『穂乃果の手作りおはぎ、絶対食べに来てね!放課後、待ってるから!』
今思えば、その時から彼に惹かれていたんだと思う。
男の人がちょっと苦手だった海未ちゃんも、同世代の男子に興味津々のことりちゃんも、だんだん彼に惹かれていって、私たちは一緒に過ごすようになった。
生真面目な彼も、いつの間にか呼び方は下の名前になって。私たちもしゅー君、修也、しゅーくんって呼ぶようになったのは……廃校の紙が貼られるちょっと前だったっけ。
でもそんな日々も、突然変化が訪れたんだよね。私たちが、スクールアイドルを始めたから……。
UTXのモニターで、輝くスクールアイドルを。A-RISEを見た瞬間!
この時、私の中で最高のアイデアが閃いた!
これだ、見つけた!!
スクールアイドルなら、廃校なんてなくせるんじゃないかって!
一刻も早くこのアイデアを聞いてもらいたい気持ちで、私は一番にしゅー君達のところに駆けていった。
「みんな~!みてみてみて~!!」
「どうしたの穂乃果ちゃん」
「アイドルだよアイドル~!」
そんな突拍子のない提案にも、彼はしっかりと聞いてくれて。
「いいんじゃないか、スクールアイドルっていうのも。俺も最近勉強しなきゃって思っててさ。……え? あ、ああ。『男友達の間でも流行ってるから』さあ……」
そう言ってくれたのが、本当に嬉しくて。
周りにいろんなことも言われたけど……
「アイドルはなしです!」
「お前らが、アイドル……?」
「あと2年間。自分の為に何をするべきか、よく考えるべきよ」
それでも私は学校の為に何かしたい、諦めきれない!
私、やっぱりやる!やるったらやる!!
ってときも……
「穂乃果がやるなら、俺は応援する。何か手伝わせてくれ!」
って言ってくれたよね。覚えてる、忘れるわけないよ。
初LIVEの時だって……
「一生懸命頑張って、私たちがとにかく頑張って、届けたい!」
「今、私たちがここにいる、この思いを!」
「いつか、いつか私たち、必ず、ここを満員にしてみせます!」
絵里ちゃんにそう言った私を、しゅー君は全力で守ってくれた。
「それが、穂乃果の夢なんだな」
「なら俺は、応援する。穂乃果の本気に応える!」
「夢がかなわないなんて、辛すぎるもんな」
「穂乃果。俺をマネージャーにしてくれ!」
淡い恋の気持ちから、本気で男の人として大好きになっちゃったのは、あの時だったんじゃないかな。
♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢
「修也はね、貴方たちと一緒にスクールアイドルをする中で、『ずっと』つらい想いをしてきたの」
「彼の夢は私が一緒にかなえてあげる。貴方たちは彼の目標でいてくれればいいわ」
「貴方たちの眩しすぎる輝きで、これ以上、修也の心を傷つけないで」
———————私はあの人との話が終わって、先に家に帰って、晴れ着も脱いで。
ただベッドに力なく寝転んでいた。
泣き疲れて、もう涙も出ない。
彼がどれだけ辛い思いをしながら、私たちを助けてくれてたのか。
どんな思いで、私の告白を断ったのか。
それがわかってしまって……。
私にスクールアイドルを始めるきっかけを作ったあの人に、奪われて。
「しゅー君、私、どうしたらいいのかわからなくなっちゃったよ……」
本当につらいだけだったのかな。
あの人の言う通り、私はもう、しゅー君に近づかない方がいいのかな……。
そう考えていると、家のドアが開いて、階段を上る音が聞こえてくる。
毎日聞いている軽い足音は部屋の前で止まると、中に入ってきた。
「お姉ちゃん……?やっぱり、帰ってたんだね」
「雪穂……」
想像通り、足音の正体は雪穂だった。
晴れ着のままだし、亜里沙ちゃんと初詣に行って、ついさっき帰ってきたみたい。
「お帰り。おみくじどうだった?」
「う、うん。大吉だったんだけど……」
「良かった。きっと、音ノ木坂も受かってるよ……」
そう力なく語る私を心配そうに見つめる雪穂。
ごめんね、今ちょっと、辛くて。こんな風にしか返せないの。
でもそんな私に、雪穂は思わぬ言葉を口にした。
「お姉ちゃん。あのね……。修也さんに、会ったの」
———————しゅー君に?
その言葉で、思わず私は起き上がって、雪穂に詰め寄る。
「しゅー君は、しゅー君はなにか言ってたの!? どこで、誰と!?」
「お、お姉ちゃん、怖いよ……!」
そう言われて、思わずいつの間にかつかんでいた雪穂の肩を離す。
—————そんなに、怖い顔をしてたのかな。
ごめん、と謝って続きを促すと、雪穂は恐る恐るだけど話してくれた。
「あのね……修也さん、お姉ちゃん達のこと嫌いになったわけじゃないって。むしろ『大好きだった』って。伝えてくれって、言われたの」
「大好きって、私のことを、しゅー君が……?」
「お姉ちゃんだけじゃない、μ'sの皆さんだって、って……」
私のことを、私たちのことを、大好きだった……?
