今回は理亞ちゃんですが、依存系とのリクエストを受け、珍しく男の子をモノにしようと攻めてくるタイプではなく、やや受け身チックになりました。また長くなってしまったので前後編で。
「ねぇ……どこにいるの? 隠れてないで出てきてよ……」
夜の暗い部屋で夢遊病のように1人、誰かを呼びながら少女が歩く。
それが今の私……スクールアイドル、鹿角理亞のもう一つの姿。どちらって言うと、『本当の姿』なのかもしれないけど。
「置いていかないで……お願いだから、私を独りにしないで……!」
そして、私の声を聞きつけてを迎えてくれるのは、この世で一番愛しい相手……。抱きしめられて密着したところを通して、温かい心が伝わってきて嬉しくなる。
「理亞、『また』辛くなったの……?」
「うん、でもいいの……。貴方がここに居てくれるって分かったから。ごめんなさい、やっぱり一緒に寝てくれない……?」
「……いいよ。理亞がそう望むなら、僕は……」
ぎゅっとしてもらえると、安心する。子供の頃、姉様やお母さんに良くしてもらったこと。怖い夢を見た時や不安になった時、守られてるって気がした。
……だけどこの人だけは特別。こうしてもらえるだけで、他の何もかもが忘れられる。もう一人じゃないんだって、心から幸せな気持ちになれる。
一つだけ欠点があるとすれば、私の方の問題。すぐに彼のパワーの『充電』が切れてしまうところ……。
だから今もこうして充電してる。思いっきり息を吸い込んで、風呂上がりの匂いが少し薄まって、男の子の寝起きの汗の匂いと混じった彼だけの空気を私の中に取り込んでいく。好きな人と一つになっていくような感覚、これが、愛情……ってことなのよね。
……うん、大丈夫。これでまだまだ、頑張れる。
でも、寝てる間にまた『充電』が切れちゃうから……今晩は一緒に寝てもらおう。もう貴方なしでは居られなくなったんだから……責任、とってもらわないと……。
私よりもずっと逞しい腕で寝室に手を引かれながら思い出す。
そう、最初の出会いは……
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『姉様の近くに最近、Saint Snowの熱心なファンが来ている』
風の噂でそう聞いた私は、いてもたってもいられずに確かめに向かった。
私が学校行事で練習を休んでいる間に、そんな輩が現れていたなんて……。もし、姉様に害なす男だったら絶対に容赦しない。この命に代えたって姉様は守って見せるわ!首を洗って待ってなさい変態!
そしたら居る、対応に困ってる姉様ともう1人。きっと変質者ね。確かに男……
……えーと、男『の子』が。
身長は私とそんなに変わらない、同い年くらい。ぱっと見は理知的だけど、どこかバカっぽいっていうか……。
燃え上がってたはずな私の闘争心は、どんどんしぼんで行った。……だってあれ、中学の時3年間一緒のクラスだったヤツじゃない!つまり、ついこの間までの!
セクハラでもしてるんじゃないかと思ってたのに、様子を伺う限りじゃ単に熱心に姉様にSaint Snowへの応援の言葉をぶつけてるだけだし……。
でも心配して損した、とまでは言えない。実際姉様はグイグイ来られて困ってるし、何より貴方なんかが気安く声かけていい存在じゃないのよ姉様は。この世で最も尊い姉キャラなのよ!?
邪魔よ、と引き離すとすごく驚いた顔をしてる。何よ、ひょっとして私の顔も覚えてないってわけ?
……そりゃ、確かに中学でも友達は少ない方だったけど。卒業して1年も経ってないのに、もう忘れられたのかと思うと……。
ちょっとだけ胸が痛く……
「キミは確か……聖良さんの妹の、『鹿島』理亞!」
「『鹿角』理亞よ!! なんで姉様の妹だってことは覚えてるのに苗字を間違えるワケ!? てかこの間まで同じクラスだったじゃない!」
前言撤回、ぜんっぜん胸は痛まないわ!顔を覚えてないどころか思いっきり名前間違えてるじゃない!
中学3年間でも、勉強できる割に変なところでバカな奴とは思ってたけど、ここまでとは思ってなかった……。一瞬でも悲しくなった私の方がよっぽどバカみたいじゃないの……!
ああもう、コイツのペースに乗せられちゃダメ。冷静になるのよ鹿角理亞。深呼吸……よし、落ち着いたわ。
「で、一体何の用……? まさか姉様に乱暴でも働こうっていうの? あんまりしつこいと通報するわよ」
「なっ!? ち、違う!僕は単に一(いち)、函館市民として、Saint Snowの2人に感謝と応援をだな……。あ、だから理亞……さん?もありがとうございます!これからも頑張ってください!」
「い、いきなり御礼言い出しても誤魔化されないから!でも……あ、ありがt……って、何さりげなく姉様も私のことも下の名前で呼んでるのよ!? 許した覚えなんてないんだからね!」
結局、しばらく公園のど真ん中でよく分からない言い合いになって、近所の子供達やお母さんたちにしばらく笑い者にされた……。うう、スクールアイドルを始めて以来、最大の屈辱だわ……!
アイツと話してると、こっちのペースが崩されっぱなしになるし!
