ラブライブ!〜ヤンデレファンミーティング〜   作:べーた

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第17.5話 離れ離れのふたり【綺羅ツバサ】

綺羅ツバサは、一人自宅のリビングでソファに腰かけ、思考する。

 

数日前に彼と一緒にいた場所で、彼のことを想いながら。

 

手に持った盗聴器を、握りしめながら。

 

 

————————時は、少し遡る。

 

 

 

 

「あら?貴方たち……」

 

 

あの日、私は初詣でμ'sと会った。

 

これは、本当に偶然。

 

本当は前の日の熱に浮かされたまま、修也を誘いたかったけど、私は家族の方の付き合いがあるから無理だった。

 

寝ている間の修也の鞄に仕込んだ盗聴器も、録音はしっかりと行われているが、修也がその鞄を持っているときにしか当然使用されることはない。

 

今は彼は鞄を持たずに外出しているのか、別の部屋にいるのか、聞こえない状態。いつでも携帯でチェックできるようにしてくれたあんじゅには感謝ね。

 

だから家族の初詣が終わっても録音に任せて、少し神田明神を歩いていたんだけど、そこから出会っちゃった。 

 

でも、これは好機。

 

さっきから私を睨んでる高坂穂乃果さん……。

 

貴方の光が、修也を傷つけるの。

 

まだ彼のことを諦めきれないのなら、私が諦めさせてあげるわ。

 

 

 

「話があるの」

 

 

 

♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢

 

 

 

「ごめんなさいね。でもどうしても『リーダー同士』、話したいことがあって」

 

 

そう言って、私たちは神田明神から離れたところのベンチに座った。

 

さっきのμ'sのの人たちは、いかにも『好きな人と付き合っている女性に向ける複雑な表情』をしていたけど、穂乃果さんだけは違った。 

 

瞳の奥に憎しみを押し込めた笑顔と低い声。

 

思わず少し怖いと思っちゃったくらい。 

 

「いえ、海未ちゃんもことりちゃんも『わかってる』と思いますから……」

 

……そう。μ'sの人たちは、ある程度事情を知っているということね。修也からも聞いていたけど、これで確定。こうして少しでも情報を集めることが、勝利の鍵になる。

 

「ラブライブ本選も近いわね……『練習頑張ってる?』」

 

「はい!本選で『も』『A-RISEのみなさんに恥ずかしくない』くらいのライブをしなきゃ、って頑張ってます」

 

「……そう。そうじゃなくちゃ困るわ」

 

……なかなか、言ってくれるじゃない。

 

私も大概だけど、彼女の言い方にも棘があるし、此方の出方を探ろうという挑発ともとれる。向こうもその気なら、無理する必要はないわね。何せ、修也の彼女は私だもの。さっさとケリをつけてしまいしょう。 

 

「……修也のことが、聞きたいんでしょ?」

 

「……はい。聞かせてください」

 

——————より一層、怖い目になったわね。

 

でもね、私だって仮にも一度はスクールアイドルの頂点に立った人間。才能じゃなく、必死の想いで。努力でここまで這いあがってきた。

 

ラブライブだけじゃなく、彼まで奪わせるわけにはいかない。今さら退く気はないわ。 

 

「私と彼は幼馴染なの。昔いじめられっ子だった私を彼が助けてくれたのが出会いでね」

 

……ふふ。

 

今、少し驚いたわね?どうやら、幼馴染だってことは知らなかったみたい。ちょっとだけど、優越感を覚えちゃうわ。

 

……まぁ、実家や産まれたところは違うんだけどね。お互い、恵まれた家庭とは言えなかったから、そこからはすぐに意気投合した。

 

「その時一緒に夢を誓い合ったの。私はトップアイドルに。彼は彼の夢を、ね。……でも、彼はちょっと事故でケガをしてね。私も詳しくは聞いてないんだけど、1年くらい学校にも通えなくて。リハビリとかは十分したらしいんだけど。それで夢を諦めそうになってたの」

 

ケガの詳しい内容や、夢の詳しい内容については伏せて話す。思ってたよりあまり修也から聞いていないみたいだし、無駄に情報を与える必要はないでしょうからね。

 

聞きたければ、自分で聞きなさい。そんな機会がこれからあれば、の話だけどね……? 

