ラブライブ!〜ヤンデレファンミーティング〜   作:べーた

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朝からこんなヤンデレを書く私も読む貴方もおかしい(※誉め言葉)


第12話 逆らえない要求

雪穂と別れてからの俺は、コンビニで飯を買った後もしばらく家に帰らなかった。

 

秋葉にいると、みんなに会ってしまいそうだったのと、家に帰ってもどうせ誰もいないからだ。

 

しかし正月に何かしらの店がそうそう開いているわけもなく、開いていても家族連れでごった返している。

 

結局俺は数時間ほどしてからおとなしく家に帰ってきた。いつも通りカギを開けて、中に入る。

 

そう、()()()()()……。

 

 

……目の錯覚だろうか。

 

知らない靴がある。

 

とはいえ、空き巣とかではない。どう見ても女の子向けの運動靴のようだ。

 

親父でもおふくろでもない。少なくとも、大人向けなヤツではない。

 

……いや、待て。この靴には見覚えがある。

 

これは確か————————……

 

 

そこまで考えたところで、奥からパタパタとスリッパの鳴る音がした。

 

思わず身構えるが、出てきたのは意外な人物。

 

 

「あっ!しゅー君おかえり♪晩御飯もうすぐだよ♡」

 

「ほ、穂乃果……??」

 

私服にエプロンを着て、おたまを片手に持ってにっこりと微笑む、穂乃果の姿があった。

 

 

 

♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢

 

 

 

……あれから数分。

 

穂乃果は怖いくらい上機嫌でうちのキッチンで料理している。

 

まるでここ数日のことなど、全くなかったかのように。

 

それどころか、これまでの関係……いや、なんだか「これまで以上の関係」に進んだかのような近い距離感。

 

「しゅー君は座ってて♪」なんて有無を言わさない笑顔で押し切られ、何故ここにいるのか問うことすらできなかった。

 

エプロンも似合ってるし、料理の美味しそうな香りも漂ってくる。

 

……いわば、違和感がないことが違和感。

 

明らかにおかしいはずの状況なのに、穂乃果はこれが『当たり前』のことのようにふるまっている。

 

考えてもキリがないが、時間は止まってくれるわけじゃない。どうしたらいいか悩んでいるうちに、どうやら料理が出来上がったらしい。

 

 

「はい♪今晩はハンバーグだよ。お正月っぽくはないし、手作りと言えばカレーだけど、穂乃果の愛情がたーっぷり詰まってるから、美味しく食べてほしいな……♡」

 

皿をテーブルに置いていく姿があまりにも自然だが、まるで語尾に♡でもついていそうなくらい甘えた声と、本当に幸せそうなその笑顔は、逆に俺に恐怖心を抱かせるほどだった。

 

何故。

 

何故穂乃果は俺の家にいるのだろう。

 

しかも、あんなことがあったばかりなのに、こうして料理まで作っている。

 

……まるで、新婚夫婦みたいに。

 

「なあ、穂乃果。これは——————」

 

流石に違和感が拭えなくて、思わず問いかけるが、穂乃果はいつも以上の笑顔で強引に俺を座らせた。

 

「ほらほらっ。早く食べないと冷めちゃうよ?穂乃果の手作り、召し上がれ、なーんて♪」

 

……ダメだ。全く話が通じない。今の穂乃果は明らかにおかしい。

 

どうも、ハンバーグ自体には特に何の変哲もないようだけど。

 

帰ってきたときに弁当は『またコンビニ弁当食べてる!栄養が偏っちゃうよ!』と言われて、冷蔵庫に突っ込まれてしまったし、お腹がすいているのは確かだ。

 

我ながら打算的だとは思うが、とりあえず穂乃果の料理を食べながら、話を聞くことにした。

 

こんな時でもいただきます、と言ってしまうのは褒められたことなのだろうか?

 

穂乃果はエプロン姿のまま、頬杖をついてニコニコしながら此方をじっと見つめている。

 

「……美味しい」

 

それは、偽らざる感想ではある。

 

以前調理実習で一緒になった時もあったが、穂乃果は実は料理が上手い。和菓子屋の娘ということや、曲がりなりにも接客業だった影響があるのかはわからないけど。

 

「本当に!? エヘヘ……うれしいなぁ、しゅー君に手料理美味しいって言ってもらえるなんて♡ 目指せお料理上手!だね」

 

穂乃果は手を頬にやったまま、恍惚とした表情を浮かべている。

 

……ゾッとするくらい魅力的な笑顔だ。普段ステージに立つみんなの笑顔とは、真逆の意味で綺麗な。

 

否が応にも『女』を意識させられるような、男を誘うような笑顔。

 

昨日のツバサと、同じ表情……。

 

「あっそうだ!せっかくだから穂乃果が食べさせてあげるね♪」

 

そう言って穂乃果は箸をもう一膳手に取ると、ふわふわのハンバーグを少し切った。

 

