私、最初はスクールアイドルを始めることに自信がなかったんです。いつもステージや画面の「向こう側」だった、憧れのアイドル……。引っ込み思案で、声も小さい私がその「向こう側」に立って踊るだなんて、とてもじゃないけど考えられなかった。
始まってからも、最初は不安でいっぱいでした。何度も何度もムリかも、って思ったし、ダイエットもしなくちゃいけなかった。ステップも失敗したし、恥ずかしくて思わず逃げ出しちゃいそうになったこともありました。
でも、穂乃果ちゃんや凛ちゃん、真姫ちゃん。
……そして貴方から、勇気をもらったんです。
一人だったら、絶対に諦めてた夢。それが、みんなと一緒に頑張って。ラブライブに出られることも決まって、海外ライブだなんて。これが本当に最高の形なんだって、今なら自信を持って言えます。
でも。その最後の最後に貴方がいてくれないなんて。こんな形で別れて終わりだなんて、そんなのないですよね……?幸せになるなら、一緒に……じゃないんですか?
みんなで頑張ればできるって。何度も励ましてもらったのはウソだったんですか……?
私が修也さんのことを本格的に異性として意識し始めたのは、実は勧誘されたときじゃありませんでした。
メガネをコンタクトレンズに変えてから、しばらく経った時のこと。
μ'sも今の9人になって。
それなりに人気が出てきて、私のグッズを秋葉原で買ってくれる人も増えたって風の噂で聞いてから、ドキドキが止まらなかった時です。
なんだか本物のアイドルになっちゃったみたいで、恥ずかしかったんですけど……///
修也さんに投稿してもらった動画のコメント欄にも、「花陽ちゃん明るくてかわいい!」とか、「恥じらいがなくなって堂々としてる」「凄く成長したね」って書き込んでくれた人たちがいて、嬉しくなってた。
私はこんなに変われたし、これからも変わっていけるんだ、って思えたんです。すごく報われたような、満たされたような充実感でいっぱいな筈でした。
でも、μ'sのみんなも喜んでくれてる中で。ひとりだけちょっぴり嬉しさ半分、残念が半分っていう顔をしてたのが、修也さんだった。
μ'sに誘ってくれた時から、修也さんにはお世話になりっぱなしでした。この時は特に運動面の基礎の基礎固めが終わったくらいの頃でした。だから、何か恩返しをしてあげたいと思ってたんですけど、嬉しくなさそうで。
ダンスがまだまだ、ってことなんですか?それとも、歌声ですか?どちらも違うなら……。貴方にはこの変化を認めてもらえなかったのかな、まだ魅力が足りないのかな……と悲しい気持ちになって。
「私、何か失敗してましたか……?」
って、恐る恐る聞いちゃいました。
でも、私の不安そうな表情とは逆に、修也さんはちょっぴりはにかんで返事をしてくれたんです。
「ああいや、違うんだよ。みんな、花陽は変わったって。『明るくなった』って。『成長した』って言い方してるだろ?」
「はい。それが何か……?」
「俺はそういうのとは少し違うと思うんだよ」
えっ……!?
全然、成長できてなかったんでしょうか……!?
「そ、それって花陽、やっぱりまだまだってことですかぁ!?すいません、ご迷惑をおかけして……」
修也さんにこんなにお世話になってるのに、嫌われてしまったのかなと思って、とっさに謝ります。
でも、私のそんな解釈は間違いでした。
「違う違う。俺は花陽は、『メガネのまま』でも、『ちょっと引っ込み思案なまま』でも、『おとなしい女の子』のままでも、十分魅力的な女の子だったと思うんだよ」
……!?
えっ!?!?
花陽がもともと、『かわいいぃぃ』!?!?
そ、そそそそそそそそんなの、ダメです!バチがあたっちゃいますぅぅぅぅ……。
なんでそんなに恥ずかしい言葉を乱発しちゃうんですかぁ~!?
女の子と付き合ったことがない、って言ってましたけど、デリカシーというか!そういうドキドキさせるのは反則です!
……こんなにもたくさん、貴方にお世話になってるのに。そんな貴方に、そういう風に言われたら……。本気に……しちゃうじゃないですか……。
あ、あの!も、もう一回……もう一回!言ってもらっていいですか!?そんなこと言ってもらえるなんて……花陽、嬉しいです!感激です!!
……ここまでのこと、口に出せたらまた違うんでしょうけど、とてもそんな勇気は出せませんでした……。
実際にできたのは、驚いた声を上げることくらい。
「み、魅力的!?花陽がですか!?///」
「? そんなに驚かなくても。……上手く言えないんだけどさ、俺には、そういう誰かに都合のいい感じの『成長』って言い方、ずるいなって感じてて」
「『ずるい』……ですか?」
修也さんの言ったことがよくわからなくて、つい聞き返してしまう。
都合の良い?
特に、違和感はなかったですけど……?