 

「つい数日前よ。私の悩みを彼が受け入れて、彼の悩みを私が受け止めて。私たちはとうとう結ばれたの。別に昨日今日の関係じゃないってことは、わかってほしいわね」

 

勝ち誇ったように言葉をぶつけてあげてるけど、さすがにμ'sの高坂穂乃果さんね。強い決意を秘めて、ショックを受けつつも少しでも修也のことを聞こうと思っている。 

 

——————————なら、少し話題を変えてみましょうか。

 

「……ここからは私が聞きたい話。彼がテスト生として音ノ木坂に行くことになってからは、貴方の方が詳しいと思うんだけど?」

 

貴方達のことを聞かせてもらおうじゃない。

 

少しは反撃したいんでしょう?

 

いいわ。私もカウンターを用意しているから。 

 

「……なんで貴方が仕切ってるかは知りませんけど。最初にしゅー君がテスト生で音ノ木坂に来たときは、貴方やしゅー君の言うことが本当なら、リハビリが終わったころです。なんだかとっても、寂しそうでした。それで放っておけなくて……声をかけて。お昼は毎日、お弁当を一緒で食べる仲になって。そこからだんだん、一緒にいるようになったんです」

 

……ふぅん、しばらく会えてなかったけど、やっぱりショックは受けてたみたいね。

 

「ちょうど同じころに、『学校が廃校になる』っていう知らせがあって。私がスクールアイドルをやろう、って言い出した時に、真っ先に応援してくれて、マネージャーにもなってくれて。何にもわからない私たちに、色々教えてくれたんです」

 

「……そう。彼は優しいものね。困ってるあなたたちが、自分と同じように大きな目標に躓いているのを見て、我慢できなかったんでしょう。私のことがあるから、スクールアイドルにはある程度知識はあったはずだし」

 

彼は運動にある程度知識がある。

 

中学の頃も、本人曰く、本来は体育会系ではないらしいのだけど、夢のためには体力も必要だって、あんまり運動神経のない体に鞭打って鍛えていたからね。 

 

一から体力づくりを教えるのには最高の教師でしょう。そこから、少しの間彼の思い出話をして。ふと、会話が途切れかけた。

 

……いえ、もう十分ね。そろそろ終わらせにかかりましょうか。

 

「……ところで、私が本当に今日話したかったのは、そんな優しい彼に……修也に『これ以上近づかないで』って言うことよ」

 

 

何を言っているかわからない、って顔してるわね?それでいいの。彼のことを『貴方たち』がこれ以上、知る必要はないのだから。彼はこれから、『私と』歩んでいくの。

 

「修也はね、貴方たちと一緒にスクールアイドルをする中で、『ずっと』つらい想いをしてきたの。……まあ、貴方たちには気を遣って言ってなかったかもしれないけどね」

 

だから、オーバーな言い方で揺さぶり続ける。

 

「貴方も知ってるだろうけど、修也は優しすぎるの。だからμ'sのことも、貴方のことも否定しきれないでいる。むしろ認めているからこそ、貴方たちに負けない男になろうとしているのよ」

 

そう、彼の決意を、夢を。本当の気持ちを分かってあげられるのは私なの。

 

1年も一緒にいて、気づかなかった貴方達じゃない。 

 

「それはわかってます!でもっ……!!」

 

「『貴方にそれを決められたくない』……かしら?でもね、私にはわかるのよ。最初に告白したのが私ではなくて。μ'sの誰かだったのなら。多分彼はその娘とつきあっていたでしょう」

 

穂乃果さんが息をのむ音が聞こえる。

 

……それは、私にとっても口に出したくない、苦い真実。

 

あまり認めたくはないけど、嫉妬という感情は、憧れや、相手の凄いところを見出すことの裏返し。

 

彼は、私に負けないくらい、μ'sの皆さんにも強く惹かれていた。

 

特に穂乃果さん、貴方にはね……。 

 

「……気づいたかしら?彼は大切な人からの好意を断れるような『立場』じゃないの。誰かの好意を受け入れずに済むほど、幸せな人生じゃなかったわ。私も彼も、夢そのものが目的じゃない。あくまでも『幸せになるため』に、夢を追ったのだから」

 

そう。

 

彼は幸せになれる道が目の前にできてしまったら、それに抗えない。私でもきっとそうだもの。そんなにいい人生じゃなかったから……。あ、修也以外の男に告白されてもつきあうって意味じゃなくて、楽な道に逃げちゃうかもってことよ?