「はい、あーん……♡」

 

美しく、しかし光のない瞳で、本当に心の底から嬉しそうな笑顔のまま料理を口に運んでくる。

 

俺はその圧に逆らえず、口を開いてしまった。

 

すかさず、しかし喉を突かない程度に穂乃果の箸が口に運ばれる。

 

……間違いなく幸せな光景のはずなのに。俺はまるでがんじがらめに縛りつけられているような感覚だった。

 

 

「こうやって食べてもらえると、新婚さんみたいじゃない?えへへ……///」

 

 

一口一口、運ぶたびに穂乃果はこれまで見たことがないほどに幸せそうな表情を浮かべる。

 

一通り食べ終わって、皿洗いをし始めようと背を向けたとき、俺はようやく立ち上がって、今さら声を上げられた。

 

 

「穂乃果!この際、鍵については聞かない……。なんで、俺の家にいるんだ」

 

 

だが、皿洗いをしたまま、顔だけこちらに向ける穂乃果から帰ってきた答えは、あまりにも意外なものだった。

 

 

「え?『彼女』が彼氏のお家にいることが、何か変かな?」

 

 

———————その表情は、「本当に何が変なのか分からない」というものだった。

 

それが精巧な演技なのか、本当に本心なのかは、判断がつかない。

 

もしかして、雪穂に伝えてくれと言った言葉が何かとんでもない誤解を招いてしまったんじゃないか。

 

だがそれにしても、それだけだとしたら明らかに変だ。

 

とにかく問いたださなきゃ————————

 

 

「穂乃果、ごめん。俺は穂乃果とは付き合えない。俺にはツバサが……」

 

()()()()()。ツバサさんから聞いたから」

 

「!? だったら—————」

 

 

———————無理だった。その時の穂乃果の表情は、憎悪に染まっていた。

 

こんな穂乃果、見たことない……!

 

「綺羅、ツバサさん……。しゅー君を私から奪った人だよね。しゅー君だって本当は私のことが好きなのに。私たちは両想いなのに、幼馴染だとか言って間に割り込んで、邪魔ばっかりする人……」

 

 

底冷えのする声と表情。さっきまでの幸せそうな姿が、普段の太陽のような明るさがウソのようだ。皿洗いを終えたのか、水を止めてタオルで手を拭き、此方に正対する。

 

「しゅー君も大変だよね。あんな人に付きまとわれて。本当は迷惑してるんだよね?」

 

穂乃果が、一歩踏み出す。

 

思わず俺は、一歩下がる。

 

「そ、そんなこと……」

 

「可哀想に、しゅー君。色々と変なこと言われたんでしょ?私達にしゅー君は必要ない、とか。私たちの側にいるのは甘えだ、とかさ。それに私たちを引き裂こうと、『あんな嘘』までついて……!!」

 

穂乃果の歩みは止まらない。心底口惜しそうな歯ぎしりがこちらにまで聞こえた。

 

俺の家だというのに、じりじりと追い詰められて下がっていく。

 

「私はね、しゅー君のことがこの世の誰よりも好きなの。それこそあの女(ひと)なんかよりも。私の方がしゅー君を幸せにできる。『夢』の話も聞いたよ? だからもう大丈夫。あの人じゃなく、私と一緒に頑張ろうよ」

 

「ッ、ツバサは——————」

 

「また私の前で、あの人の名前を呼ぶのっ!?」

 

穂乃果が激昂するのと、俺が完全に壁に追い詰められるのは、ほぼ同時だった。

 

俺は完全に穂乃果の放つオーラに呑みこまれている。

 

それを知ってか知らずか、彼女は壁に背を突いた俺をさらに押し付けるように、思いっきり抱きしめてきた。

 

「ああ、しゅー君の匂い、温もり……最高だよぉ……」

 

胸に顔を擦り付けて、すんすんと息を吸っている。一瞬子犬のようなかわいらしさを感じるが、すぐに間違いだと思い知らされた。

 

「この温もりを、あの人は奪おうとしたんだよね……!!」

 

俺の体を抱きしめる腕に、さらに力がこもる。

 

その瞳は憎悪の昏い色合いに染まっていた。

 

どうする?どうすればいい?

 

何が穂乃果をこうさせたのかはわからない。自分のことを本当に俺の彼女だと思っている。ツバサが何か、話したのか?いったい何を?

 

だが穂乃果は、俺に考える時間を与えてはくれなかった。

 

 

「ねぇ、しゅー君。穂乃果、一つお願いがあるの……♡」

 

 

その昏い瞳と、恐ろしい笑みを俺に向けて。

 

 

「穂乃果を、しゅー君だけのものにして欲しいんだ……♡」

 

 

エプロンを解いて、胸元のボタンを外す。

 

 

「彼女だもん。両想いだもん。……して、くれるよね♡」

 

 

 

 


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