしも、まだ18なんだし。

 

俺たちは確かに、一心同体とか、同志とか相棒とか、そんな存在だ。

 

何より、まぁその、恋人……なんだし?

 

 

でもそれからしばらく、ツバサの機嫌が直ったようには見えなかった。怒ったのは、俺に対してだったのか?それとも他の何かに……?

 

そんな答えの出ない疑問は、時間と彼女の笑顔で薄れていくだけだった。

 

 

 

♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢

 

 

 

「さ、ここよ」

 

 

「次のデート場所って……ここ、家じゃん。民家」

 

 

「そう、私の家よ。……何か不満?」

 

 

不満はないけど。普通いいのか、それは。 

 

親はほとんど帰ってこないと聞いて、女子高生の一人暮らしかと不安に思うが、ドアの周りを見る限りセキュリティがしっかりしてるらしく安心した。しばらく会ってないおじさんおばさんも、娘が有名になって、その辺りは気を回してくれたのかもしれない。

 

とはいえ、殆ど一人暮らしだということを意識し始めると、今度は違う意味でやっぱり落ち着かない。女性の一人暮らし部屋に男を連れ込む意味が分からない18歳ではない。

 

……悪かったな!俺はそんな女の子の部屋にはいる男じゃないんだよ!!ヘタレとかいうなって!!紳士だ紳士。

 

 

「や、やっぱりダメだ!うら若き乙女が男を部屋に連れ込むなんて!」

 

 

「何言ってるの……。中学生の頃は、よく一緒に部屋でゲームしてたじゃない」

 

 

……そう言われると、確かにその通りなのだが。

 

しかし年齢も立場もすっかり変わってしまったのだ。

 

俺もツバサも三年生だし、何より恋人だ。変わる部分は変わったといえる。

 

 

あの頃やってたゲーム、まだあるのかなぁ……。

 

俺たち同士だけは勝ち負けがつくのが嫌で、協力プレイばっかりしてたっけ。

 

懐かしいなぁ……とまたも呆けていると、ツバサが布団を押入れにいれるように強引に、家の中に押し込んでくる。

 

 

「つべこべ言わない!どりゃああ!」

 

 

「うぇッ!?」

 

 

普通セリフが逆じゃないか!?男女のさ。

 

 

何か致命的な領域に踏み込んでしまったような、しかし戻れないまま、戻ることなど考えないまま、ツバサの言葉の通り、一軒家に足を踏み入れる。

 

 

……とはいえ、その辺の男なんかより頼もしいツバサだしなぁ。抵抗するだけ無駄か。というのを口に出すと、また怒られそうだ。どうせ結果は同じだし、ツバサが強引なのは今に始まったことじゃない。

 

 

 

そこからはもうあれよあれよという間にソファに座らされてしまった。

 

いつの間にやら、ツバサは変装を解いている。

 

自宅に帰って気が抜けたのか、ツバサはやけに薄着に着替えて、ぼすっと音を立ててソファの俺の隣の場所を陣取った。

 

 

 

……うん、いつものツバサだ。

 

やっぱりこの方がしっくりくるよな。

 

前髪とおでこがキュートだ。

 

これも本人に言ったら怒られそうなので言わないが。あのおでこにキスしてみたいとか思ってしまうことがある。(※本当に言ったら赤面しながら全力で肩を拘束されてギブミーと催促されます)

 

 

……そして、必死に気にしないふりをしているが、ついその曝け出された手足に視線を送ってしまっている自分がいる。

 

おでこだけじゃなく、ふとももや二の腕も本当に綺麗だと、改めてよこしまな考えを抱いてしまう。

 

とはいえ、彼女の魅力で一番変わったところは、身体というよりも、やはりその自信にあふれた振る舞い方だ。

 

そこが、俺との一番の違い。

 

だが俺は、プライドをつかむために、失敗してプライドを掴めない悪循環になっている。

 

正直に言って、ツバサがうらやましい。

 

俺も、こんな振る舞いができる男になりたい。

 

彼女に相応しい男でありたいと、思う。

 

 

ずっと眺めていたい気持ちもあるが、ツバサは微笑むと、すぐに席を立った。

 

 

「ちょっと待ってて、今飲み物取ってくるから」

 

 

 