「姉様に手を出そうなんて……しかも大恥かかされた! 次にあったら絶対吠え面かかせてやるわ!」
「そうですか? 私はあんなに楽しそうな理亞、久しぶりに見た気がしますけど……♪」
「姉様、変なこと言わないで!だっ、誰があんなヤツ……!」
『意識してない』っていうのは、嘘。
それが中学の頃からだったのか、それともこの時からだったのかはわからないけど。私は自然と、もっと別の意味でアイツの存在を意識するようになっていたんだから……。
「またライブに来たの? ヒマなやつね……本当に通報されたい?」
口ではそう言ってても、安心してる自分がいる。ライブをするたびに、観客の中にいつの間にかアイツを探してたし。終わった後になって、応援メッセージの中にアイツがいると……やって良かったって思えた。練習の合間に差し入れをくれたとき、顔が赤くなってる事に気がついたのは、姉様の言葉で……。
「私たちよりも、もっと勉強とか部活とかに集中すればいいじゃない。……でも、応援ありがと」
不思議と中学の卒業アルバムを見返す気にもなれたし、あんまり好きじゃなかった学校も……ちょっとだけど、マシになった気がするし。練習も頑張れて、今までよりももっと、ファンの視線や感情を意識できて……高みにも登れた、と思う。
「姉様だけじゃない、アンタも含めて、ファンのみんなだってスクールアイドルと一緒にラブライブに行くんだから。ちゃんと見てなさいよね!……来て、くれるんでしょ?」
あのμ'sが言ってた、『みんなで叶える物語』って言葉……。ちょっとだけど、見えた気がした。
スクールアイドルは、スクールアイドルだけで成長するものじゃない、のかもしれない。遊びじゃない、って意地を張りすぎてただけで、姉様と自分だけで頑張ろうっていうのは、視野が狭かったのかも……。
認めるしかない、アイツのおかげだって……少しだけ!少しだけなんだかね!?
……このまま進んでいけるのなら。アイツが見ててくれるのなら……きっと姉様とラブライブで優勝できるって、そう思ってた。
————……でも、現実は甘くはなかった。ラブライブの北海道地区の最終予選で大きなミスをして……Saint Snowの夢は、終わりを告げることになる。でもそれは姉様のせいじゃない、私の精神状態が不安定だったから。
私はある日、突然に気づいてしまった。
自分の中に目覚めていた『恋心』と……ライブで失敗のきっかけになる程の『嫉妬』に。
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「やっぱりAqoursは凄いなぁ。この短期間でここまで……これならラブライブ優勝だって夢じゃないかもしれない」
……本来ならなんでもないはずの、ただの日常会話。他のスクールアイドルの研究も欠かさない私たちの間の、何気ない一言。練習の合間に雑誌を少し開いただけ————
————だった、はずなのに。私はこれまでに感じたことのないほどの、大きな不安と恐怖に襲われた。
頭がカッと熱くなって、胸の中が苦しくなって。思わずアイツの首根っこを掴んで、引っ張らながら叫んだ。
「……どういうこと!? 私たちじゃ優勝できないって言いたいの!?」
「そ、そんな事はないけど。ごめん、気に障ったなら謝るよ……!?」
「何よその言い方! ずっとSaint Snowを……私を応援してくれたじゃない!なのになんでAqoursを……!!なんで!?なんで、なんでなんでなんでよ!!」
自分でもこんなに大きな声で怒るなんて信じられなかった。
下の階にいた姉様が、心配して走って戻ってくるくらいに……。
「理亞、どうしたんです! いったい、何を……!?」
「姉様……? え、私……!」
今だから自分でもおかしかったってわかってるけど、その時は全然自分が間違ってるとか思ってなかった。アイツに酷いことしてるって気がつけたのは、姉様の心配そうな声のおかげ。
自分が何をしてるのかわかってきたときには、苦しそうに首をおさえてるアイツの姿が目の前にあった。
違うの、傷つけるつもりなんてなかったのに。
どうして? そもそも私は何に怒ってたの?
なんで、こんなこと……。
「怒鳴っちゃって、ごめん。疲れてるみたい……ちょっと、休むわ……」
アイツと姉様にあんな目で見られるのが耐えられなくて、私は部屋から逃げた。
—————この時は、単に姉様が卒業することのプレッシャーで焦ってるんだと思ってた。それは間違ってなかったし、大きな不安だったと思う。でもそれだけじゃない。
でも自分をごまかしきれなくて、いつかは気がつく。もう自分に嘘はつけない。
私、鹿角理亞はどうしようもなく……
アイツが、ううん。『貴方』の事が、好きだって事。好きで好きで好きすぎて、その不安と姉様がいなくなる不安が重なっていたの。
……でも、それに気がついた時には、もう私のラブライブは終わっていた。不安の正体にもっと早く対処できてれば、万全の状態でラブライブの予選を突破できたかもしれないのに……。
そうさせたのは、彼のことを好きだと言えなかった、姉様のことを相談できなかった私のちっぽけなプライドのせい。
それが姉様と、私と、彼の夢を壊してしまった……。
そして、芽生えかけた愛情も。
あれ以来、彼とは会えないでいた。っていっても、私が遠ざけてただけ。合わせる顔がなくって、メールも電話も全部無視してた……。店に来たって引っ込んでたくらいだし。
でも、そんな私達の間に意外な助けが入って再会できて、また一緒にラブライブを目指せることになる。
新しくできた『友達』。
黒澤ルビィのおかげで———————
230000UA、リクエストいただいたxiaomさん、そして高評価いただいたユウダヨーさん、 クロジャ/時々シロジャさん、みなさん本当にありがとうございました!
感想やご評価、リクエストはいつもお待ちしてますので、普段送らない皆様も是非。
後編はATPから……?