ラブライブ!〜ヤンデレファンミーティング〜   作:べーた

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Ⅱ:ニューヨークの日々
第14話 旅立ちの朝


———————その日は、夢を見た。

 

 

 

小さな女の子が走っている。

 

それを心配そうに見つめている、同い年くらいと思われる二人の女の子。

 

夕焼けの映える、雨上がりの公園だ。

 

どうやら、水たまりを飛び越えようとしているらしい。

 

何度も何度も走り幅跳びを繰り返している。

 

そして、失敗した。少女の衣服が泥で汚れていく。きっと帰ったら、お母さんやお父さんに怒られるのだろう。

 

 

……オレンジ色の髪のこの娘を、何処かで見た気がする。

 

いや、俺はこの光景そのものを見たことがある? それも誰かと一緒に?

 

『どうせ無理なのに、なんであんなに頑張るのかな……?』

 

聞きなれたようなそんな声がした、気がした。だけど夢のせいだろうか、記憶が朧げで思い出せない。

 

 

そんな俺と2人の少女……と、隣の人(?)の心配をよそに、女の子は何度も水たまりに突っ込む。

 

原因はわかってる。誰の目にも明らかで、シンプルなコト。ジャンプ力が足りないんだ。あの大きさの水たまりとなると、あの年の女の子の力で飛び越えるのはかなり難しい。

 

飛びたい、という願いだけでは……届かない。

 

 

「む~っ!なんでなんで!?なんで跳べないの~っ!?」

 

「—————ちゃん、むりだよ。もう帰ろうよ……?」

 

「だいじょうぶ!次こそできるよ!」

 

 

そう言って、また女の子は駆けだした。

 

どうして諦めないんだろう?君は飛べるって、信じてるのか?自分のことを信じられるのか?俺にはない、自分を信じる強さを持っているのか……?

 

 

じゃあ、自分にすら信じてもらえない俺は、いつになったら。いつになったら飛べるんだろう?

 

いつまで。

 

いつまで耐えれば……。

 

ケガで動きづらくなった左腕を見つめて、ついネガティヴに考えてしまう。あれだけリハビリしても、満足な動きには戻っていない左腕を。

 

あの日、車に轢かれてから……。

 

でもそんな立ち尽くす俺に、後ろから声をかける人がいた。

 

 

「君なら大丈夫」

 

 

慌てて振り向く。

 

こんな変な夢の中で、誰かに話しかけられるだなんて。さっき隣にいたかもしれない人とは、明らかに別人。こんな大人っぽい声の知り合いはいない。

 

いつの間にか女の子が水たまりを飛び越えようとした公園から、セピア色の花畑のような風景に変わっていた。

 

 

……大人の、女性だ。

 

長髪で、なんだか———————に似た雰囲気の女性。

 

何処かで見た気もするし、初めて会った気もする、不思議な感覚……。

 

 

「飛べるよ、君なら。少しづつの道のりでも……諦めなかったら絶対、飛べる」

 

 

この人は、俺のことを知っているんだろうか?

 

夢だからか、手足も動かせないし、声も出せない。

 

だから怪訝な表情を返すことくらいしかできないのだが、この女性は「それでいいよ」というかのように微笑んでいる。

 

 

「焦らなくていいの。『たまにはゆっくり、貴方のペースで』……ね?」

 

 

 

それっきり、女性の姿は見えなくなって。

 

視界が真っ白になっていく。

 

 

 

—————————————ああ、これは。

 

夢が覚める感覚だ。

 

 

 

♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢

 

 

 

……昨日は、なんだか変な夢を見た気がするな。

 

誰かに会った気もするけど、所詮は夢だからよく思い出せない。最近、色々ありすぎてちょっと疲れているのだろうか?

 

いつもの銘柄の缶コーヒーを飲みながら、周りを見渡す。

 

ここは空港。そして、今日はニューヨークへの出発当日。

 

約10日間の、向こうのTV局と連携してのスクールアイドルへの取材だ。ニューヨークでライブをさせてもらえることまで約束してもらっているという、至れり尽くせりのハッピーエアフライトツアー。

 

……マネージャーを辞めると言ったはずの俺がここにいる経緯を考えると、あまりハッピーではない気もしてくるけど。

 

「ことり、パスポートと飛行機のチケットは?」

 

「大丈夫♪ちゃ~んと持ってますっ! しゅーくんの分もね。はいっ!」

 

「あ、ああ。ありがとう、ことり。後ろの方の席か……」

 

 

少しだけぎこちないながらも、俺が戻ってきたことを素直に喜んでくれていることりと海未。この二人については、一緒に穂乃果に付き合わされてμ'sを始めた時からの付き合いということもあって、俺が穂乃果に何を言われたのかも感づいているのかもしれない。

 

確かに、みんなに受け入れてもらえて嬉しい気持ちはある。みんなとはあのまま別れたくなかったし、謝る機会は欲しかったのは事実だから……。

 

『本当にごめん!俺をもう一度……μ'sに入れてくれ!』

 

何日か前。穂乃果に連れられて、みんなの前で謝った。

 