「いや、ツバサ。落ち着かない。女の子の部屋なんて。μ'sの皆の時でも緊張したのに。特に穂乃果の——————……」

 

 

その言葉に、笑顔のまま、ツバサの眉間にしわが寄ったのを、俺は見逃さなかった。

 

 

——————また、やってしまった。

 

ここでようやく、さっきツバサが怒っていた理由にも気づいた。

 

ただでさえ独占欲が強いうえに、μ'sに対抗心を抱いているツバサだ。

 

デートの最中に他の女性達の名前を出すだけでも本来、よくないはずなのに。

 

俺は何処までバカなのか。ツバサの目は、真っ直ぐこちらを射抜いている。

 

だが、それは一瞬。

 

すぐに何も気にしていないように装って、キッチンのほうに向かっていった。

 

 

 

 

……俺の中にまだ、μ'sへの、穂乃果への未練があるのか。

 

 

何を疑問形になってるのか。間違いない。

 

俺はμ'sの皆を嫌いになったわけじゃない!

 

嫌いになんてなれるわけがない!!

 

 

むしろ俺は……穂乃果のことは……!!

 

でも、そのことをこれ以上考えると、ツバサへの裏切りになってしまう。

 

どんな言葉を重ねても、実際に、μ'sの皆を裏切ってしまった俺に、いまさら何の資格があるのだろう?

 

俺はツバサを、裏切れない。

 

 

俺はいつも間違ってばかりだ。だから夢もかなえられないままなのに。

 

 

またしても自己嫌悪に陥っていると、ツバサはさっきよりも近く、隣に座ってその身体を寄せてきた。

 

 

肌と俺の衣服が擦れて、少しビクッとしてしまう。

 

 

「何今更恥ずかしがってるの? ……ハイ、貴方のぶん」

 

 

「ありがとう、ツバサ」

 

 

まるで何も気にしていない、という風にツバサは飲み物を置いてくれる。

 

……やっぱり、このやさしさが、心地良い。

 

にしても、この飲み物なんなんだ?不思議な香りというか、少なくとも人生で飲んだことはなさそうだが。

 

 

「ちょっと変わった香りの飲み物なんだな」

 

 

「ええ。あんじゅから貰ったの。私も詳しくないけど、外国の結構高いヤツらしいわ。せっかくだし、美味しくいただきましょ?」

 

 

「そんな高いもの、飲んじゃっていいのかな……。まあお酒じゃないならいいか」

 

 

あんじゅさんから貰ったものか。

 

 

あの人も割と不思議な人だし、UTXともなればそういう外国とのつながりもありそうだから、変なことはないだろう。

 

俺は考えるのはそこまでにして、飲み物を口に含む。

 

 

今日はいろいろあって、ちょっと精神がやられてたから。

 

罪悪感と幸福感がごちゃまぜになって、疲れていたからなのだろうか、その身体にはどうしようもなく、この飲み物が甘く、あまりにも甘すぎるように感じられた。

 

 

「……? やっぱりおいしいけど、ちょっと変わった味だな」

 

 

 

ツバサはやけにニコニコしている。なんだか、いたずらに成功した子供みたいだ。

 

その笑顔にふと思い出されるのは、中学生の頃。

 

ツバサがびっくり箱を作って持ってきて、俺がまんまと引っかかってしまった時のようだ。

 

 

……あの頃より、すごくきれいになったと、何度見返しても思う。

 

この飲み物の香りと、肌をさらけ出して至近距離で見つめあうシチュエーションがそうさせたのか、なんだか異常にドキドキしてきた。

 

 

彼女は飲み物を上品に一気に飲む。と、肩をつかまれて、ソファの背に押し付けられて、思いっきりキスされた。

 

 

その一瞬は、俺には永遠のように感じられた。

 

——————キスは初めてではない、が。ツバサの香りと、柔らかくてみずみずしい唇の感触は、まだ慣れない。

 

キスされるたびに、頭がとろけそうになって、何も考えられなくなってしまう。

 

……それも不意打ちなんだから、心臓に悪い。

 

寿命が縮むのと伸びるのをいっぺんに体感したような気分になって、心臓がバクバクとうるさいくらいに音を立てているのだが、ツバサはそんな俺にも遠慮なしに、その唇から言葉をたたみかけてくる。

 

 