舞い上がってしまっていた私は、その言葉でちょっと現実に引き戻された。
「うん。これは俺の個人的な考えなんだけどさ。アイドルが『そういうもの』だ、って言うのは、にこの奴にもよく聞かされてるし、俺もわかってるつもりなんだけど」
「あくまでも『魅力の形がちょっと変わっただけ』……っていうのかな。花陽がそういう努力をいっぱいしたから、『より魅力的になった』だけなんだって思うんだ。なんだか、明るくとか元気にとか、勿論いいことなんだけど。そういうのを強制してるみたいで」
「俺と幼馴染が昔『暗いやつ』、とか言われてさ、よく一緒によくいびられてたから。『お前らにそんな風に言われなくても、みんな魅力的だー!』って言い返してやりたくなったんだ。って、本当に個人的なことだったな。ごめん、変なこと言って。まして、花陽みたいな可愛い後輩のことなら……」
「うーん、うまく言えないけど。スクールアイドルとしての花陽だけじゃなく、元々の花陽の個性や魅力も。みんなにもっと認めてもらえたらな、って考えたら。うわべばっかり見られてるみたいな気がしちゃって。なんか悔しくてさ」
「……って、やっぱおかしいよな俺。ごめん、忘れてくれ」
そう言って、修也さんは照れ臭そうにまた画面に視線を移して、編集作業に入ってしまったけど。
私の目は熱を帯びたまま、修也さんを見つめ続けていました。
彼は。修也さんは、『アイドルになった私』も、『本当の私』も。どちらも見てくれていたんです。
どちらの私のことも、大切に思ってくれていたんです……。
前のままでもいい、っていうのと、今の努力も。どっちも肯定してくれることが、何よりも嬉しくて、大きな自信になりました。
……はい、そうです。
ベタ惚れしちゃったんです。この時。だからこそ、そんな貴方の期待に応えたくて。より魅力的でキラキラした、憧れのアイドルになろうと、練習もますます頑張れたんです。スクールアイドルとしては許されるかもしれないけど、アイドルとしては許されないこと……告白を、したいと思うくらいには。
……でも、一つだけ心残りがあったんです。
——————————凛ちゃんの、こと。
凛ちゃんも、修也さんのことが気になっていたのは、すぐわかりました。
いつの間にか苦手な男子であるはずの修也さんのことを、頬を染めて、口元を緩めて。熱い目で追っている凛ちゃん……。名前呼びにも1年生の中で誰よりも早く対応して、ふざけて抱きつく時もすごく嬉しそう。休みの日にデートに誘おうとして、でも恥ずかしくなって、ラーメンにばかり行ったり。
こっそりデパートでオシャレなスカートを選ぼうとして、辞めちゃったことも……偶然見かけたクラスの子から聞いたから知ってるんだよ?
そんな凛ちゃんの、せっかくの一歩を。せっかくの恋を邪魔したくなくて……。
μ'sのみんなも、私と同じようにいろんなことがあったんだと思うんだけど、絶対修也さんが気になってる、ってわかってたから。特に穂乃果ちゃんと修也さんは、お似合いだったと思います。
私なんかより、みんなの方がいいって。みんなと、凛ちゃんとぶつかり合いたくなくて……修也さんのことを、諦めようとしました。
だから、穂乃果ちゃんにも最初の告白を譲ったけど、あんなことになっちゃった……。
「『夢』だもんな、アイドル」
「……夢は、かなえないと、生きてる甲斐がないもんな」
「せめて、俺に手伝わせてほしい。花陽の夢がかなうのを」
私を誘ってくれたあの時の言葉に、どれほどの意味が込められていたのでしょう。
穂乃果ちゃんが告白したとき、彼からあふれ出した本音は、一生忘れられそうにありません……。
あの、悲痛な声を。
私たちのことを嫌いになったわけじゃないからこその、辛さが伝わってきて。私まで思わず、涙がにじんでしまっていました。
……そうです。彼は私たちを嫌いになったんじゃありません。私たちも、修也さんのことが好きです。心の底から愛しています。
……A-RISEの人よりも、です。
相手がスクールアイドルの、ラブライブ!の前回の優勝者でも、憧れの存在でも……修也さんに関してだけは、絶対に負けられません。
こんなダメダメな私ですけど、彼だけは。彼だけは私の大切な人なんですっ……!
修也さんは、どんな時でも悩んでいた私や凛ちゃんの味方でいてくれて、心から傍に付き添ってくれて……私たちに一歩を踏み出させてくれた、大事な人なんです。修也さんなら、「みんなの力だよ」っていうかもしれません。
でももしそうだとしても、修也さんがいなかったら、できなかったこともいっぱいあると思うんです。いつも応援してくれる貴方が、いてくれたから頑張れたんです。アイドルは、アイドルだけじゃないんです……。
助けられてばかりでした。沢山おだててももらいました。花陽はいいお嫁さんになるな、とか。μ'sで歌声は一番綺麗かも、とか。料理が上手で、ごはんは毎日だって食べたいだとか。
モチベーションをあげるためや、鈍感だからこその本音混じりで。そんな優しい言葉で、その気にさせて……私の心をこんなにも独占しておいて、貴方はどこへ行くんですか?
隣にいるのは私たちじゃないんですか?
相手はだあれ……?
私だけを見て……。
「ダイスキ……」
いつの間にか、自然とつぶやいていました。
……そうですよね。
もう、我慢しなくていいんですよね?
私の中で、何かが切れる音がした気がしたんです。我慢だとか、理性とか、そういう自分で自分を縛りつけていたモノが、切れる音。
いいですよね?
私はもう、正直に生きようって、決めたんです。穂乃果ちゃんもああいってくれたんだし。みんなも機会を作ってくれました。
真姫ちゃんも早速うまくいったみたい。
元気づけられてばかりだった私なんかが、修也さんを元気づけられるのかな……、って不安だったけど。みんなは、想いをぶつけたり、『いざとなれば体で迫れば大丈夫!』って言ってくれました。
ニューヨークに来てくれるって決まってからも、元気のない修也さん。
貴方の淋しそうなその笑顔を、笑顔に変えてあげたい……。
涙や迷いを受け止めて、大好きな気持ちだけ伝えたいんです。
溢れそうな想いが、もう抑えきれないんです。辛い想いは全部、忘れさせてあげたい……。全部、私が受け止めてあげます。
だから、私の全部も、受け止めてくれますよね……?
お気づきの方もいらっしゃるとは思いますが、この作品は主人公がヤンデレを救うのではなく、ヤンデレに救われるお話です。
問題はその先、ですが。