みんなは逆に『悩んでることに気づかなくてごめんなさい』と謝ってくれたくらいだったから、場が荒れることはなかった。

 

でも、俺の穂乃果に対するぎこちない態度と、逆に異常に上機嫌な穂乃果を見て、『単に仲直りした』とか、『やっぱり穂乃果と付き合うことになった』なんて安直に考えたメンバーはいなかったとは思う。

 

それに、ツバサの『みんな俺のことが好きだった』という言葉も気になる……。

 

流石にそんなことは漫画でもなかなかありえないだろうし、自惚れてるみたいだったから、謝るときはもちろん黙っていたし、皆も特に話題にはしなかったけど。

 

もし、それが事実だとすれば……。

 

……いや、そうだとしても、μ'sのみんなより気持ちの整理がついていないのは俺の方だろう。

 

みんなにみっともなく嫉妬したままの気持ちで、ライブをまたサポートしなければならないんだから。やるからには全力だし、μ'sのことは大好きだ。それに関われるのは嬉しい。

 

でも、これは俺の精神的な問題や人間関係だけな話じゃない。俺に、μ'sの輝きやニューヨークの求めるレベルに応えるだけの演出ができるかの問題だ。

 

プレッシャーはかかるが、そういうチャレンジの機会そのものは、穂乃果とツバサの間に挟まれている俺にとって、新天地とともに救いになってくれる部分はあった。

 

 

ことりと海未がコンビニによっている間に一人、そういうことを考えていると、ガラス張りの下の空港のロータリーに真姫の後姿が見える。

 

どうやらあの高級車で送ってもらったようだ。……いい車乗ってるなぁ、流石に。

 

真姫のお父さんはお医者さんだもんな。俺と違っていい親父さんを持ってるよ。うん。

 

 

海外に行くことになり、真姫の病院で簡単に健康診断を受けたのが少しだけ前。こういうのは有料で時間もかかるイメージだったが、μ’sは今回特別にちょっと贔屓してもらったようだ。ご厚意で、俺も一緒に受けさせてもらったのだが。

 

「結果が出るのは急いでも明後日、出発の直前くらいね」

 

「ありがとう、真姫。しかし……結果がちょっと怖いな。もしかして何か病気とか、かかってるんじゃないかと思うと」

 

「大丈夫よ。『最近に変な薬でも飲んでない限り』、尿検査も貴方の歳で反応なんて出るわけないわ」

 

あそこまで厳密に血液検査とか尿検査しなくてもよかったとは思うんだが。普段ツンツンしてるくせに、実は誰よりも仲間想いで心配性な真姫らしい。

 

真姫がエレベーターで上がってくるまで、まだ珈琲でも飲んでいようと歩き出すと、にこの一家に見つかってしまった。元気な声で俺を呼んでいる。

 

こっちは真姫とはまた違って、一家で見送りに来てたのか。

 

心配してくれる家族はここにもいた。正直羨ましい。……俺、人をうらやんでばかりだな。

 

 

「あ!修也さんです!」

 

「えっ!?本当だ! ホラ、彼氏さん来たよ!」

 

「……まねーじゃー?」

 

「ちょ、彼氏って/// ……じゃなくて!あんたたち、いつも『外では禁止』って言ってるでしょ!」

 

この三人の妹弟は、相変わらず元気いっぱいだ。

 

……以前から知っていたことだが、にこに何を吹き込まれているのか、どうも俺のことを『にこのマネージャー兼恋人』として認識しているらしい。

 

上手く否定できなかったのもあるが、否定すればするほど『禁断の恋ですね!わかりますよマネージャーさん!』と余計に信じられてしまう始末だったので、訂正は諦めている。

 

確かにこういうスキャンダラスなネタというのは、否定すれば否定するほど怪しく見えるもんだけどさ、うん……。

 

「貴方が修也くんね。実際に会うのは初めてかしら。うちのにこがいつもお世話になっています」

 

と、少しボーッとしているとにこのママさんに声をかけられてしまった。慌てて挨拶を返す。

 

とても四児の母とは思えないほど若々しい。

 

にこと違って長身なところ(ぬゎんですって!?)を見るに、にこはここには見当たらない父親似なのかもしれない。昔、娘は父の方に似る、って聞いたことあるし。

 

「ああいえ、此方こそ……μ'sのマネージャーさせてもらってます、修也です。にこさんの笑顔にはいつも元気をもらってます……?」

 

いきなりの挨拶で疑問形みたいになってしまったけど、お世辞ではなく、本心から言ったのが効いたのだろうか?