「貴方の夢は私がかなえてあげる。貴方の夢がかなうまで守ってあげる」

 

「どんなに離れても、私たちは心で繋がってるの。お互いの存在を想って、頑張れる」

 

「だから、もう何にも悩まないで?」

 

そういって、返答を待たずにもう一度キスされた。

 

今度は舌が入ってきて、舌と舌が絡み合って、またすぐに離れる。

 

 

—————ツバサに求められている。

 

こんな魅力的な、女の子に。

 

スクールアイドルの頂点に立てた、あの女王が。

 

俺の幼馴染で、初めての、おそらく最後の恋人で、最高の相棒で。

 

そんな娘に求められて。

 

今、キスをしている幸せが信じられなくて……まるで、夢を見ているようだ。

 

ツバサと恋仲になるのを、中学生の頃全く想像しなかったわけじゃない。

 

でも、こんなに綺麗になったツバサと、現実にそうなってしまうなんて—————……

 

 

 

この状況が現実離れしていることに、今さら思考が至りかけたが。

 

あまりの気持ちよさにすぐに何も考えられなくなってしまった。

 

 

うつろな状態で、俺はツバサの耳元のささやきをただ聞き続ける。

 

 

「私の言うとおりにしていれば、なんとかなるわ」

 

 

ツバサの言う、通りに?

 

 

「あの子たちとの1年もない付き合いなんかじゃない。幼馴染の私の、恋人の言うことを聞いて?」

 

 

ツバサの言うことを聞くのは当たり前だけど……

 

 

「あの娘達のことは気にしなくていいわ。貴方がいなくても大丈夫よ」

 

 

そうなのかな、泣いている、穂乃果の顔が浮かんで————

 

 

「でも私は、もうあなたがいないとダメなの。だから、一緒にいて。私だけと」

 

 

妖艶な笑顔のツバサに顔を両手で抑えられて、また唇を深く奪われたような、感覚。

 

 

俺は虚ろな瞳のまま頷いてしまう。

 

 

大切な彼女の言葉が、俺の心の底に、何処までも沈んでゆく。

 

 

その奥の底の底が、ツバサの色に染まっていく気さえした。

 

 

そうだ。

 

ツバサは俺の彼女で、幼馴染で、一番頼りになる相談相手だ。

 

 

彼女が嘘を言うはずがない。

 

誰がなんと言おうと、俺は。

 

恋人の俺だけはツバサを信じないと。

 

彼女が言うのなら、きっと正しい。

 

 

もう昔とは違う。

 

中学生の頃別れてから、3年間。一人で夢を追いかけて、敗北して。

 

一人で負けて、一人で泣いていた時とは違う。

 

今はもう、俺の側にツバサがいてくれる。

 

ツバサも、俺がいたからあれから前に進み決意ができた。

 

鏡で見たもうひとりの自分……ではないが、俺たちは俺たち同士でしか、その存在を確かめあえ無いのかもしれない。 

 

……μ'sのみんなは、俺がいなくても大丈夫だけど、俺は、ツバサとしか……。

 

 

俺が彼女を支えないと。

 

ツバサの傍にいてあげないと……。

 

 

ごめん、

 

穂乃果……。

 

 

 

彼女は俺の膝の上に座ると、身体を摺り寄せて、妖艶で最高の笑顔を向けてくれた。

 

「さあ、今晩は二人で、Shocking Partyと行きましょ♡」

 

 

 

ああ、ツバサがμ'sのみんなが大丈夫だと言うのなら、大丈夫なのだろう。

 

だから今は、ただ奥底から湧き上がるこの愛おしさと。

 

 

俺に重なってきた、幼馴染にただ、身を任せよう。

 

 

10分もたたないうちに、俺の記憶は途切れていた。

 

憶えているのは、お互いに初めてだったのに、拙いのは俺だけだったことと、才能がないと言う割に、彼女はその方面では魔性の天性を発揮したことと。

 

まるで巨大な蛇に呑み込まれる小動物のように、身も心も喰らい尽くされてしまったような、しかし痛みではなく、むしろ温かく抱擁されたような感覚だけ。

 

 

 

その日、俺たちは繋がった。

 

きっと、この世の誰よりも深く……。

 

 




H31.3.31 加筆修正しました。合法なので安心してください。

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