 

強く嫉妬したり……だからこそ必死で努力して、強く夢とその成果を求めて、誰かに認めてもらいたいと思う程にはね。 

 

「だから、目の前に現れた幸せにはあらがえない。そんな彼が、それを捨ててまで、夢をかなえようと、夢をかなえた貴方たちに追いつこうとしているのよ。そんな彼の決意を無にしたくないのなら、おとなしく諦めなさい」

 

……穂乃果さんは、衝撃を受けたという表情で固まってしまっている。

 

ようやくわかったようね?

 

貴方達がスクールアイドルとして頂点に立つサクセスストーリーを、間近で見ることになった彼の気持ちが。何も知らない人には。幸せにこれまで生きてきた人には、コンプレックスの塊だと、情けないヤツだといわせておけばいい。

 

でも私は違う。

 

彼と同じ気持ちで、彼と同じように夢を持っている。

 

「彼の夢は私が一緒にかなえてあげる。貴方たちは彼の目標でいてくれればいいわ。大丈夫。貴方たちの実力なら修也なしでも勝てるわよ、ラブライブ。海外でのライブもね」

 

……ちょっと言いすぎちゃったかしら?

 

まぁ、『ずっと苦しんでいた』っていうのはオーバーだったけどね。

 

何にしても、これで仕上げよ。 

 

 

「貴方たちの眩しすぎる輝きで、これ以上、修也の心を傷つけないで」

 

 

そう言って私は、最高の笑顔でにっこりと笑いかけた。

 

 

 

♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢

 

 

 

——————それで終わると、思ってたのに。

 

修也が傷つくことはもうないと思ったのに。

 

つい、盗聴器を握る手に力がこもる。

 

彼はあの晩。

 

穂乃果さんに脅迫されて、彼女のことを—————……

 

 

思い返すも腹立たしい。完全に、やられた……。私がああいったことで、逆に何かスイッチを入れてしまったのだろうか?それとも、何か私の知らない原因があったの?どちらにせよ、彼の身体が、心が。穢されてしまったのは確かだ。

 

 

……高坂、穂乃果さん……!!

 

貴方という人は、どこまで私と彼のことを傷つける気なの……!?

 

 

 

♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢

 

 

 

「ツバサ。ごめん……俺、ニューヨークに行くことになった」

 

 

そう言って頭を下げる修也。

 

……貴方のそんな姿は、見たくないわ。

 

私にも、原因があるのだから。あまり自分を責めないで。

 

 

「……何も言わないで。いいのよ、本当に。行ってきて」

 

本当は彼と彼女の間に何があったのか、よく知っている。

 

よりによって、盗聴器を取り付けた鞄を置いてある場所でやってくれたんですものね。

 

……でも、そのことを彼に伝えるわけには当然、いかない。勿論公表することもできない。私と彼女が相討ちになるぶんには構わないが、彼のことが心配だから。多分、向こうも同じことを考えているのでしょうね。 

 

「穂乃果さん達に、しっかりとケジメをつけてきなさい。例え何があっても、最後に私のもとに来てくれればいいわ」

 

だから、単に彼がμ'sの説得に応じた、と判断したかのように振る舞う。

 

「私は我慢するから、せめて悔いのないようにね?」

 

 

 

彼はそれで納得してくれた。 

 

あんな状況になっても、私への義理は通してくれる態度が正直、嬉しい。

 

それでも、抑え込んだ感情があふれてきて、つい独り言が漏れ出す。

 

 

「……盗聴器の性能が良すぎるのも考えものね」

 

「高坂、穂乃果さん……あんなに忠告してあげたのに、まだわからないみたいね」

 

「それどころか、私の修也を脅して寝取ろうだなんて」

 

「貴方が『彼女』ですって?」

 

「……帰ってきたら、見ていなさい。どっちが修也の彼女なのか、思い知らせてあげるわ」

 

 

 

 

♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢

 

 

 

————————今頃、ニューヨークは早朝ね。

 

μ'sの人たちがどんな手を使ってくるかはわからない。

 

ただ、私に今できることは、修也の『無事』を祈ることと、この電話だけ。

 

 

私は、そっと登録された連絡先から、彼の番号の画面を呼び出す。

 

 

……貴方から、かけてくれるの、待ってるから。

 

いくらあんじゅと英玲奈がいてくれても、貴方もいてくれなきゃ意味がないのよ。

 

貴方と一緒に、夢をかなえられないと———————

 

 

「だから修也、お願い、ね……?」

 

 

それから私は、じっと携帯の画面を見つめ続けていた。

 

 




正直書いてて自分でもこわい。
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