「……本当に?」
「うん。メッセージに返信してないのも、どう向き合ったらいいのかわからないからだって、言ってたの。μ'sのみんなのことは大好きだって。でも迷惑になりたくないから、お姉ちゃん達の『大切な人って立場』に甘えたくないからだって」
じゃあ、あの人が言ってたことは……
『ウソだよ。真っ赤なウソ……初めから穂乃果をだまそうとしてたんだ』
—————また、声が聞こえてきた。
「でも、あの人はしゅー君が『ずっと』つらかったって……」
『それがウソなんだよ。しゅー君が辛かったのは本当かもしれない。でも辛くても、告白の時の言葉を思い出して』
「おねえ、ちゃん……?」
思い出したくないけど、その声に従って思い出してしまう。
泣いていたしゅー君の、あの慟哭。
『……穂乃果の告白、嬉しかった。本当に。心の底から。断りたくなんてない。みんなと、穂乃果と一緒にいたい……!μ’sのみんなが大好きなんだから』
「しゅー君が辛かったのは、つい最近だけ……?」
「ど、どうかしたの? 誰と喋ってるの……?」
雪穂が怪訝な顔をして見つめている。
まるで私が独り言を続けているみたいに。
『そうだよ。よく思い出してみて。しゅー君の笑顔を。ずっと一緒に頑張ってきた日々を。その笑顔が、本当に私たちを嫌がっている笑顔だった?』
「そんなことはない、と思うけど————————」
『この前のラブライブの予選の時からでしょ?それまでは、本当に私たちのことを大好きでいてくれたんだよ』
「—————————それなら」
『しゅー君が自分の夢を思い出してから、私たちに追いつこうとしたのは本当だと思う。海外ライブが決まったなら、なおさらそうだって……』
『でもマネージャーを辞めるとか、あんな風に告白を断られたりとかは、きっとあの人が何か言ったからだよ。あの人が。あの人がウソを吹き込んだに決まってる……!』
「……………あの人って、誰?」
『もうわかってるんでしょ? 最終予選の夜、私たちが見てない隙にしゅー君を奪った女……』
「『綺羅、ツバサ………!!!』」
——————やっと、気づいた。
告白を断られたあの日から、ずっと私の中で響いていた声。
聞き覚えがあったけど、誰だか分らなかったその声の正体。
『やっときづいたんだね、自分の本当の気持ちに』
……それは、私自身の声。
ずっと押し込めていた、私の本心からの、声。
それがわかると、なんだか悩んでた自分が可笑しくて、スッキリして、思わず笑いだしてしまった。
最初から答えは出てたんだね。
「あはははははははははははははははっ!!」
でも、その笑い声は歪なものではなく、むしろひどく綺麗な声だった。
突然大声で笑いだした私を見て、雪穂が怖がっている。
大丈夫、心配ないよ雪穂。
急に元気になったのは、『全部わかったから』なんだから。
むしろこれまでよりずっと、頭がクリアになったような気分……。
そうだったんだ。
しゅー君は私のことが大好きだったんだ。
じゃあ、両想いだったんだね。
でもあの人が……。
あの人が、しゅー君に何か吹き込んだんだね……!!
私たちは結ばれるはずだったのに。
私たちの絆なら、しゅー君の悩みだって、いつか受け止められたのに。
きっと話してくれたのに。
一緒に夢をかなえられたのに。
あの人が都合のいいことを言って、しゅー君を騙したんだ。
私から、私達から、彼を奪ったんだ!!!
何が『私たちだけでも』なの!?
そんなの知らないよ!
『今ここにいる私たち』は、しゅー君と一緒に、ここまできたのに!!
しゅー君にもきっとそんな事を吹き込んで、自信を奪ったんだ。
しゅー君を、自分だけのものするために……!
なら……
やることは、決まったよね?
「お、お姉ちゃん……どこ行くの?」
突然着替えて部屋を出ていこうとする私に、雪穂が恐る恐る声をかけてくる。
心配してくれてありがとう。でも大丈夫だよ。
これから私がやることは、本当に「当たり前」のこと。
愛し合う2人がすることは、一つだよね……♡
「決まってるじゃん、しゅー君のところだよ♡」
そう語る私は、人生でも最高級の笑顔をしていたと思う。
大きな壁を壊して、進んでいけるんだから。
だって、『可能性』を感じたんだから……♡
忙しいしゅー君の『お義母さん』から、いざというときに一人暮らし同然のしゅー君のお世話をしてほしいって預かっていた、お家の鍵。
お義母さんからは、『これを伝えるとプライバシー侵害だって怒り出すから』って理由で、秘密で貸してもらったもの。
それを宝物箱から取り出して、私は夕焼けに照らされながら走り出していた。