 

にこは顔を赤くしてそっぽをむいているし、こころとここあは『ひゃー』という顔をしているし、にこママも嬉しそう半分、驚き半分という感じだ。

 

「……うん。合格!これならにこのことを任せられるわね。嫁にやるのもいいけど、婿入りも待ってるわ。これはもう婚約よね?じゃ、婚約記念に写真でも撮りましょうか!」

 

妹たちと同じような勘違いをしたまま、サムズアップしてカメラを取り出すママさん。……やっぱり、この人にも俺がにこの秘密の彼氏だと思われているようだ。

 

……いかん、また誤解を解く機会を失ってしまった。俺もにこのことは仲間として大切に思ってるけど、以前ならまだしも、今はツバサがいるし。

 

ただでさえ今俺はシャレにならない立場なので、なるべく変な噂には広まってほしくないんだけど……。

 

「はい、ではいきますよ、みんなでにこやかに!……って何恥ずかしがってるんですか! ほら、修也さんもやるんです」

 

『凛が寒いと言ったいつものアレ』を躊躇ってると、こころが冷たい目で見てくる。

 

いや、空港の国際線ターミナルのど真ん中で『アレ』をやるのは気が引けるんだが……。

 

……悩んでると、一家全員の視線が突き刺さってくる。にこ本人はまだしも、にこママの有無を言わさぬ気迫に押されると厳しい。

 

ええい、羞恥心はなしだ!

 

せーのっ!

 

 

「「「「「にっこにっこにー☆」」」」」

 

 

……このポーズ、ママさんの影響もありそうだな。

 

 

 

 

「はい、これ、お守りです!」 

 

「みなさんの分もありますよ~!希さんと神田明神で買ってきました!」

 

「今日は旅立ちには最高のカード!お守りもちゃんと10個分買っとるんよ!忘れずに受け取ってね~?」

 

雪穂に亜里沙、希が全員にお守りを配っている。

 

向こうでは凛がテンションMAXで花陽を引っ張っている。

 

絵里も今までと変わらないように接してくれるのはありがたい。

 

「はい、修也の分よ」

 

「ああ……ありがとう、絵里」

 

「御礼なら、貴方を信じて10個買ってきた希に言ってあげて?本当に心配してたんだから。……ところで、穂乃果は?」。

 

確かに、言われてみればここまで8人とその家族の姿は見たが、穂乃果だけが見当たらない。

 

……顔は合わせづらいが、会わないというわけにはいかない。

 

もし体調が悪いなら心配だし、寝坊なら起こしに行かないと。

 

時計を見ながらそわそわし始める俺に、海未が少しばつが悪そうに答える。

 

 

 

「いえ、もう到着していると————」

 

 

 

——————え?

 

到着って、ニューヨークに?

 

 

 

♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢

 

 

 

ニューヨークの冬は、寒い……。

 

何度か冬の北海道にも行ったことがあるが、湿気とかの差だろうか?また違った寒さを感じる。

 

もっと防寒着を持ってくれば良かったと愚痴りながら飛行機から降りると、もう穂乃果が待っていた。

 

「穂乃果!?」

 

俺が近づくと、穂乃果も喜色満面で抱き着いてきた。

 

……早すぎて反応できなかった。そして、女子高生とは思えないほど抱きしめる力が強すぎて振りほどけない。

 

コート越しだが、穂乃果の柔らかい体の感触が伝わって、ドキドキしてしまう。……それを必死にツバサの顔を思い浮かべて抑え込む。

 

一線を越えてしまった俺だけど、脅されたからなんて言い訳にはならない。これ以上、ツバサを裏切りたくない。

 

「しゅー君!ん~~~……♡ 久々のしゅー君の匂いだねっ!」

 

「久々って、半日くらいしか離れてないだろ?」

 

「久々は久々なの!しゅー君パワーを充電しないと穂乃果動けないもん!……ニューヨークも、我慢できなくて先に行っちゃったけど。しゅー君のことも我慢できないの!」

 

「俺のパワーってなんだよ……。でも、ワクワクが抑えきれなかった気持ちはわかるけどな」

 

機嫌を損ねると暴発しかねない危うさが、今の穂乃果には内包されてる。だからやんわりと穂乃果を引き離そうと格闘したが、一向に効果がないのであきらめて空を見上げた。向こうもそれをいいことに、ますます頰をすりつける。

 

「……俺とμ'sは来たんだな、日本さえ飛び越えて。このニューヨークに」

 

……μ'sは。穂乃果は。俺の演出は、海外に通用するんだろうか?

 

そして、ツバサと穂乃果との関係は、これからどうなってしまうんだろうか?

 

俺の夢も、かなうことはあるんだろうか……?

 

 

「きっと大丈夫。私たち、行くんだね。あの空へ!見たことのない世界へ!」

 

 

そう空を見上げながら語る穂乃果の、がっちりと俺を掴んで離さない腕に視線を落としながら、俺は考えていた。

 

 




ヤンデレ薄めですいません。

ここから中編である劇場版編のスタートになります。

改訂したときはほのVSツバに絞る予定でしたが、最後まで意外と尺があるのと、全員やってほしいという要望が多かったので、できる限りやることにしました。

無理だと判断したら、前編の時と同じく、話の順番や一部シナリオなど突然全改訂してしまうかもしれませんが、初の小説へのチャレンジ中ということで、どうかお許しください。

追記
主人公の生い立ちや、μ'sとの出会いや馴れ初め(?)等はじわじわやる予定です。
お待たせしてしまい申し訳ございません。
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